博士(地球環境科学)澤村正幸
学 位 論 文 題 名
Fish‑benthos food web structure on bare and vegetated mixture bottom
in the cold‑temperate infralittoral waters
( 藻 場 を 含 む 冷 温 帯 潮 下 帯 に お け る 魚 類 . ベ ン ト ス 間 の 食 物 網 構 造 )
学 位 論 文内 容 の 要 旨
生 態 学 の 視 点 か ら 見 た 沿 岸 浅 海 の 特 性 の ー っ は 、 き わ め て 狭い 範 囲 の中 に 非 常に 多 様 な 環 境 を 含 む ニ と で あ る 。 こ れ ま で に 沿 岸 浅 海 に 棲 息 す る 個 々 の 生物 の 生 態に 関 し てな さ れ た 報 告 は 多 い も の の 、 そ こ に 棲 息 す る 生 物 全 体 に つ い て 群 集 生 態学 的 な 見地 か ら 行わ れ た 研 究 の 例 は ま だ 少 な い 。 ま た 、 魚 類 の 食 性 に 関 す る 研 究 に お い て餌 生 物 の分 類 は 主に 系 統 学 的 な 分 類 法 に よ っ て 行 わ れ て い る が 、 特 に 沿 岸 魚 類 の 食 性 に つい て は 従来 の 系 統学 的 な 分 類 の ほ か に 餌 生 物 の 生 態 に つ い て も 着 目 し た 分 類 が 行 わ れ る こ と が 望 ま し い 。 調 査 は 、1993年 の 夏 か ら1994. 年 の 春 、 お よ び1995年 の 夏 か ら1997年 の 春 に か け て の 合 計3年 間 、 北 海 道 ・ 臼 尻 沿 岸 の ス ガ モ 場 を 含 む 潮 下 帯 で 各 季 節 に1回 ず つ 、5m、10m、 15m、20mの4水 深 に つ い て 行 っ た 。 臼 尻 を 含 む 噴 火 湾 周 辺 の 海 域 は 寒 流 系 の 親 潮 系 水 と 暖 流 系 の 津 軽 暖 流 水 と い う ニ つ の 水 塊 の 影 響 を 交 互 に 受 け 、 こ れを 反 映 して 魚 類 相は 多 様 で あ る 。 調 査 海 域 は 春 季 お よ び 夏 季 に は 高 温 ・ 低 塩 分 の 表 層 と 低温 ・ 高 塩分 の 底 層と い う 層 状 構 造 が 発 達 し 、 一 方 で 秋 季 か ら 冬 季 に は 鉛 直 混 合 に よ っ て 成層 構 造 は解 消 し てい た 。 底質はSm水深で中砂、それ以外の水深では細砂であった。
小 型 舟 艇 で の 曳 き 網 に よ っ て 行 っ た サ ン プ リ ン グ で は 、 仔 稚 魚 の み の 出 現 を 含 め て7目 23科39属48種 、1132個 体 の 魚 類 が 出 現 し た 。 個 体 数 が 多 か っ た 魚 種 は 、 全 魚 類 の 個 体 数の36%を占めたスナガレイPleuronectes punctatissimu,ゞのほか、マガレイ尸カピ陀P門Sセmf、ツ マグ口カジカく沙m門〇C臼門肪甜,ゞカPだぞ門Sセmf、アイカジカG 加セrmPめ甜ざ、ハタタテヌメリ 触p〇用 cピ門 s旧セ門c;P門門P;などであった。出現した魚種は季節・水深ごとの分布の違いから
@ 主 に 秋 に 出 現 す る 暖 流 系 の 種 、 ◎ 夏 の5m水 深 に 多 く 出 現 す る 種 、 ◎ ス ガ モ 場 が 最 も 発 達 す る 夏 の 10m水 深 を 中 心 に 出 現 す る 種 、 @1年 を 通 じ て 出 現 す る 種 、 の4つ の グ ル ー プに大きく分けられた。
