博 士 ( 農 学 ) 小 池 学 位 論 文 題 名
聡
繊維分解性ルーメン細胞に関する分子生態学的研究 学位論文内容の要旨
反芻動物は、ル―メン内に棲息する細菌の働きにより植物繊維を分解・利用することが出 来る。したがって、反芻家畜の粗飼料利用能を最大限に発揮した家畜生産をめざす上で、植 物繊維分解における細菌の働きを明らかにすることが必要不可欠である。本研究は、分子生 物学的手法を応用した細菌叢解析、すなわち分子生態学的観点から植物繊維分解と細菌の関 係を解明するために、細菌の植物繊維片付着に焦点をあて、繊維分解に関与するルーメン細 菌の種類および分布量を正確に把握することを目的とした。
既知繊維分解菌の皿s丘u培養繊維註仝の付着様相
オーチャードグラス乾草茎部をめん羊ル―メン内で5分〜96時間m situ培養し、代表 的 な 既 知 繊 維 分 解 性 ル ― メ ン 細 菌Fibrobacter succinogenes、Ruminococcus flavefaciensおよびRuminococcus albusの繊維片付着量を競合PCRにより測定した。m situ培養5分そF.succinogenesはlos/g DM培養繊維片、R.flavefaciensおよびR.albus はl04/g DM培養繊 維片のレ ベルでmsitu培 養繊維片 に付着した 。さらに加situ培養10 分までに 各菌種とも付着量が5分のそれの10倍増加した後、3菌種ともに培養6時間まで 約2倍/hrの割合で増加を続けた。その後徐々に増加しながら、.F.succinogenesおよびR. flavefaciensは24時間、R.albusは48時間 で最大(そ れそれl09/g DM、10'/g DMお よびl06/g DM)に 達した後 、96時間で は3菌種と もに最大付 着量の20%に減少した。
本研究は以上のような既知繊維分解菌の植物繊維片付着動態を明らかにした。さらに電子顕 微鏡観察により、m situ培養乾草茎部ではすべての細菌が内側に付着することを確認し、
乾草茎部 が内側から細菌の攻撃を受けることを示した。―方、96時間を通してNDFの消 失率は直線的に増加し、これはF.succinogenes、R.flavefaciensおよび尺,albusの付着 量の変化とは―致しないことが明らかとなった。この繊維分解菌数と繊維分解率の動態不一 致の原因としては、繊維分解酵素発現の遅延が考えられた。ルーメン内容物、加situ培養 繊維片ともにF. succinogenesの分布量が他の2菌種よりも多く、代表的な既知繊維分解 性ル―メン細菌のなかで、F.sucanogenesが最も繊維分解に貢献していると判断した。
最優勢既知繊維分鰹菌LsLLccめQg2口esの種内2」L二2別分布量
代表的な既知繊維分解性ルーメン細菌のなかで最も繊維分解への貢献度が高いと判断した F succinogenesは、現 在10菌株が 知られて おり、それ らの菌株は系統的に4つの種内 グルー プに分か れること が明らかに されてい る。本研 究では最優勢既知繊維分解菌F succinogenesについ てさらなる解析を行うために、PCR―RFLPおよび競合PCRを用いて 本菌種を種内グル―プ別に定量した。オーチャ―ドグラス乾草を給与しためん羊と去勢牛の ル―メン内、イナワラもしくはオーチャードグラス生草を給与しためん羊のルーメン内およ
ー1163 ‑
びめ ん羊 ル― メン 内でm situ培養したオ―チャ―ドグラス乾草において、F.succinogenes 種 内 グ ル ― プ1お よ び3が 検 出 さ れ た 。 乾草 給与 時の ル ーメ ン内 では グル ―プ3が65%を 占め てい たの に対 し、 生草 給与 時ル ーメ ン 内お よび加situ培養繊維片上では逆にグループ 1が60‑80%を 占め るこ とを 明ら かに した 。 これ らの結果から、繊維片上で分布割合が高ま る グ ル ― プ1がF succfn〇9enesの中 でも 特に 繊維 分解 にお いて 重要 な働 きを する こ とを 示唆 した 。
