博 士 ( 医 学 ) 藤 谷 直 樹
学 位 論 文 題 名
ア ル ミ ナ セ ラ ミ ッ ク ス 椎 体 プ ロ ス テ ー シ ス に よ る 成 犬 腰 椎 々 体 置 換 の 実 験 的 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
近年の脊椎外科の進歩により,従来は放射線療法が主体であった悪性脊椎腫瘍に対して,外科 的治療が積極的に試みられるようになった。脊椎腫瘍による圧迫性脊髄麻痺を呈している症例で は後方脊椎固定により疼痛はある程度改善されうるが,麻痺の改善には何らかの脊髄除圧操作が 必要である。椎弓切除術は神経除圧法として従来よく行われてきた方法であるが,後方除圧は後 方支柱としての安定性を損なわせ,腫瘍による椎体破壊のため前方支柱の支柱性障害と相まって 病巣部位の不安定性と後弯を増強させる。原発性悪性腫瘍も転移性脊椎腫瘍も椎体に発生する事 が圧倒的に高頻度であり,腫瘍椎体切除及び脊椎全切除による前方脊柱管除圧及び椎体切除欠損 部 を 生 体 材 料 応 用 に て 置 換 を 行 う 脊 柱 再 建 術 が 望 ま れ る 手 術 方 法 で あ る 。 骨切除後の置換材料としては自家骨が最も優れているが,術後放射線療法による移植骨の壊死 や癒合不全の問題があり,又腫瘍再発時に移植骨が容易に侵蝕され破壊される危険がある。それ 故,生体材料の応用による脊柱再建術の利点がある。現在まで骨セメントが使用されることが多 かったが,発熱,異物反応,骨吸収等長期使用に関して幾多の問題が存在する。近年,アルミナ セラミックスが組織親和性,強度において実用に耐えうることが実験的に示され,臨床面におい ても椎体置換術に用いられた報告がされるようになった。しかし,椎体置換術の方法,椎体プロ ステーシスの形状,アルミナセラミックスと椎体骨界面における反応,新生骨形成,その固着性 にっいてはなお明かでない。
この実験目的は椎体置換において,アルミナセラミックス椎体プ口ステーシスの骨親和性が脊 柱 再 建 術 に お い て 活 か さ れ る 条 件 , な ら び に 臨 床 応 用 に 必 要 な 条 件 の 解 明 に あ っ た 。 実験材料及び方法
a)実験動物は,雑種成 犬8頭を用いた。使用した椎 体プロステーシスは京セラ社製多結晶アル ミナセラミックスにて作成した。椎体プロステーシスの形状は軽度楔状台形体で切除椎体との上 下接触面には横軸方向に深,幅共に1 mmの溝をっけ た。
b)実 験 手 技;ketamine HCL筋 注 に より 麻 酔 を導入 し,thyamial sodium静注 にて維 持し,
挿管下にレスピレイターによる呼吸管理を行った。体位は右下半側臥位とし,外科的無菌化に左 肋骨弓下緑より腸骨稜上縁まで皮切を加え,前側方より後腹膜的に椎体に到着した。腰動静脈を 結 紮し , 横 突起 根 部 が 露出 さ れ るま で 展 開し ,第4/5,5/6腰椎々間 板(以 下L4/5,5/ 6椎 間板) を切除し ,次に 硬膜が露出されるまで第5腰椎々体(以下L5椎体)を完全に摘出し,
プロステーシスを挿入し,椎体との接触が密着になされていることを確認した。内固定の方法は,
20mmK,U螺 子 をL4,6椎体 に 前 方よ り 各2本 ず つ約10mm程刺入し ,螺子 の頭部10mmの 部を骨 セ メン ト に て被 い ,L4よりL6まで 腰椎前 方に橋渡 しを行 った。抗 生物質は ,cef aloridine 0.5g筋 注 に て計3回 投与 し た 。術 後 外 固 定は ま っ たく 行 わ ず, お り の中 で 自 由と し た 。 c)術後 検索;X線学的 検索は 術後8,12,16週 に撮影し ,16週に は前後屈 機能撮 影にて脊柱支 持性の安定性を調べた。静脈全身麻酔下に屠殺し,肉眼的検索を行った後に10%ホルマリンにて 固定し ,椎体 プロステ ーシス 除去後脱灰,H・E染色にて組織学的検索を行った。組織学的検索 は主に椎体母床骨の接触面における新生骨形成の有無,異物反応の状態,骨透亮像における骨組 織の変化にっいて調べ,X線像との関係にっいて検討した。
結 果
