言語力の育成をめざして,読書活動を推進する授業 の実践 本の魅力を探り,他者に伝える紹介文を書く なかで,コミュニティを育む (「本の世界を広げよ う」光村図書2年)
著者 高橋 和代
雑誌名 福井大学教育実践研究
巻 33
ページ 93‑100
発行年 2009‑01‑31
URL http://hdl.handle.net/10098/1948
1.学びのストーリー
(0)子どもの状況と教師の思い
附属中学校では,毎年第3学年の文化祭において,学 級演劇を発表するという学校文化が受け継がれている。
文化祭で表現される劇と,カーテンコールでの先輩たち の達成感に溢れた姿から,子どもたちは自分たちが劇を 創ることを楽しみにしている。3年になるときクラス替 えがない附属中においては,2年の4月にクラス替えに よってできた集団こそが,この演劇を共につくる仲間と なる。この時期,今年も3年生からは演劇の基になる本 選定の話が聞こえてくる。2年B組でも3年生の劇の本 の話題は聞かれる。この学級演劇のつくりかたはクラス に任されているのだが,例年どのクラスも5月の短期間 で本を読み合い,劇の基となる本を決めている。
朝読書の実施や家庭環境からか,読書が好きな子ども たちが附属中には多いように感じる。給食前の時間やち ょっとした隙間の時間に読書をする子どもたちの姿から もそれはうかがえる。子どもたちは休み時間に本の話を し,本の貸し借りも頻繁に行っている。ただ,この状況 がケイタイ小説やホラー小説に偏った読書を生み出して いるようにも教師は感じている。ケイタイ小説やホラー 小説から得ることもあるであろうが,子どもたちの会話 からは,奇をてらうような出来事の内容や話題への好奇 心から興味本位で読んでいるだけのように感じる。読書
には娯楽の要素もあるのだからそれも読書の楽しみであ る。本を手軽に読むきっかけになっているのなら,大き な役目を果たしているとも思う。しかし,そればかりに 偏ることに,教師は物足りなさを感じていた。
新学習指導要領の告示に伴い,子どもたちの将来のた めに言語力の育成の大切さが説かれるようになった。そ の基となり支えるものは地道な読書活動だ。自分にあっ た読書活動をデザインし、主体的に読書ができるなら,
得るものも多い楽しい読書活動になるだろう。身近にい る者が子どもたちにどんな一言をかけるか,自分らしい 読書生活を確立していない子どもたちへの影響は大きい。
子どもたちは将来に繋がる読書活動の入り口にいるのだ。
自分で本を選べる人になってほしい。
生徒:先生,お薦めの本はありますか?
何読んだらよいか迷っているんです。
読む本を探しているのか……。子どもたちに思い切っ て提案してみた。
教師:「演劇は3年生になってから」と,みんな思っている かもしれないけれど,演劇に適した本を今からみんな で探すというのはどう?
生徒:演劇の本を決めるということですか?
教師:決めるのは3年生になってからでよいと思うの。
言語力の育成をめざして,読書活動を推進する授業の実践
本の魅力を探り,他者に伝える紹介文を書くなかで,コミュニティを育む
( 「本の世界を広げよう」 光村図書 2年)
福井大学教育地域科学部附属中学校
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橋 和 代 教育実践報告「この本お薦めします!
この魅力をどうやって伝えよう?」
好奇心をかき立てることに主眼をおくのではなく,
話の結論やあらすじを知っても読みたくなるような 本の紹介文を書こう。
子どもたちは,書いてみた紹介文を推敲し,更に 伝わる紹介文に練り上げていく。練り上げるために,
他の本について書かれた紹介文のよい点を探る。同 じ本を読んでも人によって魅力に感じることは違い,
表現の仕方も違うことを知り,自分の表現を推敲す るときにその気づきを活かしていく。
同じ本を読んでも,人によって魅力に感じる点が 違うという事実を知ることと,その違いを交流する 中で新たな気づきが自分の中に生まれ,読書の世界 を広げることにもつながっていく。
キーワード:自分の思い,伝わる表現,コミュニケーション,言語力,読書活動
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「1年かけてじっくり演劇に適した本をみんなで探し て,紹介し合って,読んでいかない?」という提案な んだけど……。興味が薄れちゃうかな。
生徒:それ全然問題ないと思います。
本探しましょう。
(1)演劇に適した本を選ぼう 【主題】
①演劇にする本ってどんな本がよいの?
