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博士(歯学)平井敦子 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(歯学)平井敦子 学位論文題名

PDZ ドメイン蛋白A 工E ・75 遺伝子の過剰発現における ヒト 大 腸癌 細 胞 SW480 の G2 / Marrest に関する 研究

学位論文内容の要旨

  AIE−75はX染色体連鎖 自己免疫性腸 症(autoimmune enteropathy;AIE) 患者 血清中の自己抗 体に反応する 自己抗原とし て同定された分子量75kDaの 蛋白 である.AIE−75は小腸 ,大腸,腎臓 および膵臓で特異的に発現するこ とが ノーザンブ口ッ ト解析で分か っている.腎 臓および大腸におけるAIE― 75の発現をreverse transcription−polymerase chain reaction(RT‑PCR)で 調ベ ,非癌部組織で は発現が見ら れるが,培養 腎臓癌細胞では5株中すべて の株 で,発現の著し い低下あるい は発現の消失 を,培養大腸癌細胞では5株 中1株で 発現の消失を 認めた.この 蛋白は大腸癌 患者血清中の自己抗体に反 応す る抗原としても 同定された. また,最近AIEー75(harmonin)遺伝子の 胚細 胞系列変異が感 音性難聴,三半規管機能不全および進行性の網膜色素変 性症 を主症状とするUsher症候群type lCの原因になることが報告された.・

AIEー75の構造 上の特徴は3つのPDZ(PSD―95/Dlg/ZO―1)ドメインをもつ こと である.PDZドメイ ンはタンバク質 問の結合に関 係するモジュールであ り.,C末端にX‑S/T/F/Y−X‑¢(¢:疎水性アミノ酸)のモチーフをもつ タ ン パ ク質 がPDZド メ イン に 結合 しう る .PDZド メイ ン をも つタ ン パク は 他に も多数あり,PDZド メインが単に分 子を集積する ためだけの足場として だけ でなく,分子を 的確な領域に配置したルシグナル伝達を調節する上で重 要 な役 割 を果 た すこ と が明 ら かに なっ て きた .例 えば,PDZドメイン 蛋白 のー つであるhuman homolog of the Drosophila lethal(1)discs large‑

1(dlg)tumor suppressor(hDLG)は , 癌抑 制蛋 白 であ るadeno matous polyposis coli(APC)と結合し, 細胞の増殖性 を抑制することが知られて い る. ま た最 近AIE−75に 結 合す る 新規 蛋白 分 子として癌 抑制蛋白である mutated in colon cancer(MCC)と高い 相同性をもつMCC2が 同定された.

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このような背 景からAIE―75と癌抑 制に関わる蛋 白との関連が予測された・

  本 研 究 で は ,AIE−75の 発 現 が 非 常 に 低 い ヒ ト 大 腸 癌 細 胞 株SW480に AIE―75を過剰発現さ せ,細胞内に おこる変化を 解析した.また,AIE‑75に 結合 す るタ ン パク質の検索を 行ない,AIE‑75の分子 ネットワークに どのよ うな分子が関わっているかを調べた,

【材料と方法】

  ヒ ト大 腸 癌細胞 株SW480にAIE―75発現ベクター あるいはコン ト口ールベ クタ ー を導 入 した後,細胞の ク口ーニング を行った.細 胞でのAIE‑75の発 現はRT−PCR法により 調べた.各細 胞ク口ーンの 細胞増殖能をin vitroおよ びin vivoで比較した. 細胞の観察は共 焦点レーザー 螢光顕微鏡を用いて行 なった.細胞 周期はフ□ー サイトメトリ ーにより解析 を行った.AIE−75結 合 の ス ク リ ー ニ ン グ は 酵 母Two―hybrid assayを 用 い て 行 っ た .

【結果と考察】  `

  各細胞ク口ー ンの細胞増殖 能をin vitroおよびin vivoで比較した結果,

AIEー75過剰発現株で はコント口ー ル株と比較し て細胞増殖能の低下が認め られ,AIE−75の発現 と増殖抑制効 果との関連が 示唆された.共焦点レーザ ー螢光顕微鏡 による各細胞 株の観察の結 果,AIE−75の過剰発現と細胞核の 巨核化および 多核化をひき起こすことが示された.さらにフ口ーサイトメト リーによる細 胞周期の解析の結果,AIE−75過剰発現ク口ーン株ではS期画分 の減 少 とG2/M期画 分の著しい増 加が認められ,8倍体,16倍体の細 胞の存 在も 確 認さ れ た. 酵母Two−hybrid assayによ って ,G2/M期チェックポ イ ント 制 御因 子 であるプロテイ ンフオスフア ターゼPP2AがAIE−75のPDZドヌ イ ン と 結 合 する 蛋 白と し て見 い 、だ され た .以 上 より , ヒト 大 腸癌 細胞 SW480のAIEー75過 剰発 現株 に 生じ たG2/Mブ ロ ック は ,G2/M期 チェ ッ クポ イン ト 制御 因 子であるPP2Aの活性を 促進すること で生じている 可能性が示 唆された.