繊 維 付 蓋 性 細 菌 雛 の ]6S[D凶 △2目 二2弖 エ2弖 リ 二 鰹 蚯 に よ る 構 成 茎22ゞ ニ 法 定 繊維 分解 に関 与す る細 菌の 種類 を明 ら かに する ため に、isitu培 養 した オー チャ―ドグ ラ ス 乾 草 お よ び ア ル フ んル ファ 乾草 の茎 部に 付着 する 細菌 群 の16S rDNAク ロ― ンラ イブ ラ リ― 解析 を行 った 。両 草種 あわ せて92クロ ―ン の塩 基配列を解読し、データベ―ス上の 既 知塩 基配 列と 比較 した とこ ろ、 既知 菌 との 塩基 配列 相同性が97%以上、すなわち既知菌 に 属 す る と 考 え ら れ る ク □ ― ン が21ク ロ ― ン (22.8% ) 得 ら れ た 。 一 方 、71クロ ―ン
(77.2%) は既 知菌 との 相同 性が97% 未 満で あり 、そ のう ち39クロ ーン(42.4%)は90% 以 下の相同性であった。この結果か ら繊維分解に関与する細菌の多くが未知の細菌で占めら れ てい るこ とを 明ら かに した 。
繊 維 付 着 性 細 菌 群 ク ロ― ン、 その 近縁 菌お よび 代表 的な ル ―メ ン細 菌の16S rDNA塩基 配 列 を も と に 系 統 解 析 を 行 っ た 結 果 、 全 ク 口 ― ン の86.9% がCytophaga‑Flavobacter‑
Bacteroides (CFB) グ ル ー プ お よ び 低GCグ ラ ム 陽 性 細 菌 (LGCGPB) グ ル ー プ に属 し、
な かでも33.7%がButyrivibrio fibrisolvensおよびPrevo te Ha属の細菌で構成されている こ とを 明ら かに した 。し かし 付着 対象 と なっ た草 種間 で、既知菌と90%以上の相同性を持 っ ク ロ ― ン 数 と 近 縁 菌 の 種 類 お よ びCFBグ ル ― プ とLGCGPBグ ル ― プ に 属 す る ク ロ ー ン の 割合は明らかに異なり、家畜ヘ給 与する草種により繊維分解に関与する細菌の構成が異な る 可能 性が 高い こと を示 唆し た。
駈規繊維公鰹菌の皇離と繊維位着性細菌の機能 推定
繊 維付 着性 細菌 群の77.2%が 未知 の 細菌 であ った こと から、それらの中で繊維分解に大 きく 関与 して いる 細菌 を明 らか にす る ため に、m situ培 養繊維片をセルロース培地で継代 培養 し、繊維分解性細菌の単離を行った。また、 アルファルファ乾草付着菌群由来の未同定 クロ ーン 群を 標的 とし たプ ライ マ― を デザ イン し、 この クロ ーン 群の 動態 をPCRで追跡し た 。 単 離 し た8菌 株 は す べ てSelenomonas ruminantium菌 株 で あ り 、 そ の う ち4菌 株 は F. succinogenesと同 レベ ルのCMCア ―ゼ 活性 を持 つこ とを 明ら か にし た。 さら に系統解 析 の 結 果 、 高 いCMCア ー ゼ 活 性 を 有 す る S.ruminantium単 離 菌 株 は 既 知 のS, ruminantiumと は系 統的 に異 なる 菌株 であ るこ とを 明示 した 。ま た 、ア ルフ ァル ファ付着 菌群由来の未同定クロ―ン群は粗飼料割合が高 まるにっれて増幅/ヾンド強度が強くなり、繊 維 分 解 に 大 き く 関 与 し て い る 細 菌 群 で あ る 可 能 性 が 高 い こ と を 示 し た 。 以上、本研究は1)既知繊維分解性ル―メン細菌のル―メン 内分布と繊維片付着動態解析、
2)未知菌を合めた繊維付着性細菌 群の構成メンノヾ―解明と末同定細菌の機能推定を行った。
その結果、繊維分解性細菌は迅速 に植物繊維片に付着するが、付着細菌量と繊維消失率の動 態は一致しないことを明らかにし た。また、繊維付着性細菌群の大半が未知の細菌で構成さ れることを示し、さらに既知およ び未知の細菌の中に繊維分解に大きく関与する細菌が存在 することを示した。
―1164―
学位論文審査の要旨 主査 教授 田 中桂一 副査 教授 近 藤誠司 副査 助教授 小林泰男
学 位 論 文 題 名
繊維分解性ルーメン細胞に関する分子生態学的研究
本 論 文 は 、 図15、 表7、 引 用 文 献121を 含 み 、4章 か ら な る 総 頁 数114の 和 文 論文 で ある 。別 に参 考論 文5編が 添 えら れて いる 。
反芻 動物 は、 ルー メン 内に 棲息 する 細菌 によ り植物繊維を分解・利用している。