選定の視点を探ろう (第1時)
子どもたちは,来年,このクラスで学級演劇をすると きの基になる本を選ぶなら,どんな本がよいと思うか各 自で考え,本選定の視点を,5人構成の生活班内で出し 合った。各自の考えを,班内で整理し,取捨選択して,1 枚(B4 サイズの紙)のカードに,1つずつ記入する。
カードは何枚にもなった。次に,その本選定の視点が書 かれたカードを,黒板に貼る。他の班からも同じ意見が 出ている場合は,重ねて貼り,同じではないがよく似た 意見であったり,共通の部分があると思った場合は,そ のカードのそばに貼っていった。(以下に出てくる生徒 の名前は,仮名を用いている。)
教師:国語委員,もう少しカードをグルーピングして整頓し てくれる?
委員:うーん。いっぱいある。
友司:「起承転結」と「話の展開」は一緒だ。
委員:「構成」も一緒かな。そうすると「ハラハラどきどき」
はどうしよう。
国語委員は前に出てきて,カードに書かれた内容に共 通項を見つけ,カードをグルーピングしていった。他の 子どもたちは、それを見ながら意見を言い,国語委員は,
その意見も聞きながらカードをグルーピングしていく。
このような教科委員中心の学習方法は今まで何度か行っ てきている。この学習方法を子どもたちが習得している ことは,「友司」の自然な言葉かけからもうかがえる。
ただし,この時,カードの量があまりにが多く,黒板一 杯になってしまったため,共通項を見つけてグルーピン グすることは難しそうであった。
教師:いろんな書き方してあるから迷うね。
本の内容についての視点が書かれたカードを,黒板右 側に集めてみよう。
ここでの細かな分類はカードに書かれた言葉の基準が 明確でないために無理だと判断し,まず大きく分類する 視点をアドバイスした。また,黒板左側に「話の展開」
と書かれたカードを移動し,「話の展開に関するもの」
と,本の内容ではないと思ったカードを左側に集めて貼 ろうとアドバイスした。国語委員はカードを移動させる のに迷ったときは質問し,カードに書かれた内容につい て理解しようとしていた。
一通り終わったところで,追加するとよい視点はない
か考えながら,黒板に貼られてある視点を,自分の思考 を交えながら各自ノートにまとめる作業を行った。授業 の終わりに2人のノートをみんなに紹介した。(図1,
図2)
(2)この紹介文で本の魅力は伝わるか 【探究】
①この本,おもしろいよ!
