博士(歯学)谷 和俊 学位論文題名
審美歯科材料の螢光放出特性と修復歯の識別能評価 学位論文内容の要旨
【緒言】
近年 、レジンやポーセレンなどの審美性歯科材料の発達は著しく、臨床に多く用い ら れる ようになった。しかし、その審美性の飛躍的な向上により、集団歯科健診にお いて、審美性修復材料を使い修復された歯の検出が大変困難になってきた。現状では、
視 診に よる歯質と審美修復部の若干の色調差やあるいは、歯質と審美修復部の表面性 状差による触感の違いを探針操作により見っけ出す方法が広く行われている。しかし、
そ の検 出は、審美修復が行われている部位的な問題や健診者の主観的要素をかなり含 む こと から、精度の信頼性は決して高いとはいえない。また、誤った探針操作により 初 期う 蝕病変部の再石灰化を阻害する危険性が指摘されている。審美修復歯の正確か つ 簡便 な検出は、各種疫学調査のみならず保健指導、患者に対する適切な治療方針の 確 立や 保健行政の観点から重要である。本研究では、審美修復歯の簡便な検出のため の 基礎 研究として、歯質と審美材料の螢光特性に注目し審美修復歯の非接触識別法の 可能性にっいて検討した。
【 材料 及び 方法 】 1.測 定試 料
1)レ ジン 試料 :12種の充 填用 光重 合型 コン ポジ ット レジ ンを スラ イド 板上 のアク リ ル 製 モ ー ル ド ( 内 径iox10mm、 高 さ5mm)ヘ 填 入 し 、 も う 一 枚 の ス ラ イ ド ガ ラ ス板 で上 から 圧接 し、 可視 光線 照射 器(JETLIGHT3000、J.MORI′IヽA)で 上下両 面 を60秒 間 づ っ 照 射 し た 。 硬化 後、 試料 表面 を耐 水研 磨紙 によ り#1200まで 研磨 し た。
2)ポ ーセ レン 試料 :5種 類の エナ メル ・デ ンチ ンポーセレンをステンレス製金枠に 充 填 加 圧 (70kg/cm ) し 、デ ィス ク状 (10¢x3mm) に成 型し た。 その 後メ ーカ ー 指示 に従 い真 空焼 成を 行っ た。 デン チン ポー セレンは表面を#1200に、またエナ メ ルポ ーセ レン にっ いて は、 さら に大 気焼 成を 行った 。
3)天 然歯 :10%ー 中性ホ ルマ リン 緩衝 溶液 に保 存さ れた う蝕 、着 色お よび テトラ サ イ ク リ ン 螢 光 の 見 ら れ な い 健 全 ヒ ト 抜 去 上 顎 中 切 歯4歯 を 用 い た 。 2.螢 光ス ペク トル 測定
螢光 スペ クト ル測 定に は、 分光 螢光 光度 計(F.2500日 立製 )を 使い 、螢 光スペ
ク 卜 ル を 励 起 波 長380、400、430、450、470nm( ス リ ッ ト 幅2.5nm)の 条 件 下 で 測 定した 。
3. 螢光 像観 察
螢光像 観察 試料 とし て、4種 類のレ ジン 充填 歯と4種 類のポーセレン修復歯を用意 し た。ス ペク トル 測定 に基 づき 、ハ ロゲ ンラ ンプ をフ イルターで波長選別した光と 470nmピ ー ク の 高 輝 度 青 色LEDを 用 い て 、 レ ジ ン 充 填 歯 と ポ ー セ レ ン 修 復 歯 の 螢 光像を暗室内で観察し写真撮影を行った。また、歯質と審美修復材料の識別能を評価 するため、各励起光照射における螢光像をモノクロフィルムを使い撮影し、その撮影 フ ィルム をフ ラッ ト型 スキ ャナ ーを 用い てデ ジタ ル画 像としてPCに取り込み、画像 解 析ソフ トに よル レジ ン充 填歯 のレ ジン 部分 と歯 質部 分及びポーセレン修復歯のポ ー セ レ ン 部 分 と 歯 質 部 分 の 輝 度 を 計 測 し 、 輝 度 比 を 算 出 し た 。
【結果および考察】
1)充填用コンポジットレジン
充填用コンポジットレジンの色調による螢光スペクトルの差は、ほとんど見られな かった。各励起波長による歯質と充填用コンポジットレジンの螢光スペク卜ルを比較 す る と 、励 起 波 長380、400nmで は 、レ ジンの 種類 によ り螢 光ス ベク トル 波形 にか なりの相違があり、螢光強度に関しても、ほとんど螢光を発しないレジンから歯質よ りも螢光発光がかなり強いレジンなど様々であり、各レジンと歯質との間に識別のた め の明 確な 螢光強 度差 は見 られ なか った 。励 起波 長430nmで は、 螢光 強度 の絶 対値 は低下したものの、歯質に比ベレジンの螢光強度が著しく衰退したため、明確な螢光 強 度 差 が現 れ は じ め た 。 