入門期の子どもたちが協働で取り組む科学的探究の あり方 : 植物の巧みな営みを探り,生物界への自然 観を広げる(第1学年)
著者 竹澤 宏保
雑誌名 福井大学教育実践研究
巻 32
ページ 113‑120
発行年 2008‑01‑31
URL http://hdl.handle.net/10098/1653
1 はじめに
身近な野草に関心を寄せる「野草マップつくり」(3時間)
5月。顕微鏡の操作方法やスケッチのとり方など観察 するための技能を獲得した後,恒例の校地内の野草マッ プの作成に取り掛かる。男女2名ずつの4人でグループ を編成し,そのグループごとに校地内を調査するのであ る。なお,今後の探究活動もこのグループで取り組む。
まずはじめはグランドに出て,オリエンテーションを 行った。これまでも足元に生えている野草の名称を応え ることができる子どもはまれであった。比較的認知度の 高い植物は花茎で遊んだ経験のあるオオバコぐらいで,
花環遊びの定番だったシロツメクサの知名度もすっかり 廃れてしまったようだ。そこで,校地内に生えている代 表的な野草を3種(オランダミミナグサ,スズメノカタ ビラ,ノボロギク)を配り,それを同じものを採取する こと,それ以外の野草を採取してくるように指示し,授 業の終わりにその同定会を行った。
次にグループごとの野草マップ作りである。例年,マ ップ作りはグループごとに描き込む内容や表現を工夫さ せていたが,今年度は前時に採取した野草のマークを決 めておき,それに基づいて野草マップを作成した。これ は後の植物の生態について探究活動するために時間確保 をねらったものである。作成に当たり,これまでの先輩 の作品を黒板に貼り出すと,子どもたちが集まり参考に していた。過去にも,先輩の作品を提示することを行っ てきたが,先輩を越えようとする意識を持つ子どもたち には格好のクリア目標になる。
右の図1は7班が作成した野草マップである。どの班 もマップを2時間弱で完成させる。例年に比べるとはる かに短時間で作成することができた。しかし,作成に手 間がかからない分,作品に対する愛着は薄いようで,ジ レンマを感じた。
2 スズメノカタビラの生態を探る学びの姿
! 作成したマップから課題を作成する(1時間)
これまで作ってきた野草マップには植物の種類やその 分布についての情報が盛り込まれている。そこから情報 を読み取り,野草に関する課題を作って,みんなで解決 しようと働きかける。そのために,まず各自が自分たち のマップから気づいたことを書き上げた。2班の怜子が 発見した事柄は次の5つである。
ア)なぜ,校庭の真ん中に野草は生えていないのか。
イ)なぜ,スズメノカタビラは校庭全体に生えている のか。
ウ)なぜ,野草は固まって生えているのか。
エ)なぜ,野草は場所によって,生えているものが違 うのか。
オ)オランダミミナグサとタチイヌノフグリはなぜ,
同じ場所に生えているのか。
特に指定したわけではないが,怜子は「なぜ○○は〜
なのか」という定型文で,発見した事柄を表現している。
他の子どもたちにも同じような書きぶりが見られた。課 題を作ってという働きかけが,自然とこのような疑問形 のスタイルに統一されていったのだろう。科学的探究は
入門期の子どもたちが協働で取り組む科学的探究のあり方
〜植物の巧みな営みを探り , 生物界への自然観を広げる(第1学年)〜
福井大学教育地域科学部附属中学校 竹 澤 宏 保 教育実践報告
入学して間もない1年生。これから本格的に科学を学ぶ上で大切なことは五感を通して自然の営みに ふれ,その巧みさや合理性に感動し,自然科学に対する関心を高めることだと考える。それが,中学3 年間の科学教育のバックボーンになるからだ。
また,入門期だからこそ,これから取り組む本格的な探究学習に挑戦し,科学では事実の積み上げに よって真実を明らかにしていくプロセスを経験することが大切であろう。この単元では身近な野草の生 態をグループで解き明かしながら,科学的なものの考え方を養い,自然界に対する認識を深める学習を めざした。
キーワード:探究するコミュニティ,植物,科学的探究,協働学習
図1 作成した野草マップ
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今まで気づかなかったことに意識が働き,そこで生まれ る「なぜ」が始まりである。怜子をはじめたくさんの子 どもが入学して間もない時期にも資料からこのように 様々な疑問を取り出せることを認識した。
