• 検索結果がありません。

倉庫内可視化ツールの実用性の評価と考察

第 3 章 倉庫内分析データ可視化への AR 活用

3.5 評価実験と考察

3.5.2 倉庫内可視化ツールの実用性の評価と考察

物流倉庫 Aで,ピッキング経験のない倉庫作業に不慣れなツール開発者1名が,倉 庫内可視化ツールを使って問題箇所を抽出し,作業ロス要因の特定を行った.これに より,倉庫作業に不慣れな分析者の業務改善への実用性を検証した.分析ツールは,

ピッキング作業時間分析ツールを使用し,各保管商品のピッキング作業の作業時間を 使用した.

分析者は, 事前に2Dマップ画面と3Dマップ画面を使って,作業時間のかかって いる問題箇所を17箇所抽出しておき,AR画面を用いて,現場の状況と照らし合わせ て要因を特定する要因特定作業を 17 箇所に対して行った.全ての所要時間は約 1 時 間であった.その結果,現場に起因する要因を新たに7箇所特定できた(表 3.3).

表 3.3 開発者による評価実験で特定した要因

特定した要因 件数

商品のとりにくさ 5 指示のわかりにくさ 1 開梱に時間がかかる 1

例えば,特定した要因「指示の分かりにくさ」では,ピッキングするロケーション に,該当商品と関係のない注意事項が表示されているものであった(図 3.18).これに ついては,不要な表示を除去するだけで業務改善が可能である.

33 図 3.18 特定した要因例1

(2)倉庫作業者による評価実験

物流倉庫 Aで,これまでピッキング作業時に改善を行ってきたピッキング経験の豊 富な現場作業者2名が,倉庫内可視化ツールを使って問題箇所を抽出し,作業ロス要 因の特定をおこなった.分析データとして,各保管商品のピッキング作業の作業時間 を使用した.

分析者は,事前に 2D マップ画面と 3D マップ画面を使って,作業時間のかかって いる問題箇所を 7 箇所抽出しておき,AR 画面を用いて,現場の状況と照らし合わせ て要因を特定する要因特定作業を,7 箇所に対して行った.このとき,分析者は,抽 出していた7箇所の他に,目に入った2箇所についても要因特定を行った.全ての所 要時間は約1時間であった.その結果,現場に起因する要因を新たに7箇所特定する ことができた(表 3.4).

例えば,特定した要因「商品を見つけにくい」では,同種の商品が隣同士に並んで いるために,ピッキングの際に注意が必要であり時間がかかっていることが分かった (図 3.19).これは,商品の配置を変更することで改善が可能である.

また,「ピッキング終了確認に時間がかかる」では,箱単位でピッキングする商品に 対して,ピッキング終了時に行うバーコード読み取りのためのバーコードが箱の外装 にはついていないため,毎回,箱を開けて,商品についているバーコードを読み取る 必要があることが分かった.これは,読み取り用のバーコードを,箱の外に配置して おくことで改善が可能である.

34 表 3.4 倉庫作業者による評価実験で特定した要因

特定した要因 件数

商品のとりにくさ 1 指示のわかりにくさ - 開梱に時間がかかる 1 商品をみつけにくい 2 発注単位への加工が必要 2 ピッキング終了確認に時間がかかる 1

図 3.19 特定した要因例2

これらの要因が特定できた箇所については,いずれも実際に現場で確認を行わずに は,特定することができない要因であり,ツールの実用性を確認できた.

作業時間がかかっているものでも,要因が特定できなかったものは,例えば,要因 分析時に商品の在庫がなく,要因が特定できなかったと考えられる.他にも,現場環 境に起因していない要因,例えば,該当商品をピックする作業者が初心者であること が多かった,在庫の補充管理が不十分で補充がされてないことが多かった,作業員が 疲れてくる時間帯のピッキングが集中したなどの要因が考えられる.こういった要因 については,作業者の生産性データや在庫状況のデータ,時間帯のデータなどから,

現場に移動せずに分析ツールによる分析が可能である.

(3)ヒアリング

2つの倉庫のヒアリングから,ツールについての意見としては,以下があった.

・ 評価実験では,データ分析結果を倉庫内可視化ツールにより表示することで,実 際に要因が特定でき,有効であった.

・ 商品を出荷量によりランク分け行う ABC 分析や,商品サイズ等も見ながら商品

35 配置を検討しているため,様々なデータに切り替えて,確認できるのはよい.

・ データ分析結果の確認や検討に使用し,作業者への改善指示を出すという使い方 では有効である.

・ 業務改善の分析を定期的に行っている.本ツールを活用すれば,効果的な業務改 善が期待できる.

一方で,管理者から,さらに期待されていることには以下があった.

・ データ分析結果が表示されるだけではなく,指示やアクションと紐付く仕組みが あれば,要因分析を越えた作業者への指示ができてよい.

以上のように,今回開発した倉庫内可視化ツールは,ヒアリングからも,要因分析 支援としては有効であり実用可能であると分かった.一方で,作業者自身で活用する には,情報可視化だけではなく,すぐに実行できる指示やアクションを表示する必要 があることが分かった.将来的には,データ分析結果の表示だけでなく,結果に対す る作業者への指示まで支援を広げていくと更に活用が期待できる.