自分が選んだ本を紹介しよう (第2時)
子どもたちは家で,自分が演劇にするとよいと思った 本を1冊選んできた。絞りきれずに何冊ももってくる子,
家族に勧められたという本をもってくる子など様々だ。
もう自分がもってきた本について語り始めている。演劇 を創ることが楽しみなんだという気持ちが,ここからも,
うかがえた。そんな中「敬次」は,本をもってこれず,
国語便覧を焦って見ながら教科書の中に載っている話か ら劇に適した話を探していた。
(図 1 ウェビングマップでまとめられたもの)
(図2 上下に分けてまとめられたもの)
!橋 和代
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教師:40冊いっぺんに読むのは難しいから,まず,班で1冊 に絞ってそれをみんなに紹介して,その本から読んで いくというのはどう?今から選んできた本のあらすじ とアピールポイントを書いて班員に紹介する資料をつ くろう。
雄太:あらすじは,最後まで全部書くのですか。ラストがわ かってしまうと,もう読みたくなくなってしまうんじ ゃないかな……。
教師:班で1冊,お薦めの本を選ぶのに,話の内容がわから ない状態で選ぶことはできないよ。班員がその本をま だ読んでいないのだから,あらすじを書いて本の内容 を理解できるようにしてあげる必要があるんじゃない の。
と答えた。本好きの雄太はわくわく感を楽しみに本を読 んでいるのだろう,納得していないようだった。
有里:アピールは,箇条書きでよいですか。
教師:文章でも,箇条書きでもよいよ。
後で生徒が書いたものをみると,ほとんどが箇条書きで あった。前時の「本選定の視点」を参考にして書いてい るようだ。自分の言葉で表現されることは少なく,「本 選定の視点」の中から当てはまるものを選んで箇条書き で書いている。ただ言葉を組み合わせ,自分の思いに近 くなるように工夫している様子は見られた。選んだ人の 思いを伝えるには「文章で書こう」と教師は言った方が よかったかもしれない。
ここからは,話し合いの活発な1班と5班に挟まれ,
益々コミュニケーションが少ないことが目立ってしまう 3班を中心に学びのストーリーを書いていく。3班は,
先ほど出てきた敬次と雄太,そしてマイペース型の有里,
表現のはっきりしている悠,ほとんど話さない優美の5 人構成である。この5人が選んできた本とアピールポイ ントは次の通りである。
敬次:『走れメロス』
・教科書の中で1番劇に合っている。
雄太:『占い魔女は消えた』(図3)
有里:『恋空』
・感動する。愛がわかる。
悠 :『Little DJ』
・生きる希望を持とうとしている主人公の生き方は 共感できる。
優美:『カラフル』
・命の大切さがわかる。
・家族との問題,学校での問題なども描かれていて,
考えさせられる。
・同じ年頃なので共感できる。
②1冊に絞るの大変?
お薦めの1冊を班で選ぼう (第3時)
班内で自分が選んだ本を紹介し,そのよさについて語 る。「本選定の視点」を参考にして,班代表の本を決め る。班で選ばれた本は,朝読書や,昼休み,家庭で,班 員は約1週間以内に読むことになる。その間,授業は,3 時間ほどでできる言語事項を中心とした学習を行った。
自分の選んだ本を代表に通そうともめる班もある中で,3 班はあっさり「感動・共感・テーマ性」という理由から
「悠」の推薦する『Little DJ』に決まる。意見の交流 もあまりなく,「いいね」で決まってしまった。
1班『ハッピーバースデー』(青木和雄)
2班『天国の本屋』(田中歩)
3班『Little DJ』(鬼塚忠)
4班『黄色い目の魚』(佐藤多佳子)
5班『楽園のつくり方』(笹生陽子)
6班『スウィング ガールズ』(矢口史靖)
7班『スイッチを押すとき』(山田悠介)
8班『星空』(流奈)
③本の紹介文って,何を書いたらいいの?
お薦めの本の紹介文を書こう (第4時)
教師:好奇心をかき立てることに主眼をおくのではなく,結 論やラストを知っていても,読みたくなるような本の 紹介文を書こう。
雄太:ラストを知っていても……読むのかな。
本の紹介文って何書けばいいんだろう。
(図3 雄太の紹介資料)
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「この続きをどうぞ読んでください」じゃないんだよ ね。
有里:みんな一緒になりそうじゃない?
