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第 7 章 結論

7.2 今後の課題

94 直感的な把握の観点から,透過型HMDを用いた AR活用が望まれる.しかし,ピッ キング作業は,移動を伴うため作業範囲が広く,透過型HMDの表示画角などの観点 から,AR表示ではなく,テキスト表示などのAR以外の指示表示を行う必要がある.

また,作業スピードやハンズフリー機能が求められる作業であっても,梱包・検品 作業や移動を伴わない狭い範囲でのピッキング作業などの,現状の透過型HMDの画 角に収まる範囲での作業であれば,透過型HMDを用いた AR活用の実用化が可能で ある.

95 ピッキング作業指示へのAR活用のためのARピッキングシステム(第4章),ARピ ッキング時の HMD の表示画角の影響の分析(第 5 章)の研究開発では,ピッキング作 業指示での障壁を明らかにした.今回,特に,表示画角について,必要となる画角を 明らかにした.実用化に向けては,その他の障壁についての分析も必要である.

ハードウェアの観点では,現状の市販の HMDでは満たすものはなく,表示画角の 広い HMD の開発が必要である.また,HMD では,認識処理や描画処理に時間がか かっており,処理速度の改善が必要である.

UIの観点からは,5.3.3項で示したように,テキスト指示と AR指示では,適材適 所で使い分けると効果的であることが明らかとなっており,最適な UI の開発が必要 である.

次に,物流倉庫の AR活用の観点での課題について論じる.これまでの作業者への アンケートからも要望に上がったが,AR システムの導入の容易化が必要である.例 えば,3章の倉庫内可視化ツールでは,3m間隔でマーカーを設置しており,1倉庫で 約1万個のマーカーが必要となる.このような扱うマーカーを減らすため,一つのマ ーカーで追従できる範囲を広くする技術の開発や,マーカーを使わない位置特定技術 の精度向上が必要である.現状の技術で実用化するには,マーカーを減らす観点でも,

テキスト指示とAR指示を適材適所で活用することで,解決が可能であると考えられ る.

また,大量のマーカーを設置した上で,設置箇所の登録や,倉庫内のシステムで管 理されている在庫情報などとの紐づけが必要となる.このような導入のための作業に は,かなりの工数がかかる.また,これらの作業は,配置変更などを行うと再度行う 必要があるが,倉庫内の作業者が行うには難易度が高い.そのため,導入を容易にす る技術が必要となる.これについて,作業者や倉庫管理者,デザイナーなどと議論し,

支援ツールの検討を行った.撮影画像から棚を認識することによる3次元地図の自動 作成や,マーカー貼り付け位置の自動認識などでも支援可能だが,作業者自身がシス テムを運営することを考慮し,操作やメンテナンスが簡単という点で,検討を行った.

その結果,以下のような支援ツールが挙がった.例えば,今回開発したシステムでは,

従来の他の倉庫運営のために用意した2次元マップのほかに,棚の高さ情報を追加し た.この高さ情報の追加の際には,物理的な棚の高さを計測して,ツールに入力して いる.この作業を簡略化するために,ARを活用して,撮影画像上にARの定規を用意 し,AR定規を棚の位置に重ね合わせることで,高さや長さを認識し,自動入力により 支援するツールである.マーカーの設置については,今回開発したシステムでは,設 置後に,マーカーの設置箇所を入力しているが,この登録処理を省くため,システム 側でマーカーの設置箇所を指定し,マーカー設置を支援するツールも挙がった.

96 図 7.2 ARシステム導入の容易化例

また,今回はピッキング作業を対象に ARの活用を検証したが,他作業についても 適用をしていきたい.入荷・保管作業では,入荷したどの商品のどの間口に保管する かの指示や,フォークリフトでの運搬時の経路指示や周囲への安全喚起などにAR活 用が可能である.出荷作業では,出荷対象の商品や配置場所の指示などに ARを活用 できる.流通加工作業や検品作業では対象商品の指示や作業内容の指示に,梱包作業 ではどの順でどの商品を梱包するかなど梱包率を考慮した梱包方法の指示にAR が活 用可能である.また,作業者への教育場面では,熟練者の作業手順や作業方法を AR で再現して提示するなどの支援ができる.物流倉庫では,自動化の流れもあり,ロボ ットとの協調にも ARを活用していきたい.例えば,ピッキング作業では自動運搬ロ ボットがピッキング棚を作業者の元へ運搬し,作業者は歩かずにピッキングが可能な 形態が出てきているが,作業者へのピッキング指示にはAR を活用し,よりスムーズ な連携を目指したい.また,ARによる作業者支援を進める一方では,倉庫全体の全体 最適を可能とするデータ連携や最適化の分析技術も重要であると考える.

今後は,このように倉庫での AR活用・運営に必要となる作業の簡易化の支援にも 取り組みたい.

また,HMDの長時間の活用については,安全性や疲労度の課題[65][66][67]があり,

これについても,注視時間を減らすようテキスト提示とAR 提示を適材適所で活用す ることで解決していきたい.

