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博 士 ( 地球 環 境科 学) 上野 秀樹 学 位 論 文 題 名

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Academic year: 2021

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博 士 ( 地球 環 境科 学) 上野 秀樹 学 位 論 文 題 名

Selection and Genetic Basis of Life History Characters     1n a Ladybird Beetle, Harrno

凡 と

a axyriciis

(ナミテントウの生活史形質にかかる選択と遺伝基盤)

学 位 論 文 内 容 の要 旨

アブラムシ食のテントウムシ、ナミテントウを材料として、特に体サイズ形質にかかる 選択とその遺伝的な背景について研究を行った。

  (1)交尾成功について自然個体群で調査を行った。本種は一遺伝子座の対立遺伝子に よって支配される色彩多型を持つ。体サイズにかかる選択に色彩多型がどのような影響を 与えるかについて注目した。黒色型については雄の体サイズと交尾の成功に関係は示され なかったが、非黒色型の雄個体については体サイズに正の方向選択が作用していることが 示された。このように本種では色彩多型によって、選択の作用の様式に差異があることが 示唆された。この結果|よ二年の調査年に共通して得られた。

  (2)また、色彩に関してランダムな交尾頻度が観察された。越冬後第一世代と第二世 代の問に有意な色彩の構成比の変化が検出されたが、調査年によって変化の方向は一定で はなかった。このことから過去に言われているような特定の色彩に対する雌の選好性が世 代 問 の 色 彩 遺 伝 子 の 構 成 に 与 え る 影 響 は 存 在 し て も 大き く な ぃ と 推 測 さ れ た 。   (3)受精成功と雄体サイズの関係について実験室内で調査を行った。本種では精子自 身 による貯蔵されていた他個体の精子の流し出しが行われていることが示唆された。

  (4)また、二回目に交尾した雄の精子の移送量が多いほどその雄が高い受精成功を収 めることが示された。雄の体サイズそのものは精子の置換能カと関係しなかったが、多く の精子を射精することによって間接的に高い受精成功を得ている事が示唆された。最後に 交尾した雄の受精成功の割合はおよそ、55%と推定された。

  (5)家族内の色彩遺伝子のばらっきと家族間のぱらっきを比較することで自然個体群 での交尾頻度を推定したところ、平均3.8回という推定値を得た。この推定値は自然個体群 で交尾成功や受精成功に関して繰り返して選択が体サイズに作用していることを示すもの と考えることができる。

  (6)凍結乾燥させたミンハチの幼虫を餌として用い、体サイズ形質について遺伝率を 測定したところ全ての形質に有意な遺伝分散が検出された。成虫の体サイズに強い影響を 与える幼虫期間についても有意な遺伝的背景が存在することが示された。遺伝率は全体的 に30から40%程度であった。

(2)

  7) また 、体 サイ ズ形 質と 幼虫 期間 の問 には負 の遺 伝相 関が 検出 され た。 この 結果 か らは 個体 群内 の遺 伝分 散が すぐ に枯 渇す るこ とが 予想さ れ、 有意 な遺伝分散が検出された とい う結 果と 合致 しな い。 この 結果 は選 択が 作用 してい る形 質群 の遺伝分散が拮抗的な遺 伝共分散を通じて維持されているとする仮説に反する。

  8) そこ で、 三種 類の 餌( エン ドウ ヒゲ ナガア ブラ ムシ 、う メア ブラ ムシ 、凍 結乾 燥 させ たミ ツバチの幼虫)で栄養条件に勾配をっけ、変動す.る環境下での遺伝的性質につい て研 究を 行っ た。 各遺 伝子 型の 反応 規範 は良 い栄 養条件 では 短い 幼虫期間で大きな体サイ ズ 、 劣 悪 な 条 件 で は 長 い 幼 虫 期 間 で 小 さ な 体 サ イ ズ と い う 傾 向 を 示 し た 。   9) しか し、 遺伝 子型と 栄養 条件 の問に|ま有意な相互作用が検出され、遺伝子型毎に 栄養環境に対する反応の仕方めミ異なることカミ示された。この相互作用によって、各環境で の相 対的 な順 位の 逆転 が見 られ た。 適応 度に 強く 関係す る形 質に は方向選択が作用してい ると 考え られ るた め、 本研 究の 結果 は異 なっ た環 境では 異な った 遺伝子型が選択されるこ とを 示唆 して おり 、こ のこ とが 個体 群内 の遺 伝的 分散を 維持 する 要因のーっとなっている ものと考えられた。

