博士(工学)佐藤敏文 学位論文題名
Regio ‑ and Stereoselective Cyclopolymerization of 1, 2 : 5, 6 ‑ Dianhydrohexitol
(1,2:5,6− ジ ア ン ヒ ド 口 ヘ キ シ ト ー ル の 位 置 お よ び 立 体 選 択 的 環 化 重 合)
学位論文内容の要旨
高 分 子化 合物の合成は、より高機能な、あるいは 高性能な高分子材料の開発を目指して研 究が 行 われ ており、合成の基本となるのは、モノマ ーの分子設計と重合設計である。分子設 計は 機 能性 材料では作用機構そして、高性能材料で は要求物性に基づぃて行われる。重合設 計は 高 分子 の一次構造および二次構造を制御するた めの重合手段の開発、すなわち、重合制 御法 の 開発 である。合成高分子は、生体高分子とは 異なり、分子量や立体構造に様々な意味 で分布があり、求められる性能 に対して、構造や物性を関連付けるのにあいまいさが生じる。
従っ て 、高 分子合成の分野では高分子鎖を精密に構 築する重合制御が重要な課題になってい る。 こ の重 合制御では高分子鎖の立体配置を制御す る立体規則性重合が多くのモノマーにつ いて 確 立さ れているが、さらに高度な立体制御を要 する不斉重合は確立された方法がまだ少 ない。
そこで、本論文では、これま で研究を進めてきた二官能性モノマーの環化重合法を用いて、
ジア ン ヒド 口糖の新たな立体特異的な不斉環化重合 法の確立と、それによる人工多糖の新規 合成法の開発を目的として研究 を行った。
本論 文は7章から構成されている。
第1章は序論であり、本研究の背景および目的に ついて述べた。
第2章では、まず、ジアンヒドロ糖としてD‑マンニトール骨格を持つ化合物(1,2;5,6‐ジア ンヒド口‑D−マンニトール類)のカ チオン環化重合を行い、このモノマーのカチオン重合性と 3、4位の 置換基効果について検討した。3、4位にメチル基、エチル基、ベンチル基、デシル 基を有する持つD‑マンニトール誘導 体の重合は環化重合機構で進行し、主に5員環(2,5‐ア ンヒド口‑D‑グルシトール)ユニットからなるポリマーが生成す ることを、モデル化合物との 比較により明かにした。また、わず かな6員環(2,6‐アンヒドロ‑L‑イジトール)ユニットの 生成 も確 認した。カチオン重合法による ポリマーの分子量、収率は低く、この重合では副生 物と して 環状二量体、三量体などの環化 オ1Jゴマーが生成がしていた。それに対して、モノ マー の3、4位炭素間をイソプロビリデン 基で置換したモノマーの重合では、環化率は低く、
環化 ユニ ットと非環化ユニットを含むポ リマーが生成した。イソプロピリデン基は3、4位炭 素間 の回 転を阻害し、分子内環化を困難 にした。モノマーの重合性は3、4位の置換基に影響
― 41一
さ れ 、 エ チ ル 基 > メ チ ル 基 〉 ペ ン チ ル 基 ≧ デ シ ル 基 の 順 序 で あ っ た 。 第3章で は、D‑マ ンニ トー ル誘 導体 のカチオン環化重合法におけ る生成ポルマーの構造の 乱れ や収 率 と分子量の低さ、そしてオリゴマーの副生などの欠点を 改善するため、アニオン 重合 につ い て検討を行った。アニオン重合ではオルゴマーが副生せ ず、収率、分子量とも高 くなった。また、アニオン環化重 合はカチオン環化重合よりも位置およぴ立体選択性が高く、
5員環 (2,5‐アンヒドロ‑D‑グル シトール)のみからなる立体規則的ポリマーを与えた。この 重合 は、 分 子間 付加 反応 にお いて モノ マーのエポキシ基がp開裂、 分子内環化反応ではぱ開 裂を 規則 的 に繰り返して進行した。生成ポリマーは、グリコシド結 合を有しない新規な多糖 で あ り 、 ジ ア ン ヒ ド ロ 糖 の 環 化重 合が 人工 多糖 の新 規合 成法 にな り うる こと を示 した 。
第4章 では 、ジアンヒドロ 糖の環化重合における位置lおよぴ立体選択性の発現に対する置 換基の影響を知るために、D‑マンニトール誘導体 の3、4位の置換基がない化合物、(2S,SS)‑
