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博士(地球環境科学)土居信英 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(地球環境科学)土居信英 学位論文題名

Selection of New Proteins from Random Library Displayed on a Protein Scaffold

、(酵素夕ンパク質表面に提示したランダムライブラリーからの

    

新規夕ン パク質のス クリ,ーニ ングに関す る基礎的研 究)

    

学位論文内 容の要旨

  

人類の活動が、これまで人類が生存してきた環境を乱してしまう原因のーっは、その活 動系すなわち生産一消費の連鎖の系が、生態系の中で物質的に閉じた循環系を成していな いことにある。すなわち、活動の過程で生じた人工物が分解されず、ときに環境汚染物質 として蓄積することにーつの問題がある。夕ンバク質工学により、そのような人工物を分 解する酵素を創ることは可能だろうか?従来の方法では、既存のタンパク質の部分的改 変が主に試みられてきたが、自然界にこれまで存在しなかった基質を認識するためには、

おそらく、全く新しい立体構造の「枠組み」もつタンパク質を創り出す必要がある。現 在、遺伝子工学により特定のアミノ酸配列をもつ人工夕ンバク質を創ることは可能であ る。しかし、タンパク質のアミノ酸配列と立体構造との対応関係が明らかになっていない ために、望む機能をもつ酵素を自由にデザインすることは、現在のところ困難である。

  

一方、生命は、意図的なデザインの方向性をもたずに、環境に対応したランダムな変異 と選択の繰り返しにより、数多くの精巧な酵素を生み出してきた。進化分子工学は、この 進化の仕組みを模倣して、非常に大きな遺伝子型のプールから望む表現型をもつ分子を選 び 出す手法である。しかし、現在、進化分子工学の成功例はRNAとぺプチドに限られて おり、100残基以上のタンパク質については、全くランダムなライブラリーから構造や機 能をもつ新規夕ンパク質のスク1Jーニングに成功した例はない。その主な理由は、探索す べきアミノ酸配列空間の膨大さに比べて、現在の選択系の効率が低いことにある。しか し、実際のタンパク質進化の過程においても、全ての配列空間を調べる時間はなかったは ずなので、選択効率を上げる工夫がタンパク質進化の仕組みの中に隠されている可能性は 高い。したがって、タンパク質の進化分子工学を実現するためには、タンパク質の構造・

機能単位であるドメインが、分子進化の過程でどのようにして創られたのかを知ることが 重要と考えられる。

  

本論文では、まず、全く新しいドメイン進化の仮説を提案し、次に、本仮説を実験的に 証 明 し、 そ れ を進 化分子工 学に応用す るために必 要となる基 礎的条件を 検討する。

  

イントロンの発見以来、ドメインはより小さな構造単位の組み合わせで創られたとぃう エキソン混成仮説が提唱されてきたが、最近、この仮説は疑問視されている。それに対し て、本論文で提案する仮説では、ランダムで柔軟な構造をもっポリペプチドが、それを支

(2)

える「土台」の上で折れ畳み、機能を獲得して、現在の精巧でコンパクトな構造をもつ球 状夕ンパク質に進化したと仮定する。ポリペプチド鎖の両末端が土台に固定されると、ラ ンダム鎖の取り得るコンフォメーションの数は大幅に制限される。そのことがドメイン構 築の効率を上げることに寄与すると考えられる。現存するタンパク質ドメインのN末端と

C

末 端 が 近 接 す る 傾 向 に あ る と い う 事 実 も 、 本 仮 説 を 支 持 し て い る 。

  

以下の実験では、ランダムな「タンパク質」のライブラリーを「土台」の上に提示する ことが可能かどうかについて検討した。提唱した仮説においては「土台」として膜夕ンパ ク質を考えたが、実験ではモデルタンパク質として水溶性の酵素夕ンパク質を用いた。そ の実験上の利点は、提示されたタンパク質の発現を「土台」の酵素活性でモニターできる こと、および、精製・特徴付けの際の水溶性夕ンパク質の取り扱い易さにある。これま で、ある酵素夕ンパク質に外来性のアミノ酸配列を挿入して、その構造・機能に与える影 響を調べた例は少ない。特に、挿入する配列の長さに関しては、10数残基鎖長までしか調 べられていない。そこで、本研究では初めて、

100

残基以上のランダムなアミノ酸配列を 酵素タンパク質に挿入し、どの程度の割合の変異体が酵素活性を維持できるかを調べた。

  

具体的には、土台とする酵素夕ンパク質として大腸菌RNase HIを選んだ。RNase HIは

DNA/RNA

ハ イブリッド のRNA鎖の みを特異的 に分解する 酵素であり、その詳細な立体構 造が既知で、活性部位や基質結合部位などの情報も豊富にあり、また、面VIVOおよび面

vitro

のRNaseH活性測定法が確立していることなどから、本実験に適している。また、挿 入するランダム配列としては、20種類のアミノ酸をすべてコードし、停止コドンを全く含 ま な い よ う に デ ザ イ ン さ れ た セ ミ ・ ラ ン ダ ム な 合 成

DNA

を 用 い た 。

  

