オーストラリアの上場不動産投資信託
(LPT:Listed Property Trust/図表 1参照)
は、時価総額が1980年代後半に、約50億ド ル(約4,000億円)だったものが、90年代に急 速な拡大が図られ、2001年度末で約430億ド ル(約3兆4,000億円)までに達している( 1 オーストラリア・ドル=79.5円で換算。以下、
同じ。/図表 2 参照)。
こ の よ う な 急 速 な 拡 大 の 背 景 と し て 、 1993年から1995年にかけて、オフィス、シ ョッピング・センターといった特定の用途 に特化したLPTが登場し、アセット・アロ ケーションを考える投資家の好評を得たこ と、1996年から1998年にかけて、生命保険 会社等の金融機関が、財務体質を改善する
ために、自己保有物件でLPTを組成するよ うになったこと等が語られるが、それに加 え、LPTの真摯な情報開示の取り組みによ り投資家の信頼を獲得できたことが重要な 要素として強調されている。
わが国においては、平成15年度税制改正 において、J-REITに対する個人配当課税の 簡素化・軽減等が措置されたところである が、今後、J-REIT市場を拡大していくため には、J-REITに対する投資家の信頼を獲得 していくことが何よりも重要であると考え る。このため、今般、(社)不動産証券化協 会と連携してオーストラリアLPTの情報開 示に焦点を当てて、その仕組みや実態等に ついて現地調査を行った。訪問先は、
・オーストラリア証券投資委員会(ASIC)
オーストラリアLPTの 情報開示について(調査報告)
図表1 LPTの仕組み
不 動 産
カスタディアン
R E
ASIC
投資家
(注)カスタディアンの設置はREの自社純有形資産が50万ドル未満の場合 法準拠委員会の設置はREの外部取締役が半数に満たない場合
(出所)金城法律・会計・ビジネス・コンサルタンツ 登記上のオーナー
スキーム銀行口座管理
カスタディアン 契約
マネージャーとして 資産運用・管理
投資家に対し、
単独法定責任を負う
ライセンス取得 法準拠プラン・定款
・目論見書の登録
運営の監視
法準拠委員会
国土交通省総合政策局不動産業課不動産投資市場整備室
前 編
・オーストラリア証券取引所(ASX)
・プロパティ・インベストメント・リサーチ
(民間調査機関)
・プロパティ・カウンシル・オブ・オースト ラリア(不動産関係業界団体)
・ジェネラル・プロパティ・トラスト(LPT 運用会社)
・ウエストフィールド・トラスト(LPT運用 会社)
・金城法律・会計ビジネスコンサルタンツ である。
以下では、訪問先でのヒアリングで聴取 した生の情報も適宜折り込みつつ、オース トラリアLPTの情報開示の取り組みについ て解説を行うこととする。
2.LPTの情報開示の制度
(1)制度の仕組み
オーストラリアでは、日本の投信法のよ うにLPTを規制している個別法はなく、法 人全般を規制する会社法により規制が行わ れている。このため、会社法における情報
開示規定は、基本的にすべての会社にも当 てはまるような抽象度の高いものとなって いる。他方、上場会社を対象に効力を有す る規則として、オーストラリア証券取引所
(ASX)の上場規定があり、場合によっては 会社法より水準の高い情報開示を求めてい る。いずれにしろ、会社法、上場規定およ びそれぞれの指導書が一体となって、LPT の情報開示を規制している(図表 3 参照)。
LPTが他の一般の会社と同じ規定で規制
(出所)オーストラリア政府・統計資料より作成
(百万ドル)
50,000 45,000 40,000 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000
―
92年9月 93年9月 94年9月 95年9月 96年9月 97年9月 98年9月 99年9月 00年9月 01年9月 Listed Property Trust Unlisted Property Trust Property Trust 合計
図表2 LPT時価総額の推移
図表3 LPTの情報開示制度
豪州会社法 Corporations Act 2001
LPT
上場規定 ASX Listing Rules
ASIC会社法 指導書 ポリシー・ステートメント(PS)
プラクティス・ノート(PN)
ASX上場基準 指導書 ガイダンス・ノート(GN)
されることについては、オーストラリアの 行政当局はとくに奇異に感じていないよう である。とくに、情報開示については、事 前に一律に細かく規定するのは適当でなく、
まず、大まかな方針のもと会社から書類を 出させ、投資家の観点からチェックすると ともに、水準の高い書類については推奨例 として開示するなど、漸進的なやり方で改 善を図っているとのことであった。
LPTは会社法、上場規定に従って、必要 な 書 類( 目 論 見 書 ま た は P D S < P r o d u c t Disclosure Statement>、年次報告書、適時 開示書類等)を、オーストラリア証券投資 委員会(ASIC)とオーストラリア証券取引 所に提出する。オーストラリア証券投資委 員会は提出を受けた書類をデータベース化 し、一般に有料で提供している(ただ、最 近、各LPTでの開示に移行させているよう である)。また、オーストラリア証券取引所 は提出を受けた書類を同日中にインターネ ット等を通じて一般に開示している。
(2)目論見書またはPDS
(Product Disclosure Statement)