1,2:5,6‑ジエボキシ ヘキサンを合成し、カチオンおよびアニオン環化重合を行い、モノマーの 重合 性と 生成 ポリマーの構造について検討した。カチオ ン重合では、一部、ゲル化物が生成 した が、 可溶 性ポ リマ ーの 構造 は5員 環と6員環 、そ して 非環 化ユ ニットからなっていた。
一方 、ア ニオ ン重 合で はD‑マン ニト ール 誘導体の重合と同様に、5員環のみからなる立体規 則的 ポリ マー が生成した。従って、ジアンヒドロ糖のカ チオン環化重合では3、4位置換基の 効果 が認 めら れるが、アニオン重合では置換基に関係な く、立体電子効果で説明される特異 的重合が起きることを明かにした。
第5章では、1,2;5,6‐ジアンヒドロヘキシトール類の特異な重合結果を重合機構から明確に するために、D‑マンニトール誘導体のジアステレオマーであるL‐イジトール誘導体(1,2;5,6‐ ジアンヒ ドロ‑L−イジトール類)のカチオンおよびアニオン環化重合について倹討を行った。
L‐ イジ トー ル誘 導体 のカ チオ ンお よびアニオン重合はD‑マンニトー ル誘導体の重合と同様 に ゲル 化す るこ と なく 進行 し、 カチオン 重合では主に5員環からなる ポリマーが、またアニ オ ン重 合で は5員 環の みか らな るポ リマーが立体特異的に生成し、D‑マンニトール誘導体か ら のポ リマー と同一構造であった。これは、D‑マンニトール誘導体の 重合饑構に基づく予測 と 一致 し、機 構の正しさが確認された。また、D‑マンニトールおよびL‑イジトール誘導体の 共 重合 の結果 より、単独重合では重合の方向が逆になり、D‑マンニト ール誘導体からのポリ マ ー は (1 6)結 合 し た5員 環 、L‑イジ トー ル 誘導 体か らの ポリ マー は(6+1) 結合 した5員 環からなる構造であることを明かにした。
第6章 では 、C2対称 性を 有す るD‑マン ニト ー ルお よびL. イジ トール誘導体とは異なる、
Cl対称性のD‑グルシトール誘導体(1,2;5,6‐ジアンヒドロ‑D‑グルシトール類)につCゝて環化 重 合性 を検 討し た 。D‑グル シト ール 誘導体の環化重合から生成可能な環化ユニット は、2つ のエポキ シ基の反応性が異なるために、D‑マンニトールおよびL‐イジトール誘導体よりも増 加 し、5から7員 環 の8通り があ る。 カチオン重合では主 に5員環の2.5‐アンヒドロ‑D‑マン ニトールユニットからなるポルマーが生成した。アニオン重合では2.5‐アンヒ・ドロ―D−マンニ ト―ルと2、5・アンヒドロ‑L‑イジト ールの2種類の5員環からなるポリマーが生成し、その生 成割合は2.5‐アンヒドロ‑L‑イジト―ルユニットの方が大きかった。これらの結果も重合機構 から明確に説明することができた。
第7章 では 、以 上の ジア ンヒ ドロ 糖の位置および立体 選択的環化重合の結果と新規多糖合 成 への 適用 につ い てま とめ た。
―42ー
学位 論文審査の要旨
主査 教授 横田和明 副査 教授 高井光男 副査 教授 徳田昌生
副査 助教授
覚知豊次(大学院地球環境科学研究科)
学位論文題名
1Regio
−and Stereoselective Cyclopolymerization of
1,2 :5 ,6 ―Dianhydrohexitol
(
1,2 :5 ,
6−ジアンヒド口ヘキシ卜―ルの位置および立体選択的環化重合)
高 分子化 合物 の合 成は 、より 高機 能な 、ある いは 高性 能な高分子材料 の開 発を目 指し て研 究が 行われ てお り、 求めら れる 性能 に対する分子設 計に は高分 子鎖 を精 密に 構築す る重 合制 御が基 本に なる 。この重合制御 に基 づく高 分子 鎖の 立体 規則性 重合 は多 くのモ ノマ ーで 確立されている が、 さらに 高度 な立 体制 御を要 する 不斉 重合は 確立 され た方法がまだ少 なく、高分子合成の基礎になる重要な課題である。
本 論文は 、ジ エポ キシ 化合物 の環 化重 合を糖 誘導 体に 適用し、ジェポ キシ モノマ ーに 相当 する