個々が見出した疑問をグループで検討し,グループで 5つを選択した。怜子ら2班では,お互いの疑問を書い たカードを見せ合い,5つに絞る。アやイは4人に共通 する疑問であり,すぐに決まった。また,エのように場 所によって生える植物の違いを敬一は日なたか日陰の違 いとして挙げており,この敬一の気づきも選ばれた。結 局2班では怜子のア〜エと敬一の日なたと日陰に注目し た気づきが選ばれた。
各班の意見が決まったところで,すべての班が黒板に 5つの疑問を列記し,その中から一つ課題として設定す ることにする。ただ,ここで確認しておくことは,どの ような観点で課題を選ぶかである。これについては教師 が示した。それは,これから植物の生態を調べていくの だから,直接植物にふれて,観察したり実験したりし易 いように,課題には植物名が入ること。みんなで解決す るのだから,できるだけたくさんの人が疑問に思ってい るものという条件を提示した。黒板の前に40人を集め,
話し合いを始める。
邦彦:どの班にもスズメノカタビラについて書いてい るので,スズメノカタビラを調べればいいと思 います。
康治:スズメノカタビラはどこにでも生えているので すが,グランドのトラック付近にはスズメノカ タビラしか生えていません。だから,どうして スズメノカタビラはトラック付近でも生えるこ とができるかを調べるといいと思います。
実際にすべての班がスズメ ノカタビラ(図21))の生 態 について言及している。だか ら,スズメノカタビラを探究 のテーマに挙げることに異論 はない。ただし,怜子のよう にスズメノカタビラが校庭一 円に分布しているのはなぜか というパターンが多い。康治 の発言は漠然と校庭とするよ りも,トラック付近という限 定された地域に絞ったため,
その地域の環境条件が明らかになり,調査の見通しを持 ちやすくなった。つまり,トラックという,人の往来が 激しく,乾燥し水分が乏しいであろう環境の中でもスズ メノカタビラが生息していける謎を解こうというのであ る。こうしてスズメノカタビラの生態がクラスの課題と して合意され,次の課題を設定した。
『スズメノカタビラが,トラック付近でも生きていけ るのはなぜか?』
! 探究を構想する仮説作りから検証実験遂行へ(3時間)
はじめに,グループごとにいくつかの仮説の候補を挙 げ,それらを確かめる方法を考え,見通しの持てそうな ものをグループの仮説とする。2班では怜子と敬一が中 心となって探究の構想を練る。
敬一:根が多く,長いから,トラック付近でも生きて いけると思うよ。
怜子:茎がやわらかいから。踏まれても伸び縮みでき るから。他の植物と比べながら,実際に踏めば いいんじゃない。
怜子:それとも,スズメノカタビラって少しの水分で も生きていけるんじゃないの。雨の水分だけで 十分だとか。
敬一:茎とか葉が細いから,水分が蒸発しにくいのか も。
衛二:根ごと引っこ抜いて,水を少しだけやるのと,
水をいっぱいやるのと比べればいいんじゃない。
この2班はスズメノカタビラがグランドという悪環境 でも生きていける理由を人に踏まれても壊れない柔軟性 と取り入れる水分の量の2つに注目している。そのうち 2班が取り上げたのが,水分の方だった。グランドは水 はけがよく,その土壌に含まれる水分は少ないので,吸 い上げることができる水分はもともと少ない。そのよう な場所で生息していけるということは,スズメノカタビ ラは生きていく上で少しの水分しか必要としないのでは ないかと考えたのだ。
その考えを検証するために,ほぼ同じサイズのスズメ ノカタビラと他の植物(オオバコ)を採集してきて,そ れを試験管に差し,それぞれの植物がどれだけ水分を吸 収するのかを調査した。図3はこの実験を説明する2班 の千秋のレポートからの抜粋である。同じサイズの植物 を用意したり,水面に油を浮かせたりするなど,実験の 精度を上げるために工夫が見られる。
この実験の結果,
水面がかなり低下 して枯死したオオ バコに比べ,4日 経過しても青々と したスズメノカタ ビラは水面の低下 が少なく,余り水 分を吸収していな いということが明 らかになった。
2班では,この結果を受けて,なぜスズメノカタビラ は少量の水でも生きていけるのかを考えた。敬一は,植 図2 スズメノカタビラ
図3 本当にスズメノカタビラは少し の水で生きていけるのか 竹澤 宏保