日本の場合と同様に、新規の株式を発行 する場合には、投資判断に必要な情報を掲 載した目論見書を作成し、開示しなければ ならない。会社法では、目論見書の内容は 原則として、「投資家や投資のアドバイザー がその株式に関する権利義務を検討するに 要するすべての情報」とされているが、具 体的な開示内容については規定していない。
このため、たとえばLPTの目論見書につい ても、賃料、契約期間等、個別の物件にか かる賃貸借契約の内容まで出しているもの から、そうでないものまでバラバラな状況
にあるとのことである。
目論見書については、2002年 3 月にFSR 法(Financial Service Reform Act)という法 律が施行されて、会社法の改正(第 7 章の 部分を追加)が行われ、すべての金融商品 を同一の基準で比較できるよう、従来の目 論見書に代えて、PDS(Product Disclosure Statement)という商品説明書を作成、開示 することとなった( 2 年の移行期間あり)。
ただ、LPTはもともと情報開示が進んでい るため、これまでの目論見書と情報開示の 水準において大きな差異は生じないとの関 係者からのコメントが多かった。調査時点 で入手できたのは、非上場プロパティー・
トラストのPDSのみであったが、そのなか の物件情報の主要な部分を示すと図表 4 の とおりになる。
(3)年次報告書
LPTが定期的に作成、開示しなければな らない書類として、年次報告書と半期報告 書がある。
会社法では、年次報告書と半期報告書で
「財務報告(Financial Report)」「運営報告
(Directors Report)」を掲載することになっ ている。「財務報告」では、財務諸表やその 注釈、取締役の宣言(財務諸表等が法令に 従い、真実・公正である等の宣言)が記載さ れる。また「運営報告」では、1 年間の運営 のレビューと結果、重要な変更事項の詳細 のほか、年度終了後に起こり、将来重大な 影響を及ぼす事項の詳細、将来起こり得る 運営上の進展と結果、配当額、配当予定だ ったが支払われなかった額、取締役名、役 員等に支払われた報酬、REに支払われた報 酬、今年度発行された株式、年度末の資産
の評価額等(半期報告書では、半年間の運 営のレビューと結果、取締役名のみ)が記 載される。
上場規定では規定で示された書式に従い、
同一の様式で、年次報告書、半期報告書を 作成することになっている。報告書には、
会社の経営状態、主要株主構成、会社のガ バナンスに関する記述等も記載される。
以上のような会社法、上場規定等に基づ き作成している年次報告書について、物件 情報の主要な部分の実例を示すと、図表 5
(ジェネラル・プロパティ・トラストの例)、 図表 6(ウエストフィールド・トラストの例)
のとおりである。なおオーストラリアでは、
どちらかというと、ジェネラル・プロパテ ィ・トラストが情報開示面で進んだ取り組 みをしているとの評価があるようである。
(4)適時開示
会社法では、上場した会社は上場規定に 従い適時の情報開示を行わなければならな いとされている。上場規定の 3 - 1 条では、
「分別のある平均的な投資家が考えて株価に 影響があるだろうという重要な情報を、上 場した会社は、その状況が発生した時、た だちに、オーストラリア証券取引所(ASX)
へ報告しなければならない」と規定されて いる。また具体的な例示として、
・LPTの他の銘柄の買収、他の銘柄への売 却の意思
・大きな物件の購入・売却(とくに、全資産 5 %以上の金額のもの)
・市場公開してきた利益リターン予測値の 大幅な変更
・配当予想値・配当決定値 図表4 PDSの事例(FKP)
No of Tenants
% Term Remaining Avg Lease
Expiry Avg Initial
Lease Term Occupancy
100%
20 7.25years 6.6years 91%
Tenant Rent Reviews p.a. Options
Sunwater Fixed 3.5% 1×4years
Byvan(Qld)Pty Ltd Fixed 4% None
Napier & Blakely Pty Ltd Fixed 4% None
Kings Parking Pty Ltd Fixed 3.5% None
Dibbs Barker Gosling Fixed 4%. 1×5years market in 2006
Hall Chadwick Pty Ltd CPI min, 3% max to 1×2years 2005, market
in 2006, CPI min, 2%
max remainder Occupied
Area(sqm) 2,901
1,067 967 91spaces
1,882
1,834 1,853
FKP Limited 1×6years
% of NLA
6.9%
6.2%
n/a 18.7%
12.1%
11.8%
12.0%
Avg Tenancy Area
776sqm
Lease Expiry March 2009
October 2008 October 2006 October 2011 December 2011
October 2009 September 2007
Fixed 4%.
market in 2004 Key tenancies include:
(出所)FKP limited「FKP Commercial Property Trust No.1 Product Disclosure Statement」
図表5 LPTの情報開示例(GPT)
(出所) General Property Trust「2002 Full Annual Report」