個の学びをもとに協働で探究し,自己と社会を見つ め直す社会科の実践 : 幸せな未来社会をプロジェ クトする
著者 向当 誠隆
雑誌名 福井大学教育実践研究
巻 32
ページ 77‑85
発行年 2008‑01‑31
URL http://hdl.handle.net/10098/1649
1.学びのデザイン
(1)現代社会の特色
イミダス*1)に「現代を読み解くキーナンバーリスト」
として,「経済/産業」「各国情勢/国際化関係/日本政 治」「社会生活/健康」「テクノロジー/サイエンス」「文 化/ホビー」の5分野に分類された120項目が挙げられ ている。数値的からも,それだけ現代社会の特色は複雑 で変化の激しいものであることがいえる。
日本の発展を高度経済成長から今日までの約50年とい う時間的な限定でその変化を捉えると,高度経済成長か らの日本経済の発展によって,国民生活や意識は大きく 変化した。この間の科学的技術の進歩や国民生活,特に 衣食住の向上や国民の意識の変化は顕著であり,現代社 会が持つ特色につながる面が多い。この観点から現代社 会の特色を捉えるならば,「ものの豊かな社会」「情報に あふれている社会」「国際関係が多様化している社会」
「少子化社会」「高齢化社会」「男女共同参画社会」「格 差社会」「多文化社会」などが,キーワードとしてあげ られる。
(2)公民学習の導入としての位置づけ
公民学習の最初の単元である「現代社会と私たちの生 活」は,私たちが生きている現代社会の特色を理解する ことをねらいとしており,地理的分野及び歴史的分野の 内容と関連が深い。世界の中の日本の特色という地理的 視点や,高度経済成長以降の生活や社会という歴史的視 点を取り入れながら,公民的分野への導入となる位置付 けの単元である。
現代社会が持つ課題は,未来社会の抱える課題でもあ る。現代社会に生きる子どもたちにとっても,将来に関 わる重要な問題である。公民学習では,日本社会や国際 社会のしくみについて学ぶ。これらの学習は,現在およ び将来の日本を創っていく一員としての資質を養うこと をめざすものであるが,子どもたちにもこうした自覚と 意欲・関心を持って学習してほしいという願いから,本
単元を再構成した。現代社会の課題は,一言では語れな い。その解決は,簡単ではない。しかし,どの課題を最 優先で解決すべきかを,この段階で子どもたちが協働で 考えることは,未来社会のあり方を考え,頃絵から始ま る公民学習により実感を持って取り組むことを期待して,
本単元を構想した。
2.学びの姿
(1)私たちが生きている現代社会を見つめ直す(第1 時)
今日から始まる授業で,これからの未来社会がどうあ るべきかを考えていく学習を行っていくということを簡 単に教師が説明したあと,「私たちが生きている現代社 会は,どんな社会であるといえるだろうか」と教師から 問いかける。
敦子は,「周りに優れた技術がある社会」であり,具 体的には,機械・自動車・携帯電話などの生活に関する 技術やエコ技術があふれていると発表する。敦子は,総 合的な学習で学んできたエコ技術という言葉がここで出 てきたのではないかと思う。
ほかにも,「格差社会。それは資本主義社会における 差というイメージ。」「国際交流が多い。外国旅行や外国 人にいることに違和感がない。」といった特色も発表さ れる。また,地理的分野の学習の主題であった「物資が 豊かで安定した社会」といった意見や,「民主主義」「平 和主義」「自由(基本的人権)」といった政治的な内容も 出される。
子どもたちが自分たちの見聞からイメージされる現代 社会の特色を発表したあと,イミダスに記載されている
「現代を読み解くキーナンバー 数字は語る」5分野120 項目のリストを見て,興味があるものについて教師に質 問する。
「日本のインターネット人口」というリストを見て,
その人口は何人ですかという質問があり,教師が7,362 万人であると答える。また,「電力のCO2排出係数」に
個の学びをもとに協働で探究し,自己と社会を見つめ直す社会科の実践
〜幸せな未来社会をプロジェクトする〜
福井大学教育地域科学部附属中学校 向 当 誠 隆 教育実践報告
現代社会の特色を調査した子どもたちは,特色と同時に未来に起こりうる課題(問題点)も見つけた。