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物は水なしでは生きていけないにもかかわらず,スズメ ノカタビラが水を少量しか吸収しないのは,自身の体の 中に水分をたくさん溜め込んでいるからではないかと考 えた。同班の怜子や衛二も同じ意見である。さらに怜子 はスズメノカタビラが保水できるのは,オオバコに比べ 葉幅が狭く,水分を蒸散させにくいという特徴を兼ね備 えているからではないかと考えた。
千秋は敬一や怜子の考えに賛成するが,茎や根にも少 ない水分で生きていける工夫があるのではないかと考え た。そして,この実験結果で本当に保水していると言い 切れるために,もっと客観的なデータを示す必要がある のではないかと考えた。スズメノカタビラがグランドで 生きていける理由は一つではないかもしれない。葉には 葉の,根には根の工夫があってこそ,生き延びていける のであろう。千秋は自分たちの仮説が実験によって確か めていくなかで,さらに他の条件についても考えるよう になった。
2班と同じように各班が,自分達で仮説を立て,その 検証実験を構想し,取り組んだ。知樹ら9班では根に注 目した。スズメノカタビラは他の植物に比べ,根が太く,
数が多いので水分をよく吸収することができるのはない かと考えた。そこで,グランドの中央や端に生えている 様々な植物を根ごと引き抜き,それらを比較した。さら に,顕微鏡を使って根の側面や断面を観察しようとした が,根が細くうまくいかなかった。(図4)引き抜いた 根の観察によってスズメノカタビラの根は他の植物と同 じような太さであるが,その数が倍以上生えていること を明らかにした。また,コメツブツメクサやオランダミ ミナグサなど他にもグランドに生えている野草の多くが,
スズメノカタビラと同様ひげ根の構造を持つことがわか ってきた。
里奈ら8班ではスズメノカタビラが小さくやわらかい ので,踏み付けにも強い。そのため,人の往来の激しい グランドでも生きていけるのではないかという仮説を立 てた。実際に踏みつけてみたときの変化やどれぐらいの 角度で折れるのかをオオアレチノギクと比較してみた。
オオアレチノギクの茎は約56度で折れたが,スズメノカ
タビラは何度まで曲げても折れなかった。そこで,2つ の茎の内部の構造を調べてみると,オオアレチノギクが 茎の中に硬い繊維があるのに対して,スズメノカタビラ は茎の中がスカスカでやわらかく,力を加えてもしなや かさを持っているために,曲がるだけで折れないことが わかった。
このような自分たちの手で自分たちの考えを証明する ための実験を構想し,遂行する力は今後の探究活動でも 養っていきたい能力である。そのためには,解決すべき 課題があり,その課題を明らかにしていくストーリーの なかで,子どもたち自身が目的に沿った実験を考え,創 りあげていく状況を作り出すことが必要であろう。
ただし,その際自分たちの手で実行可能な実験を構想 する必要がある。9班の顕微鏡による根の観察はあまり に困難な実験であった。顕微鏡を万能な観察機器だと過 信していたことと実物の根を見ずして実験を考えたのが 原因である。
各班が一通りの結論を得たところで,中間発表会を行 うこととした。自分たちの結果の吟味し,成果を共有す る時間である。
! 異班交流で,自分たちの結論を見直す(1時間)
スズメノカタビラのたくましい生命力の理由は,根の つくりに特徴があったり,茎の構造に工夫があったりと 子どもたちなりにも予想を立てることができる。これま で,調査したことはその中の一つである。しかし,先ほ どの千秋のように自分たちの調べたこと以外にもスズメ ノカタビラの強さがあることに気づいている子どももい る。また,実験中も他の班では自分たちと違った実験を おこなっており,自分たちの方法以外にももっと優れた 調べ方があるのかもしれない。さらに,自分たちの結果 と異なる結論を得たグループもあるのかもしれない。そ れらを探る目的で,中間発表会を行う。あくまで,中間 発表なので,この発表を受け,もう一度班ごとに調査す ることを予め伝えておく。特に初めて探究活動を行う1 年生なので,活動への見通しは常に示しておく必要があ る。
図4 根のつくりをみてみよう
図5 これまでの調査を発表する
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また,再調査する上で,自分の学級だけの成果だけで はなく,探究を再構築する上での情報となるよう3年前 の先輩の成果も示した。ただ,提示したのは交流会の前 である。自分たちの成果を報告する前に,まず先輩のデー タを見てみようという形で行った。子どもたちが,これ から発表するという気持ちになっている中で,少し水を 差すような提示となってしまった。