励 起 波 長450、470nmでは 、歯 質の 螢光 強度 の絶 対値 はか なり低下したが、レジンの螢光強度は無視できるほど低く、レジンと歯質の相対的な 螢 光強 度差 はさら に広 がっ た。 スペ クト ルの 結果 に基 づき500nm以上 の螢 光像 を観 察 し撮 影し た結果 、励 起光430、450、470nmで は、 レジ ン部 分の 螢光 発光 が歯 質部 よりも弱く識別が可能になった。写真によるレジン充填歯の歯質部とレジン部の輝度 比 では 、励 起光430、450、470nmと もに それほ ど差 はな かっ たが 、歯 質の 螢光 発光 が最も強かったのは、フィルター装着ハロゲンランプ光よりも単色で光強度が強い青 色 LED光 で あ り 、 審 美 修 復 部 の 視 覚 的 検 出 が 最 も 容 易 で あ っ た 。 2)ポーセレン
ポーセレンの色調による螢光スペク卜ル比較では、デンチン、エナメルポーセレン とも に色 調に よる螢 光ス ペクトルの差は、ほとんどみられなかった。励起波長380nm では、各種エナメルポーセレンが歯質に大変近い螢光強度を示した。しかし、励起波 長400、430、450、470nmで は 、 エ ナメ ル、デ ンチ ンポ ーセ レン とも に螢 光強 度は 著しく低下し、歯質との間に識別のための明確な螢光強度差が見られた。螢光スペク ト ル結 果に 基づい て、500nm以 上の ポー セレン 修復 歯の 螢光 像を 観察 ・撮 影し た結 果 、螢 光ス ベク卜 ルに 対応 して 、励 起光380nmにお ける 螢光 像で は、 ポー セレ ン修 復歯のポーセレン部と歯質部が同等の螢光発光を示し、識別は困難であった。しかし、
励 起 光400、430、450、470nm照 射 では 、ポー セレ ン修 復歯 のポ ーセ レン 部の 螢光
発光が小さく、識別が可能になった。また、各励起光における歯質部とポーセレン部 の輝度比較では、励起光400nmが最も高い輝度比を示したが、歯質の螢光を最も強 く励起させたのは青色LED光であった。
【結論】
充填用コンポジットレジン及びポーセレン修復部ともに、天然歯との螢光特性差を 利用することにより、探針を使用しない非接触による集団歯科健診での審美修復歯の 検出が可能であることが示唆された。
螢光スベクトルからは、充填用コンポジットレジンでは励起波長430〜470nm、 ポーセレンでは励起波長400〜470nmで歯質との識別が可能であり、励起光源とし ては、高輝度LEDが有用であった。また、各励起光における螢光像では、スペクト ルに対応した結果が得られた。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
審美歯科材料の螢光放出特性と修復歯の識別能評価
審 査 は 、 審 査 担 当 者 が 一 同 に 会 し て 口 頭 で 行 っ た 。 ま ず 申 請 者 に 本 論 文 の 概 要 の 説 明 を 求 め 、 次 い で 提 出 論 文 の 内 容 及 び 関 連 分 野 に つ い て 試 問 し た 。 以 下 に 提 出 論 文 の 要 旨 と 審 査 の 内 容 を 述 べ る 。
近 年 、 レ ジ ン や ポ ー セ レ ン な ど の 審 美 性 修 復 材 料 の 発 達 が 著 し く 、 臨 床 に 多 く 用 い ら れ る よ う に な っ た 。 し か し 、 そ の 審 美 性 の 向 上 に よ り 、 集 団 歯 科 健 診 に お い て 審 美 性 材 料 を 使 い 修 復 さ れ た 歯 の 検 出 が 大 変 困 難 に な っ て き た 。 本 研 究 で は 、 審 美 修 復 歯 の 検 出 を 容 易 に す る た め の 基 礎 研 究 と し て 、 歯 質 と 審 美 材 料 の 螢 光 ス ペ ク ト ル を 測 定 し 、 審 美 修 復 部 と 歯 質 の 最 適 な 識 別 条 件 に つ い て 比 較 ・ 検 討 し た 。
【 材 料 及 ぴ 方 法 】 1. 測 定 試 料