現代社会を生きる子どもたちにとって,未来社会は遠い存在なのかもしれない。しかし,その未来社会 を創っていくのは自分たちであり,そのためには現代社会の特色と課題をもとに協働でプロジェクトし ていく必要がある。「なぜ現代社会について学ぶのか」という公民学習の意義を子どもたちが実感でき るような,導入単元としての授業実践を試みた。
キーワード:現代社会の特色 幸せな未来社会 政治的視点 協働探究
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ついては,0.555㎏−CO2/kW時であると教師が答える。
ほかにも,「核兵器の数」「年間自殺者数」の数値につい ての質問や,「新元素 made in Japan」とは何かという 質問が出された。
有紀は,「衆院選当選女性比率」に注目し,教師に質 問する。日本は9.0%であり,過去最高ではあるが国際 的にはきわめて低いことを知る。
イミダスのナンバーリストから,現代社会の特色を新 たに発見することは困難であったが,有紀は「衆院選当 選女性比率」の低さから,「男女平等でない社会」とい う意見を全体の場で発表する。有紀は,女性の地位向上 に関心を持っており,こうした発言につながったのであ ろう。
(2)現代社会の特色を個人で調査する(第2〜4時)
視点を持って調査活動を行うために
第1時で出された現代社会の特色を,より簡潔に「○
○社会」というネーミングで教師が次のようにまとめた。
・物資が豊かな社会 ・安定した社会
・情報化社会 ・国際化社会
・格差社会 ・男女平等社会
・少子化社会 ・高齢化社会
・民営化社会 ・教育水準の高い社会 男女平等社会については,有紀から男女不平等社会で はないかという意見が出る。教師は,男女平等をめざそ うとしているということからこのネーミングにしたが,
現代社会が決して男女平等ではないと説明した。
また,「民主主義」「平和主義」「(基本的人権に関連し た)自由な社会」については,現代社会を大きく捉える という点,さらには自分たちの実生活により近いという 点から考え,今回の現代社会の特色から除外することに した。
上記の10の社会の中から1〜2つを選択し,個人でそ の社会の特色について調査を行う。調査の前にどのよう な資料があれば,その特色を明らかにできるかを全体の 場で共有した。
まず,教師が「物資が豊かな社会」では,給食の歴史 や発売された新商品の歴史を調べることでその特色が明 らかになることを説明した。その後,それぞれの社会の 特色を明らかにする視点(資料)を子どもたちは発表す る。その際,全国の新聞をまとめた冊子*2を参考にして いる。発表内容は以下の通りである。
・安定した社会→電化製品や自動車の普及
・情報化社会→インターネット・新聞・電話の普及,
マスコミに関する歴史
・国際化社会→在日外国人の数,多国籍企業数
・格差社会→ジニ係数*3
・男女平等社会→雇用や給料の男女差
・少子化社会→出生率の変化,人口ピラミッド
・高齢化社会→年金,死亡率の変化
・民営化社会→民営化された企業
・教育水準の高い社会→家計に占める教育費の割合,
進学率
子どもたちは,これらの意見を参考にして,個人で調 査活動に入る。
個人で現代社会の特色を調査する
個人で1〜2選択して,調査活動に入る。現代社会の 特色が高度経済成長期から現在に至るまでの変化の中で 見られるものが多いため,今回の調査では,特に次の2 点を教師から子どもたちに伝えた。
1つめは,現代の特色となるまでの歴史を調査すると よいということ,2つめは,家の人からの情報も重要な 資料とすることである。
子どもたちは,自分の興味があるものを選択し,調査 に入っていった。視点は教科書,資料集が中心となるが,
それらには記載されていない視点については,インター ネットによる情報収集を行った。
有紀は,次のような書き出しでレポートを書いている。
私は安定した社会=社会福祉がしっかりしている社会 と考えました。理由は社会福祉がしっかり行われている
=みんなが安定した生活を送れる社会ということで,金 銭的にも医療的にも安定した社会と思ったからです。
有紀は,「安定した社会」を社会福祉がしっかりしてい る社会と捉えている。そして,男女間の賃金格差や岩手 県の母子家庭の収入や就業状況,児童扶養手当について も調査し,最終的にこう結論づけている。
今は安定した社会でも,未来はどうなるかわからない。
