博士(地球環境科学)竹中 康
学 位 論 文 題 名
一置 換型修飾 シクロ デキス トリン のキラ ル構 造と 化 学 量 論 的セ ン シ ン グ
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
現 在、 地球 上の 水 圏、 地圏 及び 大気 圏では、環境汚染化学物質 により様々な問題が起きて いる。一方、我 貴の身の周りでは、食品添加 物、内分泌撹乱物質、発ガ ン性物質及び催奇形性物 質などによる生 態環境汚染が起き、深刻な社 会問題となっている。これ らを解決するために様カ な研究・技術開 発が急速に進められている。 その中で、分子認識による 環境汚染化学物質の検知 ま たは 除去 とい う方 法 が考 案さ れて いる 。 認識 分子 のひ と っとして シクロデキストリン(CDx) が あげ られ る。CDxの最 大の 特 徴は 、水 溶液 中で 微 弱な カを 利用し て有機分子やイオンを包接 することである 。また、置換基の導入により選択性を用途に合せて変化させることが可能である。
ゲスト分子に対 する認識・情報伝達能を向上 させたゲスト分子認識セン サーの開発を目的として 様 々な 修飾 置換 基を 有 する 一置 換型 修飾CDxの様 々 な分 野へ の応用 が期待される。しかし、そ の 多く は有 機溶 媒を 含 む系 で行 われ てい る 。そ こで 、本 研 究では水 溶性の新規ー置換CDxを設 計 、 合 成 し 、 そ の セ ン シ ン グ 能 や 構 造 及 び 水 溶 液 内 挙 動 に つ い て 検 討 し た 。 ま ず 、 一 置 換 型 修 飾CDxは 、 隣 接 す るCDx環内 に修 飾基 を包 接 させ るこ とに より 一 次元 的 配列 を形 成す る。 そ して 、CDx環 の修 飾基 での 相 互作 用の 差によ り様カな結晶相が形成され る。しかし、分 子間包接を介して一次元配列 構造の制御メカニズムを解 明した構造的アプローチ は まだ 報告 され てい な い。 そこ で4種の 一置 換型 修 飾CDxの 結晶 構造 とそ れら の 結晶 相及び修 飾 基包 接の 関係 につ い て検 討し た。CDx誘導 体の 配 列の 制御 につ いて 、CDx空 洞 ‐修 飾基聞相 互 作用 だけ でな く、CDx環の り ング 間の 分子 間水 素 結合 にも 左右さ れることが判明した。ほと ん どの 一置 換修 飾CDxは 連続 的 なら せん 構造 やチ ャ ンネ ル型 または 籠型のどちらかに類似した 構 造で 結晶 が形 成さ れ た。 直線 状ポ リマ ー構造は修飾基により制限 された自己集合によって起 こ るこ とを 明ら かにし、ローCDx空孔に包 接されている修飾基の最も 安定な性質は修飾基の空孔 へ の 構 造 的 適 合 の み で なくCDx環へ の修 飾基 を 含む 側鎖 も構 造的 安 定性 に作 用す る。 修 飾墓 は 最 も 安 定 な 分 子 間 包 接 を 形 成 で き る パ ッ キ ン グ を 選 択 し 調 節 し て い る と 示 唆 さ れ る 。 CDx―ゲ ス ト分子錯体を形成する主な 駆動カは、固体及び溶液内 でファンデルワールスカ、
双 極子 一双 極子 、水 素 結合 及びCH… 兀相 互作用といった弱い相互作 用が働いている。また、電 荷 をも った アミ ノ化ロ−CDxによる静電相 互作用もまた、同様にいく っかの有機アニオンの相補 的 識別 に寄 与し てい る 。さ らに 、ホ ス卜 一 ゲス ト間 の相 補 的構造がCDxの分子認識能及びメカ ニ ズム を制 御し てい る 。そ こで 、キ ラル 分 子対 する キラ ル 識別を行 うために、CDxにキラル分 子の導入を行っ た。これは、キラル化合物の センシングや不斉触媒反応 への応用が期待されるた め 非常 に重 要で ある 。CDxに キ ラル 認識 能を 発現 さ せる には 一級水 酸基側の化学修飾が有効で あ る。 本研 究で は、 キ ラル 修飾CDxを合 成し 、そ の キラ ル認 識能の 評価とセンシングデバイス ヘ の応 用を 目的 とし た 。一 級水 酸基 側に キラルな置換基を導入した ロ‑CDxの不斉識別能とゲス ト 分子 包接 挙動 につ い て検 討し た。R― マンデル酸(MA)及びS一マン デル酸に対して水溶液中で の 両エ ナン チオ マーの構造的形態の相異 からキラルR体修飾ロ‑CDx( ロ‑CDx (R) CHEA)とキラル
