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博士(歯学)阿部倫子 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(歯学)阿部倫子 学位論文題名

吸啜期ラットの摂食調節中枢における ニューロベプチド Y の発現変化

学位論文内容の要旨

  哺乳類の摂食行動は,幼若期の哺乳・吸啜運動から成熟型の捕食・咀嚼運動へとダ イナミックに変化する。摂食機能の発達には,末梢の咀嚼器官の成熟に先がけて中枢 神経系の発達が不可欠であり,特に胎生期および生後の一定期間に摂食機能に関連す る神経回路が正しく形成されることが,正常な摂食・咀嚼機能の獲得に極めて重要で あることが明らかにされている。摂食行動の開始には,主として視床下部に存在する 摂食調節中枢の活動が大きく関与している。摂食調節中枢は,飢餓状態あるいは満腹 状態を感知し,摂食行動を調節する上で不可欠である。成熟ラットにおいては,イン シュルン,ブドウ糖,レプチン,グレリンなどの物質が血液を介して脳に達し,摂食 調節中枢に対するシグナルとして主要な働きをしていることが明らかになっている。

視床下部にはこれらのりガンドに対する受容体が豊富に存在する部位がいくっかあり,

なかでも弓状核はこれらの受容体が多く存在し,また液性シグナルが血液脳関門を通 過しやすい部位であることが知られている。

  成熟動物の視床下部においてニュー口ペプチドY (NPY)は摂食亢進ベプチドとし て作用し,弓状核は視床下部での主要なNPY合成部位であることが知られている。

NPYは36個のアミノ酸からなるべプチドホルモンで,中枢神経系に広く分布してお り,特に視 床下部や脳 幹では豊富に存在する。成熟ラットの弓状核のNPY mRNAは 絶食により増加し,摂食亢進に作用し,再摂食により平常レベルに戻る。しかしなが ら,吸啜期における脳内のNPY発現と摂食行動の関連や調節メカニズムについては 不明な点が 多い。今回 ,吸啜期ラットの視床下部および脳幹におけるNPY mRNA発 現を,自由摂食群,絶食群および絶食後摂食群に分け,沈situハイブルダイゼーショ ン法により検討した。さらに,吸啜期ラットの視床下部および脳幹でのNPY陽性細 胞の 局 在や 軸索 投射に関し て,コルヒ チン処理も 含めて組織 学的に検索 した。

  生 後2,7,10日(P2,7,10)の新 生Sprague‑Dawleyラットを 自由摂食群 ,絶 食群および絶食後摂食群の3群に分類した。弓状核,孤束核および延髄腹外側部に位

(2)

置す るAl領域に おけ る, 給餌 条件の 違い によるNPY mRNAの発現変化を定量的に 測定し,その影響について検討した。自由摂食群は常に母ラットとともに飼育し,絶 食群は母ラットから分離し絶食としたのち脳を摘出し,絶食後摂食群は絶食後,再び 哺乳させたのち脳を摘出した。

  また,延髄においてカテコールアミンを合成し,室傍核に投射している神経細胞群 が摂食調節に関与していることが以前より知られているが,これらの細胞にNPYが 共存していることが成熟ラットの研究で明らかにされている。そこで,ドーパミンか らノ ルア ドレナリンが合成される際に必須であるドーパミンロ水酸化酵素(DBH) およびNPYについて,免疫組織化学的手法を用い,吸啜期ラットの視床下部ならび に脳幹での局在を明らかにすることにより,ノルアドレナリン作動性二ユー口ンと NPY産生こューロンの分布ならびに投射部位におけるこれらの神経伝達物質の共存 にっいて検討した。

  絶 食群 の弓状 核で のNPY mRNA発現 量は ,P2,7,10のい ずれの 日齢 にお いて も自由摂食群より多かった。また,絶食後摂食群では,自由摂食群と絶食群の中間の 発現レベルを示した。オートラジオグラフをイヌージアナライザ(MCID)で解析し た結 果, いずれ の日 齢に つい ても, 自由 摂食 群と比 較し て絶 食群 の弓状 核NPY mRNA発 現 は 有 意 に 増 加 し て い た(P2; pく 0.05, P7,10;pくO.Ol)。   孤 束核 のNPY mRNA発現 量はP2では 自由 摂食群に比べ,絶食群で有意に増加し ていた(pく0.01)。また,絶食後摂食群では自由摂食群と絶食群の中間的な値を示し た 。 一 方,P7お よ び10で は , 自由 摂食 群に比 ベ絶 食群 でNPY mRNA発現 量が 増 加する傾向が認められたが,有意差はなかった。しかし,P7では絶食後摂食群の NPY mRNA発現量は自由摂食群よりも少なく,絶食群との間に有意差(pく0.05)が 認められた。