有紀は,このレポートを書いている途中で,結論が問 題点(課題)に行き着いてしまうことを懸念して教師に 相談に来ていた。その結論は,有紀が調査した結果であ り,大事にするように教師から話した。
敦子は,「少子化社会」で子どもがなぜ減少するのか を調査する。敦子は,収集してきた1997年総理府調査の
「少子化の理由」の1位に「子どもの教育費にお金がか かるから」と書いてある内容に着目しており,勤労者1 世帯あたりの教育費とその割合の変化,1人前になるた めの教育費の合計の資料を収集している。
さらに敦子は,母親から聞いてきた話を次のようにレ ポートに書いている。
私の母は3人兄弟の末っ子だが,「昔は3人兄弟なん て当たり前だったし」,一人っ子なんてめずらしかった よ。今は未婚や結婚する年齢が高くなったり,子どもを 産む人もいない。それに産婦人科も少ないしね。」と語 向当 誠隆
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っていた。今,育児放棄などで○○ポストとかもあるし,
これも少子化に関わる問題だとは母は語っていました。
敦子も,資料だけではなく母親の言葉からも,少子化 は大きな社会問題であることを実感したことであろう。
(3)調査した内容を共有する(第5時)
10の現代社会の特色は,子どもたちが個人で調査して いるため,視点が同じなものもあれば異なっているもの もある。自分の視点を紹介し,自分にはない視点を獲得 することは,多様な視点で社会を見つめ合い自己を問い 直す社会科の学びそのものである。
子どもたちは,自分と同じ特色を調査したもの同士で グループになり,それぞれのレポートを紹介し合った。
2つの特色を調査した子どもがいたり,特色によっては 少人数のところもあるため,教師が次のようにグループ をつくり,子どもを割り振った。(括弧内の数字は調査 した子どもの人数で2つ以上の社会が混じっているグル ープには子どもが重なっている場合が多い。)
・少子化社会(8)
・高齢化社会(8)
・情報化社会(10)
・男女平等社会(6),格差社会(2)
・国際化社会(5),物資が豊かな社会(6)
・安定した社会(1),教育水準の高い社会(1)
地球環境問題の進む社会(2),時間に厳しい社会
(1)+民営化社会(1)
「地球環境問題の進む社会」と「時間に厳しい社会」
は,調査していく中で最初に出された10の特色には属さ ない内容になってきたため,教師の判断によりこの2つ も加えることとした。
この6つのグループのいずれかに子どもたちは入って,
子どもたちは,下のような表紙をつけたレポートをもと に,意見を述べ合い聞き合った。
(4)現代社会の持つ課題を探る(第6時)
自分が調べた現代社会の特色は,同時に多くの課題 も抱えている。この時間は,自分の調査した内容を中心
に,現代社会が抱える課題を明らかにしていった。
まず,自由に意見を出し合った。敦子は,「少子化社 会」を調査していたことから,子どもを産むと有利にな るような政策をするなど,国全体の問題として取り上げ るべきであると発表する。
次に,1つ1つの社会について絞りながら,課題を発 表し合った。「情報化社会」の課題については,次のよ うに発表が行われた。
敦子:インターネットによる犯罪が増加する。
亮治:文字情報が少なくなり活字離れが進む。
周太:コンピュータに依存しすぎてコミュニケーショ ン能力が低下する。
有紀:ゲームの影響で現実との区別がなくなり,犯罪 が増える。
澄代:ネットは世界中でつながっているので個人情報 の流出がある。
「情報化社会」については,子どもたちにも身近な特 色であり,課題について考えやすかったようで,発表は さらに続いた。
「少子化社会」の課題についての意見で,敦子はこう 発表をする。
教育費が高く,今の生活で精一杯。
敦子は,自分のレポートの内容から,ずっと教育にか かる費用の高さを課題として考えていた。
続けて,裕太はこう発表した。
女性の仕事と家庭の両立は困難であるという資料があっ た。国や企業の対策が甘いのではないか。また,女性の 地位が向上したことにより,一人でも生きていける女性 が増えたと考えられる。
裕太は,少子化社会の課題を社会構造の面から述べた レポートの表紙
課題を書いた敦子のワークシート
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有識者の考え*4を資料として収集していた。その中に書 かれていた「仕事と家庭の両立は困難」という内容をも とに自分の考えを述べている。また,同じ資料の中に,