そ の た め 反 芻 家 畜 の 粗 飼 料 利 用 能 を 最 大 限 に 発 揮 さ せ る た め に は 植 物 繊 維 分 解 にお ける 細菌 の働 きを 明ら かに する こと が必 要不可欠である。それで本論文は、
分 子 生 物 学 的 手 法 を 応 用 し た 細 菌 叢 解 析 、 分 子 生 態 学 的 観 点 か ら 植 物 繊 維 分 解 と 細 菌 の 関 係 を 解 明 す る た め に 、 細 菌 の 植 物 繊 維 片 付 着 に 焦 点 を あ て 、 繊維 分 解 に 関 与 す る ル ー メン 細菌 の種 類お よび 分布 量を 正確 に把 握す るこ とを 目 的と し 、そ の研 究成 果は 以下 のと おり であ る。
1,既 知繊 維分 解菌 の面situ培 養繊 維片 への 付着 様相
オ ー チ ャ ー ド グ ラ ス 乾 草 茎 部を めん 羊ル ーメ ン内 で わsitu培 養し 、代 表的 な既 知 繊 維 分 解 性 ル ー メ ン 細 菌 で あ るFibrobacter succinogenes、Ruminococcus fla ve fa ciensお よびRuminococcus albusの繊維片付 着動態を追跡し、これらの菌 種 は 培 養10分 以 内 に 付 着 初 期 段 階 を 完 了 し 、24か ら48時 間 ま で 繊 維 片 上 で 増 殖 を 続 け 、 そ の 後 減 少 し 、 培 養96時 間 後 で は3菌 種 と も に 最 大 付 着 量 の20%に 減 少 す る こ と を 定 量 的 に 示 し 、 既 知 繊 維 分 解 菌 の 植 物 繊 維 片 付 着 動 態 を 明 ら か に し た 。 さ ら に 電 子 顕 微 鏡 観察 によ り、 わsitu培 養 乾草 茎部 では すべ ての 細菌 が 内 側に 付着 する こと を確 認し 、乾 草茎 部が 内側 から 細 菌の攻撃を受けることを示し た 。 一 方 、NDFの 消 失 率 は 付 着 量 が 一 定 に な っ た 後 も 直 線 的 に 進 行 し 、 繊 維 分 解 菌 付 着 量 の 変 化 と は 一 致 しな いこ とを 明ら かに し 、そ の原 因を 繊維 分解 酵素 の 発 現が 遅延 する ため であ るこ とを 示唆 した 。繊 維片 へ の分 布量 から3菌 種の なか で F succinogenesが 最 も 繊 維 分 解 に 貢 献 し て い る こ と を 明 ら か に し た 。 2. 最 優 勢 既 知 繊 維 分 解 菌F succinogenesの 種 内 グ ル ー プ 別 分 布 量 最 も 繊 維 分 解 へ の 貢 献 度 が 高 い と 判 断 し たF succinogenesの 解 析 を 行 う た め に 、PCR―RFLPと 競 合PCRを 用 い て 本 菌 種 を 種 内 グ ル ー プ 別 に 定 量 し た。 めん 羊 の ル ー メ ン 内 で 而situ培 養 し た オ ー チ ャ ード グラ ス乾 草で は、Fsuccinogenes種 内 グ ル ー プ1お よ び3が 検 出 さ れ た が ( 現 在、 系統 的に4つ の種 内グ ル ープ に分 け
―1165―
ら れ て い る ) 、 ル ー メ ン 内 お よ ぴ むsitu培 養 繊 維 片 上 で グ ル ー プ1が60ー80%を 占 め て い た こ と か ら 、 グ ル ー プ1がF succ´ ロ 〇 ぎPロPゴ の 中 で も 特 に繊 維分 解に おい て 重 要 な 働 き を し て い る こ と を 示 唆 し た 。
3. 繊 維 付 着 性 細 菌 群 の16S rDNAク ロ ー ン ラ イ ブ ラ リ ー 解 析 に よ る 構 成 メ ン バ ー 決定
繊 維 分 解 に 関 与 す る 細 菌 の 種 類 を 明 ら か に す る た め に 、 わ ぢ ん ロ 培 養 し た オ ー チ ヤ ー ド グ ラ ス 乾 草 お よ ぴ ア ル フ ァ ル フ ァ 乾 草 の 茎 部 に 付 着 す る 細 菌 群 の16S rDNA ク ロ ー ン ラ イ ブ ラ リ ー 解 析 を 行 っ た 。 両 草 種 あ わ せ て92ク ロ ー ン の 塩 基 配 列 を 解 読 し 、 デ ー タ ベ ー ス 上 の 既 知 塩 基 配 列 と 比 較 し 、 既 知 菌 と の 塩 基 配 列 相 同 性 が97%