班で選んだ本が,劇をつくる基の本として適している ことが伝わる紹介文を書こうと提案したが,子どもたち は「劇をつくる」という視点がわからないように感じた。
劇を観たことはあっても,創ったことがないのだから難 しいのだろう。ほとんどの子が書けない。三行ほどで筆 が止まっている子もいる。
そして,班で本を選ぶときコミュニケーションがほと んどなく,あっさり決まってしまった3班は,「本を選 んだ理由,劇に適していると納得した理由」が,ほぼ同 じため班員の紹介文がよく似た内容になりそうねと訴え ている。しかし,「悠」のアピールポイントは,班で選 ばれた後の方が増えている。「優美」の「家族の問題…
…」という視点を聞いて,自分の本にも当てはまると考 えたのだろう,アピールポイントに「家族の大切さがわ かって感動する」という文が増えていた。
教師は「優美」の「病気なのに希望を持って生きてい る主人公に共感できる」という文は言葉だけのような気 がしていた。憧れるのならわかるのだが……。でも班員 は誰もその部分について質問しなかった。「優美」が共 感していたのは放送部である自分とDJである主人公の みんなを喜ばせたいという思いではないかと教師は感じ ていた。
学ぶチャンスはいっぱいあるのに,コミュニケーショ ンがとれないとチャンスを逃してしまう。同じ班員の文 章だから遠慮があるのだろうか。それなら,発言すると きに遠慮しなくてもよい第三者の文章を使って,「紹介 文のいろいろな書き方」「本の魅力の見つける視点の多 様性」について,コミュニケーション活動を通して学ぶ 場を設定しよう。子どもたちの思考の流れを大切にする 上で,もうすぐ行われる育友会(PTA)行事の「親子 演劇教室」を活用することにした。
④紹介文が違う!おもしろい,そして難しい
『ベニスの商人』の紹介文から学ぼう
(第5,6,7時)
今年の「親子演劇教室」の劇は『ベニスの商人』(シ ェイクスピア)であった。そこで,本『ベニスの商人』
について3人の方(授業者も含む)に紹介文を書いてい ただき,それをテキストとして使用した。書き手の名前
は伏せ,「紹介文A,B,C」と子どもたちに提示した。こ
れらの3点の紹介文を比べ,各々の文章のよいところを 話し合っていった。
「本を劇にする上での魅力やお話そのものの魅力」と
「紹介文でどう表現しているか,その表現上のよい点」
を分けて考えさせた。授業の後半で,紹介文を書いた3 人は,「劇にする上の魅力」と「お話そのものの魅力」
について,各々どうとらえているか,子どもたちに共通 点と相違点を話し合わせ,自分たちの紹介文に活用させ ようと教師は思った。しかし,子どもたちは3つの文章 を読み比べるということが,まず難しいようで苦労して いた。更に「話の魅力」と「文章表現のうまいところ」
も思考の中で混じってしまい,苦戦していた。子どもた ちの顔からは楽しそうなやる気というよりは,難しすぎ るという疲れの表情が見て取れた。学びの質を高いもの にしようという教師の思いが,子どもの実態をつかむこ とをおろそかにし,子どもの学びから離れた授業をつく ってしまったのかもしれない。
そこで,1時間の予定だったが,2時間をかけてじっ くり行うことにした。大半の子どもたちはよく考え分類 するために意見を言い合っていた。いつしか3班も頭を くっつけて紹介文を読み,線を引いて考えていた。後に 書く振り返りを読むと,このときの子どもたちは話すよ りも考えることに重きを置いていたようだった。意見が 出されると,なぜ「劇にする上での魅力」の場所にその 意見カードが貼られるのかを考え,文章を読み直してい たことがうかがえる。
友司:先生,紹介文の文章表現の上手いところだけまず最初 に比べたい。
その後で,話の魅力について考えるのはどうですか。
生徒:「AとBの紹介文は,疑問で書き始めてそれを解決し ようとしている」このカードは「文章表現について」
の場所に貼るべきだ。
生徒:「大小いくつかの山場がある」このカードは「話の魅 力」だ。
ゆっくりみんなで区別していくうちに「わかってきた ぞ」と言う表情が子どもたちに見られ,「それは表現な んじゃないんか」と声を飛ばせるようになった。自分た ちが見つけた「紹介文のよいところ」というカードが,
とてつもなく難しい課題として自分たちを襲った。結局 2.5時間かかり自分たちが出したカードを分け終えた。
主体的に学ぶ「友司」は,「国語の後は腹が減る」と振 り返りに記載している。難しかったのだろう。