「女性の著しい社会進出で,晩婚・未婚化したことによ る影響がある」という意見があった。裕太は,この意見 をもとにしていることがわかる。
この裕太の発表に対して,有紀は「それは偏見。」と つぶやいた。有紀は,女性の社会進出と少子化がつなが っていることに矛盾を感じたのであろう。このことにつ いては,大人でも意見が分かれるところであるというこ とを教師から説明した。
「格差社会」の課題については,詩央が調査した結果 をもとに発表した。
フリーターや非正社員の増加により税金も少なくなり国 全体もマイナスになる。また,15年間(1987〜2002)で 貧富の差が広がっている。それは特に若年層で大きい。
詩央は,第1時より格差社会に関心を持っており,新 聞の冊子の中にある新聞記事からジニ係数を見つけてい る。そして,自分のレポートをもとに格差社会の課題を 発表している。
そのほかの社会について,全体で発表された課題は以 下の通りである。
・高齢化社会…若者1人あたりの負担増,高齢者の就業 確保,医療費や介護費の増大,税負担
・男女平等社会…男性の育児参加の低さ(意識も),管 理職が少ない,賃金格差
(5)より豊かな未来社会をつくるために重要なことは
何かを考える(第7〜8時)
10の社会を10の領域に置き換えて考える
現代社会の課題から,いよいよ未来社会がどうあるべ きかを考えていく。より豊かな未来社会をどうつくって いくかを考えるとき,重要度の優先順位をつけて考える ことで,より自分の考えが明らかになる。
これまで10の社会について学んできたが,この10の社 会はたいへん大きな枠
で現代社会を象徴して いる言葉である。子ど もたちにとって,もっ と自分に身近な言葉で 表現したものとして,
内閣府が行っている国 民生活選好度調査*5の 領域(項目)を使うこ とにした。10の領域と 項目は,上の表の通り である。
それぞれの文言について,教師から説明を聞き,前時 で出された現代社会の課題を,教師が10のどの領域に入 るかを分類し,その表を子どもに配布した。
子どもたちは,この表をもとに,より豊かな未来社会 を創るには,どの領域を重要視すべきかを考えていった。
優先順位をつけるむずかしさ
10の社会を10の領域に置き換えたことで,子どもたち の思考はやや停滞する。そこで,ここに小さなことでも 構わないので,教師に質問に来るように促した。
有紀は,領域が全部つながってしまうのでどうしたら よいかという質問をする。それに対し,教師はそのつな がりを明記すればよいが,その一番最初の領域が最も優 先すべきものであると話した。
花代は,今すぐのことなのか,それとも未来のことな のかという質問をする。教師が今からと考えればいいと 話したところ,花代は大事だけど今すぐというものでは ないという。そこで,教師は自分が優先すべきであると
「格差社会」を調査した詩央のレポート
課題がどの領域に入るのかを明記した表 向当 誠隆
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考えているものを書けばよいと話した。
ほかにも,「(前時の)課題とどうつなげればいいのか」
「高齢化はどの領域なのか」という質問があった。この 質問は,10の社会から10の領域への置き換えがよく理解 していないということなので,教師がさらに説明を加え た。「市町村の国からの補助はどうなっているのか」「人 権につながるのはどれか」という細かな質問に対しても,
教師が説明した。
子どもたちは,より豊かな未来社会のために最も重要 であると思うものを1つ以上(◎),次に重要視すべき であると思うものを複数選んだ。
優先順位についてグループでまとめる
最優先で選んだ領域が同じもの同士が同じグループに なるように,新たなグループをつくった。(右のモニタ リング表参照)
グループになって話し合う前に,現代社会の特色と課 題をもとに優先順位を再度考えるよう教師から指示した。
最優先の領域を「収入と消費生活」と選んだ人たちが 集まった4班では,次のような話し合いが行われた。
彩加:市町村合併によって,国の補助が減り人口の少 ないところは苦しんでいる。
優衣:税の負担が?
彩加:人口が少ないと税負担が多い。
一伸:市町村で税負担が違う?違うから?