中間発表は班がバラバラになって,これまでとは異な るメンバーで新しいグループ(ジグソー班2))を編成し,
その中で一人一人が自分たちのこれまでの取り組みを他 のメンバーに語り,また,他の班の情報を入手してくる。
ちょうど4人ですべての班の情報にふれることになる。
(図5)
2班の怜子は根に注目した7班の史彦。根や葉に養分 を溜めていることを明らかにしようとした10班の優香。
そして,2班と同じく含まれる水分に注目した4班の秀 人で新しいメンバーを構成し,報告会を行った。4班の 秀人が報告すると,それに怜子が反応した。
怜子:4班の結果では,スズメノカタビラは水分を含 んでいないって,本当? 私たちはスズメノカ タビラのほうはあまり水を吸わなかったから,
きっとスズメノカタビラは他より水をたくさん 含んでいると思っているのに。
秀人:僕らも身体に水を溜め込んでいるのではないか と思い,スズメノカタビラの重さを量って,蒸 し焼きにして水分を飛ばし,もう一度重さを量 って,どれだけ水分を含まれていたかを調べた んだ。
怜子は4班の全く逆の結論に驚いた。自分たちの実験 に比べて,秀人ら4班の実験方法は植物に水分がどれく らい含まれているのかを調べる上では,直接的で,わか りやすい。また,結果についても数値で示されており,
説得力がある。怜子はすぐに秀人からどのような実験を 行ったのか詳しく聞きだし,自分の班に戻って他の3人 に報告する。衛二の報告によると,3班の結論でも水分 を含んでいるという。そこで,玲子ら2班は次の実験で,
秀人ら4班の蒸し焼きによる水分の質量測定を追試して みることにした。
! 再実験 スズメノカタビラに含まれる水分測定に挑 戦する2班(2時間)
中間発表を終え,各班で自分たちの結論と他班の結論 を分析,省察し,再度調査することにする。はじめの取 り組みのなかで,新たな疑問が生じ,それについて追究 する班もあるし,玲子ら2班のように再度,自分たちの 仮説の検証に挑戦する班もある。
2班では早速,4班に教えてもらった蒸し焼きの方法 で実験を始める。(図6)実験はタンマン管という陶製 の試験管にスズメノカタビラなどの植物を入れ,アルミ
箔で栓(ガスの噴出孔は作る)をして下から加熱するの である。加熱前後でその質量を測定し,軽くなった分が 含んでいた水分である。加熱を始めると,アルミ箔に開 けられた噴出孔から,白い煙が勢いよく噴出する。多少 の木ガスも含むであろうが,大半は水蒸気である。4班 ではスズメノカタビラとオオバコを蒸し焼きにすること にした。オオバコは,はじめの実験でも使っている植物 なので,今回も同じ植物を使った。タンマン管から白い 煙が出始めると,周囲の班からも実験を見学にやってく る。しばらくすると,その白い煙も出なくなり,ほぼ水 分が抜けためやすになる。タンマン管が十分に冷えてか ら,その質量を測定してみた。
表1が2班の実験結果である。スズメノカタビラはオ オバコよりも加熱前の質量が少ないにもかかわらず,加 熱後はオオバコより質量が小さくなっている。オオバコ 以上に水分が抜け出たと怜子たちは結論付けた。衛二は レポートの中で,「これまでの2つの実験から,スズメ ノカタビラは他の草より少ない水でも生きていくことが でき,さらに水を体内にためておくことによって,トラ ック付近でも生きていけることが分かりました。」と結 んでいる。この結論を持って最後の発表会に望んだ。
" 成果を表明し共有する発表会(2時間)
2回の調査を終え,その成果を端的(A4判1枚)に まとめ,それをプロジェクターに映し出し,すべての班 が発表した。(図7)
根がどのように地中に広がっているのかについて調べ ていた5班からは,根はひげ根になっていて,他の植物 よりもその数が多く,広い範囲まで広がっているため,
表1 2班が行った蒸し焼きした植物の質量の変化量
※加熱前後の質量にはタンマン管やアルミ箔の質量も含まれて いる。
図6 班ごとの最終発表会
加熱前 加熱後 減 スズメノカタビラ 29.10g 27.45g 1.65g オオバコ 34.40g 34.00g 0.40g 竹澤 宏保
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わずかな水分や肥料分を吸収することができるので,グ ランドでも生きていけると考えた。また,7班でも丹念 に土を堀り根の広がりを調査した結果,根が土をつかむ ように分布していると報告した。
