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第 4 章 ピッキング作業指示への AR 活用

4.5 評価実験と考察

4.5.2 実験結果と考察

テキスト指示とAR指示での作業生産性について分析を行った.被験者毎の1間口

S1-05-01

5

ps

64 あたりのピッキング作業(一つの間口から商品を取り出し,カートに収納するまで)の 平均時間を示した結果が図 4.31である.両眼,片眼のHMDともに,AR指示の場合 の作業生産性は,テキストによる指示の場合と比べて35%~52%,有意に遅くなって いた.現状の市販の透過型 HMD を用いた今回のピッキング指示では,AR 以外のテ キストなどによる指示が有効であることが明らかとなった.

図 4.31 1間口当たりのピッキング時間(msec)

次に,被験者の観察から,テキスト指示と AR 指示での作業の違いについて分析し た.図 4.32,図 4.33に示すように,被験者は,テキストでの指示の場合は,作業位 置の近くで指示を確認しているが,AR 指示の場合は,作業位置から離れて指示を確 認していた.これは,表示領域の狭さのため,より多くの対象を表示領域内に収める ために,数歩下がって対象を見ているためと考えられる.また,AR指示の場合は,指 示情報を表示させるために,しばらく動作が止まっている様子も見られ,処理速度が 依然問題となっていると考えられる.

図 4.32 テキスト指示時の被験者と棚の距離

65 図 4.33 AR指示時の被験者と棚の距離

ビデオから被験者の作業を動作毎に分解し,テキスト指示と AR指示での違いを分 析した.被験者のうちピッキング経験豊富な倉庫担当者(被験者 3)の片眼 HMD を用 いたあるピッキング作業を動作毎に分解したものが図 4.34 である.1 回のピッキン グ作業に対して,被験者の動作は,①画面を確認して取り出す間口を特定,②移動し て間口に手を入れる,③商品を取る,④画面確認して配布先を特定,⑤移動して一つ 目の配布先に手を入れる,⑥全ての商品を置く,に分けることができる.ただし,文 字の指示の場合,①④画面の確認と②⑤移動については同時に行っており,分解する ことができなかったため,①④に含んで計測している.また,これらの傾向は,両眼 用も片眼用も同様であった.

図 4.34 1間口のピッキング時間の作業割合分析

③商品を取る,⑥商品を置くという動作については, AR指示の方が③で 40%,⑥

で78%,平均して59%速くなっていた.場所の直感的な指示により,場所を特定後,

被験者が迷いなく動作することができており,ARの有効性が示唆された.

また,テキスト指示の場合は,動作終了後に次の作業指示がすぐに表示されるため,

次の作業開始が並行して行われている様子も見られた.しかし,AR指示の場合は,次

66 の作業が作業対象を見ないと分からないため,並行作業が行われていなかった.AR表 示時には,文字での指示などで次の作業を表示するなど,適材適所での使い方が必要 である.

(2). 疲労度

自記式アンケートにより,テキスト指示と AR 指示での疲労度を分析した.被験者 にはアンケートを実施し,疲労度に関する25の質問(表 4.2)に対して,1(あてはまる)

から5(あてはまらない)までの 5段階で,作業前,作業後に回答してもらった(付録1).

作業前と作業後の差から,疲労度の高さを算出した結果,両眼HMDでは ARを利用 した指示のほうが有意に疲労度は高い傾向があった一方で,片眼HMDでは疲労度に 有意差はなかった.被験者へのヒアリングからは,両眼HMDの装着のずれやすさと 重さが課題となっていることが明らかとなった.今回使用した両眼HMDはディスプ レイが上下で稼働可能であったため作業中にずれが発生している様子が観察された.

また,両眼HMDの眼鏡部分が250gであったのに対し,片眼のものは 130gと軽量で あったため,疲労度への感じ方に違いが出たと考えらえる.片眼HMDの自記式アン ケートではテキスト表示とAR表示の疲労度には有意差は見られなかったものの,実 験後のヒアリングでは,両眼 HMD 同様に目の疲れを訴えていた.これは,AR 表示 では場所を特定する時間がかかり,ディスプレイを注視する時間が長いためと考えら れる.ARに適した明るさの設定や,注視時間を減らす検討が必要である.

また,アンケートからは,普段眼鏡をかけていない被験者で違和感を訴えており,

装着にはある程度の慣れも考慮が必要である.