友実:貧乏なまちができる。
一伸:格差ができる。
「収入と消費生活」の中に,税負担の公平という内容 がある。4班のメンバーは,「収入と消費生活」を最重 要とする理由をこの税負担の公平という視点から考えよ うとしていた。彩加は市町村合併によって,国からの補 助という特典を受けられないところが出てきて,税負担 が変わってしまうことを学んでいて,4班の中で発表し賛 同を得ていた。
しかし,「収入と消費生 活」を最重要とする理由が さらにほしい4班は,教師 に市町村合併によって税負 担が増えるというのは正し いかどうかを尋ねる。「収 入と消費生活」の中には,
年金についての内容も含ま れているので,話は次のよ うに続いていった。
教師:年金がこれからど うなっていくかについては?
友実:年金の額は減る。もらえる年齢が上がる。場合 によってはもらえない。
教師:それをカバーするには?
友実:税を上げる。
彩加:年金額って下がるの?
友実:下がる。下がると老人が困る。家族も困る。
4班は,こうして「収入と消費生活」を最重要とした 理由を構築していった。
優先順位について全体で議論する
8つの班が,1番目と2番目の重要と考えた領域は次 の通りである。
・1班…「医療と保健」「教育と文化」
・2班…「教育と文化」「収入と消費生活」
・3班…「勤労生活」「公正と生活保障」
・4班…「収入と消費生活」「教育と文化」
・5班…「生活環境」「収入と消費生活」
・6班…「安全と個人の保護」「家族」
・7班…「家族」「教育と文化」
・8班…「公正と生活保障」「医療と保健」
1番目については,最初から重要であると考えたもの と一致した。2番目については,班の中でも意見が違っ ており,全体の場でほかの班に対する質疑応答を行った。
敦子:ほかの班は 生活環境とか収入と か現実的な課題なの に,7班は「家族」
「教育と文化」とい うほあんとしたもの を選んでいるがなぜ か?
泉美:家族を選んだのは高齢化と少子化に関係してい て,高齢者の増加は前時にも出てきたけど,介護などの 費用が増加してしまう。若者の負担も増えてしまう。生 きる楽しみがなくなり,やる気も出なくなる。教育は,
優先順位を書いた有紀のワークシート
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学力低下という問題があり日本の技術とかが低下してし まい,外国に相手にされないで日本の豊かさが失われて いく。
7班は,より幸せな生活ということに重点を置き,
人々の生活を結びついて考えていることがわかる。
歩美:3班の勤労生活については,私たちの班でもす ごく重要であると挙がったのですが,どうしても現代社 会と結びつける資料がなかったので,どれと結びつけた のか?
有紀:ニートとかが自分のなりたい仕事に就けば税収 入も上がり年金も解決する。なりたい仕事に就けばスト レスがなくなり,鬱病なども減る。伝統工業や農業など の消えていく職も残る。守っている文化も消えずに残っ ていく。職の幅が増えれば子どもたちも未来に希望を持 つことができる。未来に希望が持てるということで,日 本の中学生や高校生が偉くなりたというのがほかの国よ り低いが,好きな仕事だと上にいこうとするので勤労生 活は大切である。
有紀は,個人で優先順位を考える際,すべてがつなが っていると教師に尋ねてきている。ここでも,勤労生活 を発端として多くの領域に関わっているという発表を行 った。
詩央:「教育と文化」についてですが,私たちの班で も3対3に分かれ,「安全と個人の保護」とに分かれた。
「安全と個人の保護」を一番重要であると考えた6班に,
意見を聞きたい。
康信:今情報化が進む中で,情報による犯罪が増え個 人の情報が漏れ,犯罪に巻き込まれている可能性がある と思うと,不安になると心が暗くなる。周囲が幸せと思 っても,自分が幸せなことがまず重要であると考えた。
教師:なぜ詩央の班はこの2つで迷ったの?