⑥この本の魅力が伝わるかな
紹介文の中に本の魅力を表現する (第7時)
自分が書いた紹介文の表現に,学んできたことを活か しながら,個人で紹介文を推敲した。
「自分が最初に選んだ本と,班で選ばれた本とに共通 点はないかを考え,その共通点を班代表の本の紹介文の 中に入れて書いてみよう。そうすると,代表の本の紹介 文の中で自分が選んだ本についても触れることができる からよい。」と,アドバイスしたが,その内容を入れる ことができたのは,クラスで1名だった。子どもたちは,
今学んだことを自分の紹介文に活かすことに集中してい たように感じた。
!橋 和代
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(図4 悠の紹介文 A追加部分)
(図5 雄太の紹介文 Bの部分参照)
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「悠」は,あらすじだけ書いてあった自分の紹介文に
「いろいろな視点から読める」という魅力を追加して書 いた(図4 Aが追加部分)。雄太は,「『ベニスの商人』
の紹介文C」の「話の筋は1本ではなく何本もの筋が織 り込まれていて各視点で話をみられる」という部分に納 得していた。そこで,自分の紹介文でもその視点での読 みを紹介していた。この雄太の紹介文には,「ラストま であらすじを全部書いてもいいのだろうか」という迷い は,もう見られない(図5 Bの部分)。
⑤『ベニスの商人』の劇を鑑賞する(その他)
『ベニスの商人』の劇を鑑賞する。(育友会主催 演 劇鑑賞 6月中旬実施)休み時間や日記での感想交流を 行った。いろいろな視点で劇を見られて楽しかったと,
紹介文での学習の意味付けを子ども自身が行っていた。
(3)本の紹介ポスターをつくろう 【表現】
①魅力を一言で表すと……
キャッチコピーを考え,本紹介ポスターをつくる
(第8時)
本の題名,作者名,そして班員5人の書いた紹介文と,
キャッチコピー,これらを使って本紹介ポスター作成し,
自分たちが選んだ本の読者を増やそうと考えた。教師と しては,紹介文の内容を読み取り,そこからつながりを 意識して,レイアウトできるとよいと思ったが,子ども たちは美的な感覚で配置していた。もうよく考えて満足 してしまったのだろうか。飽きてしまったのだろうか。
この時期,紹介文やポスターを読まなくても,子どもた ちは本をお互いに借り合い,読み始めていた。
②学んだことは何だろう
振り返る (第8時)
単元の後半,教師は子どもたちの学習意欲が低下した ように感じたので,教師である私と,子どもたちの学び の意欲の間にある認識の違いが知りたくなった。そこで,
自由に単元全体を振り返るのではなく,項目を挙げてそ れに応える形で,子どもたちに振り返ってもらった。
1.今回の授業を通して難しいと思ったことはなんですか。
2.その難しかったことをどうしましたか。
3.今回の学習で役に立ったと思ったことはなんですか。
4.班で選んだ本の紹介文を書くときに参考になったものや 参考になったことは何ですか。
5.紹介文を読むときに一番気になることは何ですか。
6.自由感想
この振り返りそのものも難しかったようだった。振り 返りを読んでいると,子どもたちは,学びの手応えは感 じていて,演劇のときに役立てようと思っているようだ った。紹介された本を早く読んで見たいという気持ちも 感じる。言葉には書かれていないが,振り返りを読んで いて感じることは,「こんなにしなくても本は読むよ!」
という子どもたちからのメッセージだ。教師自身も,文 章表現を練ること,意見を分類し分析すること,読み取 ること等たくさんのことを欲張ったために,単元を複雑 にしてしまったと反省している。学びを深めるとは難し い。
③紹介された本を読もう (その他)
教室に紹介文と本を設置し,読みたい本から読んでい く。
一言感想を書くノートを用意し,感想をメモしていく。
2.省察
(1)言語力の育成をめざして,読書活動を推進する 知識基盤社会を生きるために,子どもたちが身につ けておきたい学びとは何だろう。生じてくる問題を解決 することや,新しいことを創り出すことは,変化の激し い社会において避けられないことだ。これらの活動を支 えているのは「言語力」であると思う。
