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AR 効果に関する検証と考察

第 3 章 倉庫内分析データ可視化への AR 活用

3.5 評価実験と考察

3.5.3 AR 効果に関する検証と考察

紙表示 2D/3D画面 AR画面 図 3.23 表示形式のイメージ

分析作業を紙や2D/3Dマップ画面のみで行った場合と,AR画面を使って行った場 合での効果を比較検証する.倉庫内では商品の配置状況,ピッキング対象は日々変化 し,同様の条件下での検証は行えないため,机上での検証を行なった.それぞれの表 示イメージを図 3.23 に示す.紙による場合は,紙にロケーション番号とピッキング にかかった作業時間の数値などが記載されている.2D/3Dマップ画面の場合は,倉庫

内の2D/3D地図情報上にコロプレスマップで数値情報を表示する.

39 (1)分析作業の質

紙や2D/3Dマップ画面のみで分析作業を行った場合と,AR画面を使って分析作業

を行った場合の,要因特定の分析作業の質の違いについて検証する.

まず,各表示形式での分析作業において,検討候補について要因を特定できる割合 について検証する.紙の場合は,ロケーション番号とデータ分析結果の数値を確認す ることはできるが,他の商品との位置関係などは把握することができない.一方で,

2D/3D画面やAR画面ではデータ分析結果の数値の高い商品同士の配置などが一目で

確認できるため,要因を特定できる可能性が紙よりも高くなる.例えば,評価実験で は,隣り合って同種の商品が並んで配置されていることが作業ロスの要因であると特 定された.このとき観察された要因特定の過程では,作業者は,隣り合うロケーショ ンが比較的高い作業時間を示す配色であることに気付き,隣の商品を確認したことか ら特定できた.このような要因特定は紙の場合ではできない.2D/3D画面やAR画面 ではデータ分析結果の数値の高い商品同士の配置などが一目で確認できるため,要因 を特定できる可能性が紙よりも高くなる.評価実験では,9箇所中 1箇所で他の商品 との位置関係による特定が行われており,2D/3D画面や AR画面では紙より1件分も 特定率が高くなると考えられる.

次に,要因特定するにあたり,検討候補の数について検証する.作業者は,それぞ れの表示形式において,データ分析結果の数値が高い検討候補を抽出し,その場所ま で移動し,要因を特定する.どの表示形式であっても予め検討候補とした場所の数は 変わらない.しかし,AR画面を使った評価実験での要因特定作業を観察したところ,

問題箇所を把握する際に,周辺のロケーションも同時に視界に入ることから,指示さ れていない周辺の作業効率の低いロケーションに対しても,同時に要因分析や改善作 業を実施することが分かった.紙の表示形式の場合は,他のロケーションの状況が分 からないため,このような効果は認められないと考える.また,2D/3D画面使用時に ついても,他のロケーションの分析結果の数値についても同時に把握可能であるため,

AR 画面使用時と同様の効果が認められると考える.作業者による評価実験では,予 め検討候補としたロケーションは7箇所であった.しかし,要因特定を行う中で,新 たに目に入った2箇所について要因特定が行われており,2D/3Dマップ画面や AR画 面では紙よりも2件分確認箇所が多くなると考えられる.

(2)表示形態の分かりやすさ

2つの倉庫でのヒアリングを実施した結果,ARの効果については,以下のような意 見があった.

・ AR表示を行うと,一目で複数間口に関する情報が分かりやすく確認できるので,

40 従来に比べて現場で直感的に場所を把握でき,問題箇所の可視化方法として,非 常に有効である.

・ 膨大なデータ分析結果の表示として,活用の可能性がある.

・ 数字の表示よりも,作業場所と作業時間の大小など情報量が多くてよい.

紙での表示の場合は,数値での表示となるが,ヒアリングから,数値での表示より もAR表示のほうがよいことが分かった.また,2D/3D画面の表示では,実際の倉庫 内で使用する場合は,現在位置と表示を照らし合わせる必要があり,より ARのほう が直感的であると推測される.

以上のように,現場作業者から AR の表示形式に対して,直感的で理解しやすいと いう意見があり,AR表示の有効性が確認できた.

