第 5 章 透過型 HMD における画角の影響の分析
5.2 VR ピッキングシステムの開発
5.2.1 表示画角の影響の検証方法
本研究で検証する表示画角は,人間の安定視野角(水平画角)75度(対角約 94度)以 上を対象とした.しかし,市販されているAR向けの透過型HMDの表示画角は,最 大で40度程度(対角)であり,本研究で検証対象としたい表示画角には至らない(図
5.2).そこで,本研究では,水平画角 75度以上の視野角を再現可能な表示画角の広
い不透過型のVR用HMDを使用し,VR環境により倉庫環境を再現した(図 5.3).
また,倉庫環境上に,複数のAR表示画角を再現し,各画角でのAR指示によるピッ キング作業を行い,表示画角の影響を明らかにする.
図 5.2 安定視野とHMD表示画角
図 5.3 VRにより再現した ARピッキング環境
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5.2.2 VRピッキングシステム
倉庫のピッキング作業環境を再現したVR環境で,複数の表示画角によるAR作業 指示を提示するVRピッキングシステムを開発した.実験では,4章の評価実験と同 様のマルチピッキング作業を行い,複数の表示画角における作業生産性への影響,作 業ミスへの影響を評価する.
VR環境で,作業者に提示するARのUIを図 5.4に示す.4章のARピッキングシ
ステムのUI(図 4.13)をそのまま再現した.VR環境内に,表示画角に応じた表示範囲
を示す枠を表示し,その範囲内にピッキング対象の間口のある方向を示す矢印,ピッ キング対象の間口を示す枠,ピッキングする商品の個数,ピッキング対象外の間口へ の非該当のマークを表示した.
図 5.4 VR環境でのARのUI
比較検証を行う表示画角(対角)は,一般的に市販されている AR向け透過型 HMD 同等の23度,市販されているAR向け透過型HMDの最大画角の40度,4章でピッ キングに必要と推測された70度,実験に使用した不透過型HMDで再現できる最大 画角である110度とした(図 5.5,図 5.6).表示アスペクト比は16:9とした.
図 5.5 比較検証を行う表示画角
76 23度 40度
70度 110度 図 5.6 各画角の AR表示イメージ
物流倉庫で扱われる商品の保管棚のサイズは様々であるため,実際に物流倉庫に ある一般的な棚のサイズの小さいものから大きいものを網羅するように1間口のサ イズは,40×45㎝(間口サイズ大),35×20㎝(間口サイズ中),22×15㎝(間口サイ ズ小)の3サイズの間口をVR環境で再現することとした.
図 5.7 再現した間口サイズ(大・中・小)
77 商品を回収するカートは,4つの仕分け先用の間口を用意し,各間口サイズは20
×20とした(図 5.8).
作業者に提示するテキスト及び AR指示の UIは,評価実験と同じものを使用す る.被験者は,テキスト指示及びAR指示,HMDの表示画角 4種類と間口サイズ 3 種類の全組み合わせの15パターン(表 5.1)でピッキング作業を行う.テキスト指示 については,表示領域の違いは文字の大きさ以外の差異がないため,23度のみで実 施した.
図 5.8 保管棚(間口小)とカートのVRイメージ
78 表 5.1 評価した表示パターン
指示 画角 サイズ 指示 画角 サイズ テキスト 23度 大 AR 70度 大
23度 中 70度 中
23度 小 70度 小
AR 23度 大 110度 大
23度 中 110度 中
23度 小 110度 小
40度 大
40度 中
40度 小
5.2.3 システム構成
本研究では,VR環境の提示のために,視野角(対角)110度の不透過型のHMDで
あるVIVEPro(HTC corporation)[61]を使用した.VR環境内での,ピッキング作業
時の商品やカートの移動などの操作のために,VIVEコントローラを左右の手に装着 した (図 5.9).
図 5.9 実験設備
右手のコントローラでは,商品をつかんで置く作業のため,ボタン押下で商品をつ かみ,ボタンを離すことで,商品を置けるようにした.同様に,商品回収のカートに ついても,ボタンの押下によってつかみ,移動可能とした.左手のコントローラでは,
79 手のひらを模した仮想の箱を保持できるようにし,右手のコントローラで回収した商 品を一端まとめて左手の箱内で持ち,カートに移動してから,まとめてカートに商品 を配置できるようにした.右と左のコントローラは被験者の利き手により変更可能と した
作業シナリオを示す.まず,(1)HMDにて商品を取り出すピッキング場所を AR表 示で指示し,(2)作業者は,指示されたピッキング場所を特定し,右手のコントローラ 操作により,商品を取り,左手で保持した箱に移動させ,(3)配布先に応じたカート上 の商品の置き場所を AR表示で指示し,作業者は左手で保持している箱からカートへ と商品を置き,配布完了を示すために左手のボタンを押下し,(4)次のピッキングへ移 る,という作業を,配布先への商品取得がなくなるまで繰り返す.