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S体修飾ローCDx(B−CDx (S) CHEA)聞で ゲスト分子包接時の識別差が 起こることが判明した。ロ
‑CDxCHEA/ MAで は 、結 合定 数Kr値は 、40−60Mー1で あ った 。こ れは 、ロ‑CDxの キラ ル識 別能 に 比ペ3−5倍に あ たる 。こ れら のキ ラ ル修 飾ロ −CDx誘 導体 は、 溶 液中で先に述べた弱い相互 作用が(S)ー 、(R)−ゲスト分子によるキ ラル識別や自己集合プロセス に於いて重要な役割を有す ること見出し た。
ま た、 蛍光 体 を有 したCDxデバ イス は、 セ ンサ ー、 生化 学及 び 電気化学への応用が注目さ れ てい る。 結合 部 位と して のCDx空 孔と シグ ナ ル部 とし ての スペ ー サを介した螢光体ペンダン ト 倣、 特異 的応 答 を有した基質にとっ て欠くことのできない。ピリ ンを有したCDxデバイスは、
基質と錯体を 形成し蛍光強度に大きな変 化を示したことから、しぱしぱ用いられるようになった。
しかし、水溶 液中では十分な溶解度をも たない。そこで、水に可溶な ナフタレンを有したアミノ 化 日―CDxホス ト分 子を水溶液中でのゲ ストセンシングを検討し、 螢光法は吸収に比ぺ感度が高 く螢光変化を 利用することで、容易かつ 高感度にセンシングすること が可能となるため蛍光性ア ミ ノ 化CDxを 設 計 し た 。 新 規 螢 光 性 ア ミ ノ 化CDxの コン フォ メ ーシ ョン や様 々な ゲ スト 分子 と の相 互作 用に よ るミ クロ 環境 の影 響 につ いて解析的な研究を行 った。新規一置換型アミノ化 CDx(ロ‑CDxennap−1)は、その一級水酸 基の先端に螢光プローブ( ナフタレン)を導入した化合 物 であ る。 この 化 合物 は水 溶液 中に 於 いて 螢光強度の著しい温度 依存性及びpH依存性が見られ た 。pH6―8にか け て螢 光強 度の 大き な 減少 が観測された。これは 、アミンプロトンの非プロト ン 化に よる もの で ある 。ま た、 疎水 性 環境 のCDx空 孔内 に自 己包 接 していた螢光体ナフタレン 部位が.温度 変化に伴いその空孔の内外 へinーout平衡していること を解明した。さらに、ゲスト 分子(シクロ ヘキサノール、アダマンタ ノール及びボルネオール)の 包接に伴う蛍光プロープの in―out平 衡の 存在 を確認した。ゲスト 分子との熱力学パラメータ ー及ぴ会合定数を求めた。こ れ らは 、B一CDxに 対し てエ ンタ ルピ ー 的に 負を示し、エントロピ ーでは正負さまざまで示すこ と で知 られ てい る 。ロ‑CDxennap−1系 では 、シクロヘキサノール 包接錯体に比ベ、アダマンタ ノール及びボ ルネオールではエンタルピ ー的に負、エントロピー的に 正であることが判明した。
これは、嵩高 いゲストの包接によるホス トの構造変化や溶液中でのゲ ストの構造の変化によると 示 唆 さ れ る 。 こ れ ら の ー 置 換型 修 飾ア ミノ 化CDxは 、温 度、pH及ぴ 中性 有機 分子 に 対し て非 常 に優 れた 蛍光 セ ンサ ーに なる こと を 見出 した 。ま た 、こ れら の修 飾CDxは水溶液中で様々な 動的構造を形 成している。そこで、分子 力場法を用いて、包接錯体形 成に関するホストーゲスト 包 接化 メカ ニズ ム を検 討し た。 それ ら は1H NMRや蛍光法及び円二 色性スペクトル法によって得 られた水溶液 内挙動との相関関係を明ら かにした。