(3)活用ユースケース

評価実験を行った物流倉庫Aでは,作業者自身が,ピッキング作業時に問題箇所に 気付いたときに,改善を行っており,この作業を定型化することが求められている.

紙のデータ分析結果はこれまでも活用可能ではあったが,理解の難しさから作業者自 身での活用までには至っておらず,管理者による分析作業での活用となっていた.し かし,2D/3D 画面,AR 画面については,評価実験により作業者自身での分析作業が 可能であると考える.

また,評価実験では,日常的に改善を行っていた状態で新たに問題箇所を抽出し,

要因が特定できるかを検証した.その結果,3.5.2(2)記載のように,ARにより新たな 要因特定ができることが確認された.これらの結果は,これまでの改善では漏れてい た問題箇所である.作業者は,分析データの難しさからこれまでは活用しておらず,

本人の知見や感触で改善を実施していた.しかし,ARを活用することで,分析データ を理解できるようになり,これらの新たな要因特定が可能になったと考える.

ヒアリングを行った物流倉庫Bでは,管理者が巡回時に,問題箇所に気付いたとき に,作業者に改善指示を行っていた.巡回時には,管理者は,問題箇所の抽出以外に,

作業状況の確認や,作業者の支援など様々な作業を並行して行っている.そのため,

紙や2D/3D画面を使って,ロケーション番号と数値を確認したり,位置を照らし合わ

せたりすることは,他の作業と並行して行えず難しい.しかし,AR画面の場合,気付 いたときに気軽に表示を確認することができ,他の作業と並行して行うことができる ため,巡回時に活用可能であると考えられる.

(4)導入コスト

紙の分析作業では,すでに設置されているロケーション番号などを表示するのみで

41 あるので,導入のための作業は不要である.しかし,2D/3D 画面での分析作業では,

新たに棚の3次元情報などを設定する必要があり,その工数がかかる.AR画面では,

棚の3次元情報に加えて,マーカーの設置や設置場所の設定などの工数がさらに必要 となる.そのため,導入コストの観点では,紙での分析作業がよい.

(5)比較結果のまとめ

(1)~(4)での紙,2D/3D画面,AR画面の比較結果について,表 3.5に整理する.

表 3.5 各表示形式の比較結果

2D/3D表示 AR

表示例

分析の 質

要 因 特 定 で き る量

△ 隣 接 す る 間 口 の 影 響などは気付けない

◎ 隣 接 す る 間 口 の 影 響 を 分 析 で き る こ と により紙より9件中1 件多く特定

◎隣接する間口の影 響を分析できること により紙より 9 件中 1件多く特定

確 認 箇 所の量

○ 予 定 の 検 討 候 補 に ついて確認を実施

◎ 予 定 以 外 の 箇 所 に つ い て も 改 善 が 行 わ れ る た め 紙 よ り も 9 件中2件多く確認

◎予定以外の 箇所に ついても改善が行わ れるため紙よりも 9 件中2件多く確認 分かりやすさ ×ロ ケ ー シ ョ ン 番 号

と分析結果の数値

○ 位 置 と 表 示 を 照 ら し合わせる必要あり

◎ 数 値 よ り も 直 感 的、位置を照 らし合 わせる必要なし 使用シーン ○分析作業 ○分析作業 ◎分析作業

巡回時 導入コスト ◎不要 ○3 次 元 情 報 の 設 定

が必要

△3 次元情報 およ び マーカー設置 情報の 設定が必要

要因特定できる割合,確認箇所の数などの削減コストの観点と,表示形態の分かり やすさ,使用シーンの数などについて,紙よりもAR表示の効果が認められた.2D/3D

ロケーション番号 作 業時間 231-25-41 100 232-22-31 95 251-13-23 91 231-22-13 89

42 画面表示との比較については,分かりやすさや使用シーンの数などの使い勝手の観点 でARの効果が認められた.一方で,導入コストについては紙や 2D/3D画面の表示の ほうが優れているが,3.5.2(4)で試算したように大きな工数とはならず,作業者自身で の分析作業,管理者の巡回時での活用を考慮するとAR画面が有効である.