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博士(農学)小林 修 学位論文題名

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Academic year: 2021

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(1)

     博士(農学)小林   修 学位論文題名

樹木の肥大成長変動の要因についての年輪年代学的解析

学位論文内容の要旨

  樹木の年輪幅や年輪内最大密度は,気温や降水量などの気候因子や大気汚染物 質,個体間競争から受ける影響によって変動する。したがって,樹木の年輪幅・

年輪内最大密度の時系列変動を年輪年代学的に解析することにより,過去に樹木 の肥大成長に影響を及ぼした気候因子や気候以外の外的因子を抽出することが可 能である。しかしながら,日本のように気候の変動が激しくなぃ地域に生育する 樹木への年輪年代学の適用は困難であるとされてきた。そこで,本論文では,苫 小牧地方に生育するヨーロッパ卜ウヒ造林木およびエゾマツ天然木に年輪年代学 的手法を適用し,樹木の年輪幅・年輪内最大嚮度の変動と気候囚予との関係をIリJ らかにするとともに,大気汚染物質などの気候以外の外的因子が樹木の肥大成長 に及ぼす影響を推定することを目的とした。

  試験地として,北海道大学苫小牧地方演習林1/ヽJと林野庁苫小牧営林署管内の国 有林内からヨーロッパトウヒ造林地4カ所,エゾマツ天然林1カ所を選択した。試 料として,ヨーロッパトウヒ造林木(胸高部年輪数,47〜59) 56個体とエゾマツ 天然木(胸高部年輪数,100〜170) 15個体から採集した円板もしくは成長錐試料 を用いた。各個体2方向について幹軸方向2mm厚の試料を作製し,軟X線デンシト メ卜リーにより,年輪幅と年輪内最大密度を測定した。

  はじめに,偽年輪や欠損輪の検出と,年輪が形成された年代の決定を行うため,

クロスデーテイングを行った。その結果,すべての試料のうち合計18方向分の試 料が他の試料の年輪幅の時系列変動との相関が認められずに除かれた。したがっ て,クロスデーテイングは年輪年代学的解析をする際には必ず必要であることが 示された。一方,残りの試料の年輪幅時系列変動の間では高い相関が認められ,

各試験地内での個体に共通する因子の影響が反映されていることを示していた。

本研究ではこれらの試料を以後の解析に用いた。

(2)

  気候 や気 候以 外の 因子 が樹 木の 肥大 成長 に特 異的 に影響 を及 ばし た時 期を 把握 す るた めに ,年 輪幅 が急 激に 減少 また は増 加す る期 間をそ れぞ れ負 また は正 の成 長 急変 期と して ,各 試験 地に おい て50a/o以 上の 試料に共通して年輪幅の著しい減 少 また は増 加が 見ら れる 年代 をそ れぞ れ負 また は正 の指標 年と して 検出 した 。そ の 結果 ,ヨ ーロ ッパ トウ ヒの3つの 試験 地と エゾ マツの試験地に共通して,1970年 前 後に 負の 成長 急変 期が 検出 され ,両 樹種 の70%以 上の個 体に 共通 する 負の 指標 年1971年が 検出 され た。 この 成長 急変 期お よび 指標 年では ,苫 小牧 工業 地帯 に近 い 北側 に位 置す る試 験地 ほど 年輪 幅の 減少 を示 す個 体数が 多い 傾向 にあ った 。そ の ため ,工 業地 帯か らの 距離 が近 くな るに 従っ て, 樹木の 肥大 成長 に与 える 影響 が 強く なる 因子 の存 在が 推測 され た。 一方 ,す べて のヨー ロッ パト ウヒ の試 験地 で ,1984年 以 降 に 負 の 成 長 急変 期が 検出 され ,80%以上 の個 体に 共通 する 負の 指 標 年1984年 が検 出さ れた 。こ の成 長急 変期 およ び指 標年で は減 少を 示す 個体 数に 試 験地 によ る差 はな かっ たた め, 各試 験地 に同 じ程 度で影 響を 与え る因 子の 存在 が推測された。

  イfミ輪幅ll,li系列と年輪1勺最人密度llお聡列から各試験地内に共通する気候あるいは 気候以外の外『r、j凶子による変動を収り山すための櫟準化を行った後,重回帰分析 を 応用 した レス ポン スフ んン クシ ョン 解析 によ り, 気候因 子に より 説明 され る年 輪 幅指 数と 年輪 内最 人密 度指 数の 変動 の剖 合をI蜘らかにし,さらに気候以外の外 的 因子 によ る変 勁の 評価 を試 みた 。そ の結 果, ヨー ロッパ トウ ヒと エゾ マツ の年 輪幅指数の変動摘よび年輪内最大密度指数の変動のそれぞれ約30‑‑‑55%と40 ‑‑65% が気候因子によって説明された。

