博士(医学)佐藤利佳 学位論文題名
気 管 支 喘 息 の 病 態 に お け る グ2 アドレナリン受容体遺伝子多型の意義
学位論文内容の要旨
[研究目的]B2アドレナリン受容体(f32AR)遺伝子において塩基レベルで9つの多型が報告さ れ,気管支喘息の臨床像との関係が報告されている.そのうちヌクレオチド46(16番目のアミ ノ 酸がArg→Gly), ヌクレオチド79 (27番目のアミノ酸がGln→Glu)の多型については,変 異頻度が高く,in vitroにおいてArg16→Glyの変異はアゴニス卜の長期暴露による[32ARの down regulationを促進し,Gln27 ‑*Gluの変異はそれを抑制することが明らかにされた.また,
気管支喘息の臨床像との関連では,アミノ酸16については,Gly16/Glyの患者にはステ口イド 治療や脱感作療法,を受けている割合が多いこと,夜間喘息患者では変異アリールGly16の頻度 が高いことが報告されている.アミノ酸27については,Glu2 7/Gluの患者では気道過敏性が Gln2 7/Glnに比して低下していること,Gln2 7/Glnの患者は血清IgEが高いことが報告されてい る.B2刺激薬は気管支喘息の治療として重要な役割を占めているが,耐性や喘息死との関連な ども報告されており,その使用法については議論の余地のあるところである,このような観点か ら,気管支喘息とf32AR遺伝子多型の関係を検討することは非常に重要であると考えられるが,
本邦においてはこれまで報告がない.そこで我々は、以下の3っを目的として研究を行った.
( 研究1) 日本人にお けるf32AR遺 伝子多型(Arg16→GlyとGln27→Glu)の頻度を調べる.
(研究2){32AR遺伝子多型が,気管支喘息の臨床像にどのような影響を与えているか検討する.
(研究3)p2刺激薬の定期吸入が引き起こすとされる気道過敏性の亢進,B2刺激薬による気道収 縮 予 防 作 用 の 低 下 が , {32AR遺 伝 子 多 型 に よ り 影 響 さ れ る か を 検 討 す る . [対 象 と方 法 ] (研 究1)対象 は喘息患者178名と健 常者150名.遺伝子 型の決定に は amplification refractory mutation system (ARMS)法を用いた.(研究2)研究1で遺伝子多 型の検討を行った178名の喘息患者について,retrospectiveに気道過敏性,血清IgE値,治療 内容,重症度について検討した.(研究3)対象は軽症または中等症の気管支喘息患者19名,サ ル ブタモール([32刺 激薬)200いgを1日4回,2週間定期吸入し,その前後に1秒量,サルブ タモール400vg単回吸入前後のメサコリン気道過敏性などを測定した.B2刺激剤による気道収 縮 予防効果は ,サルブタ モール単回 吸入前後の 気道過敏性 の改善の程 度を指標とした.
[結果](研究1)アミノ酸16の遺伝子頻度は,野生型:変異型=O,51:O.49であった.欧 米の報告では,野生型:変異型=0.3:0.7であり,日本人は欧米人に比して変異型が有意に少な かった.アミノ酸27については,野生型:変異型=O.91:0.09であり,野生型:変異型=0.5:
O.5とす る欧 米の 報告と比較すると,日本人においては変異型が有意に少なかった.[32AR遺伝 子多 型に は人 種差 があ るこ とが 判明し ,特 にア ミノ酸27については日本人においては変異型が 著しく少なかった.(研究2)血清IgE,気道過敏性は,各遺伝子型の間で差はみられなかった.
アミ ノ酸16の 多型 と重 症度 につ いての 検討 では ,軽症群と中等症以上群に分けて検討すると,
中等 症以 上の 喘息 患者には,軽症に比べてGly16/Glyの割合が有意に多かった.(研究3)(1) サ ル ブ タ モ ー ル 定期 吸 入 療 法 前 後 の1秒 量 の 減少 量 を 各 群 で 比 較 す る と ,Gly16/Gly群 は,
Arg16/Arg群に 比し て有 意に 減少 量が 大き かっ た,(2)気道過敏性については,定期吸入前後 で比 較す ると ,Arg16/Gly群 ,Gly16/Gly群 で気 道過 敏性 が有 意に 亢進 して いたが,Arg16/Arg 群で は有 意差 は認 めら れな かっ た,(3)B2刺 激薬 によ る気 道収縮 予防 効果 については,定期 吸入 前後 では 変化 がなく,遺伝子型によっても差は認められなかった.(4)サルブタモール定 期吸 入前 は, 全て の群 にお いて サルブ タモ ール 単回吸入後に有意な血清cAMPの上昇を認めた.