以 上の 結果 か ら、 一置 換型 修飾CDxのキ ラ ル構 造と 化学 量論 的 センシングについて重要な 知 見を 与え るも の であ り、 本研 究で 設 計し た修 飾CDxを 用い て幅 広 いゲスト認識及びセンサー デ バ イ ス と し て 、 水 溶 液 中 で の 生 体 物 質 に 対 す る セ ン シ ン グ と し て 応 用 が 期 待 さ れ る 。
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学位論 文審査 の要旨 主査
副査 副査 副査
助 教 授
吉 教 授
中 教 授
太 教 授
嶋
田 登 村 博 田 信 廣 津 克 明
学 位 論 文 題 名
一置 換型修飾 シクロ デキストリンのキラル構造と 化学 量論的セ ンシング
現在、地球上の水圏、地圏及び大気圏では、環境汚染化学物質により様々な問題が起 きている。一方、我カの身の周りでは、食品添加物、内分泌撹乱物質、発ガン性物質及び 催奇形性物質などによる生態環境汚染が起き、深刻な社会問題となっている。これらを解 決するために様々な研究・技術開発が急速に進められている。その中で、分子認識による 環 境汚染化 学物質の 検知または除去という方法が考案されている。認識分子のひとっと してシクロデキストリン
(CDx)があげられる。
CDxの最大の特徴は、水溶液中で微弱なカを 利用して有機分子やイオンを包接することである。また、置換基ゐ導入により選択性を用 途に合せて変化させることが可能である。ゲスト分子に対する認識・情報伝達能を向上さ せたゲスト分子認識センサーの開発を目的と.して様々な修飾置換基を有する一置換型修 飾
CDxの様々な分野への応用が期待される。しかし、その多くは有機溶媒を含む系で行わ れている。そこで、本研究では水溶性の新規一置換
CDxを設計、合成し、そのセンシング 能や構造及び水溶液内挙動について検討した。
ま ず、一置 換型修飾
CDxは、隣接する
CDx環内に修飾基を包接させることにより一次 元的配列を形成する。そして、CDx 環の修飾基での相互作用の差により様々な結晶相が形 成される。しかし、分子間包接を介して一次元配列構造の制御メカニズムを解明した構造 的 アプロー チはまだ 報告されていない。そこで4 種の一置換型修飾
CDxの結晶構造とそれ らの結晶相及び修飾基包接の関係について検討した。
CDx誘導体の配列の制御について、
CDx
空 洞一修飾 基間相互 作用だけでなく、
CDx環のりング問の分子間水素結合にも左右さ れることが判明した。ほとんどの一置換修飾
CDxは連続的ならせん構造やチャンネル型ま た は籠型の どちらか に類似した構造で結晶が形成された。直線状ポリマー構造は修飾基 により制限された自己集合によって起こること、口
‑CDx空孔に包接されている修飾基の最 も 安定な性 質は修飾 基の空孔への構造的適合のみでなく修飾基を含む側鎖も構造的安定 性 に作用す ることを 明らかにした。修飾基は最も安定な分子間包接を形成できるパッキ ングを選択し調節していると示唆される。
CDx
―ゲスト分子錯体を形成する主な駆動カは、固体及び溶液内でファンデルワール
スカ、双極子一双極子、水素結合及びCH …兀相互作用といった弱い相互作用が働いている。