  10) 実 際 に 各 環 境 に つい て 遺 伝 分 散を 計算し たと ころ 幼虫 期間 につ いて は全 ての 環 境条 件で 有意な遺伝分敷めミ検出された。体サイズ形質については凍結乾燥させたミツパチ の幼 虫を 与え たと きに のみ 有意 な遺 伝分 散が 得ら れた。 この 結果 は劣悪な環境条件下での 遺伝 分散 が維 持さ れや すい こと を示 す一方、アブラムシを餌として育てたとIきの体サイズ の遺伝分散が個体群内で少なくなっていることを示唆している。

  11) また、体サイ,ズ形質と幼虫期間の問の遺伝共分散は良い栄養条件では零に近く、

劣悪 な栄 養条 件で は強 く負 であ った 。こ れら の環 境によ る遺 伝共 分散の変化は幾っかの体 サ イ ズ 形 質 で 統 計 的 に 右 意で あ っ た こ のこ とは形 質問 の遺 伝共 分散 も環 境の 影響 を受 け てい るこ とが 示し てい る。 この 結果 は遺 伝分 散共 分散構 造が 過去 に仮定されてきたように 一定不変ではない事を表わしている。

以 上 の 様 に 、 自 然 個体 群 で 体サ イズ に方 向的 な選 択が 作用 して いる こと、 選択 には 色彩 多型が強い影響を与えていること、、また適応度成分に関係した形質にも遺伝分散が維持さ れて おり 、そ の特 性を 理解 する ため には環 境条 件の 変化 を考慮する必要があることが示さ れ た 。 こ れ ら の 結 果 か ら ュ 本 種 c生 活 史 形 質 の 進 化 に つ い て 考 察 し た 。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査

  

教 授

  

  

正 剛 副 査

  

教 授

  

木 村 正 人 副 査

  

教 授

  

甲 山 隆 司 副 査

  

助 教 授

  

大 串 隆 之

学 位 論 文 題 名

Selection and Genetic Basis of Life History Characters     1n a Ladybird Beetle, Harrno

凡 む

a axyridis

( ナ ミ テ ン ト ウ の 生 活 史 形 質 に か か る 選 択 と 遺 伝 基 盤 )

一 般 に 、 生 物 の 形 質 は 「 選 択 」 と 「 遺 伝 」 と に よ っ て 進 化 す る が 、 生 態 学 で は 自 然 選 択 や 性 選 択 の メ カ ニ ズ ム の 解 明 や 考 察 が 重 視 さ れ 、 選 択 の 対 象 と な る 形 質 の 遺 伝 性 に 関 す る 解 析 は 軽 視 さ れ る 傾 向 が 強 か っ た 。 し か し 、 近 年 、 集 団 遺 伝 学 や 量 的 遺 伝 学 の 手 法 が さ か ん に 導 入 さ れ 、 選 択 形 質 の 遺 伝 率 等 に 関 す る 研 究 も 行 わ れ る よ う に な っ て き た 。 ナ ミ テ ン ト ウ は こ れ ま で も 多 く の 遺 伝 学 者 に よ っ て 研 究 さ れ 、 斑 紋 多 型 な ど の 遺 伝 解 析 が 最 も 進 ん で い る 昆 虫 の ー つ で あ る が 、 申 請 者 は 生 態 学 の 立 場 か ら こ の 昆 虫 を 取 り 上 げ 、 特 に 体 サ イ ズ 形 質 に か か る 選 択 の 強 さ や 方 向 を 詳 し く 測 定 す る と と も に 、 選 択 を 考 え る う え で 問 題 と な る 「 遺 伝 分 散 の 維 持 機 構Jと い う 現 代 生 態 学 の 中 心 課 題 の ー っ と も 取 り 組 ん で お り 、 研 究 の 先 進 性 と 独 倉 |J性 を 高 く 評 価 で き る 。