まず、ランダム配列を挿入する部位を決定するために、2〜5残基の特定のアミノ酸配 列をRNase HIの

7

つの部 位に挿入して、RNaseH活性が維持され得る部位を検索した。そ の結果、活性部位に近い3つの部位への挿入では活性は失われたが、夕ンパク質表面に近 い

4

つの部位への挿入では活性は維持された。

  

次に、その4つの部位のうち1次配列上の中央に位置する

His 62

部位を選び、120〜130 アミノ酸残基のランダム配列を挿入した変異体ライブラリーを作製した。大腸菌RNaseH 欠損株を用いたスクリーニングの結果、約10%のクローンが生育可能なレベルのRNaseH 活性を維持していた。挿入変異体を含むクローンの変性・再生ゲルアッセイにより、野生 型 (

18kDa)

より 大 きい 、 予想 さ れる 分 子 量

(32kDa)

の 位 置に

RNaseH

活 性 を示すバン ドが確認された。塩基配列を決定した10個の挿入変異体タンパク質は、大腸菌内で大量発 現すると主に不溶性画分に蓄積した。このうち、よく発現した5個の変異体タンパク質を 精製した。精製した変異体夕ンバク質は野生型の0.2〜1%の比活性を示した。さらに挿入 領域にランダム変異を導入することにより、活性が

3

%まで回復し、同時に溶解度の増大 した変異体が得られた。変異体夕ンパク質の

CD

スペクトルの解析から、挿入されたラン ダム領域は、特定の二次構造をもたないことが示唆された。また、RNaseH活性の強さと 挿入したランダム領域のアミノ酸組成との間には相関があり、ランダム領域のアミノ酸組 成 が 天 然 球 状 夕 ン パ ク 質 の 組成 に 近い 変 異体 ほ ど 、活 性 が高 い 傾向 が みら れ た。

  

以上の結果から、二次構造を含まない可塑的な構造をもつランダムなタンパク質のライ ブラリーを、大腸菌

RNase HI

の表面に提示できることがわかった。また、それに引き続 いてのランダム変異による機能の上昇は、可塑的な構造からアミノ酸置換にともなって構

(3)

造形成していくドメイン進化の過程をシミュレートできる可能性を示している。今後、こ の「土台」上に提示したタンパク質のランダム配列ライブラリーを利用することにより、

新しい構造や機能をもつ新規夕ンパク質の創出に道を開くことができると期待される。

(4)

学位論文審査の要旨

主査  教授、戸倉清一 副査  教授  西  則雄 副査  柳川弘志

    (三菱化学生命科学研究所グループリーダー主任研究員)

学 位 論 文 題 名

Selection of New Proteins from Random Library Displayed on a Protein Scaffold

( 酵 素 夕 ン パ ク 質 表 面 に 提 示 し た ラ ン ダ ム ラ イ ブ ラ リ ー か ら の   新 規 夕 ン パ ク 質 の ス ク リ ー ニ ン グ に 関 す る 基 礎 的 研 究 )

  申 請 者 は 、 人 類 の 活 動 が こ れ ま で 人 類 が 生 存 し て き た 環 境 を 乱 し て し ま う 原 因 の ー つ は 、 そ の 活 動 系 す な わ ち 生 産 一 消 費 の 連 鎖 の 系 が 、 生 態 系 の 中 で 物 質 的 に 閉 じ た 循 環 系 を 成 し て い な い こ と に あ る 、 す な わ ち 、 活 動 の 過 程 で 生 じ た 人 工 物 が 分 解 さ れ ず 、 と き に 環 境 汚 染 物 質 と し て 蓄 積 す る こ と に ー つ の 問 題 が あ る 、 と 考 え た 。 そ こ で タ ン パ ク 質 工 学 に よ り 、 そ の よ う な 人 工 物 を 分 解 す る 酵 素 を 創 る こ と を 思 い つ い た 。 自 然 界 に こ れ ま で 存 在 し な か っ た 基 質 を 認 識 す る た め に は 、 全 く 新 し い 立 体 構 造 の 「 枠 組 み 」 を も つ タ ン バ ク 質 を 創 り 出 す 必 要 が あ る 。

進 化 分 子 工 学 は 、 生 命 の 進 化 の 仕 組 み を 模 倣 し て 、 進 化 を 伴 う 非 常 に 大 き な 遺 伝 子 型 の プ ー ル か ら 望 む 表 現 型 を も つ 分 子 を 選 び 出 す 手 法 で あ る 。 し か し 、 現 在 、 進 化 分 子 工 学 の 成 功 例 はRNAと 低 分 子 量 ベ プ チ ド に 限 ら れ て お り 、100残 基 以 上 の 高 分 子 量 夕 ン バ ク 質 に つ い て は 、 全 く ラ ン ダ ム な ラ イ ブ ラ リ ー か ら 構 造 や 機 能 を も つ 新 規 夕 ン バ ク 質 の ス ク リ ー ニ ン グ に 成 功 し た 例 は な い 。 そ の 主 な 理 由 は 、 探 索 す べ き ァ ミ ノ 酸 配 列 空 間 の 膨 大 さ に 比 べ て 、 現 在 の 選 択 系 の 効 率 が 低 い こ と に あ る 。 し か し 、 実 際 の タ ン バ ク 質 進 化 の 過 程 に お い て も 、 全 て の 配 列 空 間 を 調 べ る 時 間 は な か っ た は ず な の で 、 選 択 効 率 を 上 げ る 工 夫 が タ ン バ ク 質 進 化 の 仕 組 み の 中 に 隠 さ れて いる 可 能性 は高 い。 した がっ て、