しか し, 定期 吸入 後は ,Arg16/ArgとArg16/Gly群で は有 意な 上昇 であ った が,Gly16/Gly群で は 有 意 差 は 認 めら れな かっ た, 定期 吸入 後の 単回吸 入前 後で のcAMPの 差を 各群 で比 較し たと こ ろ ,Gly16/Gly群 で の 差 は Arg16/Arg群 で の 差 に 比 し て 有 意 に 小 さ か っ た . [ 考 察 ] 日 本人 にお いて も32AR遺 伝子 のア ミノ酸16,27の 多型 が存 在す るが ,そ の遺 伝子 頻 度 は 欧 米 と 異な り, 特に アミ ノ酸27に つい ては, 日本 人で は変 異型homozygoteの 患者 が圧 倒的 に少 なか った .これはdown regulationの観点から見ると,日本人には,p2刺激薬の使用に よりt32ARのdown regulationを 受けや すい 患者 が圧 倒的 に多 いこ とに なり ,喘息の病態や§2 刺激薬に対する反応性が,日本人と欧米人で異なっている可能性が示唆された.今後,国際間で,
同一 基準 を用 いた 重症 度の 判定 や,B2刺激 薬の 反応性や副作用を比較する研究が必要となって くる であ ろう ,気 管支 喘息 の治 療にお いて ,短 時間作用型のB2刺激薬は,現在でも最も効果的 な気 管支 拡張 薬と 位置 づけ られ ている .我 々の 検討 では ,B2刺激 薬の 定期 吸入による1秒量の 低下 ,気 道過 敏性 の亢進は,特定の遺伝子型を持ったグループにのみ認められた.t32AR遺伝子 多型 の人 種差 と合 わせて考えると,このことがf32刺激薬の長期使用の是非を検討した報告から 一定 の結 論が 得ら れない原因のーっかもしれない.[32ARの遺伝子型をそろえて検討することが 必要であろう.更に,我々の結果は,気管支喘息の治療ストラテジーを考えるうえで重要なこと を示 唆し てい る.Arg16/Argを有 する 患者 では ,B2刺激 薬の 定期吸 入が 気管 支喘息の悪化を引 き起こす可能性は少ないが,Gly16/Glyを有する患者では,それが気道過敏性の亢進を増強させ,
1秒 率を低 下さ せ, 気管 支喘 息を より 重症 化さ せる可能性がある.将来的には,[32AR遺伝子の 型を決定し,それに基づいてより適切な治療法を決定していくことが必要になってくるであろう.
[ 結語 ](1)B2アド レナ リン 受容 体遺 伝子 のヌ クレ オチ ド46( アミ ノ酸16),ヌクレオチ ド79(ア ミノ 酸27)の 遺伝 子多 型頻度 は, 欧米 と本邦では有意な人種差を認めた.特に,受容 体down regulationを抑 制す るGlu2 7/Glu型は ,日 本人 にお いて 極端 に少 なかっ た. (2)中 等症 以上 の気 管支 喘息 患者 には ,軽症 に比 して アミ ノ酸16のGly/Gly型 を有 する割合が多く,
Arg16→Glyの 変異 は重 症度 に関 連し てい た. (3)Gly16/Gly型を 有す る気 管支 喘息 患者 は,
Arg16/Arg型を 有す る患 者に 比し て,p2刺 激薬 の定 期吸 入に より喘 息管 理に 好ましくない影響 が出 やす いこ とが 示唆 され た. (4) 以上 の結 果か ら,B2ア ドレナ リン 受容 体遺伝子多型が喘 息患者の病態や治療反応性を規定している可能性が示唆された.
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
気 管 支 喘 息 の 病 態 に お け る グ2 アドレナリン受容体遺伝子多型の意義
近 年 ,B2ア ド レ ナ リ ン 受 容 体 (B2AR)遺 伝 子 多 型 のArg16→Gly, Gln27→Gluと 気 管 支 喘 息 の 関 係 が 注 目 さ れ て い る . In vitroに お い てArg16→Gly,Gln27→Gluは ア ゴ ニ ス ト の 長 期 暴 露 に よ る[32ARのdown regulationを そ れ ぞ れ 促 進 , 抑 制 す る . 気 管 支 喘 息 の 臨 床 像 と の 関 連 で は , ア ミ ノ 酸16に つ い て は , 夜 間 喘 息 患 者 で は 変 異 ア リ ー ルGly16の 頻 度 が 高 い こ と , ア ミ ノ 酸27に つ い て は ,Glu2 7/Gluの 患 者 で は 気 道 遇 敏 性 がGln2 7/Glnに 比 し て 低 下 し て い る こ と な ど が 報 告 さ れ て い る . し か し , 本 邦 で は こ れ ら の 検 討 の 報 告 は な い . 申 請 者 は 、 気 管 支 喘 息 患 者178名 と 健 常 者150名 を 対 象 にamplification refractory mutation system (ARMS)法 を 用 い ,p:AR遺 伝 子 多 型 (Arg16‑*GlyとGln27 ‑*Glu)の 頻 度 を 調 べ た , ア ミ ノ 酸16,27の 遺 伝 子 頻 度 は , い ず れ も 日 本 人 は 白 人 に 比 し て 変 異 型 が 有 意 に 少 な か っ た . 特 に ア ミ ノ 酸27 に つ い て は , 日 本 人 に お い て は 変 異 型 が 著 し く 少 な か っ た . 