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付録

付録1. 疲労度に関するアンケート結果

1:あてはまらない 5:あてはまる

片眼HMD/テキスト 片眼HMD/AR

被験者No 1 2 3 4 1 2 3 4 作業前後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

1 頭がおもい 1 2 3 4 1 1 2 2 1 1 4 4 1 1 1 1 2 いらいらする 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1 3 目がかわく 2 2 4 4 1 1 2 2 2 2 4 4 1 1 2 2 4 気分が悪い 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 4 3 1 1 1 1 5 おちつかない気分だ 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1 6 頭がいたい 1 1 4 4 1 1 2 2 1 1 5 3 1 1 1 1 7 目がいたい 1 1 4 4 1 1 2 2 1 1 4 4 1 1 1 2 8 肩がこる 1 1 4 4 1 1 2 2 1 1 4 4 1 1 1 2 9 頭がぼんやりする 1 1 3 4 1 1 1 1 1 1 3 4 1 1 1 1 10 あくびがでる 1 1 3 3 1 1 2 2 1 1 3 3 1 1 1 1 11 手や指が痛い 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1 12 めまいがする(ふら

ふらする) 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1

13 ねむい 1 1 4 4 2 1 1 1 1 1 4 4 1 1 1 1

14 やるきがとぼしい 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1 15 不安なかんじがする 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1 16 ものがぼやける 1 1 3 3 1 1 2 2 1 1 3 4 1 1 1 2 17 全身がだるい 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1 18 ゆううつな気分だ 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1 19 腕がだるい 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1 20 考えがまとまりにく

い 1 1 3 4 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1 21 横になりたい 1 1 4 4 1 1 1 1 1 1 4 4 1 1 1 1 22 目がつかれる 1 1 4 4 1 4 2 2 1 1 4 4 2 2 1 2 23 腰がいたい 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1 24 目がしょぼつく 2 2 4 4 1 3 2 2 2 2 4 4 1 2 2 3 25 足がだるい 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1

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両眼HMD/テキスト 両眼HMD/AR

被験者No 1 2 3 4 1 2 3 4 作業前後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後 前 後

1 頭がおもい 1 1 4 5 1 1 1 3 1 1 3 5 1 1 2 4 2 いらいらする 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1 3 目がかわく 3 2 4 4 1 1 2 2 2 2 2 4 1 1 2 3 4 気分が悪い 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 3 4 1 1 1 2 5 おちつかない気分だ 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1 6 頭がいたい 2 2 5 5 1 1 1 3 1 1 3 5 1 1 2 4 7 目がいたい 1 1 4 4 1 1 1 1 1 3 2 4 1 1 2 3 8 肩がこる 1 1 4 4 1 1 1 1 1 1 2 4 1 1 1 2 9 頭がぼんやりする 1 1 4 4 1 1 1 1 1 1 2 4 1 1 1 2 10 あくびがでる 1 1 4 4 1 1 1 1 1 1 2 4 1 1 1 1 11 手や指が痛い 1 1 1 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1 12 めまいがする(ふら

ふらする) 1 1 1 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1

13 ねむい 1 1 4 4 1 1 1 1 1 1 1 4 1 1 1 1

14 やるきがとぼしい 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 2 3 1 1 1 1 15 不安なかんじがする 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1 16 ものがぼやける 1 1 3 4 1 1 2 2 1 1 2 4 1 2 1 3 17 全身がだるい 1 1 2 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1 18 ゆううつな気分だ 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1 19 腕がだるい 1 1 1 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1 20 考えがまとまりにく

い 1 1 4 4 1 1 1 1 1 1 3 4 1 1 1 1

21 横になりたい 1 1 5 4 1 1 1 1 1 1 2 4 1 1 1 1 22 目がつかれる 2 2 5 5 2 3 1 2 1 3 2 4 2 3 2 3 23 腰がいたい 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 1 24 目がしょぼつく 2 2 4 5 1 3 1 2 2 3 3 5 2 1 2 3 25 足がだるい 1 1 3 3 1 1 1 1 1 1 3 3 1 1 1 0

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発表論文リスト

1.査読付き学術雑誌

[1] 松本紀子, 小坂忠義, 荒宏視, 末光一成, 堀田哲裕, 尾崎友哉: 作業ロス要因分析 のための拡張現実技術を用いた物流倉庫内可視化ツールの開発, 情報処理学会論 文誌コンシューマ・デバイス&システム, Vol.8, No.2, pp.1–10, 2018

[2] 松本紀子, 小坂忠義, 中島洋平, 櫻田崇治, 田野 俊一: 拡張現実技術を用いた物 流ピッキング作業支援システムの開発と HMD 表示画角の影響の分析, 情報処理 学会論文誌コンシューマ・デバイス&システム, Vol.10, No.3, pp.11-23, 2020

2.査読付き国際会議発表

[1] Toshiko Matsumoto, Tadayoshi Kosaka, Takaharu Sakurada, Yohei Nakajima, Shunichi Tano: Picking Work using AR Instructions in Warehouses, 2019 IEEE 8th Global Conference on Consumer Electronics (GCCE), pp31-34, 2019