夕 ン パ ク 質 の 進 化 分 子 工 学 を 実 現 す る た め に は 、 夕 ン パ ク 質 の 構 造 ・ 機 能 単 位 で あ る ド メ イ ン が 、 分 子 進 化 の 過 程 で ど の よ う に し て 創 ら れ た の か を 知 る こ と が 重 要 と 考 え ら れ て い る 。

本 論 文 で は 、 ま ず 、 全 く 新 し い ド メ イ ン 進 化 の 仮 説 を 提 案 し 、 次 に 、 本 仮 説 を 実 験 的 に 証 明 し 、 そ れ を 進 化 分 子 工 学 に 応 用 す る た め に 必 要と なる 基 礎的 条件 を検 討し てい る。

  ド メ イ ン は よ り 小 さ な 構 造 単 位 の 組 み 合 わ せ で 創 ら れ た と ぃ う エ キ ソ ン 混 成 仮 説 が 、

(5)

最近疑問視されている。それに対して、本論文で提案する仮説では、ランダムで柔軟な 構造をもつポリベプチドが、それを支える「土台」の上で折れ畳み、機能を獲得して、

現在の精巧でコンバクトな構造をもつ球状夕ンパク質に進化したと仮定し、ポリベプチ ド鎖の両末端が「土台」に固定されると、ランダム鎖の取り得るコンフエメーションの 数は限られたものになることに注目し、そのことがドメイン構築の効率を上げることに 寄与すると考えた。

  

まず、゛ランダムな「夕ンパク質」のライブラリーを「土台」の上に提示することが可 能かどうかについて検討している。モデルタンバク質として水溶性の酵素夕ンバク質を 用いているが、この利点は、提示されたタンノペク質の発現を「土台」の酵素活性でモニ ターできること、および、精製・特徴付けの際の水溶性夕ンパク質の取り扱い易さにあ る。これまで、挿入する配列の長さでは、10数残基鎖長までが限界であった。本研究 では初めて、100残基以上のランダムなアミノ酸配列を酵素夕ンパク質に挿入し、どの 程度の割合の変異体が酵素活性を維持できるかを調べた。

  

まず、ランダム配列を挿入する部位を決定するために、2〜

5

残基の特定のアミノ酸 配列を

RNase HI

7

つの 部位に挿入 して、

RNaseH

活性が維持され得る部位を検索し た。その結果、活性部位に近い3つの部位への挿入では活性は失われたが、夕ンノヾク質 表 面 に 近 い

4

つ の 部 位 へ の 挿 入 で は 活 性 は 維 持 さ れ る こ と を 確 認 し た 。

  

次に、その

4

つの部位のうち1次配列上の中央に位置するHis 62.部位を選び、120〜

130

アミノ酸残基のランダム配列を挿入した変異体ライブラルーを作製した。大腸菌

RNaseH

欠損株を用いたスクリーニングの結果、約10%のクローンが生育可能なレベ ルのRNaseH活性を維持していた。挿入変異体を含むクローンの変性・再生ゲルアッセ イによ り、野生型 (

18kDa)

より大きい 、予想される分子量

(32kDa)

の位置にRNaseH 活性を示すバンドが確認された。塩基配列を決定した10個の挿入変異体夕ンバク質は、

大腸菌内で大量発現すると主に不溶性画分に蓄積した。このうち、よく発現した5個の 変異体夕ンパク質を精製した。精製した変異体夕ンパク質は、野生型の0.2〜1%の比活 性を示した。さらに挿入領域にランダム変異を導入することにより、活性が

3

%まで回 復し、同時に溶解度の増大した変異体が得られた。変異体夕ンバク質のCDスベクトル の解析 から、挿入されたランダム領域は、特定の二次構造をもたないこと、また、

RNaseH

活性の強さと挿入したランダム領域のアミノ酸組成との間には相関があり、ラ ンダム領域のアミノ酸組成が天然球状夕ンパク質の組成に近い変異体ほど、活性が高い 傾向のあることを見出している。

  

以上の結果から、二次構造を含まない可塑的な構造をもつランダムなタンパク質のラ イブラリーを、大腸菌RNase HIの表面に提示できることを示した。今後、この「土台」

上に提示したタンバク質のランダム配列ライブラリーを利用することにより、新しい構 造 や機 能 をも つ 新規 夕 ンバ ク 質 の創 出 に道 を 開く こ とが できる と期待され る。

  

審査員一同は、これらの成果を高く評価し、申請者が博士(地球環境科学)の学位を 受けるのに充分な資格を有するものと判定した。

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