以 上 、 す な わ ち 既 知 菌 に 属 す る と 考 え ら れ る ク ロ ー ン が21ク ロ ー ン (22.8%) 得ら れ た 。 ー 方 、71ク ロ ー ン (77.2% ) は 既 知 菌 と の 相 同 性 が97%未 満 で あ り 、 そ の う ち39 ク ロ ー ン (42.4% ) は90%以 下 の 相 同 性 で あ っ た 。 こ の 結 果 か ら 繊 維 分 解 に 関 与 す る 細菌の多くが未知の細菌 で占められていることを明 らかにした。
繊 維 付 着 性 細 菌 群 ク ロ ー ン 、 そ の 近 縁 菌 お よ び 代 表 的 な ル ー メ ン 細 菌 の16S rDNA塩基配列をもとに系 統解析を行った結果、33,7%がButyrivibrio
fib・′.お〇´憎口ざおよび冊日レDfロ仏属の細菌で構成されていることを明らかにした。しか し 付 着 対 象 と な っ た 草 種 間 で 付 着 菌 群 の 構 成 が 異 な っ て お り 、 家 畜 へ 給 与 す る 草 種 に よ り 繊 維 分 解 に 関 与 す る 細 菌 の 構 成 が 異 な る 可 能 性 が 高 い こ と を 示 唆 し た 。 4. 新 規 繊 維 分 解 菌 の 単 離 と 繊 維 付 着 性 細 菌 の 機 能 推 定
繊 維 付 着 性 細 菌 群 の77.2%が 未 知 の 細 菌 で あ っ た こ と か ら 、 そ れ ら の 中 で 繊 維 分 解 に 大 き く 関 与 し て い る 細 菌 を 明 ら か に す る た め に 、 伽situ培 養 繊 維 片 を セ ル ロ ー ス 培 地 で 継 代 培 養 し 、 繊 維 分 解 性 細 菌 の 単 離 を 行 っ た 。 ま た 、 ア ル フ ァ ル フ ァ 乾 草 付 着 菌 群 由 来 の 未 同 定 ク ロ ー ン 群 を 標 的 と し た プ ラ イ マ ー を デ ザ イ ン し 、 こ の ク ロ ー ン 群 の 動 態 をPCRで 追 跡 し た 。 単 離 し た 8菌 株 は す べ て Selenomonas r uminan tium菌 株 で あ り 、 そ の う ち4菌 株 はFsuccinogenesと 同 レ ベ ル のCMCア ー ゼ 活 性 を 持 ち 、 系 統 解 析 の 結 果 、 既 知 のS, ruminantiumと は 系 統 的 に 異 な る 菌 株 で あ る こ と を 明 示 し た 。 ま た 、 ア ル フ ァ ル フ ァ 付 着 菌 群 由 来 の 未 同 定 ク ロ ー ン 群 は 、PCRで の 動 態 追 跡 に よ り 、 粗 飼 料 割 合 が 高 ま る に っ れ て 増 幅 バ ン ド 強 度 が 強 く な り 、 植 物 繊 維 分 解 に 大 き く 関 与 し て い る 細 菌 群 で あ る 可 能 性 が 高 い こ と を 示 唆 し た 。
以 上 、 本 論 文 は 、 既 知 の 繊 維 分 解 性 ル ー メ ン 細 菌 の 繊 維 片 付 着 動 態 解 析 、 未 知 菌 種 を 含 め た 繊 維 付 着 性 細 菌 群 の 構 成 メ ン バ ー の 解 明 と 未 同 定 細 菌 の 機 能 を 検 索 し 、 繊 維 分 解 性 細 菌 は 迅 速 に 植 物 繊 維 片 に 付 着 す る が 、 付 着 細 菌 量 と 繊 維 消 失 率 の 動 態 は 一 致 し な い こ と を 明 ら か に し 、 ま た 、 繊 維 付 着 性 細 菌 群 の 大 部 分 が 未 知 の 細 菌 で 構 成 さ れ て お り 、 繊 維 分 解 に 大 き く 関 与 し て い る こ と を 示 唆 し た 。 こ の 成 果 は 、 反 芻 家 畜 の 主 要 な 飼 料 成 分 で あ る 繊 維 質 の 消 化 の 改 善 に 寄 与 す る 基 礎 的 な 知 見 を 提 供 す る も の で あ り 、 学 術 的 に も 高 く 評 価 さ れ る 。 よ っ て 審 査 員 一 同 は 、 小 池 聡 が 博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 認 め た 。
‑ 1166―