周太:教育も大事だけど,それは安全が守られていた り安心した生活があっての教育である。…安全を支える 技術が大切でありそのための教育が重要であると考えた。
自分たちの班で迷っていたことを,ほかの班の意見を 聞くことで,さらに質の高い考えを持つことができる。
教育がすべてを支えているのかという疑問を残したもの の,議論により選んだ理由がより明確になった。
相太:僕たちの班でも「教育と文化」と「公正と社会 保障」でもめた。教育を受けた上で勤労や生活につなが っているので,あるステップのような気がして,それを 最重要とはいえないのではないか。
有紀:教育を受けた上でつながっていくもの。
この後,2005年のアンケート結果(1位「医療と保健」
2位「安全と個人の保護」3位「家族」)及び高校生・大 学生の学校教育期がほかのライフステージよりも「教育 と文化」の割合が高いということを教師から聞いた。「う ーん」「えー」という声をあげたり,頷くこどもたちも おり,自分たちと同じであったり違ったりしたことに対 してとても興味を持って聞き入っていた。
(6)より幸せな社会とはどんな社会であるかを考える
(第9時)
前時の話し合いを受けて,幸せな社会とはどんな社会 かについて,意見を出し合った。まとめると,次のよう になった。
・自分のやりたいことができる
・自分も人も幸せである
・意識が大事である
・すべての面でないと意味がない。
・他人とのつながりがあってできることである
・対策も講じられている
・国全体のことも考えるべきである
有紀は,幸せな未来社会を,まず自分のやりたいこと ができる社会であると考えた。そして,生活保障がしっ かりしている社会であるとも考えた。いずれも,家庭状 況や親の職業,学歴,障害などによって差別されずに熱 意や実力で就業できることを有紀は願っていた。そして,
この授業を終えて有紀は次のような感想を書いている。
人によってどれが「幸せ」なのか,幸せの定義みたい なものというのはすごく違っていて,本当にいろいろな 視点があるものだなあとしみじみ感じました。
幸せな未来社会というものを,領域の重要度で考える ことで,いろんな視点があることに気づき,それぞれの 領域はつながり合っていてどれもが解決すべき重要な課 題であることにも気づいていたことが,子どもたちの感 想から読みとれた。
向当 誠隆
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3.省察
(1)公民学習の導入の単元として
本単元は,前記したように,公民学習の導入として再 構成した。社会科がめざす公民的資質を育成するには,
一社会人としての教養としての知識・技能はもとより,
これから求められる協働での学びや創造的な思考力も授 業で実践することをめざしていく必要があると思う。初 めて公民学習を終え,次のような感想を子どもたちは書 いている。
亮治:今回の授業を受けて思ったことは,「公民」と いうのは「歴史」などよりも自分の考えというものが大 きく関わってくるということです。その点で,今回の授 業はとても大変だったし,やりがいもありました。学ん だことは,これからの未来を幸せなものにしていく上で たくさんの課題があるということです。この課題は,直 接僕たちにも関わってくることだと思うので,深く考え ていきたいと思いました。
康信:このように「どれが重要か」と考えることは,
まちなどをより幸せな場所にしていく上でもいいことだ と思うし,ここで話し合ったことはこれからの考えに役 立っていくと思うので力も入った。また,こんなふうに 社会(国)をつくるという感覚でできたので,公民=難 しい・ややこしいというイメージもなくなり楽しくつき あうことがでいたのではないかと思う。…一人一人の意 見が大事になっていくと考えているので,自分の意見を しっかり持って今後の授業に取り組みたい。
2人に共通していることは,公民学習が自分たちの身 近な内容であるということ,自分の考えをしっかり持つ ことが大事であるということであった。地理や歴史の授 業でも自分の考えをしっかり持つような授業を実践する ように心がけてきたが,公民学習ではより身近な問題と して意識することができるので,常に自分たちの身近な 問題であり,自分の考えを持って協働で議論していくこ とが重要であることを自覚しやすいといえる。また,教 養としての知識ではなく,主題を解決するために,学習 課題を考えるために知っておかなければならない知識は 何なのかを,必要性を持って自分で見つけ学んでいくこ とにつながっていくのではないかと考えている。
(2)幸せな社会を探っていくと
現代社会の特色と課題で終わるのではなく,そこから より幸せな未来社会をプロジェクトするという試みによ って,今の生活を見つめ直したり,未来をより現実的に 考えようとする子どもたちがいた。
泉美:私は幸せとは楽しいことやうれしいことという 認識しかしていませんでした。ですが,この授業を受け