1)レ ジ ン 試 料 は 、12種 の 光 重 合 さ せ た 充 填 用 コ ン ポ ジ ッ ト レ ジ ン(ioxioX 5mm)を 用 意 し た 。 試 料 表 面 は 耐 水 研 磨 紙 に よ り #1200に 研 磨 し た 。 2) ポ ー セ レ ン 試 料 は 、 メ ー カ ー 指 示 に 従 い 真 空 焼 成 を 行 っ た5種 類 の デ ィ ス ク 状(10¢X3mm)の エ ナ メ ル ・ デ ン チ ン ポ ー セ レ ン を 用 意 し た 。 デ ン チ ン ポ ー セ レ ン は 表 面 を #1200に 、 エ ナ メ ル ポ ー セ レ ン は 大 気 焼 成 を 行 っ た 。 3) 天 然 歯 は 、 う 蝕 、 着 色 お よ び テ ト ラ サ イ ク リ ン 螢 光 の 見 ら れ な い 健 全 ヒ ト 抜 去 上 顎 中 切 歯4歯 を 用 い た 。
2.螢 光 ス ペ ク ト ル 測 定
螢 光 ス ペ ク ト ル は 、 励 起 波 長380、400、430、450、470nm( ス リ ッ ト 幅2.5nm) の 条 件 下 で 測 定 し た 。
3. 螢 光 像 観 察
螢 光 像 観 察 試 料 と し て 、4種 類 の レ ジ ン 修 復 歯 と4種 類 の ポ ー セ レ ン 修 復 歯 を 用 意 し た 。 ス ベ ク ト ル 測 定 に 基 づ き 、 ハ ロ ゲ ン ラ ン プ を フ イ ル タ ー で 波 長 選 別 し た 光 と470nmピ 冖 ク の 青 色LED光 を 用 い て 、 レ ジ ン 修 復 歯 と ポ ー セ レ ン 修
学 夫 彦 文英 田理 野 森 亘 佐 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
復歯の螢光像を観察・写真撮影した。また、歯質と審美修復材料の識別能を評 価するため、各励起光照射における審美修復歯の螢光像をPCにデジタル画像と して取り込み、画像解析ソフトにより審美修復部と歯質部の輝度を計測した。
【結果および考察】
1)充填用コンポジットレジン
励起波長380、400nmでは、レジンの種類により螢光スペクトルにかなりの 相違があり、各レジンと歯質との問に識別のための明確な螢光強度差は見られ なかった。励起波長430nmでは、螢光強度の絶対値は低下したものの、歯質に 比ベレジンの螢光強度が著しく衰退したため、明確な螢光強度差が現れはじめ た。励起波長450、470nmでiま、歯質とレジンの相対的な螢光強度差はさらに 広がった。レジン修復歯の500nm以上の螢光像を観察・撮影した結果、励起光 430、450、470nmともにレジン部分の螢光発光が歯質部よりも弱く識別が可能 になった。歯質部とレジン部の輝度比では、励起光430、450、470nmにおい てあまり差はなかったが、歯質の螢光発光が最も強かったのは、フィルター装 着ハロゲンランプ光よりも光強度が強い青色LED光であり、審美修復部の視覚 的検出が最も容易であった。
2)ポーセレン
励起波長380nmでは、各種エナメルポーセレンが歯質に大変近い螢光強度を 示した。しかし、励起波長400、430、450、470nmでは、エナメル、デンチン ポーセレンともに螢光強度は著しく低下し、歯質との間に識別のための明確な 螢光強度差が見られた。ポーセレン修復歯の螢光像は、螢光スペク卜ルに対応 して、励起光380nmでは、ポーセレン修復部と歯質部が同等の螢光発光を示し、
識別は困難であった。しかし、励起光400、430、450、470nm照射では、ポー セレン修復歯のポーセレン部の螢光発光が小さく、識別が可能になった。また、
各励起光における歯質部とポーセレン部の輝度比では、励起光400nmが最も高 い値を示したが、歯質の螢光を最も強く励起させたのは青色LED光であった。
【結論】
螢光特性差を利用することにより、審美修復歯の審美修復部と歯質部の識別 が可能である。充填用コンポジットレジンでは励起波長430〜470nm、ポーセ レンでは励起波長400〜470nmで歯質との識別が可能であり、励起光源として はLEDが有用であった。
論文の審査にあたっては、各審査委員と申請者の問で、本論文の内容とその 関連事項にっいて質疑応答がなされた。設問は螢光像の検出波長設定理由、歯 質と審美性材料の螢光物質、他の光学的検出方法、臨床応用の可能性などにつ いて詳細にわたって行われ、申請者はそれぞれ的確に回答し将来の研究の方向 性についても具体的に示した。本研究は、螢光特性差を利用した歯質と審美材 料の識別により、集団歯科健診での審美修復歯の的確かっ簡便な検出が可能で あることを示唆しており、歯科医学会の発展に貢献する研究であると評価され た。よって、学位申請者は博士(歯学)の学位授与に値するものと認められた。