採 集 さ れ た 魚 類48種 の う ち42種 に つ い て 食 性 の デ ー タ が 得 ら れ た 。 胃 内 容 物 中 の 各 ア イ テ ム は 、 生 活 形 に 基 づ い てllの タ イ プ に 分 け た の ち 、 通 常 の 系 統 的 な 分 類 と 併 せ て 合 計39の グ ル ー プ に 分 類 し た 。 魚 類 の 餌 と し て は 底 生 の 小 型 甲 殻 類 、 特 に ア ミ 類Mysidacea や 表 在 性 の ヨ コ エ ビ 類epifaunalGammmdeaな ど が 重 要 で あ り 、 そ の ほ か 多 毛 類 や 魚 類 な ど が 多 く 利 用 さ れ て い た 。 コ レ ス ポ ン デ ン ス 分 析 お よ び 数 量 化m類 に よ る 分 析 の 結 果 か ら 、 こ れ ら の 餌 生 物 は 、 魚 類 に よ る 捕 食 か ら の 逃 避 能 力 、 お よ び 地 中か ら 水 中へ と 向 かう 垂 直 的 な 生 息 場 所 の 違 い と い う2つ の 要 素 に よ っ て グ ル ー プ 分 け さ れ る ニ と が 示 唆 さ れ た 。 魚
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類 の 食性 は 、胃 内 容 物の 百分率類 似度から、 @プラン クトンを 主な餌と する種plankton feeder、◎魚類や表在性の十脚目を主な餌とする種nekton feeder、◎アミ類を主な餌とする 種mysid feeder、 @表在性 の甲殻類を中心とした幅広い食性を持つ種epibenthiccrustacea feeder、◎多毛類など埋在性の生物を主な餌とする種infauna feeder、の5つのタイプに分け られ た。コレ スポンデ ンス分析お よび数量 化m類によ る分析の 結果、こ うした食 性の分化 は 魚 類の 摂 餌場 所 の 垂直 的な違い と各魚種の 敏捷性に よって起 こること が示唆さ れた。
数量 化n類によ る分析で は、魚類の 体型およ び口の形 態が食性 のタイプ との間に 高い相 関を示し、それは餌とされる生物の垂直的な分布と関連していることが示唆された。一方、
季 節 ・水 深 によ る 分 布の 違いと食 性のタイプ との相関 は低かっ た。また 、それぞ れ20個 r本以 上が出現 した3組の 同属の魚類 について 形質的な 特徴の比較を行ったところ、共にア ミ類 を主な餌 とするタ ウエガジ科Opi.s'thocentrus属の2種では形質に差が見られなかった のに対し、異なった食性のタイプに属するカジカ科くrymnocanthzis属とカレイ科Pleuronectes 属では形質に有意な差が見られた。
今回 の調査で 魚類の重 要な餌とな っていた 生物の多 くは海草起源のデトリタスを主な餌 とし ているこ とが過去 の知見から 知られて おり、沿 岸潮下帯における底生生物・魚類群集 は藻 場の高い 生産カの 上に成り立 っている と考えら れる。出 現した魚 類の多く は2次消費 者で あったが 、nektonfeederの魚種 では最も栄 養段階が 高い状態 で5次消費 者にまでなる 可能性が考えられた。
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学位論文審査の要旨
主 査 教授 東 正剛 副 査 教授 岩熊 敏 夫
副 査 教 授 向 井 宏 ( 大 学 院 理 学 研 究 科 ) 副 査 助教授 五嶋聖治( 大学院水産 学研究科)
学位論文題名
Fish‑benthos food web structure on bare and vegetated mixture bottom
in the cold ― temperate infralittoral waters