また、電荷をもったアミノ化B −CDx による静電相互作用もまた、同様にいくっかの有機ア ニオ ンの 相補 的識 別に 寄与 して いる 。さらに、ホス卜ゲスト間の相補的構造がCDx の分 子認識能及びメカニズムを制御している。そこで、キラル分子に対するキラルョ畿別を行う ために、CDx にキラル分子の導入を行った。これは、キラル化合物のセンシングや不斉触 媒反応への応用が期待されるため非常に重要である。CDx にキラル認繊能を発現させるに は一級水酸基側の化学修飾が有効である。本研究では、キラル修飾CDx を合成し、そのキ ラル認識能の評価とセンシングデバイスへの応用を目的とした。一級水酸基側にキラルな 置換基を導入したロ‑CDx の不斉識別能とゲスト分子包接挙動について検討した。p マンデ ル酸(MA) 及びS 一マンデル酸に対して水溶液中での両エナンチオマーの構造的形態の相異 からキラルR 体修飾ローCDx (B ーCDx (R) CHEA) とキラルS 体修飾ロ‑CDx (B‑CDx (S) CHEA) 間で ゲス ト分 子包接時の識別差が起こることが判明した。B ‑CDxCHEA/ MA では、結合定数毋 値は 、
40−60Nrl であ った 。これ は、
B−CDx のキラル識別能に比べ3 ー5 倍にあたる。こ れらのキラル修飾ロ‑CDx 誘導体は、溶液中で先に述べた弱い相互作用が(S) ―、(R) ―ゲス ト分子によるキラル識別や自己集合プロセスに於いて重要な役割を有すること見出した。
また 、螢 光体 を有 した
CDxデ バイ スは、センサー、生化学及び電気化学への応用が 注目 され てい る。 結合 部位 とし ての
CDx空孔とシグナル郁としてのスペーサを介した螢 光体ペンダントは、特異的応答を有した基質にとって欠くことができをい。ピレンを有し たCDx デ バイ スは 、基 質と 錯体を 形成 し螢光強度に大きな変化を示したことから、しぱ しば用いられるようになo た。しかし、水溶液中では十分な溶解度をもたない。そこで、
水に 可溶 なナフタレンを有したアミノ化ロ‑CDx ホスト分子を水溶液中でのゲストセンシ ングを検討し、吸収法に比べ感度が高い螢光法を利用することで、容易かつ高感度にセン シン グす るこ とが 可能 とな るた め蛍 光性アミノ化CDx を設計した。新規螢光性アミノ化
CDxのコ ンフ ォメ ーシ ョン や様々 なゲ スト分子との相互作用によるミクロ環境の影響に っいて解析的な研究を行った。新規一置換型アミノ化CDx くロ‑CDxennap‑l) は、その一級 水酸基の先端に螢光プローブ(ナフタレン)を導入した化合物である。この化合物は水溶液 中に 於い て螢 光強 度の 著し い温 度依 存性 及び
pH依 存性 が見ら れた 。pH6 一8 にかけて螢 光強度の大きな減少が観測された。これは、アミンプロトンの脱プロトン化によるもので ある 。ま た、 疎水 性環 境の
CDx空 孔内 に自己包接していた螢光体ナフタレン音陞が温度 変化に伴いその空孔の内外ヘ血
‑ou平衡していることを解明した。さらに、ゲスト分子(シ クロヘキサノール、アダマンタノール及びボルネオール等)の包接に伴う螢光プローブの
iIl.0ut 平衡の存在を確認した。ゲスト分子との熱力学パラメーター及ぴ会合定数を求めた。
これらは、ロ.CDx に対してエンタルピー的に負を示し、エントロピーは正負さまざまで あることが知られている。ロ‐
CDxennap‐1 系では、シクロヘキサノール包接錯体に比べ、
アダマンタノール及びボルネオールではエンタルピー的に負、エントロピー的に正である
ことが判明した。これは、嵩高いゲストの包接によるホストの構造変化や溶液中でのゲス
トの 溶媒 和構 造の 変化 によ ると 示唆 される。これらの一置換型修飾アミノ化CDx は、温
度、
pH及 び中性有機分子に対して非常に優れた螢光センサーとなることを見出した。ま
た、 これ らの 修飾
CDxは水 溶液中 で様 々な動的構造を形成している。そこで、分子力場
法を 用い て、 包接 錯体 形成 に関 する ホスト・ゲスト包接化メカニズムを検討し、lHNMR
や螢 光法 及び円二色性スペクトル法によって得られた水溶液内挙動との相関関係を明ら
かに した 。以 上の 結果 から 、一 置換 型修飾CDx のキラル構造と化学量論的センシングに
つい て重 要な 知見 を与 える もの であ り、本研究で設計した修飾CDx を用いて幅広いゲス
ト認識及びセンサーデバイスとして、水溶液中での生体物質に対するセンシングとして応
用が期待される。