  Al領域 では,P2で は絶 食後 摂食群 に比 べ絶食群のNPY mRNA発現量が有意に低 かった(pく0.05)が,自由摂食群との比較では差は認められなかった。また,P7お よ びPl0に お い て も , 各 群 間 でNPY mRNA発 現 量 に 差 は 認 め ら れ な かっ た 。   コルヒチンを脳内に投与すると軸索輸送が阻害されるため,神経細胞で産生された ぺプチドホルモンの多くはその細胞体に留まる。NPYは細胞体で合成されたのち速 やかに神経終末に運ばれることが知られていることから,本研究ではコルヒチン投与 群を非投与群と比較した。P2のコルヒチン非投与群の免疫螢光染色では,弓状核で はNPYに濃染する神経線維および終末が腹内側部を中心に多数存在していたが,確 認できた細胞体はわずかであった。また,弓状核においてDBH陽性細胞体は存在せ ず,神経終末が散在性に認められた。NPYとDBHの共存は,弓状核腹内側部に散在 性に認められただけであった。孤束核において確認できたNPY陽性細胞体は極めて 少数 であ った。 孤束 核の 問質 亜核に 少数 のNPY陽性細胞と散在性のNPY陽性終末

(3)

が認められたのに対し,孤束核の腹側に位置する迷走神経背側運動核には比較的多く のNPY陽 性 神経 終 末 が 存 在 し て い た。 多数 のDBH陽 性細 胞体 が存在 して いたA2 領域では,二重染色による解析においてNPYとの共存は確認できなかった。一方,

Al領 域に は, 多数のNPYおよ びDBH陽性細 胞体 が存在し,両者の共存が認められ たことから,この領域のNPY陽性細胞の多くはノルアドレナリン作動性二ユー口ン であることが示された。

  コルヒチン投与群では,NPY産生細胞体での免疫陽性シグナルは非投与群に比ベ 明らかに増強されていた。P2のコルヒチン投与群では,非投与群と比較して,弓状 核で多数のNPY陽性細胞体が確認された。この結果より,P2においてすでに弓状核 で産生されたNPYの多くが軸索輸送により神経終末へ運ばれていることが裏付けら れた。弓状核ではコルヒチン投与群,非投与群ともにDBH陽性細胞体は確認できず,

神経線維および終末が少数認められた。NPYとの重ね合わせでは,少数の終末にシ グナルの共存が認められた。コルヒチン投与群では,孤束核の問質亜核に加えてA2 領域の外側部にNPY陽性細胞がみられ,DBHとの共存が認められた。従って,孤束 核のA2領 域の 外側部に細胞体のあるNPY二ユー口ンの一部はノルアドレナリンを 産生すること,ならびに孤束核で作られたNPYの大半は速やかに神経終末に運ばれ ていることが示された。コルヒチン非投与群と同様,孤束核ではNPY陽性細胞体の みならずNPY陽性神経終末が多数存在した。

  以上の結果より,吸啜期でも絶食により弓状核のNPY mRNAの発現が増加し,摂 食後 に減 少す ること ,ま た孤 束核 ではP2の絶 食時にNPY mRNA発現が増加するこ とが示された。NPYを介する摂食調節に,P2では弓状核および孤束核の両者が関与 し ,P7以 降 で は 弓 状 核 が よ り 主 要 な 働 き をし て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れた 。

(4)

学位 論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

小口 赤池 吉田 白川

学 位 論 文 題 名

春久      重光 哲夫

吸啜 期ラット の摂食調節中枢における ニ ュー ロ ベ プチ ド Y の 発現 変 化

  審 査 は 赤 池 、 吉 田 、 白 川 お よ び 小 口 審 査 委 員 そ れ ぞ れ 個 別 に 実 施 し 、 学 位 申請 者 に 対 し て 提 出 論 文 の 内 容 と そ れ に 関 連 す る 学 科 目 に つ い て 口 頭 試 問 の 形式 に よ っ て行 わ れ た 。 以 下 に 、 提 出 論 文 の 要 旨 と 審 査 の 内 容 を 述 べ る 。

  学 位 申 請 者 は 、 生 後27 10 (P2710)の 新 生Sprague Dawleyラ ッ ト を 実 験 動 物 と し て 使 用 し 、 摂 食 調 節 中 枢 に お け る ニ ュ ー 口 ペ プ チ ドY (NPY) mRNA 発 現 を 、 自 由 摂 食 群 、 絶 食 群 お よ び 絶 食 後 摂 食 群 の3群 に 分 け て 調 べ た 。 脳 組 織 を 固 定 後 、 視 床 下 部 弓 状 核 、 脳 幹 孤 束 核 お よ びAl領 域 を 含 む 冠 状 断 切 片 を 作 製 し 、NPY mRNAに 対 す る 協situハ イ ブ ル ダ イ ゼ ー シ ョ ン を 行 い 、 得 ら れ た オ ー ト ラ ジ オ グ ラ フ を イ メ ー ジ ア ナ ラ イ ザ に て 解 析 し 、 定 量 化 し た 。 ま た 、 ド ー パ ミ ンp水 酸 化 酵 素 (DBH)NPYに 対 し て 二 重 染 色 後 、 螢 光 顕 微 鏡 で 観 察 し 、 視 床 下 部 お よ び 脳 幹 で の ノ ル ア ド レ ナ リ ン 作 動 性 二 ユ ー 口 ン とNPY産 生 二 ユ ー ロ ン の 分 布 な ら び に 投 射 部 位 に お け る こ れ ら の 神 経 伝 達 物 質 の 共 存 に つ い て 、 軸 索 輸 送 阻 害 の ため の コ ル ヒチ ン 処 理 も 含 め て 組 織 学 的 に 検 索 し た 。