また,言語環境・メディア環境が激変する中,「PISA 調査」「全国学力・学習状況調査」など様々な調査が行 われている。その中においても読解力について取り上げ られ,言語力の育成の重要性について語られている。
「言語力は,知識と経験,論理的思考,感性・情緒等 を基盤として,自らの考えを深め,他者とコミュニケー ションを行うために言語を運用するのに必要な能力を意 味する」(言語力育成協力者会議)とある。これらをふ まえて考えると,言語力育成のためには,自ら本に手を 伸ばし,読書をする子どもを育てることが,まず大切な のではないだろうか。
自分とは何か,自分は何をしたいのかなど,子どもた ちが漠然と不安を抱えているこの時期に,読書を通して 客観的に自分を見つめたり,生き方の新しい視点を知っ たりすることは,意味のあることだと考える。このよう な本との対話のみならず,読書を通して感じたことを他 者と会話することによって,思考は更に広がり,そして 深まり,豊かなものになってく。子どもたちの会話の中 に自然に本の話題がわき起こり,思いを話し出すような 場面を見ることができたなら幸せだ。子どもたちは,本 を通して感じたこと知り得たことを「自分の言葉」に置 き換えて話す中で,漠然とした言葉の理解が,イメージ を伴う具体的理解になり,抽象的理解へと深まっていく と考えるからだ。
(2)3年間のカリキュラムのなかで,学びにつながり をもたせる
本校では,各自のテーマに基づいて研究したことを,
国語研究録にまとめる学習を,国語科のカリキュラムの 中心に置いている。テーマに基づいて研究していく中で,
分析を行い,考察としてまとめる。これらの継続した活 動による学びは,学年ごとの3回のサイクルを通して,
!橋 和代
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徐々に深まっていくことを目指すものだ。その国語研究 録作成の中で,私たちは,主に4つの学びを目指してい る。それは「追究するテーマそのものについての学び」
「追究した成果を論理的に書くという学び」「探究方法 や探究する力についての学び」「学び合いによって自ら の学びを高めていくという学習方法についての学び」で ある。
本単元は,このロングスパンの学びの中で3つの意味 があると考える。1つめは,読書を通して自分自身の視 野を広げたり,自分の考えを振り返ったりできることで ある。2つめは,自分の考えを他者に伝えるためにはど のように表現したらよいのかを学ぶことができることで ある。3つめは,用途に合わせて本を選択する視点を学 ぶことができ,今後の読書活動に活かしていくことがで きるということである。
また,日々の授業の学びを繋げることも意識している。
「雨の日と青い鳥」(光村図書)という教材文を使って,
「情景描写が語るものはなんだろう」という学習を行い,
その後,ドラマの一部から情景描写を入れてお話を書く という学習を行った。そして,「劇に適した本を紹介す る」という学習に繋げている。作家の情景描写表現につ いてみんなで味わった後,自分も作品の中で表現してみ る。その後の読書活動の中で,情景描写について着眼し て読む視点を持てるようになったなら幸いだ。実際,雄 太の紹介文(図5)の中にも,情景描写や効果音につい てふれられていることは,教師としてうれしいことだ。
(3)子どもの学びに必然性をもたせる
本校では,「総合的な学習の時間」のまとめの段階で ある第3学年で,クラス演劇をつくり,文化祭で発表す る。子どもたちはこの演劇創作を楽しみにしており,そ の思い出については,将来まで語り合うことが多いよう だ。この演劇を創る基になる本を3年生は5月頃に決定 する。ところが,子どもたちは3年生まで演劇を意識し て本を選んで読むことはなく,この時期に2週間ほど読 み続け,決定している。劇に適している本の視点につい ても全体で話されることは少なく,監督や脚本係など劇 創作の中心になる子どもたちの主観によることが多かっ た。
そこで,本単元において,自分たちが来年行う劇に適 している本とはどのようなものなのかを考え,推薦する 本を選び,その魅力について紹介する学習を展開するこ とにした。「来年,劇を自分たちで創る」という思いが,
子どもたちの学習に必然性をもたせ,前半の学びには意 欲をもたらすことができたと思う。ただ,本の紹介とい うだけならば,もっとシンプルな方がよかったかと今思 っている。あまりに欲張りすぎて複雑に授業を組み立て てしまった。子どもたちからわき出る学びの意欲によっ て必然性をもって学ぶという本校のめざす探究学習から は,ずいぶん遠いものになってしまった。