て幸せというもののいろんな形を知ることができました。
普段あたりまえに暮らせる,それをあたりまえに感じら れることが幸せであり,それはいろんな工夫や考えの上 で成り立っているんだなと思いました。より幸せな未来 社会を考えていく上で,これ(調査したり議論したりし た内容)が私たちがつくっていかなければならない生活 なのかと思って大変さも感じました。
宗一:幸せな未来社会をつくるためにということで,僕 は健康が一番必要であると思っていたのですが,ほかの 人の意見を聞くと自分の健康も大切なことではあるが,
公正と社会保障での格差や教育で将来の人材を育てるこ となどすべて大切だと感じました。すべての領域は,国 の発展などに通じ1人1人という小さなところまで通じ ています。しかし,最終的に幸せな未来とは,自分たち 一人一人が幸せだと感じたときに来ると思うし,個人で 重要なものは違う。国民が求めるものが違うのだから,
自分自身で解決できるものはしないといけないと思いま した。
2人は,「幸せな未来社会」について自分で考え,ほ かの人の意見を聞くことで,多様な視点で見ていくこと の大切さを学び,より大きく捉えることができるように なっている。泉美は,社会が様々な領域で多くの施策が 行われているという共通点を見つけている。また,宗一 は,社会が国の発展というマクロ的な視野と一人一人と いうミクロ的な視野の両面を持っていることに気付いて いる。
豊かな未来社会をつくるためには,どの領域も重要で あり,そこには多くの努力が費やされていることに泉美 は気付いている。だからこそ,「大変さ」という言葉で 象徴されるように,自分たちがつくっていかなければな らないという実感と責任感が,泉美に湧き起こったので あろう。
(3)政治的な視点から実践を振り返る 本 単 元 の 第8時
(2007年6月1日)
は,教育研究集会の 公開授業であった。
授業内容は,10の領 域の中で重要である と思うものを2つ選 び,優先順位をつけ
るという内容のところである。この授業に,福井県の県 議会議員の方が授業参観に来られた。
そのあとで,授業の感想を伺ったところ,今日の授業 で行っていた領域の重要度に関する話し合いは,まさに 政治そのもであるとおっしゃっておられた。県民からの 要望・要請は本当に多種多様であり,限られた財政の中
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で,何から対処していくか,その優先順位をどうしてい くかを,私たちは行政と一緒に考えているという話をし ていただいた。
この話は,第9時の授業で子どもたちに紹介した。こ の話に関して,感想を書いている子どもたちがいた。
麻実:これらの授業を通して学んだこととは,社会を 考えていくためにはいろいろな視点から見ていかなけれ ばならないということだ。例えば,自分はこうしたいと 思っていてもほかの人にとっては不利(迷惑・不平等)
ということがあり,自分にとっての幸せであると思って いることでも,それがすべての人の考えることではない。
県会議員の方々やそのような立場にある人は,国民全員 の幸せを考えていくから,とてもたいへんだと思った。
答えのないものを考えるのはたいへんだけれど,すごく おもしろいと思った。
由哉:現代社会が様々な問題を抱えており,それを解 決するには様々な方向から見なければわからないと思い ました。自分は社会保障だと思いましたが,ほかの人は ほかの人なりに教育が大切だといったり健康が大切だと いったりしていました。でも,幸せという概念のもとは 同じでも人それぞれが違うのでそれは当然といえば当然 な感じです。その時代その時代の問題を様々な考えをも とにして解決していくのが政治なのかと思います。
現代社会が抱える多くの課題は,複雑に絡み合ってい るので,いろんな視点によって解決していくことができ るということを述べている。また,幸せという定義は個 人によって,あるいは時代によって異なってくるもので あるから,それを決めていくのが政治の役割であるとい うことも述べている。
この2人の共通した意見は,前述した県議会議員の方 の話と一致するところが多い。第8時の授業で行われた グループや全体での議論の場は,議会の場そのものであ るという議員の方のお話からも,この単元での学びが子 どもたちの将来はもとより,これからの生活の中でも生 かされていくことを期待する。
(4)個の学びの成長
有紀は,女性に関する不平等に関心を持ち,探究する 中で女性の地位向上を,収入そして就業へと視点が広が っていった。そして,より幸せな未来社会をつくるため には,「勤労生活」と「公正と社会保障」が最終的に重 要であるという結論を出した。
有紀は,領域の優先順についてもっと議論したかった と述べている。有紀は,いろんな考えがあることは興味 深いのだが,それを理解するためにもっと議論したいと いうことなのだと思う。1つのことからそれに関連して いくつかの視点も獲得して学びが広がっていく場合が多
