表1 J-REIT6銘柄の株価、予想配当利回り、時価総額 銘 柄
NBF JRE JRF OJR JPR PIC
672 647 616 517 266 505
4.2%
4.4%
4.7%
5.5%
4.7%
5.6%
1,886 1,458 939 637 770 300 株価(6/20、千円) 予想配当利回り 時価総額(億円)
※予想配当利回りは、直近の予想配当金を6/20時点の投資口価格で除したもの。
※時価総額は発行済投資口数に6/20時点の投資口価格を乗じたもの。
― 制度上は会社型投信だが、
実態は上場株というファジーな位置付け
井出不動産金融研究所 不動産金融アナリスト
井出 保夫
銘柄すべてが上場来高値を更新し、NBF、
JRE両銘柄の投資口価格はともに70万円/
口の大台に迫る勢いを見せた。
4 月 1 日から 6 月20日までの東証REIT指 数の上昇率(配当含む)は約12%となり、J-REIT 6 銘柄の時価総額は約5,990億円となっ た。ちなみにこの間の東証株価指数、日経 平均株価はともに約13%上昇している(表 1 参照)。
また、米国REIT相場も株式市場全体の地 合いが好転したのを受けて、6 月19日時点 のRMS(モルガンスタンレーREITインデッ クス)の年換算総合利回りは11.9%となり、
予想配当利回りは6.5%となっている。米国 はいまだにデフレ懸念を払拭しきれていな いが、REIT相場への直接的な悪影響はまだ 顕在化していないようだ(表 2 参照)。
■■大証がMSCI先物に「待った」
市場が密かに期待しているのは、J-REIT がMSCIに採用された余勢を駆って、東証株 価指数(TOPIX)にも採用されることだ。
もしもこれが実現すれば、一昨年米国REIT が苦節30年で初めてS&P500に採用されたよ うに、J-REITもエスタブリッシュメントの 仲間入りを果たすことができる。少なくて もREIT関係者は皆それを期待しているに違 いない。
ところが、早々にこうした期待感に冷や 水 を 浴 び せ る よ う な 出 来 事 が 起 こ っ た 。 MSCI JAPANインデックスの先物を上場し ている大阪証券取引所が、J-REITを採用し たインデックス先物取引に待ったをかけた のである。その理由は「J-REITは株ではな いから」という素っ気のないものだった。
表2 米国株式市場とREITのパフォーマンス (単位:%)
① DJIA
② S&P500
③ NASDAQ
④ Russell2000
⑤ RMS
▼ 9.4
▼ 9.1
▼39.2
▼ 8.1
△26.8
▼ 7.0
▼13.4
▼21.0
△ 2.5
△15.5
▼16.8
▼23.4
▼31.5
▼21.6
△ 3.6
△10.0
△13.0
△23.4
△17.5
△11.9 2000年 2001年 2002年 2003年
※2003年のパフォーマンスは6/19時点の年換算。
※①Dow Jones 30-Stock Industrial Average(俗にニューヨークダウと呼ばれる、世界で最も影響力が大き い株価指標。ダウジョーンズ通信社が、1928年10月から30種平均として公表を始めたもの。ニューヨーク証 券取引所に上場する各セクターを代表する30の優良銘柄を対象に算出される)
※②S&P500(ニューヨーク証券取引所、アメリカン証券取引所、ナスダックに上場している金融、公共事業等を 含む幅広い業種から選ばれた上位500の大型株で構成される。単に時価総額を基準に選ばれるのではなく、米 国株式市場を代表する主要産業のなかからリーディングカンパニーを選出するのが特徴)
※③Nasdaq Composite Index(ナスダック市場に上場するすべての株式を網羅するインデックス。ハイテク関 連株が多いことで知られ、代表銘柄にはマイクロソフトやインテル、シスコシステムズ等の有名企業がある)
※④Russell 2000(フランク・ラッセル社が毎年5月末に米国株9000社のうち時価総額上位3000社の株式をラン ク付けするが、そのうち下位の2000社でつくった株価指数がRussell 2000と呼ばれ、米国小型株の代表的な 指標とされている)
※⑤Morgan Stanley REIT Index(RMS/RMSはサンプル数107で1996年から作成された代表的なREITイン デックス。配当益を加算した総合利回りとなっている。また、当初からヘルスケアREITを対象から外してき たが、2001年からサンプルに追加)
その根拠は、証取法の証券先物取引等に関 する内閣府令では、株以外の金融商品を含 む指数の先物取引を認めないと定めてある からだという。そもそもJ-REITは株なのか、
それとも投信なのかという議論は、投資家 の間では今も続いているわけだが、日本で はそのポジションが曖昧なまま今日まで来 てしまったのである。まさかそれが先物取 引の停止につながるとは、MSCIサイドも予 想できなかったのではないか。
J-REITは実質的に上場株とほとんど同じ 金融商品である。違いといえば、J-REITが 発行する有価証券が、投資法人という日本 独自の会社(ペーパーカンパニー)を発行体 とするエクイティ(投資口)という点だけだ。
課税上も上場株とほぼ同等に取り扱われて いるし、コーポレートガバナンスにおいて も株式会社に見劣りする面は少ない。むし ろグループ企業間で株式の持ち合い等をし ない分、J-REITの方が優れているともいえ る。投資家もそれを十分に納得したうえで、
株式投資と同等にJ-REIT投資をしているは ずだ。
もしもJ-REITのエクイティに不利な点が あるとすれば、銀行、生損保等の機関投資 家が銘柄選定をする際に、J-REITを基本的 に株ではなく、「その他の金融商品」にカテ ゴリー分けしていることくらいである。機 関投資家はこうした定義を変えない限り、