  レス ポン スフ んン クシ ョン 解析 から 得ら れた 重回 帰式に 月別 気温 ・降 水量 デー タを代入して算山される年輪指数の推測イ直と,実際の 4l三輪指数とを比il変すること に より ,年 輪幅 指数 と年 輪内 最大 密度 指数 の変 動に 合まれ る気 候以 外の 外的 因子 に よる 変動 を検 討し た。その結果,1971年では,工業地ヰ浄近くの北側に位置する 試 験地 で年 輪幅 指数 がそ の推 測値 を大 きく 下回 って いた。 一方 ,指 標年1984年に は , 年 輪 幅 指 数 と そ の 推 測 値 と の nロ に 大 き な 差 は み ら れ な か っ た 。   さら に, エゾ マツ につ いて は,1924〜1965年 のデ ータか ら1966 ‑1990年の 年輪 幅 指数 を推 測し た結 果、 年輪 幅指 数が その 推測 値を 大きく 下回 る期 間が1960年代 後半から1980年にかけて認められた。

  これ らの 結果 から ,指 標年 を引 き起 こし た要 囚に ついて 検討 した 。1971年 では 年 輪幅 指数 とそ の推 測値 との 問に 差が 認め られ たこ とから ,気 候以 外の 因子 の影     ―830―−

(3)

響が考えられた。苫小牧地方の工業地iifでは,1968年以降相次いで主要な工場が 操業を開始しており,また,樹木の成長期に工業地帯から北の方向に風が吹いて いることが報告されている。年輪幅の減少が著しいヨーロッパトウヒの3つの試験 地とエゾマツの試験地は工業地帯の北に位置しており,成長期に汚染物質を合ん だ大気に暴露されていたと考えられる。また,大気汚染物質濃度の高い場所に生 育する個体では年輪幅や年輪内最大密度が減少するという報告がある。これらの ことから,工業地帯に近い試験地では大気汚染物質によって樹木の肥大成長が抑 制されたと考えられる。

  1984年では年輪幅指数とその推測値との間に差がみられなかったことから,気 候因子の影響が推測された。レスポンスフんンクション解析から,前年6 ‑‑‑7月の2 か月平均気温と当年2`3月の2か月総降水量が年輪幅に影響を与えていることが示 されたため,気候データを確認したところ,1983年の6月と7月の月平均気温が例 年よりも2℃低く,1984年3月の月総降水量は例年の60u/0であった。したがって,

1984年の年輪幅減少の要因として,前年6〜7月の低温と当年3月の降水量不足によ る複合的な影響が考えられる。

  工業地帯に最も近いヨーロッパトウヒの試験地における1971年の年輪構造を顕 微鏡を用いて解析した結果では,仮道管の接線壁厚と放射径の年輪内変動におい て,他の年よりも個体による差が大きかった。このことから,樹木が大気汚染の 影響を受けた場合,個体により異なる反応を示し,それが年輪構造に反映される ことが示唆された。一方,気候因子により肥大成長が抑制された1984年の年輪構 造の解析結果では,仮道管放射径の放射方向の変動において,年輪前半部から後 半部への急で直線的な減少傾向がどの個体にも共通して認められた。このことか ら,気候因子の影響に対する反応が各個体で共通していることが示唆された。

  本論文では,日本のような気候の変動が激しくなぃ地域に生育する樹木でも,

年輪幅・年輪内最大密度時系列のクロスデーテイングと標準化を適切に行うこと により,ヨーロッパトウヒ造林木翁よびエゾマツ天然木の肥大成長に及ぼす気候 因子の影響を評価できることが示された。また,気候因子の影響を評価すること により,気候以外の外的因子の影響も明らかにすることができた。特に,これま で適用例の少なぃ造林木において,樹木の肥大成長に及ぼす気候あるいは気候以 外の外的因子の影響を明らかにしたことは,今後の年輪年代学分野の研究の進展 に寄与する成果であると考えられる。

(4)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

大谷 平井 松田 船田

学 位 論 文 題 名

     卓郎          

樹木の肥大成長変動の要因についての年輪年代学的解析

  本 論 文 は6章 で 構 成 さ れ , 図25, 表6, 引 用 文 献130, 総 頁 数133の 和 文 論 文 で あ る . 別 に 参 考 論 文5編 が 添 え ら れ て い る ・

  樹 木 の 年 輪 幅 ・ 年 輪 内 最 大 密 度 の 時 系 列 変 動 を 年 輪 年 代 学 的 に 解 析 す る こ と に よ り , 年 輪 形 成 に 及 ぼ す 気 候 な ど の 外 的 因 子 の 影 響 を 推 定 す る こ と が で き る , し か し , 気 候 変 動 が 激 し く な い 地 域 に 生 育 レ て い る 樹 木 に は , 年 輪 年 代 学 的 手 法 の 適 用 は 困 難 で あ る と 考 え ら れ て お り , そ の 解 析 法 の 改 善 が 望 ま れ て き た .   本 論 文 で は , 苫 小 牧 市 内 の 工 業 地 帯 か ら520km離 れ た 地 域 に 生 育 し て い た ヨ ー ロ ッ パ ト ウ ヒ 造 林 木 と エ ゾ マ ツ 天 然 木 に つ い て , 肥 大 成 長 に 及 ぼ す 気 候 な ど の 外 的 因 子 の 影 響 を 年 輪 年 代 学 的 手 法 に よ っ て 解 析 レ た .