  本 研究 の 結果, ヒト大腸癌細 胞株SW480にAIE−75を過剰発現 させると細 胞増殖抑制効果および著明な細胞の巨核化が認められた.  in vitroでの細胞 増殖 に 関す る 検討の結果,AIE‑75発現 クローン株で はコント口ール 株と比 較して一様に 細胞増殖の抑 制が認められ ,さらにAIE−75発現ク□ーン株間 の比較ではAIE―75の 発現の高いも のほど増殖抑 制効果が大きくなっている ことから.AIE―75の 発現は細胞増 殖を抑制する と考えられた,また,各細 胞株 の ヌー ド マウス皮下にお ける増殖の比 較をおこなっ た実験の結果 でも

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同様にAIE‑75の発現の高い細胞株では腫瘍増殖抑制効果の高いことが認め られ,AIE−75の発現と腫瘍増殖抑制効果の関連性がin vitroおよびin vivo の実験によって示された.   AIE‑75発現株の細胞形態の変化については,今 回ク口ーニングされたすべての細胞株のうち最もAIE‑75の発現が高かった ク口ーンで特に著明であった.共焦点レーザー螢光顕微鏡による各細胞株 の観察では,コントロール株ではPIの螢光染色像のみであったのに対して,

AIE‑75発現株においてはAIE―75の存在を示すAlexa 488の螢光が観察され た.すなわちAIE‑75の発現のある細胞ではそうでない細胞の核と比ベ,大 きかった.このこのことはAIE−75の発現が核の巨大化に関与していること を示している.また特に緑色に強く染まる,すなわちAIE‑75の発現が高い 細胞においては著明な巨核細胞や,多核細胞が認められた.以上よりAIE− 75の発現は細胞核の巨核化および多核化をひき起こすと考えられた.さら にフ口ーサイトメトリーによる細胞周期の解析の結果からAIE−75発現クロ ーン株ではS期画分の減少とG2/M期画分の著しい増加が認められた.これ はG2/Mブ口ックによる細胞分裂の抑制によると考えられる.細胞分裂の抑 制 に よ る 核 の 巨 大 化 お よ び 多 核 化 は フ 口 ー サ イ ト メト リ ー に よ る Hyperploid画分の存在と符合する結果である.以上よりAIE−75の発現は G2/Mブ口ックおよびadaptation(mitotic slippage)によるhyperploidの核 の出現をひき起こすことから,AIE−75発現株での細胞増殖抑制はG2/Mブ口 ックを主体とする細胞周期制御機構の変化によるものであると考えられる.

  AIE‑75の生物学的機能は未知であるが,酵母Two―hybfid assayによっ てAIE−75のPDZドメインとC末端で結合すると考えられる9つの蛋白のうち,

3っがタンパク質(S er/Thr)脱リン酸化酵素(PP)であるPP2ACーa,ロお よ びPPP6Cで あ っ た .PPP6Cの 機 能 は ま だ よ く 分 か って い な い が , PP2AC‑a,pは細胞周期チェックポイント制御因子であることがわかって いる,PP2AはA,B,Cの3つのサブュニットからなり,今回AIE−75と結合 することが判明したはCのcatalytic subunitで,PP2Aの酵素活性作用にとっ て重要な蛋白である.本研究ではAIE−75過剰発現によってヒト大腸癌細胞 のG2/Mブ口ックが認められた.これはG2/M期チェックポイント制御因子と してのPP2Aの作用をAIE‑75蛋白が促進することで生じることが可能性の1 っとして考えられた.

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

PDZ ドメイ ン蛋 白 AIE‑75 遺伝子の過剰発現における ヒト大腸癌細胞SW480 のG2/R/I arrest に関する研究

  審査 担当者全 員が一堂 に会して 、口頭にて審査した。はじめに、論文提出者から 論 文 内 容 の 説 明 を 受 け た 。 説 明 の 要 旨 は 以 下 の 通 り で あ っ た 。