2回目の調査で,葉の葉緑体の数に注目しようとした 6班では,観察しているうちに,気孔の数に着眼し,ス ンプ法3)にて,シロツメクサとスズメノカタビラの気孔 の数を比較した。すると,シロツメクサよりもスズメノ カタビラのほうが同じ倍率で見た(=単位面積当たり)
ときの気孔の数が少ないことをつき止め,その分蒸散を せず,植物の中に水分を溜めておけると結論付けた。康 治ら3班も茎の観察から茎には中空があり,そこに水を ためておくのではないかと考え,色水を使ってそのこと を証明したことを報告した。
しかし,先ほどタンマン管の実験でスズメノカタビラ は特に保水しているわけではないという4班は再度,は じめの実験結果から考えて,特に保水しているわけでは ないのではないかという結論を出した。表2がその結果 である。
クラス全体にこの2つの結果の違いをどう考えるか問 うてみた。スズメノカタビラは他の植物よりも保水して いると言えるのかどうか。何人かが答えたが,自分の班 の結果を繰り返す解答であり,この実験についてはふれ られていない。そこで,
教師:この2班と4班の実験のやり方で大きなちがい は何でしょう?
純一:(しばらく間)比べている植物が違う。
純一の指摘したように,スズメノカタビラが保水して いるかどうかは比べる植物によって異なってくる。それ ぞれに2班はオオバコを,4班はオオアレチノギクを,
スズメノカタビラと比べているのだ。
ここで学ぶべきことは,科学的な探究のあり方である。
これからも行われる科学の学習において,他と比較し,
規則性を類推する力は必要である。その比較をするとき の対象を吟味することもまた大切である。そう考えると,
茎の中の中空や気孔の数などから,保水しているのでは ないかと考える間接的な根拠はいくつか挙げられている。
しかし,直接それを確かめる実験の結果に違いが生じて いる段階では,確かに保水していると言い切れないこと を確認した。
怜子は学習後に書いたレポートの中で,自分たちの実 験の考察をこう述べている。
へった量を比べると,やはり予想どおりスズメノカ タビラのほうが多い。けれど,同じことをしていた班 では,やはり逆の結果になった。なぜだか,分からな かったが,一つ考えられることを思いついた。(けっ こう大事なことだ) それはスズメノカタビラと何の 草を比べたかということだ。私の班はオオバコだった が,その班はオオバコではなかった。つまり,比べる 草が違っていたので,結果も違ってしまったというこ とだった。
でも,そこで疑問が出てきた。その草はスズメノカ タビラと比べたときに,結果が似ているということは,
スズメノカタビラと同じ性質を持っているということ になる。(・・・中略・・・)今度はそれを調べてみ ようと思った。
怜子らの中に,科学的な視点が育っていることがうか がえる。また,この自分の取り組みを越え,さらに次の 課題へと展望が開けている。
! 自ら探究の道筋をもう一度辿るレポート作成 学習を終え,最後に各自がレポートを書き,それによ って自分たちの取り組みを,振り返った。レポートも,
自分たちの行った実験や観察がなぜ行われたのか,前の 実験と,次の実験がどうつながっていったのか,ストー リーを大切にしながら書くよう働きかけた。これによっ てもう一度自分がどのような探究を行ってきたのかを個 人レベルで省察することになる。また,スズメノカタビ ラが悪環境の中でも生き抜いていける理由を自分の班の 結果だけでなく,他班からの情報を織り交ぜながら総合 的にまとめている。植物の特徴を多様に視点でみて,物 事を多面的にとらえていくことになる。
今後,レポート作成を通して思考の筋道を大切にした 探究につなげていくために,現在それらのレポートに朱 入れし,夏季休業後にレポートの読み合いを行った。
表2 4班が行った蒸し焼きした植物の質量の変化量
※加熱前後の質量にタンマン管やアルミ箔の質量は含まれてい ない。
図7 班ごとの最終発表会 加熱前 加熱後 減
スズメノカタビラ 1.16g 0.32g 0.84g オオアレチノギク 1.14g 0.31g 0.83g
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# さらに追究する光里