次 に , こ の178名 の 気 管 支 喘 息 患 者 に つ い て ,retrospectlveに 気 道 過 敏 性 , 血 清IgE値 , 治 療 内 容 , 重 症 度 に つ い て 検 討 し た . そ の 結 果 , 中 等 症 以 上 の 喘 息 患 者 に は , 軽 症 に 比 ぺ てGly16/G1yの 割 合 が 有 意 に 多 か っ た . さ ら に , 軽 症 ま た は 中 等 症 の 気 管 支 喘 息 患 者19名 を 対 象 に サ ル ブ タ モ ー ル (B2刺 激 薬 )200斗gを1日4回 ,2週 間 定 期 吸 入 し , そ の 前 後 に1秒 量 , サ ル ブ タ モ ー ル400いg単 回 吸 入 前 後 の メ サ コ リ ン 気 道 過 敏 性 ,cAMPな ど を 測 定 し ,p2刺 激 薬 の 定 期 吸 入 に よ る 影 響 がpユAR遺 伝 子 多 型 に よ っ て 差 が あ る か 否 か に つ い て 検 討 し た . そ の 結 果 , サ ル ブ タ モ ー ル 定 期 吸 入 療 法 前 後 の1秒 量 の 減 少 量 を 各 群 で 比 較 す る と ,Gly16/Gly群 は ,Arg16/Arg群 に 比 し て 有 意 に 減 少 量 が 大 き か っ た . ま た , 気 道 過 敏 性 に つ い て は 定 期 吸 入 前 後 で 比 較 す る と ,Arg16/Gly群 , G1y16/Gly群 で 気 道 過 敏 性 が 有 意 に 亢 進 し て い た が ,Arg16/Arg群 で は 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た . サ ル ブ タ モ ー ル 定 期 吸 入 前 は , 全 て の 群 に お い て サ ル ブ タ モ ー ル 単 回 吸 入 後 に 有 意 な 血 清cAMPの 上 昇 を 認 め た . . し か し , 定 期 吸 入 後 は ,Arg16/Argと Arg16/G1y群 で は 有 意 な 上 昇 で あ っ た が ,Gly16/Gly群 で は 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ
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和 夫
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義 盛
上 野
巻
川 菅
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授 授
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教 教
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査 査
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主 副
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た.Gly16/Gly型を有する気管支喘息患者は,Arg16/Arg型を有する患者に比して,
B2刺激薬の定期吸入により喘息管理に好ましくない影響が出やすいことが示唆され た.以上の結果から,[32AR遺伝子多型が喘息患者の病態や治療反応性を規定してい る可能性が示唆された,
発表後,副査葛巻暹教授より,アミノ酸27の著明な人種差の結果より,日本人に は白人に比して重症型の気管支喘息患者が多いのではないかとの質疑があった,申請 者は,国際間で同一の基準にて重症度を比較した報告がないので正確にはいえないが in vitroの実験にてアミノ酸16,27両方の多型を同時に形質導入した実験で,ア ミノ酸16の影響がより強いという結果を引用し,アミノ酸27の多型の結果からは,
白人に比して日本人に重症患者が多いとはいえないと回答した.次に,アレルゲンに 対する反応やサイトカインと[32AR遺伝子多型の関連について質疑があったが,申請 者の施設においても文献的にも検討した報告がないと回答した,次に,副査菅野盛夫 教授より,複数の変異が同一人に起こりうる可能性についての質疑があり,これに対 しては,自験の未発表データを引用し,複数の多型が起こりうること,その場合も重 症度,定期吸入前後の結果には影響がなかったと回答した.さらに,多型によるdown regulationの差の機序にっき質疑があった.申請者は,文献を引用し,現時点では受 容体の蛋白の分解の違いによると考えられていると回答した,最後に,主査川上義和 教授より,本研究のみから真に人種差が存在するといえるかとの質疑があり,これに 対して ,直接シー クエンスにてARMS法の特異性は確認していること,対象が250 名と多いこと、日本の他施設からも自験と同様の結果が得られていることから,申請 者の結果が日本人全体を反映している可能性が高く,真に人種差が存在していると回 答した.
この論文は,本邦において初めてB2アドレナリン受容体遺伝子多型と気管支喘息の 関係を検討し,更に,将来の気管支喘息の治療における遺伝子診断の重要性を示唆し た も の と し て 高 く 評 価 さ れ , 今 後 の 臨 床 的 な 展 開 が 期 待 さ れ る . 審査員一同は,これらの成果を高く評価し,申請者が博士(医学)の学位を受ける のに十分な資格を有するものと判定した.