株でも債券でもないJ-REIT投資には積極的 になれなかったわけだが、最近ではその定 義を『株と同等』の扱いに変更してJ-REIT をポートフォリオに組み入れ始めたところ もある。4 月のJ-REITの手口を見ると、個 人は売り越し(▼80億円)なのに対して、銀 行(△66億円)、生損保(△12億円)はいず
れも買い越しに転じているし、5 月には生 損保の買い越し(△23億円)に加えて、信用 金庫や政府系金融機関の買い越し(△24億 円)が目立ってきたのがその証拠である。
銀行のなかでも地方銀行の積極的な姿勢が 目立ち始めたというが、彼らは従来から投 資においても横並び意識が強く、今回J-REITに投資する際も一斉に買い出動したこ とで、相場の急騰を招いたといわれている。
■■米国REITからも苦情が
MSCI JAPANインデックスがJ-REIT 2 銘 柄を採用したことで、大証はやむなく、「本 年 5 月21日から株価指数先物取引の対象と してのMSCI JAPANインデックスが関係法 令に適合するまでの間、先物取引を停止す る」ことを決め、今後は「株価指数先物取引 の対象としての同インデックスが関係法令 に適合し、取引を再開できるようMSCI社と の協議に加えて、海外の状況等を調査の上、
関係当局への要望等を行っていく」とコメ ントした。何とも後味の悪い対応である。
ところで、本場アメリカのREIT業界か らも、REITの投資商品としてのポジショ ン の 曖 昧 さ に 反 発 の 声 が 上 が っ て い る 。 NAREIT(全米REIT協会)は日本の投信協 会に対して、REITを投信ではなく通常の上 場株式として認めるよう要請したという。
この背景には、主に米系投資銀行が運用に 悩む日本の年金基金向けに、米国REIT投資 を売り込む動きが活発化しているという事 情がある。日本の年金基金はREITの投資判 断に際して、当然過去のパフォーマンスの 優劣等を加味して投資の可否を決めること になるが、それよりもはるかに優先される のが、そもそもREITが上場株であるのか、
それともそうでない投資信託の一種なのか
という制度上のカテゴリー分けである。場 合によってREITは初めから投資対象になら ないと見なされかねないケースも想定され るのである。
米国REITは日本の投信法のような法制度 で成り立っているわけではなく、あくまで 税法上の基準をクリアした不動産会社が、
法人税非課税という税法上の特典を受ける ことができ、それをREITと呼んでいるに過 ぎない。つまり、REITは税法上の概念に過 ぎず、あくまでも株式会社であることに変 わりはないのである。したがって、現在ア メリカの証券市場に上場している174銘柄
(NY証券取引所135、アメリカン取引所31、
ナスダック 8 )のREITは、SECが定めた厳 しい上場基準をクリアして専門市場ではな く一般市場に上場を果たしているのである。
米国REITの流動性がJ-REITよりも高い水準 にある理由の一つがここにある。
現行の日本の投信協会の自主ルールでは、
運用会社がJ-REITを組み入れた投信を創設 する場合には、J-REITが上場されていても 純資産全体の 5 %までしか組み入れること ができない。従来のルールでは、投信が他 の投信を組み入れる場合は、投資対象は証 券投資信託に限定されていたため、不動産 投信を組み入れることができなかったが、
それでも改正により 5 %まで組み入れ可能 になったばかりである。しかもJ-REITだけ でなく、自国では上場株扱いの米国REITま でもが同様に規制されてしまうのである。
J-REITは紛れもない上場市場を持つ有価証 券であり、実質的には投信よりも上場株に 近い投資商品である。これを通常の証券投 資信託に組み入れて何の問題があるのだろ
うか。前述したような証取法の壁で、J-REITを組み込んだインデックス先物が取り 引きできない状態になるのも考えものだが、
自主規制団体の投信協会が実態にそぐわな い自主ルールをそのまま続けているという のも大きな問題ではないか。
J-REITの自主規制団体は投信協会という ことになっているが、不動産投信が事実上 証券投信とは違う商品である以上、いつま でも投信協会の自主ルールに身を任せるの は問題が多いのではないか。証券会社の多 くは伝統的に大型の株式投信や公社債投信 を優先しがちであり、新顔で複雑、かつ時 価総額が6,000億円そこそこしかない不動産 投信を積極的に手がけるつもりはないとい うのが本心だろう。今回NAREITから発せ られたクレームは、投信協会の自主ルール の変更はもとより、投信協会に代わるJ-REIT専門の業界団体の設立を促す契機にも なるのではないか。
* * *
なお、本レポート脱稿後に、投信協会はJ-REIT を運用対象にしたファンド・オブ・ファンズ解禁に 向けて、自主ルールを改正することを 7 月18日に 正式に決定すると発表した。改正内容等について は現時点では不明であり、したがってその詳細を レポートすることはできないが、後日本稿で追加 的なレポートを提供したいと考えている。
●1962年東京生まれ、85年早稲田大学商学部卒業後、秀 和、オリックス、シンクタンク等を経て不動産金融アナリ ストとして独立。1999年に井出不動産金融研究所を設立 し、主に不動産会社や金融機関向けの証券化コンサルテ ィングや実務者向けの不動産証券化スクールの運営、不 動産金融レポート発行等による情報提供を手がけている。
主な著書として、『REITのしくみ』『証券化のしくみ』(以 上日本実業出版社)『不動産金融ビジネスのしくみ』『不 動産は金融ビジネスだ』(以上フォレスト出版)等がある。
『井出保夫の不動産証券化スクール』を随時開校中。
http://www.hi-ho.ne.jp/idex/
いで・やすお