4班の光里は,スズメノカタビラが高い保水力を持っ ているのかを明らかにしたかった。授業の最後に現段階 では言い切ることはできないという結論に納得できなか ったのだ。そこで,光里は授業後,昼休みや放課後を利 用して,何人かの友達とともに理科室を訪れ,再度スズ メノカタビラ,ヒメジョオン,ヒメムカシヨモギについ て蒸し焼き実験に挑戦してみた。その実験も発表会での 指摘を考慮し,加熱前後でタンマン管に資料を入れたま ま測定することはもちろんのこと,誤差を減らすために 植物の量を増やしたり,採取する場所を同じようなとこ ろに絞ったりするなど,実験結果の精度を高める工夫を 行っている。その結果,今までの結論と異なり,スズメ ノカタビラは他の植物よりも多くの水分を含んでいるこ とを明らかになった。探究が授業という枠に収まらず,
彼女の中でさらに続いているのである。
3 核となる学び から見た本実践の省察
本校理科が大切にする核となる学びは『しくみを解明 し,自然観を広げる』である。これを本実践に当てはめ て考えると,「スズメノカタビラがトラックという悪環 境の中でも生息していける理由を明らかにし,その活動 を通して,植物の巧みな生活の営みを実感し,自然に対 する認識を深める」ということになる。本実践がそのよ うの学びになっていたのかを省察する。
! 未知を科学する課題を設定する
中学3年間の理科学習の中で,1年生では科学に挑戦 する段階ととらえている。五感や既有の知識をつなぎ合 わせて,課題の解決に努める段階である。そのため,様々 な手法で課題解決に挑戦できるような見通しの持った課 題が必要になってくる。
本実践ではそれまでに創りあげてきた野草マップから 疑問を拾い上げ,その中からスズメノカタビラについて の課題を設定した。本校の校庭には生える植物の種類は そう多くはない。そのなかでも,春から夏にかけてスズ メノカタビラはいたるところに分布しているため,植物 の分布図を作成したときに大変に目立つ存在である。そ のため,このような手順で課題を設定したときに,スズ メノカタビラが取り上げられることはある程度予想する ことができた。
この課題の明確な正答は今のところ,文献などでも明 らかにされていない。踏みつけに強いからという理由も すぐに思いつくが,なぜ踏みつけに強いのか明らかでは ないのだ。しかし,子どもたちの手でもその構造から理 由を探ることができる。また,根についても同様である。
教師が答えを知っていて,それにどう近づくことができ るかではなく,子どもたちが見つけた事実こそがこのス ズメノカタビラの強さの理由である。科学とは本来,明 らかになっている事実をつなぎ合わせ現象を解釈する学
問である。今後その解釈を覆す新しい事実が発見されれ ば,それに応じてこれまでの解釈を変更していけばよい。
リテラシーの育成として,それらの能力の育成を求める 声も日に日に高まっている。したがって,今回の子ども たちの取り組みは本来の科学と言える。そのような面か ら,入学して間もない子どもたちと自然に学ぶ科学の世 界に誘うことのできる題材であったと考えている。
" 繰り返す単元構造が子どもたちの探究力を高める
この単元は中間発表をはさんで大きなステージが2つ ある。はじめに自分たちの仮説を検証するステージと,
情報交換後改めて仮説を確認しスズメノカタビラの強さ に迫るステージである。学びの姿に見られる怜子たちの 2班のように中間報告で他班からの刺激を受け,その取 り組みを追試する班もあるし,全く別の取り組みをする 班もあった。いずれにしても,2つ目の取り組みには他 班からの情報が少なからず影響している。まず自分たち の取り組みを表明する。そして他の班の情報と照らし合 わせて,探究の組み立てを再構築するのだ。それによっ て2回目の取り組みは,実験や観察の目的もより明確に なり,内容的にも質が向上することはこれまでの研究で も自明の結果である。
そうなると大切なことは中間発表会のあり方である。
発表会は最後にもあるが,中間発表のあり方は2回目の 取り組みを左右する。そこで一人一人が活躍できる異班 交流(ジグソー班)が望ましい1つの型である。自分の これまでの取り組みを活動の半ばで認知することができ,
それを次のステージに活かすことができるからである。
しかし,この中間発表会での異班交流で何をねらってい るのか,何を求めて新しい班を構成しているのか,学習 者自身が理解している必要がある。そのためには中間発 表会そのものも,子どもたちの探究の流れの中で必然性 がなくてはならない。今回,班によって自分たちの実験 の成果を確認しにいく班や新しい課題を探りに行く班な ど,目的にぶれがあった。特に初めての取り組みにおい て,その目的を明らかにしておく必要を感じた。