【 目的 】AIE75X染色 体 連 鎖自 己 免疫 性 腸 症(auto immune enteropathyAIE) 患者お よび大腸 癌患者血 清中の自 己抗体に反 応する自 己抗原と して同定 された分子 75kDaの 蛋白 で ある 。 ヒト正常 組織では 小腸,大 腸,腎臓お よび膵臓 で特異的 に 発 現す る こ とが 知 られ て い る。AIE75は 蛋白 質 問 の結合に関 わるPDZドメ インを も つ 。PDZド メ イ ン を も つ 蛋 白 のー つ で あるhDLGは 、癌 抑 制 蛋白 で あ るAPCと 結 合し、 細胞の増 殖性を抑 制するこ とが報告さ れている。またAIE75に結合する新規 蛋 白 とし て 同定 さ れ たMCC2は 癌 抑制 蛋 白 であ るMCCと高 い 相同 性 を もつ こ とが 報 告 され た 。 この よ うな 背景 から,AIE75が癌抑制 に関わる可 能性が予 測された 。 そ こでAIE75を 過剰 発 現させる ことによ り細胞内 におこる変 化を解析 すること 、 さらにAJE75に結合 するタン パク質の 検索を行な い、AIE75の 分子ネッ トワーク に ど の よ う な 分 子 が あ る か を 調 べ る こ と を 目 的 に 研 究 を 行 っ た 。

【 材料 と 方 法】AIE75の発現の 非常に低 いヒト大 腸癌細胞株SW480AIE75発現 ベクタ ーあるい はコン卜 口ールベ ク夕一を導 入し、細 胞のクロ ーニング を行った。

細 胞で のAIE75の発 現 はRTPCR法に よ り調 べ た 。各細 胞ク口ーン の細胞増 殖能 in vitroおよ びin vivoで比較 した。細 胞の観察は共焦点レーザー螢光顕微鏡を用 いて行 った。細 胞周期は フローサ イ卜メ卜リ ーにより解析した。AIE−75結合蛋白の 検索は 酵母Twohvbricl assavを 用いて行 った。

【結果 と考察】 各細胞ク ローンの 細胞増殖能 をin vitroおよびin vivoで比較した結 果 、AIE75過 剰 発現 株 ではコン ト口ール 株と比較 して細胞増 殖能の低 下が認め ら れ 、AIE75の 過 剰発 現 と増殖抑 制効果と の関連が 示唆された 。共焦点 レーザ一 螢 光顕微 鏡による 各細胞株 の観察の 結果、AIE‑75の過 剰発現と 細胞核の 巨核化および 多核化 との関連 が示され た。さら にフローサ イトメ卜 リーによ る細胞周 期の解析の 結 果、AIE75過 剰発 現 ク 口ー ン 株で はS期 画 分の 減 少とG2/M期画分 の著しい 増加

博男 則也       隆靖 哲 田後 塚内 福向 戸守 授授 授授 教教 教教 査査 査査 主副 副副

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が認められ、細胞周期のG 2/Mブロックが生じていた。また、8倍体、16倍体の細 胞の存在も確認された。酵母Twoーhybrid assayによってG2 /M期チェックポイン ト制御因子であるプロテインフオスフアターゼPP2AがAIE―75のPDZドメインと結 合する蛋白として見いだされた。以上より、ヒト大腸癌細胞SW480AIE―75過剰 発 現 株に 生 じたG2/Mブ ロッ ク は、G2/M期チ ェ ッ クポイン ト制御因子 である PP2Aの 活 性 を 促 進 す る こ と で 生 じ て い る 可 能 性 が 考 え ら れ た 。

  続いて、各審査担当者から本研究ならびに関連論文に関して、一般的事項につい て以下のような種々の質問があった。

1AIE−75は小腸、大腸、腎臓、膵臓で特異的に発現するということであるが、

    他にどのような組織での発現が調べられているか?口腔や食道での発現は調     べているか?

2.AIE−75の変異は、いっごろ起こるのか?

3 AIE患 者 で 実 際 AIE 75の 異 常 な ど が 報 告 さ れ て い る か ? 4.AIEー75遺伝子導入を2回おこなっている理由は?

5.酵母Two−hybrid法によって同定されたPP2AがAIE―75遺伝子過剰発現による     G2 /M arrestに関与する直接的な根拠があるのか?

6.G2/M期における制御機構、とくにMPFの機能について

7G2 /Mブ口 ッ クを 乗 り 越え てDNA相対量が8N16Nのも のが出てく るのは   何故か?

8.巨核細胞、多核細胞に関して、その意義。さらに、核分裂および細胞分裂の過     程と制御について、例えば破骨細胞のように核の大きい細胞などではAIE−75     の発現はどうなっているのであろうか?

9.本研究の現時点での問題点と今後の研究課題について

  論文提出者はこれらの質問に対して明快に回答した。

本論文内容の斬新さ、ならびに今後の発展性を高く評価されるとともに、論文提出 者が本研究を中心に広い学識を有していることが認められ、博士(歯学)を授与す るに値するものと判断された。

参照

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