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表示画角の作業生産性への影響の分析

第 5 章 透過型 HMD における画角の影響の分析

5.3 実験計画と結果

5.3.3 表示画角の作業生産性への影響の分析

テキスト指示と各表示画角の AR指示での作業生産性について分析した.テキスト 指示及びAR指示での各表示画角に対する1回あたりのピッキングにかかった平均時 間(sec)を図 5.12,図 5.13,図 5.14に示す.

図 5.12 ピッキング平均時間(間口サイズ大)

図 5.13 ピッキング平均時間(間口サイズ中)

82 図 5.14 ピッキング平均時間(間口サイズ小)

テキスト指示と表示画角23度のAR指示では,すべての間口サイズでピッキング 時間に有意な差は認められなかった.テキスト表示と表示画角40度以上の AR指示 では,すべての間口サイズでAR指示での作業が有意に速い結果であった.従来のテ キスト指示を超える生産性を実現するには,HMDのAR表示画角は40度必要であ る.

次に,AR指示における表示画角と作業生産性の関係について分析した.全ての間 口サイズの1回あたりのピッキング平均時間(sec)をグラフにしたものが,図 5.15で ある.グラフから,全ての間口サイズにおいて,表示画角が広くなると作業生産性が 上がっていることがわかる.全ての間口サイズにおいて,23度と40度間,40度と 70度間の作業生産性は,表示画角が広い方が有意に速い結果であり,ピッキング作 業には,表示画角70度必要であることが明らかとなった.

間口サイズが異なり作業範囲が異なるため,作業時間の絶対値は異なるが,間口 サイズ中と小では,70度で作業時間はほぼ横ばいとなり,作業生産性が収束した.

一方,間口サイズ大では,70度と 110度間で有意差はなかったものの他の間口サイ ズのように作業生産性は収束しておらず,間口サイズが大きく作業範囲が広い場合に は,表示画角110度が望ましいことも示唆された.

83 図 5.15 ピッキング平均時間

次に,間口を特定する際に探索対象の間口の数の影響について分析した.ピッキン グ作業を,指示を受けて保管棚から商品を回収するまでの回収作業と,指示を受けて カートに配置された間口に商品を配布する配布作業では,探索する棚の数が異なるた め,回収と配布作業での表示画角の影響を分析した.また,回収と配布での間口の大 きさも異なっており,大きい順に,回収時の間口大,回収時の間口中,配布時の間 口,回収時の間口小となっており,間口サイズの影響についても再度分析した.

作業を分割した場合の1間口当たりの各作業にかかった平均時間(sec)が図 5.16で ある.

回収作業については,テキスト指示と表示画角23度以上のAR指示で,全ての間 口サイズでAR指示が有意に速く,ARの効果が認められた.一方,配布作業では,

テキスト指示と表示画角23度のAR指示で,全ての間口サイズでテキスト指示が有 意に速く,ARの効果が認められなかった.また,間口サイズ大では,テキスト指示 と表示画角70度以上の AR指示で,AR指示が有意に速かったが,他の間口サイズ では有意差は認められなかった.

回収作業時は,大量の間口の中から対象の間口を探し出す必要がある.そのた め,テキスト指示よりも,直感的な場所の指定が行えるAR指示の作業時間が早かっ た.一方,配布作業時は,今回の実験では4つの配布間口に対してのみ商品を配布 するため,4か所から対象の間口を探すこととなる.4か所程度の場所からの特定に ついては,AR指示は必要なく,テキスト指示により探した方が速いことが分かっ た.被験者からも,「テキスト指示は,回収時に配布指示内容も同時に表示されるた め,配布作業に素早く移れて効率がよい」「配布時は,テキスト指示の方が探す時間 がかからない」「配布時は,4か所から複数箇所へ配布を行うため指示の全体像が分

84 かるテキスト表示の方がよい」という意見があげられ,配布時のテキスト指示の有効 性が明らかとなった.テキスト指示とAR指示では,位置の特定の難易度に応じて,

適材適所で使い分けると効果的である.

AR指示間の比較では,回収作業については,間口サイズ大及び中で,23度より も40度,40度よりも 70度の作業時間が有意に速い結果であった.間口サイズ小に ついては,23度よりも 40度が有意に速い結果であった.

また,配布作業については,全ての間口サイズで,23度よりも40度,40度より も70度の作業時間が有意に速い結果であった.

回収カートを含めたすべての間口サイズの中で,最も小さい間口サイズである間 口サイズ小のみ,40度と70度間での有意差が認められず,間口のサイズが十分に小 さいときには必要となる表示画角は狭くなる傾向にあった.

また,4.5.2(2)記載のようにビデオから被験者の作業の動作を観察した.回収作業 時について,①画面を確認して取り出す間口を特定,②移動して間口に手を入れる,

③商品を取る,④画面確認して配布先を特定,⑤移動して一つ目の配布先に手を入れ る,⑥全ての商品を置く,の動作で検証した.表示画角23度については,画面確認 時に停止しており各動作に分解可能な被験者もいたが,表示画角が大きくなると分解 できなかった.特に表示画角が大きくなると,前のピッキングの配布作業終了時に,

頭を動かさずとも視界に回収対象が入っていることもあり,対象間口への移動やカー トの移動などと画面の確認が並行して行われていた.

図 5.16 回収・配布時の作業平均時間

表示画角の影響について,被験者の作業位置の観点から分析した.商品の回収作業

85 時の被験者と保管棚の最大距離(cm)を示したものが図 5.17 である.表示画角の狭さ を補完するために,被験者は,①一目で表示画角内に多くの情報を入手するため間口 から離れて表示を確認する,あるいは,②間口からは離れずに顔や目を頻繁に動かし 情報を探索して入手する,と考えられる.

間口サイズ大のテキスト指示と表示画角 23度のAR指示では,テキスト指示の方 が有意に棚から近い距離で作業しており,表示画角23度のAR指示では.狭い表示 画角のため,被験者は多くの情報を入手するために離れて作業しており,この影響で 生産性が下がっていることが分かる.

またAR指示では,間口サイズ大では,23度と40度で,23度の方が間口から有 意に離れて作業していた.40度と 70度では画角間で有意な差はないもののグラフか らは作業位置が棚に近づく傾向にあり,40度では①②の傾向が混在していると考え られる.特に,間口サイズが小さいと,70度と110度で作業位置は横ばいとなって きており,①の傾向がなくなっていることが分かった.

図 5.17 回収時の棚からの作業位置