また,評価実験の観察やヒアリングから,今回使用したタブレットでの ARの表示 の描画遅延や画角などが影響している様子は見られなかった.

(4)コスト評価

作業者自身が,倉庫内可視化ツールを使って要因分析及び改善を行った際のピッキ ング作業時間の削減効果を試算する.物流倉庫Aでのピッキング作業全体の時間は1 ヶ月で約430時間であった.このうち,移動時間をのぞいた商品の探索と実際の仕分 け作業を行っている時間は約330時間であった.商品の探索と仕分け作業で平均以上 に時間のかかっているロケーションのうちの約78%で要因が特定でき,改善をするこ とで,平均作業時間程度まで抑えられると仮定すると,約 33 時間の作業時間が削減 できる.倉庫内可視化ツールを使った要因分析作業を導入することで,作業時間の 10%の削減効果を期待できる.

一方で,ツールを導入するために必要となる作業は以下がある.

・ ツールへの棚の高さ情報の入力

各倉庫の 2次元地図情報を作成しており,倉庫内の壁や棚,通路などの情報が整 備されている.しかし,3 次元表示を行うための高さ情報は整備されていないた め,棚の高さの情報の入力が新規に必要となる.倉庫内の棚の高さは,主に数種 類の高さで設定されており,評価実験で対象としたピッキングエリアでは 10 分 ほどで設定可能であった.

・ 倉庫内へのマーカーの貼り付け

36 倉庫内にマーカーを貼り付ける必要がある.評価実験では,作業者の通常の作業 を妨げない範囲での実験となったため,2D/3D画面で分析作業の対象とした棚を 中心にARマーカーを設定したため,設置マーカーの数は30個ほどであった.貼 り付け作業は5分ほどであった.ピッキングエリア全体では,約 300個のマーカ ーが必要となると想定しており,設置作業には50分ほどかかる.

・ ツールへのマーカーの貼り付け位置の入力

3 次元の地図情報に対して,マーカーを貼りつけた位置を入力する.貼りつけた 棚の番号と,その棚からの相対的な距離を入力するため,実際にマーカーを貼り 付けた高さなどを計測して入力する必要がある.評価実験時は,約30個のマーカ ーに対する設定を 10 分ほどで行った.ピッキングエリア全体では,約 300 個の マーカーが必要となると想定しており,入力には100分かかる.

・ 分析作業にかかる時間

評価実験での倉庫では,不定期ではあるものの作業者自身が改善活動を実施して おり,これまでの改善活動の時間が本ツールによる分析作業時間と置き換えにな ると考える.そのため新規に作業時間が発生はしない.

以上の導入コストを合計すると,約 2時間半(160分)となる.1か月のピッキング工 数の削減時間が33時間であるため,2日ほどで業務改善による削減効果が認められる (図 3.20).

図 3.20 コスト評価

評価実験で対象とした倉庫の出荷頻度は,評価に協力していただいた 3PL事業者の 運営している倉庫の中では平均的なものである.評価実験での対象倉庫と同等の商品 の出荷頻度である倉庫では,理想的な倉庫運営を想定すると,倉庫の規模が大きくな ると,扱う商品数や出荷量も増え,ピッキング時間も大きくなる.この時,導入コス トについては,扱う商品数に比例して大きくなり,分析作業によるピッキング削減時

37 間についても大きくなると推測される.倉庫の規模が小さくなると,出荷量は減り,

ピッキング時間も小さくなる.この時,導入コストについては,扱う商品が減ること で比例して小さくなり,ピッキング削減時間も小さくなる.以上のような場合につい ては,評価実験同様に,2 日ほどで,業務改善による削減効果が認められると考えら れる.

評価実験で対象とした倉庫よりも,出荷頻度の低い倉庫で本ツールを導入する場合,

導入コストについては変わらない一方で,全体のピッキング作業時間が少ないため,

ピッキング削減時間も小さくなる.そのため,ツールによるコスト削減の効果が表れ るまでに日数がかかる(図 3.21).一方で,倉庫運営では床面積が運営費用に影響する ため,出荷頻度の少ない倉庫については,商品の見直しなどによる出荷頻度の改善を 図る必要もある.

図 3.21 出荷頻度のコスト削減効果への影響

また,一般的には,倉庫の規模が大きくなると,ピッキングエリアを分けるなど移 動時間が比例して大きくならない対策を行うため,ピッキング時間にしめる移動時間 の割合は大きく異ならないと推測するが,倉庫規模に応じたピッキングエリアの見直 しを行わないような場合には,ピッキングの際の移動距離が規模に応じて増減する.

例えば,出荷頻度が同等で規模が大きくなった場合には,ピッキングエリアが大きく なるため移動時間の割合が増え,小さくなった場合には移動時間の割合が減る.その 際,ピッキング時間にしめる移動時間の割合が増えると削減割合は減り,移動時間の 割合が減ると削減割合は増える(図 3.22).