[2] Toshiko Matsumoto, Tadayoshi Kosaka, Koji Ara, Issei Suemitsu, Tetsuhiro Horita, Shunichi Tano: Design of Presentation Method and Effects of Warehouse Visualization Tool Using AR, SICE Annual Conference 2019 (SICE 2019), pp.1-4, 2019

3.国内口頭発表

[1] 松本紀子, 小坂忠義, 荒宏視, 末光一成, 堀田哲裕, 尾崎友哉: 拡張現実技術を用 いた物流倉庫現場での作業ロス要因分析方式, 情報処理学会研究報告コンシュー マ・デバイス&システム(CDS), 2017-CDS-20, Vol.1, pp.1-8, 2017

[2] 松本紀子, 小坂忠義, 中島洋平, 櫻田崇治, 尾崎友哉, 田野 俊一: 物流における 拡張現実技術を用いたピッキング作業支援システムの開発, 情報処理学会研究報 告コンシューマ・デバイス&システム(CDS), 2019-CDS-25,Vol.10, pp.1-8, 2019 [3] 松本紀子, 大塚康平, 田野俊一: 物流ARピッキングシステムにおけるHMD表示

画角の影響の分析, 電子情報通信学会, 信学技報, Vol.119, No.457, MVE2019-82, pp.235-240, 2020

4.その他の業績(参考論文,発表)

[論文]

[1] 浅田幸則, 大條成人, 松本紀子, 成川沙希子: 既存ソフトウェアに対する実践的

100 なモデル化方法およびデジタルテレビへの応用, 情報処理学会, デジタルプラク ティス, Vol.5, No.3, pp.231-238, 2014

[国際会議]

[1] Shunichi Tano, Toshiko Matsumoto, Mitsuru Iwata: Quantitative Analysis of Human Behavior and Implied User Interface in 3D Sketching, APCHI-2004, pp.481-490, 2004

[国内会議]

[1] 松本紀子, 岩田満, 田野俊一: 3次元スケッチシステムのための人間の描画特性の 分析, ヒューマンインタフェースシンポジウム2001論文集, pp. 163-166, 2001 [2] 田代沙希子, 浅田幸則, 大條成人, 松本紀子: デジタルテレビの事例に基づくモ

デ ル ベ ー ス 開 発 導 入 の 検 討, 情 報 処 理 学 会, 第 73 回 全 国 大 会 講 演 論 文 集, Vol.2011, No.1, pp.227-228, 2011

[3] 浅田幸則, 大條成人, 松本紀子, 田代沙希子: 既存ソフトウェアに対するモデル ベース開発導入プロセス, 情報処理学会, 研究報告ソフトウェア工学(SE), 2012-SE-177(2), pp.1-7, 2012

[解説等]

[1] 田野俊一, 松本紀子, 杉本敏彦: 力覚フィードバックを用いた3Dスケッチシステ ム, 画像ラボ, 12月号, pp.19-23, 2000

[2] 松本紀子, 小松洋一郎, 岩田満, 田野俊一: 人間の描画特性を考慮した3次元スケ ッチシステムの提案, 3D映像, Vol.16, No.1 pp.24-27, 2002

[特許]

※下記の他, 特許国内外出願 28件, 特許登録4件

[1] 松本紀子, 伊藤保, 第4364024号, 携帯端末, 2009.8.28 (登録日)

[2] 松本紀子, 小坂忠義, 藤原貴之, 中島洋平, 櫻田崇治, 高橋絵美, 第 6630745 号, 作業支援システム及び作業支援方法, 2019.12.13(登録日)

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謝辞

本論文は,執筆者が株式会社日立製作所において行った研究をベースとして,電気 通信大学で追加研究を行い,動向を踏まえて,研究成果としてまとめたものです.

主任指導教員として,研究の方向性,論文構成など研究活動全般にわたりご指導を いただいた電気通信大学大学院情報理工学研究科 大須賀昭彦教授,田野俊一教授に 深く感謝申し上げます.

本論文をまとめるにあたり,論文審査をしていただいた電気通信大学大学院情報理 工学研究科 広田光一教授,橋山智訓教授,橋本直己教授,野嶋琢也准教授に深く感 謝いたします.また論文投稿の折には,校閲や様々なご支援をしていただいた岸本雅 代氏に深く感謝いたします.

貴重なご教授を賜りました増位庄一博士,舩橋誠壽博士,研究室で互いに議論し励 ましあった天野光司氏,山田勉氏,実験にご協力いただいた大塚康平氏に感謝いたし ます.

また,研究の推進においては,多大なるご協力をいただいた,日立製作所の尾崎友 哉氏,小坂忠義氏,日立物流の櫻庭隆氏,堀田哲裕氏に深く感謝申し上げます.

最後に,博士課程での研究活動や社会人学生生活を支えてくれた夫や子供たちに心 から感謝します.

上記以外にも,執筆者の研究活動を支えていただいた全ての方々に感謝いたします.

ありがとうございました.