以上の3章から 5章の取り組みから,物流倉庫でのAR活用の実用性について分析 し,整理する.
3 章で行った分析作業と,4 章および 5 章で行ったピッキング作業について,使用 デバイスの条件とAR活用の条件を整理した(図 6.1).
図 6.1 各作業の条件の整理
これまでの取り組みを,使用するデバイスと,作業が移動を伴うかどうかで整理し た.ここでの移動とは,他の作業場所への移動を指しており,例えば,ピッキング作 業で対象の商品を収集した後,歩いて次の他のピッキング場所へ移動するなどである.
同じ作業場所の中での動きについては,含めていない.例えば,ピッキング作業時に 特定のピッキング場所で,商品を取ったり置いたりするために歩いたり振り返ったり することは含めない.
分析データの可視化による分析作業支援では,ハンズフリーが求められず,タブレ ットでの支援が可能である.倉庫内を歩き回りながら作業改善の必要な箇所を分析す るため,移動を伴い広い範囲での作業となる.3章での取り組みから,ARの効果が認 められタブレットでのAR実用化の可能性が明らかとなった.
一方で,4 章で検証を行ったピッキング作業のような作業スピードが求められる作 業については,ハンズフリーや直感的な把握の観点から,透過型 HMD を用いた AR 活用が望まれる.しかし,倉庫内の移動を伴うピッキング作業では,作業範囲が広く,
現状の透過型HMDの表示画角の観点から,テキスト等の他の表示形態での支援が必 要である.また,5章の検証では,透過型 HMD の表示画角は,作業範囲に影響があ ることが明らかとなった.作業スピードやハンズフリーが求められる作業であっても,
移動を伴わず,現状の透過型 HMD の画角に収まる範囲での作業であれば,透過型 HMDを用いた AR活用の実用化が可能である.
89 このように,ハンズフリー機能の必要性の可否によって,タブレットと透過型 HMD を使い分ける必要がある.また,透過型HMDを使用する場合には,表示画角の影響 のため,移動の有無による作業範囲の大きさによって,実用可否が異なる.
以上のことから,物流倉庫での主な作業について,ハンズフリーの必要性と移動を 伴うかどうかの観点で整理した(表 6.1).
表 6.1 開発者による評価実験で特定した要因
# 作業 作業内容 ハ ン ズ フ
リー
移 動 の 有 無
1 入荷・保管作業 配送トラックから商品をおろし、保 管棚まで運び収納する
必要 あり
2 移動を伴うピッキ ング作業
注文を受けた商品を倉庫内の保管棚 から収集する
必要 あり
3 移動を伴わないピ ッキング作業
DPS や無人搬送機を使って、注文を 受けた商品を収集する
必要 なし
4 流通加工作業 商品に値札や説明書などをつける 必要 なし 5 検品作業 出荷前の商品に不良品がないかを確
認する
必要 なし
6 梱包作業 出荷する商品を箱に詰める 必要 なし 7 出荷作業 商品を倉庫から配送トラックに運び
込む
必要 あり
8 分析・振り返り作 業
各作業を効率化するための分析や、
各作業の改善のための振り返りを行 う
不要 あり
9 教育 新人への教育や、作業効率のよい ベ テランの作業手順提示などを行う
不要 なし
ハンズフリーの必要性,移動の有無の観点で整理した作業について,AR の実用化 可否の観点を分析したものを図 6.2 に示す.縦軸を移動の有無,横軸をハンズフリー 機能の必要性とし,物流倉庫での主な作業をマッピングした.
このうち,ハンズフリーが不要となる分析作業やその日の動きを振り返るような作 業ではタブレットでのAR 活用が可能である.また.新たに入った作業者に対して,
作業のやり方をその場で指導するような教育の場面では,同様にハンズフリー機能が 求められず,移動範囲も少ないため,タブレットでのAR活用が可能である.
90 一方で,ハンズフリー機能が求められる作業については,透過型 HMDでの支援が 望ましいが,移動を伴う作業範囲の広い作業では,表示画角の制約があるため,AR表 示ではなく,テキスト表示などのAR 以外の指示表示を行う必要がある.例えば,ピ ッキング作業の他に,入荷したものを保管棚に配置する保管作業や出荷するものを配 送トラックに積み込むような出荷作業についても,移動を伴い作業範囲も広いため,
現在の透過型HMDでのAR活用は望ましくない.
しかし,透過型HMDの表示画角に収まるような移動を伴わず作業範囲が狭い作業 では,ARの活用が可能である.例えば,商品に値札をつけるなどの流通加工作業,出 荷する商品に不良品がないかを確認する検品作業,出荷する商品を梱包する梱包作業 などは,移動を伴わず,その場での狭い範囲での作業となるため,透過型HMDを用 いたAR活用が可能である.また,DPSや無人搬送車などと連動して行うことで作業 者が動かずに行うピッキング作業などについても透過型HMDを用いた AR活用が可 能である.
図 6.2 AR実用化の範囲
また,AR表示は,難易度の高い場所の指示には有効であるが,容易に特定が可能 な場所の指示についてはテキスト表示が有効であり,適材適所で使うことで,より効 果が期待できる.
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