竹澤 宏保
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! 取り組みの質を高めるもの
理科実験だけに限ったことではないが,自分たちが取 り組み一応の結論や成果が現れた場合,その結論や成果 が価値あるものかどうか見定めるために先述した発表会 のような場を設定することが大切である。こうすること で次の取り組みの質が高められていくことができるが,
過去の取り組みついて知ることもまた,自分たちの取り 組みを効率よく焦点化することができ,質を向上させる ことができる。今回の場合,ほぼ同じスズメノカタビラ の生態を探った3年前の実践の記録を活用した。ただ,
どのタイミングでそれを提示しようか迷った。課題を決 定した段階で提示することも考えたが,はじめから方法 や結果を提示してしまっては,その後の取り組みが上滑 りしそうな気がした。まして,最後に提示したのでは意 味がない。そこで,少し取り組み始め,自分たちの班の 課題が絞り込まれた時期にこそ先輩の取り組みを提示し ようと考えた。その結果,中間発表の一つとして異班交 流の前にクラスに提示したのだ。
しかし,提示の方法がまずく,今一つ子どもたちにと っては必要感のない存在になってしまった。子どもたち が悩み,次の手を模索しているときなど,探究の流れの 中に必然性のあるものとして示すことができると良かっ たのだが,そうはならなかった。過去の取り組みが,今 の子どもたちの取り組みをすべて網羅したものではなく,
班によっては全く無意味な情報になってしまったケース もあった。もちろん,自分たちとよく似た取り組みをし ている班にとっては,自分たちの結論を裏付ける証拠を 手に入れたケースもあった。
ただ,先輩たちの成果の中には根の本数など数値的な データが示されているものもあり,結果を印象でとらえ るのではなく,数値されたデータなど客観的なもので観 察や実験の結果を表すというポイントを押さえることが できた。2回目の取り組み時には例えば根の深さや気孔 の数といった数値で結果を表現する班が増えたことも事 実である。
研究者は,これから研究を始めるときにまず,過去の 先行研究を調査して,問題点を明らかにしてから,自分 の研究課題を焦点化し,新たなデーや知見を加えていく 手順をとることが多い。先輩の作品を参考にするのと同 様,過去のデータは自分たちの取り組みの質を向上させ ることができる。そのためそれらのつかい方によっては,
これからの探究学習を一層活かしていける可能性を秘め たアイテムであり,その活用法を今後も探る必要がある。
" 何を学んだのか 「言葉だけでない理解」と「総合
的なもののとらえかた」
この探究学習の中で,子どもたちの会話の中に頻繁に 生物学上の重要用語が飛び交う。「蒸散」や「光合成」,
「ひげ根」や「単子葉類」などという言葉である。それ らの語句を既に知っている子どももいるだろうし,習い
たての子どももいるだろう。しかし,同じ探究学習をし ている中で,必要に応じて,生きた使われ方をしている のだ。例えば,ひげ根という根の形状は,単子葉類に特 徴的な根の形状である。言ってみれば,つながりがなく それだけの意味でしかないのだが,探究学習の中では,
なぜひげ根なのか。ひげ根だとどのような良いことがあ ってスズメノカタビラはひげ根の形状をしているのかな ど,その本質的な意義にまで迫ろうとしている。ひげ根 の有用性に気づいたとき,だからひげ根なのかと,言葉 がその他の要因と結びついて有機的に自分のものとなる。
すべての教科書に掲載されている語句に対しては不可能 であるが,このような深い理解は学習者の自然観を広げ ることにつながる。
また,機器の操作についても同様である。学びの姿の 中で,9班の根の断面を顕微鏡で観察しようと試みたこ とについて言及したが,顕微鏡を操作する技能は文字で 理解するものではない。実際に使えることが,今後の自 分たちの探究活動に活かされ,新たに自然を見る目を獲 得することになる。9班では顕微鏡の能力を超える観察 に挑戦して失敗した。その結果,彼らは顕微鏡の限界を 知ったのである。教師のお膳立てした実験や観察では,
そのような回り道はしない。しかし,常に教師が先回り して失敗を回避する観察や実験では本当のものを追究す る力が育ちにくいのではないか。ただし,この顕微鏡な どははじめから失敗させるわけにはいかない。ビギナー でも観察可能な対象物を使って,十分顕微鏡の世界を味 わってからでないと,顕微鏡の観察そのものに魅力を感 じなくなってしまうので,子どもの段階に応じる必要が ある。