本 論 文 は 四 章 か ら な り 、 ま ず 第 一 章 で は 野 外 繁 殖 個 体 群 に お け る 交 尾 成 功 度 を 馭 り 上 げ 、 劣 性 で あ る 非 黒 色 型 の 雄 で の み 体 サ イ ズ に 正 の 方 向 選 択 が 作 用 し て い る こ と 、 ま た 、 色 彩 に 関 し て 性 選 択 な ど は 認 め ら れ ず 、 多 型 雌 雄 間 で ほ ほ ラ ン ダ ム に 交 尾 が 生 じ て い る こ と を 明 ら か に し た 。 特 に 、 あ と の 結 果 は 過 去 に 別 の 研 究 者 に よ っ て 別 の 個 体 群 で 得 ら れ た 結 果 と 異 な っ て お り 、 選 択 の 様 相 が 個 体 群 に よ っ て 異 な る可 能 性 のあ 、 る こと を 示 した 点 で 注 目 に 値 す る 。

第 二 章 で は 、 こ の テ ン ト ウ ム シ の 斑 紋 多 型 が 単 一 遺 伝 子 座 上 の 遺 伝 子 群 に よ っ て 支 配 さ れ 、 よ っ て 劣 性 で あ る 非 黒 色 型 雌 の 斑 紋 は 父 親 の そ れ を 反 映 す る こ と を 巧 み に 利 用 し 、 雄 間 の 精 子 競 争 の 様 相 を 明 ら か に す る と と も に 、55% と い うP2値 を 得 て い る 。 ま た 、 色 彩 遺 伝 子 の 家 族 聞 分 散 と 家 族 内 分 散 を 比 較 す る こ と に よ り 、 自 然 個 体 群 に お け る 雌 の 交 尾 回 数 3.8回 と 推 定 し て い る 。 こ こ で は 、 得 ら れ た 結 果 の み な ら ず 、 実 験 系 を 巧 み に 組 み 立 てる カ 量 も 高 く 評 価 で き る 。

  第 三 章 で は 各 種 体 サ イ ズ 形 質 の 遺 伝 率 と 遺 伝 相 関 を 求 め 、 体 サ イ ズ と 幼 虫 期 の 長 さ の 間 に 有 意 な 負 の 相 関 関 係 が あ る こ と を 見 い 出 し た 。 こ れ は 直 観 的 予 想 に 反 す る 興 味 深 い 知 見

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であり、評価できる。また、幼虫期の長さと幼虫の死亡率との問に高い正の相関関係があ ることが予想されることから、今回の結果は体サイズ形質に強い方向選択が作用している ことを意味しており、この方向選択は急速に遺伝分散を減少させることが予想されるが、

実際には、全ての体サイズ形質に有意な遺伝分散が検出された。

第四章では申請者は、¨reaaion norm¨という考え方を導入し、ある餌条件下では有利であ る遺伝子型も他の餌条件下では不利になりうることを示した。これにより、環境の変動や 不均一性が遺伝分散の維持に深く関わっていることを明らかにしたのである。また、いく っかの体サイズ形質と幼虫期間との遺伝共分散は良好な餌条件下と劣悪な餌条件下で有意 に異なった。この結果は、「ランダム交配個体群では、遺伝分散共分散構造は‐定不変」

という従来の仮定に反するものであり、重要な知見である。

  このように、本研究は、同一種であっても、個体群によって選択の様相が異なる可能性 の高いこと、また、同一個体群であっても環境によってその遺伝構造はかなり変化しうる ことなどを実証的に示した。従来の生態的研究の多くが、同一種であれぱ選択圧や遺伝構 造がほほ一定であることを仮定して行われてきたことを考えると、今回得られた結果はき わめて示唆に富んでいる。

審査員一同は、これらの結果を高く評価し、また大学院課程における研鑽や取得単位な ども併せ、申請者が研究者として誠実かつ熱心であり、博士(地球環境科学)の学位を受 けるのに充分な資格を有するものと判定した。

参照

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