  以 上 の 方 法 に よ っ て 得 ら れ た 結 果 は 次 の と お り で あ る 。 弓 状 核 に お け るNPY mRNA発 現 量 は 、P2 710と も に 、 自 由 摂 食 群 と 比 較 し て 絶 食 群 が 有 意 に 高 か っ た 。 ま た 、 絶 食 後 摂 食 群 で は 、 自 由 摂 食 群 と 絶 食 群 の 中 間 の 発 現 レ ベル を 示 し た。 孤 束 核 のNPY mRNA発 現 量 は 、P2で は 自 由 摂 食 群 に 比 べ 絶 食 群 で 有 意 に 増 加 し 、 絶 食 後 摂 食 群 で は 自 由 摂 食 群 と 絶 食 群 の 中 間 の 値 を 示 し た 。 一 方 、P710で は 、 自 由 摂 食 群 に 比 ベ 絶 食 群 でNPY mRNA発 現 量 が 増 加 す る 傾 向 が 認 め ら れ た が 、 有 意 差 は な か っ た 。 Al領 域 で は 、P2で は 、 絶 食 後 摂 食 群 に 比 べ 絶 食 群 で NPY mRNA発 現 量 が 有 意 に 低 か っ た が 、 自 由 摂 食 群 と の 比 較 で は 差 は 認 め ら れ な か っ た 。 ま た 、P7     737

(5)

10で は 、 各 群 間 で NPY mRNA発 現 量 に 差 は 認 め ら れ な か っ た 。   P2のコルヒチン非投与群の免疫螢光染色では、弓状核ではNPYに濃染する神経線 維および終末が腹内側部を中心に多数存在していたが、確認できた細胞体はわずかで あ った 。また 、DBH陽 性細 胞体 は存 在しな かっ た。NPYとDBHの 共存 は、腹内側 部に散在性に認められた。孤束核では、確認できたNPY陽性細胞体は極めて少数で あ った 。孤束 核の 問質 亜核 に少数 のNPY陽性細胞と散在性のNPY陽性神経終末が 認められたのに対し、腹側に位置する迷走神経背側運動核には多くのNPY陽性神経 終 末が 存在し てい た。 多数 のDBH陽 性細胞体が存在していたA2領域では、NPYと の 共存 は確認 でき なか った 。一方 、Al領域には、多数のNPYおよびDBH陽性細胞 体が存在していたため、この領域のNPY陽性細胞の多くはノルアドレナリン作動性 二ユー口ンであることが示された。P2のコルヒチン投与群では、非投与群と比較し、

弓状核で多数のNPY陽性細胞体が確認された。この結果より、P2においてすでに弓 状核で産生されたNPYの多くが軸索輸送により神経終末へ運ばれていることが裏付 けられた。弓状核ではコルヒチン投与群でも、DBH陽性細胞体は確認できず、神経 線維および終末が少数認められた。一方、孤束核のコルヒチン投与群では、問質亜核 に 加え てA2領 域の 外側 部にNPY陽性 細胞がみられ、DBHとの共存が認められたた め、この部位に細胞体のあるNPY二ユー口ンの一部はノルアドレナリンを産生する こと、ならびに孤束核で作られたNPYは速やかに神経終末に運ばれていることが示 された。以上の結果より、吸啜期でも絶食により弓状核のNPY mRNAの発現が増加 し 、摂 食後に 減少 する こと 、また 孤束 核ではP2の絶食時にNPY mRNA発現が増加 することが明らかにされた。本研究により、NPYを介する摂食調節にP2では弓状核 および孤束核の両者が関与し、P7以降では弓状核がより主要な働きをしている可能 性が示された。

  学位申請者に対して論文内容に関連する質問が行われた。主な質問事項を列挙する と 、1)孤束核におけるNPY mRNAの変化がP2のみでみられるのは何に起因してい るか、2)免疫染色の結果はP7、10ではどうであったか、3)コルヒチン投与に対す る為害性の有無、4冫出生早期の神経回路の形成について、5)視床下部および脳幹 NPYは出生早期に摂食調節に関与しているかどうか、である。それらの質問に対し いずれも適切な回答が得られた。また、本研究は生後発達期のラットの摂食調節にお けるNPYの関与を、視床下部に加えて脳幹の摂食調節中枢で初めて明瞭にした点が 評価された。さらに、学位申請者は、NPY mRNA発現に直接関与していると考えら れるレプチンおよびインシュリンについて、それらのシグナル伝達系に関する詳細な 解 析を 進めて おり 、将 来の 展望に つい ても高い評価を与え得ると判断された。

  したがって、学位申請者は博士(歯学)の学位授与に相応しい者と認められた。

参照

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