(藻場を含む冷温帯潮下帯における魚類・ベントス間の食物網構造)
海 産魚 類の 食物 網構 造に 関する研究は、 潮間帯や珊瑚礁では多いのに対し、潮間帯 よりやや沖の潮下帯では比較離少ない。申 請者は、北海道・噴火湾の入り□に位置する 臼 尻 沿 岸 の 水 深5m,10m,15m,20mの海 底に おい て、 年4回 (春 夏秋 冬) 、3年間 、 地引 き網 によ り魚 類を 拐射 るとともに、胃 内容物を分祈し、多変量解析法により食物 網構造を明らかにした。
稚 魚を 除き 、合 計48種1132個体 の魚 類を 採集 した が、 うち ェゾ メバ ル、 ホッ キョ クカジカ、オットセイカジカ、コプフウセ ンウオ、ハ夕夕テヌメりなど数種は噴火湾の 魚類相をまとめたりストに無く、この海岸域から初めて正j謂稜告された可能性がある。
胃 内容 物は39の 系統 群か ら 成り 、甲 殻類 と多 毛類 が優 占し てい た。 これ らを11の 生活型に分けて 数量解析を行っているカ1近 い系統でも出来るだけ細かく生活型を分け る な ど 、 こ れ ま で の 生 活 型 分 類 に な い 工 夫 が な さ れ て お り 、 注 目 に 値 す る 。 多 変量 解析 法の1つで ある 群分 析法 によ り、 魚類 を6つ の食 性型 に分 類し 、コ レス ポン デン ス分 析と 数量 化m類 分析 によ り、 餌動 物と 魚類 のオーディネーションを試み ている。その結 果、この沿岸帯における食物網の構造を規定する要因は 、1)餌動物の 機敏陸とそれに 対応した魚類の遊泳能カと、2)海底砂中から上方の海水中に至る餌動 物の垂直分布とそれに対応した魚類の行動 圏垂直分布であることが示唆された。魚類の こッチ分割カ淫直分布方向に生じているこ とはこれまでにも報告があったが、これと合 わせて餌動物と魚類の行動の重要性を見出 したことは本研究の独創的な成果として、高 く評価できる。
さ らに 、魚 類の ニッ チ分 割と形態分化の 関係について解析を進めている。まず、魚 類の 口の 位置 、体 型を 数量 化n類 によ り数 量化 し、 食性 型との相関関係を求めたとこ ろ、いずれも統 計的に有意であった。また、同属異種のぺアー3組について、食性型、
食性 の幅侮 働物の多 様性) 、形態( 口の位 置、体型 、体長な ど)を 比較し、近縁睡で あっ ても食 性の違う ぺアーほど形態の違いを伴うことを示している。食陸と形態の関係 を定 性的に 示した研 究は多いが、定量拘に示し得た研究は比較的少なく、貴重な成果で ある。
最 後に、こ れらの 研究結果 と文献を もとに 、冷温帯 潮下帯 における 食物網構造に つい て考察 している 。潮下帯における主な生産者は、植物プランクトン、藍藻、海草や 藻類 である が、申請 者は、特に海草や藻類がパクテリア等によって分解されて堆積する 有機 堆積物 に注目し ている。有機堆積物中は嫌気的環境となり易く、一般に、生活型の 単純 な多毛 類などの 埋在性動物が優占しているが、海流や潮流により常に新しい海水が 供給 される 潮下帯で は比較的好気的で生活型の多様な甲殻類が優占し、多様な食性型の 魚類の生息を可能にしている、と考察している。有機堆稽澎す→甲殻薙ト頓良類という食物 連鎖 に関す る議論は 新しいものではないが、潮下帯における主な一次消費者が甲殻類で ある こと、 これらの 甲殻頃の多様な生活型分化が魚類のニッチ分割を多様にしているこ とを具体的なT‑夕で示し得たことは注目に値する。
審 査員一同 は、これ らの成 果を高く 評価し 、また申 請者が 研究者と して誠実かつ熱 心で あり、 大学院課 程に於ける研鑽や取得単位なども併せ、博士(地球環境科考りの学 位を受けるのに十分な資洛を有すると判定した。