(4)言葉を通して他とかかわり,追求できる場を設定 する
「コミュニティは,コミュニケーション活動を通して はじめて形成されていく。しかし,コミュニケーション 活動は,コミュニティなしには成立し得ない。」クラス 替えをしてお互いのことを知ろうとしているこの時期,
コミュニティはまだできておらず,コミュニケーション 活動を通して学ぶことは困難を伴うものである。しかし,
それだからこそ,必然性がある内容で思いを交流させ,
探究するコミュニティを創っていきたい。本を読んで感 じたことや,考えたことを交流するコミュニケーション 活動の場を設定し,自分だけのために書き留めるのでは なく,友達と交流するために内容の選択や表現の仕方を 工夫して書き,読み合う学習を通して追究できるように したい。実際,コミュニケーションがあまりできていな い3班が,場を設けることにより,いつしか頭を寄せ合 い相談するようになり,無関心だった班員の作品から学 び合う姿は,コミュニティに向かって育ち始めた過程を 感じさせる。これからもあきらめず取り組んでいきたい。
また,この時期,作品中の主人公の思いや,変化する 姿と出会う意義は大きい。コミュニティ内の人とだけで なく,作品中の人や言葉とかかわる中でも,自分を知っ ていく体験をさせたい。
子どもたちが本選定の視点を話すとき,「感動」「共 感」という言葉を多く使うのは,子どもたち自身が欲求 しているからだと思う。
(5)子どもの学びを見取る
なぜ子どもの学びを見取る必要があるのか。本校の第 1次サブテーマ「子どもの学びを見取る」が決まる前後 から考えてきたことだ。
そして,「子どもの学びを見取る」ということは,本 校の研究主題「子どもの学びを拓く《探究するコミュニ ティ》」の「子どもの学びを拓く」のに役立てるために行 う教師の活動なのだということを,自分なりにつかみか けてきた。
見取ったことから教師が必要性を感じ,アドバイスを したり,場を設定したりする。私は今回の実践で,子ど もを見取れなかったのだろうか,それとも見取れたから 動きすぎたのだろうか。その両方を,今,感じている。
子どもたちは,「おもしろそうな本は読んでみたい」「お もしろいと思った本だから,みんなに紹介したい」と今 回の授業で素直に思っていたと思う。
そこに,教師の「教科としての学びの広がりと深まり を,子どもたちに,もたらせないだろうか」という思い が絡みすぎて,単元を複雑にしてしまった感がある。
子ども主体の授業の中に,教科としての質の高まりの 必要性を感じている。「こうするときっとこんなことが 学べる。」これらのアドバイスが,今回の実践において,
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学びを複雑化し、子どもの意識と教師の意識との間にず れを生んだように感じる。子どもが何を学びたいと思っ ているのかをつかみ,その要求する学びの内容を徐々に 高められるよう工夫していきたい。意識の面では,子ど もの学びに「必然性」を持たせることが,大きな鍵を握 っているように感じる。
参考文献
(授業を考えるに当たり,自分自身の見識を深めるため に,読ませていただいた文献)
・秋田喜代美・庄司一幸 編,読書コミュニティネッ トワーク 著 『本を通して世界と出会う』 北大路 書房,2005
・北畑博子 『いつでもブックトーク −構想から実施 まで8つのポイント−』,連合出版,2001
・『福井大学教育地域科学部附属中学校 研究紀要 第 35号別冊』,2007
・『福井大学教育地域科学部附属中学校 研究紀要 第 36号』,2008
A Practice of Promoting a Reading Activity to Raise a Linguistic Competence
Kazuyo TAKAHASHI
Key words :emotion , clear phrases and sentences , communication of ideas and opinions, linguistic, reading,
!橋 和代
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