  北 海 道 大 学 農 学 部 附 属 苫 小 牧 地 方 演 習 林 お よ び 北 海 道 営 林 局 苫 小 牧 営 林 署 管 内 の ヨ ー ロ ッ パ ト ウ ヒ 造 林 地4試 験 地 と エ ゾ マ ツ 天 然 林1試 験 地 か ら , ヨ ー ロ ッ パ ト ウ ヒ56本 ( 胸 高 年 輪 数 :4759), エ ゾ マ ツ15本 ( 胸 高 年 輪 数 :100170) 選 定 し た . そ れ ら の 胸 高 付 近 の2方 向 よ り 採 取 さ れ た 試 料 か ら 幹 軸 方 向2 mm厚 の 材 片 を 作 製 し , 軟X線 デ ン シ ト メ ト り に よ り 年 輪 幅 と 年 輪 内 最 大 密 度 を 測 定 し た .   す べ て の 採 取 試 料 の 髄 か ら 最 外 部 ま で の 年 輪 が 形 成 さ れ た 絶 対 年 を 決 定 す る た め に ク 口 ス デ ー テ ィ ン グ を 行 な っ た 結 果 , ヨ ー ロ ッ パ ト ウ ヒ 造 林 木 の 試 料 の12 と エ ゾ マ ツ 天 然 木 の 試 料 の20% は , 同 一 試 験 地 の 他 の 試 料 の 年 輪 幅 時 系 列 変 動 と の 相 関 が 認 め ら れ ず 除 か れ た . こ の よ う に , 同 一 造 林 地 に お い て も 年 輪 幅 時 系 列 変 動 の 著 し く 異 な る 個 体 が 存 在 レ た こ と か ら , 年 輪 年 代 学 的 解 析 を 行 う 際 に は ク ロ ス デ ー テ ィ ン グ を 行 う 必 要 が あ る こ と を 指 摘 レ た ・

  気 候 や そ れ 以 外 の 因 子 が 樹 木 の 肥 大 成 長 に 特 異 的 に 影 響 を 与 え た 時 期 を 見 い だ す た め に , 年 輪 幅 が 急 激 に 減 少 ま た は 増 加 す る 期 間 を 負 ま た は 正 の 成 長 急 変 期 と

(5)

して検出した.1970年前後がヨー口ッパトウヒの3試験地とエゾマツ試験地にお いて,また1984年以降がヨーロッパトウヒのすべての試験地において,負の成長 急変期として検出された.さらに,成長急変期のなかで各試験地において50%以 上の試料に年輪幅の著しい減少がみられた年を抽出レ,1971年が両樹種の70%以 上の個体で,また1984年がヨーロッパトウヒの80%以上の個体で負の指標年とレ て検出された.

  気候因子およびそれ以外の外的因子のみの影響が含まれる年輪幅・年輪内最大 密度の時系列を求めるための標準化を行った後,重回帰分析を応用したレスポン スファンクション解析から,両樹種の年輪幅指数・年輪内最大密度指数の変動の それぞれ30〜55%と40〜65%は気候因子によって説明されることを明らかにレた.

  年輪幅指数・年輪内最大密度指数の変動についてのレスポンスファンクション 解析から得られた重回帰式に気温・降水量データを代入して算出された年輪指数 の推定値と,もとの年輪指数とを比較することにより,指標年の1971年と1984年 の肥大成長抑制に及ぼす気候因子およびそれ以外の外的因子の影響を検討した.

1971年では,工業地帯に近い北側に位置する試験地ほど年輪幅指数がその推定値 より低いことおよび工場操業の記録などから,両樹種の年輪幅減少の要因は工業 地帯から排出された大気汚染物質であると推定した.一方,1984年ではヨーロッ パトウヒの年輪幅指数とその推定値に差がなかったことから気候因子の影響が推 定され,年輪幅指数に対する気候因子の寄与についての検討結果から,年輪幅滅 少 の 要 因 は 前 年6‑7月 の 低 温 と 当 年3月 の 降水 量 不足 で ある と 推定 レ た ・   工業地帯に最も近いヨー口ッパ卜ウヒ試験地における1971年と1984年の年輪構 造について,仮道管の放射径と接線壁厚の年輪内変動を調べた.1971年ではそれ らの変動は個体による差が大きいことおよび仮道管の最大接線壁厚の平均値が低 いこと,また1984年では仮道管放射径が年輪の前半から後半へ直線的に減少する ことが認められた.これらのことは,指標年発生の要因の違いを年輪構造の変化 からも支持するものである.

  以上のように本研究は,気候変動が激しくない地域に生育する樹木,とくにこ れまで適用例の少なかった造林木について,年輪年代学的解析により肥大成長に 及ぼす気候および大気汚染物質の影響を明らかにしたもので,この分野の研究進 展に寄与するところ大きいものがある.

  よって審査員一同は,最終試験の結果と合わせて,本論文の提出者小林修は博 士 ( 農 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 が あ る も の と 認 定 し た .

参照

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