a)X線 学 的検 索 ; 術 後16週X線 像 に より8例中5例に良 好な固定 が得ら れ,1例に明ら かな骨 透亮像 がみら れ,2例に骨 セメント の破損が みられた。これら3例中1例では椎体プロステーシ スの脱転がみられた。固定良好例では接触面が不明瞭となり骨形成が示唆されたが,固定不良例 では骨吸収像が認められた。
b)肉眼的検索;固定良好例では骨セメントと螺子との固定性は極めて強固で骨セメントの除去 が困難なほどであった。固定不良例では,骨セメント破損部や螺子と椎体の間に動きが明らかに 認められた。脱転例では骨破壊とともに滑液嚢胞様変化も存在した。
c) 組織学 的検索; 椎体プロステーシスの上下面にある溝に沿って骨組織の形成が認められ,l mmの溝に沿って進人したかなり成熟した新生骨形成が認められた。固定不良例では溝に進入した 新生骨 形成は みられず ,組織 の挫滅, 空隙が みられた りいわゆ るsynovla,like membraneの 形成と層状の線維組織がみられ,既存の骨梁が多核細胞などにより吸収され線維組織に置換され ている 所見が 得られた 。異物 反応は全 例に認 められな かった。synovla・like membraneは,
表層に1〜 数列に配 列され た膜様組 織がみら れ,その下に血管新生を伴う線維組織の層(mid− dle layer)があり,次に線維層が存在し骨組織へとっながっていた。
考 察
臨床例においてアルミナセラミックス椎体スペイサーを応用し内固定なしの椎体置換を行った 剖検例等が報告されているが,新生骨形成は少なく,多くは線維組織であり固着性は必ずしも良 くないとされている。一方動物実験にて椎間固定の報告がいくっかされているが,サル腰仙椎で は接触面に溝をっけたプ口ステーシスによる新生骨形成の報告があり,また椎体置換の実験では,
家兎頚椎々体部分置換を行いギブス固定を併用したり,プ口ステーシスの形状を工夫した成功例 が報告されている。しかし臨床例においてそのような強固な外固定装用は困難であり,またこれ ら成功例は,椎体完全摘出ではなく,強い不安定性が生じなかった故に成功したと考えられる。
本実験では螺子と骨セメントによる強固な内固定を用いて骨形成が得られた。また臨床例では金 田デバイスは椎体置換インプラントに圧縮カを加え強固な内固定を提供するとされており,確実 な 初 期 固 定 に よ ル セ ラ ミ ッ ク ス 椎 体 置 換 の 優 れ た 成 功 例 が 報 告 さ れ て い る 。 固定不良 例にみら れた骨 吸収所見 にっい て検討し た。人 工関節術後骨吸収組織にsynovla ‑ lil【emembraneが示 されその 原因と して微小 な可動性 の存在 を挙げら れてい る。本実 験では middlelayerに は異 物 反 応は 認 め られ な い がSynovla―1il(emembraneと骨吸 収の所 見は共 通していた。これは異物反応の有無にかかわらず,そこに不安定性や僅かナょ可動性が存在すれば イ ン プ ラ ント と 骨 との 界面 にはsynovla・1ikemembraneが 形成され 骨吸収 が生じる ことを 示 している。
本実験により,椎体置換において充分な早期安定性を獲得することによルアルミナセラミック ス 椎体プ ロステー シスの 骨親和性 を活かして長期安定性を維持できることが明らかとなった。
学位論文審査の要旨
近年の脊椎外科の進歩により,悪性脊椎腫瘍に対して外科的治療が積極的に試みられるように なった。脊椎腫瘍による圧迫性脊髄麻痺を呈している症例では後方脊椎固定だけでは不十分であ り何らかの脊髄除圧操作が必要である。後方除圧は後方支柱としての安定性を損なわせ,腫瘍に よる前方支柱の障害と相まって不安定性と後弯を増強させる。原発性及び転移性脊椎腫瘍は椎体
志 弘
厚
清
和
田 部
部
金 阿
阿
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
に高頻度に発生し腫瘍椎体切除による前方脊柱除圧及び椎体置換による脊柱再建術が望まれる手 術方法である。
骨置換材料としてアルミナセラミックスが組織親和性,強度において実用に耐うることが実験 的に示され,臨床面においても椎体置換術に用いられた報告がされるようになった。しかし,椎 体置換術の方法,椎体プ口ステ―シスの形状,アルミナセラミックスと椎体骨界面における反応,