いが,有紀のように自分の範疇を超えた内容についての 理解については,実践の中では不十分だったのかもしれ ない。
詩央は,格差社会と高齢化社会を調査し,幸せな未来 社会をつくるには,高齢者や障害者の福祉サービスを向 上させることが重要であると考え,「家族」を最重要と 考えた。そして,そのためには収入に応じた税金を納め ることが重要で,それによって格差社会をなくすべきだ と結論づけている。
詩央は,自分の調査した内容や現代社会の課題から,
高齢者に対する福祉の充実の必要性,そしてそれを負担 していかなければならない若者の就労に関する課題から 税負担のことを考えたのであろう。
そして,詩央は第8時の討論の中で述べた康信の意見 を聞いて,「安全と個人の保護」も重要ではないかと考 えるようになった。詩央は,「安全と個人の保護」につ いては,それまで全く眼中になかったという。
詩央や有紀のように,ほかの人の意見を聞いて改めて 気付くことは希なことではない。協働で語り合う場を十 分持ち,自己の学びを振り返ることを今後の実践でも気 をつけていきたい。それが,本校社会科の核となる学び である『多様な視点で社会を見つめ合い,自己を問い直 す』ことを具現化することである。
(5)多様な視点を獲得し,意欲的に議論するために 本単元の第7時から実践した,より幸せな未来社会を つくるための探究活動は,個で考え,同じ意見を持つ者 同士がグループをつくり,全体の場で議論するという一 連の流れで行われた。
社会科だけではなく,グループでの話し合いをどう全 体で生かし,共有するかということは重要である。とも すれば,グループでの話し合いで終わってしまい,どの ような話し合いが行われたのかが,子どもはもちろん,
教師もわからないままで終わるということがよくある。
話し合われた内容が共有できるような実践を考えていく 必要がある。
それならば,話し合われた内容や結論をすべて発表す ればよいのかというと,決してそれがよいというもので はない。意見を発表すれば,議論がおこるというもので はない。本実践では8つの班があり,もし8つの班のす べての意見を発表し続けたら,その時間を考えても,聞 くことの集中がなくなるであろう。また,あまりにもほ かの意見が多く,何をどう話せばいいのかがわからなく なってしまう。そこで,ほかの班に質問するという形を とって,意見発表を引き出すようにした。
この方法は,話し合いの共有化という点では有効な面 を持つが,グループの話し合ったことを再現するだけに とどまるので,視点が広がったり深まったりするという 面,そして議論に対する意欲という面では弱い。本実践 のグループでの議論においても,優先順位の最上位を共 向当 誠隆
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有している者同士であるが故に,自分たちの意見をグル ープの中で闘わせるというよりは,意見の集約であった ように思う。
子どもたちが多様な視点を獲得し,さらには意欲的に 議論する場をどう保障していくかは,本校社会科の大き な課題である。
注
*1…『イミダス2007』 集英社
*2…ニホンコミック発行「切り抜き速報 社会科版」
*3…イタリアの統計学者ジニが考案した,社会集団の 中に存在する所得,資産分配の格差を示す指数。
*4…岐阜県総合政策課が主催。2004年6〜7月に有識
者50人に少子化についてインタビューした結果。
*5…内閣府国民生活局による調査。国民生活政策立案 のための参考資料とするため,国民生活の様々なニ ーズや満足度等,人々の主観的意識についての調査。
15歳〜75歳未満。標本数3,000人。調査期間は2006 年1月25日〜2月26日。
参考・引用文献
福井大学教育地域科学部附属中学校(2004)中学校を創 る 東洋館出版
福井大学教育地域科学部附属中学校(2007)研究紀要 第35号別冊社会科
中学校社会科指導展開事例集−公民 東京法令出版
Practise of social studies classes in which students inquire collaboratively from their own studying and reflect themselves and their society.
〜The students build up their own future society.
Seiryu KOTO
Key words: the destinctive features of contemporary society , a fortunate future society , a political view , collaborative inquiry
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