次にスズメノカタビラの生態をそれぞれの班で探究し てきて,子どもたちはその答えをどのように出したか。
子どもたちはレポートの最 後の考察の部分で言及して いる。怜子はその理由を自 分の班の結果だけでなく,
他 の 班 の 結 果 な ど も 含 め,5つを箇条書きで表し ている。また,同班の敬一 はそれらをまとめて,右の ような一枚の図に示してい る。(図9)子どもたちの 探り当てたスズメノカタビ ラの秘密は一つではない。
それらを複数の工夫が総合
的にいかされて,悪条件の中でもスズメノカタビラは生 きていけるという結論に達している。中には,先輩の結 論も取り込んでいる子どももいた。このような総合的な ものの見方は生物分野での認識を深める上で,重要な見 方である。
図9 敬一のまとめ
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! 子どもの自然観は広がったか
最後にこの学習を通して,子どもたちの自然に対する 認識はどう変化したのだろうか。次の文章は9班の里奈 の学習後の感想である。
野草=雑草=生えてほしくない植物
野草のことを調べるまで,私の中ではこのようなイ メージだった。スズメノカタビラの存在すら知らなか った。ところが,スズメノカタビラを調べていくうち に野草はすごいということがわかってきた。踏まれて も,踏まれてもへこまずにすぐに回復。私が育ててい る植物たちだったら絶対に折れたりして元には戻らな いだろう。スズメノカタビラって生きるためにすごい 工夫をしていて,なんかえらいなと思った。野草もか けがえのない命の一つなんだと思う。草むしりをする のは大変で,あまり生えてほしくないのは変わらない けれど,野草の視点を少し変えていきたい。また今回 やった実験を通してスズメノカタビラだけでなく,他 の野草のことについても調べていきたい。
すべての子どもとはいかないが,ほとんどの子どもが 感想でスズメノカタビラのたくましい生き様を実感して いる感想を残している。このことだけで子どもたちの自 然観が広がったと言い切ることはできないが,今回の取 り組みからほんの少し見方を変えてみるだけで,見慣れ た風景の中に新たな世界を発見する経験につながり,自 然に対するものの見方を豊かにしてくれると思う。
ふだん何気ない事物や現象の中にも合理的で,必然性 のある道理が潜んでいる。それらを解き明かす面白さを 入門期のこの時期に経験することは,これから3年間の 理科の学習のなかで,意味のあるプロセスであると考え る。
《参考文献》
稲垣栄洋 『身近な雑草のゆかいな生き方』 草思社 2003
田中修 『雑草のはなし』 中公新書 2007
福井大学教育地域科学部附属中学校研究会 『中学校を 創る:探究するコミュニティへ』 東洋館出版 2004 竹澤宏保「協同して身近な自然を探究する能力を高める ための授業実践」『福井大学教育実践研究』第29号,2004 竹澤宏保「理科学習における探究活動の構成と科学的リ テラシー」 『学校改革実践研究報告』№15 福井大学 大学院教育学研究科学校改革実践研究コース 2006
注釈
1)スズメノカタビラ図:『身近な雑草のゆかいな生き 方』P.69<三上修 作>より引用
2)ジグソー班:
3)スンプ法:セメダインを用いて物体表面の微細な凹 凸面顕微鏡観察する方法
An ideal method of the scientific research that children of the guide period wrestle with by collaboration
... in which the workings of the plant are investigated and the outlook on nature to the world of creatures (the first grade)
Hiroyasu TAKEZAWA
Key words: Learning community, a plant, scientific research, collaboration learning to research 竹澤 宏保
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