新生骨形成,その固着性にっいてはなお明らかでない。この実験目的は椎体置換において,アル ミナセラミックス椎体プロステーシスの骨親和性が脊柱再建術において活かされる条件,ならび に臨床応用に必要な条件の解明にあった。
実験材料及び方法
a)実 験動物は ,雑種 成犬8頭を用い た。使 用した椎 体プ口 ステーシ スは京セラ社製多結晶アル ミナセラミックスにて作成した。椎体プロステーシスの形状は軽度楔状台形体で切除椎体との上 下接触面には横軸方向に深,幅共に1 mmの溝をっけた。
b) 実 験手 技 ;ketamine HCL筋注 に よ り 麻酔 を 導 入し ,thyamial sodium静 注にて維 持し,
挿管下にレスピレイターによる呼吸管理を行った。体位は右下半側臥位とし,外科的無菌化に前 側方より後腹膜的に椎体に到達した。腰動静脈を結紮し,横突起根部が露出されるまで展開し,
第4/5,5/6腰 椎々間 板切除後 ,第5腰椎々 体を完全 に摘出 し,プロ ステーシスを挿入した。
内 固 定 の方 法 は ,20mmK・U螺子 をL4,6椎 体 に2本 ず つ約10mm程刺人し ,螺子 の頭部を 骨セ メ ン ト にて 被 い ,L4よL6ま で 腰椎 前方 に橋渡し を行った 。抗生 物質は,cef aloridine0.5g 筋 注 に て 計3回 投 与 し た 。 術 後 外 固 定 は ま っ た く 行 わ ず , お り の 中 で 自 由 と し た 。 c)術 後検索 ;X線 学的検 索は術後8,12,16週に撮 影し,16週には前 後屈機 能撮影に て脊柱支 持性の安定性を調べた。静脈全身麻酔下に屠殺し,肉眼的検索を行った後に10%ホルマリンにて 固定し,脱灰,H・E染色にて組織学的検索を行った。
結 果
a)X線 学 的 検 索; 術 後16週X線像 に よ り8例 中5例 に 良 好な 固 定 が 得られ,1例に 明らか な骨 透亮 像がみ られ,2例に 骨セメン トの破損 がみら れた。これら3例中1例では椎体プロステーシ スの脱転がみられた。固定良好例では接触面が不明瞭となり骨形成が示唆されたが,固定不良例 では骨吸収像が認められた。
b)肉 眼的検索 ;固定良 好例では固定性は極めて強固であり,固定不良例では螺子と椎体の間に 動 き が 明 ら か に 認 め ら れ た 。 脱 転 例 で は 骨 破 壊 と と も に 滑 液 嚢 胞様 変 化 も 存在 し た 。 C)組 織学的検 索;固定 良好例 ではlmmの溝に 沿って進入したかなり成熟した新生骨形成が認め
られた。固定不良例では新生骨形成(まみられず,組織の挫滅,空隙やsynovla,like membrane の形成と層状の線維組織がみられ,既存の骨梁が多核細胞などにより吸収され線維組織に置換さ れている所見が得られた。異物反応は 全例に認められなかヮた。
考 察
臨床例に内固定なしの 椎体置換を行った剖検例等が報告されているが,多くは線維組織であり 固着性は必ずしも良くな いとされている。一方動物実験にてサル腰仙椎椎間固定では新生骨形成 の報告があり,また椎体 置換の実験では,ギブス固定や骨移植を併用した成功例が報告されてい る。しかしこれら成功例 は,椎体完全摘出ではなく,強い不安定性が生じなかった故に成功した と考えられる。本実験で は螺子と骨セメントによる強固な内固定を用いて骨形成が得られた。
固 定 不 良 例 に み ら れ た 骨吸 収所 見に っい て 検討 した 。人 工関 節術 後骨 吸収 組織 にsyn− ovla・like membraneが示されその原因として微小な可動性の存在を挙 げられている。本実験 でtまmiddle layerには異物反応は認められないが骨吸収の所見は共通していた。これは異物反 応の有無にかかわらず, そこに不安定性や僅かな可動性が存在すれはインプラントと骨との界面 には骨吸収が生じること を示している。
本実験により,椎体置 換において充分な早期安定性を獲得することによルアルミナセラミック ス椎体プ口ステーシスの 骨親和性を活かして長期安定性を維持できることが明らかとなった。
以上,本研究はアルミ ナセラミックス椎体置換術において初期固定性の獲得が必要不可欠であ る こ と を 証 明 し た も の で あ り , 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を授 与す るに 値す る と認 定さ れた 。