表 4.2 アンケート内容

1 頭がおもい 14 やるきがとぼしい 2 いらいらする 15 不安なかんじがする 3 目がかわく 16 ものがぼやける 4 気分が悪い 17 全身がだるい 5 おちつかない気分だ 18 ゆううつな気分だ 6 頭がいたい 19 腕がだるい

7 目がいたい 20 考えがまとまりにくい 8 肩がこる 21 横になりたい

9 頭がぼんやりする 22 目がつかれる 10 あくびがでる 23 腰がいたい 11 手や指が痛い 24 目がしょぼつく

67 12 めまいがする 25 足がだるい

13 ねむい

(3). 作業ミス

テキスト指示と AR指示で,置き間違いなどの作業ミスについて分析した.被験者 全体の全ピッキング作業中の作業ミスの比率(図 4.35)は,テキスト表示で 0.42%,AR

表示で 0.26%であり,ミスの発生比率は AR 表示の場合のほうが減少した(有意差な

し).ピッキング経験豊富な被験者では,AR 表示でもテキスト表示でもミスはなく,

全てのミスは,ピッキング経験のない被験者で発生しており,初心者の方がAR の効 果があると考えられる.

図 4.35 作業ミスの割合 (4). アンケート

テキスト指示と AR指示でのユーザの好みについて,分析した.被験者に実験後に アンケートを実施した.アンケートからは,100%の被験者がテキスト指示のほうが 作業しやすい・好みであると回答した.被験者からは,AR指示については,処理速度 や表示領域の狭さに関する問題が多くあげられており,対策が必要である.

また,(2)項での検討で片眼HMDよりも両眼 HMDの疲労度が髙いことが明らかと

なったにも関わらず,75%の被験者が片眼のHMDよりも両眼の方がよいと回答した.

装着感への課題があるものの,アンケートから,表示領域が広いことと,両目への負 荷のバランスが良いことから,両眼が好まれたことが明らかとなった.以上のことか ら,装着感の向上や軽量化が実現されれば,視野角の広い両眼HMDが望ましい.

(5). 表示画角

AR指示の場合に必要となる透過型HMDの表示画角について分析した.図 4.33の ように,AR表示の際には,被験者は,指示表示をディスプレイ領域に入れるため,下

68 がって表示を確認している.この傾向は全ての被験者で見られ,両眼でも片眼でも同 様に行われていた.これは画角の狭さのために,画角内の表示エリアに作業領域を収 めるための動作であり,本来不要で無駄な動作である.このときに下がった距離と,

透過型HMDの表示画角から,ピッキング経験豊富な倉庫担当者が,表示エリアに入 れようとしている実際の幅を算出した(図 4.36).

(1). ピッキング棚

ピッキング棚は,幅が約 2.5メートルあった.テキスト表示の場合,被験者は棚 から,手が届くほどではないが,1 歩以内に棚に移動できる距離で作業していた.

それに対し,AR 表示時の下がっていた距離から,片眼および両眼の対角で平均約 56cm の間口を表示に含めようとしていることが分かった.今回の模擬環境のピッ キング棚の横約 2.8 間口,縦 1 間口分の領域を表示に含めようとしている.AR を 使わない場合の作業位置と同じ場所で作業をしながら同等のピッキング棚の領域 幅をディスプレイ領域に含める場合,表示角(対角)は,片眼で約70度,両眼で約 63 度必要となる.

表示画角 23度の透過型HMDをピッキング作業に使用する場合には,ARを使わ ない場合の作業位置と同じ場所で同等の間口個数を表示するためには,縦 11cm 横 7cm の間口サイズの棚での作業が望ましい.このように,小さい間口の場合には,

後述するピッキングカートで見られたように,手の届く位置で作業を行うことが考 えられ,要求される間口のサイズはピッキングカートの場合と同様に更に小さくな ると考えられる.活用シーンは限られるが,物流倉庫でのピッキング作業では,保 守などの倉庫での小さな部品のピッキング作業などへの活用が可能である.また,

物流倉庫以外ではあるが,製造での組み立てなどでの部品のピッキング作業や調剤 薬局でのピッキング作業には活用可能であると考える.

(2). ピッキングカート

ピッキングカートは,幅が約 47cmあった.テキスト表示の場合,被験者は手が 届く位置でカート全体を見ることが可能であるため,手が届く位置で作業していた.

それに対し,AR 表示時の下がっていた距離から,カートに設置した横 2間口全て を含めようとしていることが分かった.AR 表示時に同等の位置で作業するには,

表示画角(対角)は,片眼で約72度,両眼で約78度必要となることが分かった.

表示画角 23度の透過型HMDをピッキング作業に使用する場合には,ARを使わ ない場合の作業位置と同じ場所で同等の間口個数を表示するためには,縦 8cm 横 5cmの間口サイズのカートでの作業が望ましい.しかし,物流倉庫でのピッキング 作業では,このサイズのカートは一般的に使われておらず,使用シーンが限られる.

現状の市販の透過型 HMDで表示画角(対角)70度以上の満たすものはなく,中程度