1,
2:5,6 ージアンヒド口ヘキシトールの新たな 立体 特異的 な不 斉環 化重 合法の 確立 と、 それに よる 合成 多糖の新規合成 法の 開発を 目的 とし て行 った研 究の 結果 をまと めた もの である。その主 要な成果は、次の点に要約される。
1
) ジアンヒドロ糖としてD ―マンニトールから誘導した1 ,2 ニ,5 ,6 一ジア
ン ヒドロ ーD ―マ ンニ トー ルについてカチオン環化重合性を検討した。
カ チオン 重合 では 主に
5員 環の
2,
5一 アン ヒド ロー
D一 グルシトールユ
ニ ットか らな るポ リマ ーが生 成す るこ とをモ デル 化合 物との比較で明
ら かにし た。 しか し、 カチオ ン重 合に よるポ リマ ーは 分子量、収率が
低 く、そ の原 因が 副生 物とし て環 状二 量体、 三量 体な ど環化オリゴマ
ーの生成によることをオリゴマーの単離と構造解析によって解明した。
2
)
1,
2:5,
6―ジアンヒドローD ―マンニトールのアニオン重合ではオリゴ
マ ーが副 生せ ず、 ポリ マ←の 収率 、分 子量と もに 高く 、カチオン重合
の 欠点が 改良 され た。 重合は 位置 およ び立体 選択 性が 高く、ポリマー
ー 43ー
は5 員 環 のみ か らな る 構造 であり 、グリコシ ド結合を有 しない新規 な
多糖であ った。この ように、ア ニオン重合 によるジア ンヒドロ糖 の環
化 重 合 が 合 成 多 糖 の 新 規 合 成 法 に な り う る こ と を 示 し た 。
3) ジ ア ン ヒ ド ロ 糖 の 環 化 重 合に お ける 位 置お よ び立 体 選択 性 の発 現 に
対 す る3 ,
4―位 の 置換 基 の影 響を知る ため、
D一マン二卜 ール誘導体 で
3,
4―位に置換基のない(2S ,5S )―1 ,2 ;5 ,6 −ジェポキシヘキサンのカチ
オ ン およ び アニ オ ン重 合 に つい て 検討 し た。 カ チオ ン 重合 では重 合の
規 則 性 は 低 い が 、 ア ニ オ ン重 合 では
5員環 構 造の ポ リ マー が 立体 選 択
的 に 生成 し 、置 換 基に 関 係 なく 立 体電 子 効果 で 説明 で きる 重合機 構を
提示した。
4)D
― マ ン 二 卜 ー ル の ジ ア ス テ レ オ マ ー で あ る
L― イ ジ 卜 ー ルか ら 誘導
した1 ,
2:5,
6一ジアンヒド口―L ―イジトールは、カチオンおよびアニオ
ン 重 合 と も
D― マ ン ニ ト ール 誘 導体 か らの ポ リマ ー と 同一 構 造の ポ リ
マ ー を生 成 した 。 この 結 果 は分子間 付加がエポ キシ基の6 一開裂に よる
立 体 配置 の 保持 、 分子 内 環 化がQ 一開裂によ る立体配置 の反転を規 則的
に 繰 り返 し て進 行 する 位 置 およ び 立体 選 択的 重 合機 構 から の予測 と一
致し、重合機構が妥当なことを明らかにした。
5
)
C2対称性 のD ― マン二卜ー ルおよびL 一イジト ール誘導体 とは異なり 、
対 称 性 の な い
D− グ ル シ 卜ー ル 誘導 体 のカ チ オン お よ びァ ニ オン 重 合
に つ い て 検 討 し た 。 カ チ オン 重 合で は 主に
5員環 構 造 から な るポ リ マ
ー が 生成 し 、ア ニ オン 重 合 では
Dーマ ン ニト ー ルユ こ ッ卜 と
Lーイジ ト
ー ル ユ ニ ッ 卜 の
2種 類 の
5員 環 か ら な る ポ リ マ ー が 得 ら れ た。 こ の結
果も提示した重合機構から説明することができた。
こ れ を要 す るに 、 著者 は ジ アン ヒ ドロ 糖 の位 置 およ び 立体 選択的 環化 重 合法 を 確立 し 、こ れ を合 成 多糖 の 新規 合 成 法と し て展 開 したも のであ り 、高 分 子合 成 上有 益 な知 見 を得 て おり 、 高 分子 化 学の 進 歩に寄 与する ところ大なるものがある。