第 4 章 ピッキング作業指示への AR 活用
4.4 AR ピッキングシステムの開発
4.4.2 システム改良の評価
56 図 4.17 作業対象外の表示
⑤ ピッキング場所の方向の表示
表示領域の表示画角(対角)の 18-23度に対し,カメラの画角(対角)は43度と広 い(図 4.5).課題1-Bでは,狭い表示領域を使って,すべての間口を確認し対象物 を探し出すために時間がかかっていると考えられる.作業位置のマーカーを最短 の時間で探し出せるように,対象のマーカーの方向を矢印で表示し,作業位置を 見つける手がかりとする.このとき,マーカーが表示領域内に入っていないがカ メラの撮影範囲内であることを利用してマーカーの方向を認識して表示した(図 4.18).
図 4.18 ピッキング場所の方向の表示
57 ないものの十分な数のピッキングを行ったため,検定での有意差についても確認した.
その結果,有意差はないが,平均して13%,作業時間の短縮が認められ(図 4.20),
描画処理速度の改善効果が確認できた.被験者3名は,遅延改善の場合の方が、作業 速度が速くなった.ただし,被験者1名については,ピック全5回の合計では効果が 見られなかった.これは,5回ピックしたうちの 1回分のみ非常に時間がかかってい たためであり、残りの4回については,遅延改善ありの方が早い結果であった(図 4.21).
以上より,描画遅延を減らすと,AR表示が見つけやすくなり,作業が早くなること が分かり,一定の効果が認められた.また,ヒアリングからは,依然と,描画遅延/描 画更新サイクルの頻度の少なさに対する不満が聞き取れた.
図 4.19 実験環境
図 4.20 実験結果
58 図 4.21 被験者 4の実験結果詳細
(2) キャリブレーションによる改善効果
前項で述べたキャリブレーションによる位置ずれの改善の効果について検証した.
被験者 4 名でキャリブレーション前後での表示のずれ幅を 2 端末(BT-2000,HLDS 製)で測定した.2m先に実際に設置した矩形とディスプレイ上に表示した矩形を見比 べてもらい,上下左右の辺のずれの大きさを測定した.結果が,図 4.22,図 4.23で ある.どちらの端末においても,開発したキャリブレーションアプリを使用すること で,ずれ幅を 3cm 以下に抑制し,改善後が有意に小さかった(図 4.24).特に,両眼 (BT-2000)は,人によりカメラと目との位置ずれの違いが大きかったため,大きな効果 が得られた.今回開発したキャリブレーションアプリによる位置合わせ作業には数分 かかり,必ず作業前に行う必要がある.例えば,作業途中でHMDがずれたり,付け 直したりした場合,再度位置合わせが必要となるため,作業者の負担の少ないキャリ ブレーション方式については今後の課題である.
図 4.22 表示ずれ幅の測定結果(片眼HMD)
59 図 4.23 表示ずれ幅の測定結果(両眼HMD)
図 4.24 表示ずれ幅の平均
(3) UIによる改善効果
前節で述べた UI の改善によるピッキング作業時間向上の効果を検証した.被験者 4名がピッキング模擬作業を行い,その作業速度の計測,またヒアリングを実施した.
課題改善前のUI と,新たに開発した UI を適用した 3パターンの表示の,計 4パタ ーン(表 4.1)でピッキング模擬作業を実施した.
60 表 4.1 UIパターン
# 1 2 3 4
表示例
表示枠 なし あり あり あり
×印 なし あり あり あり
位置表示 塗り 塗り 枠 枠
個数表示 中央 中央 マーカー上 マーカー上
矢印表示 なし なし なし あり
それぞれの UI パターンで模擬ピッキング作業にかかった時間を図 4.25 に示す.
UI改善後のパターン 4の場合が改善前のパターン 1の場合と比べて,平均で38%の 所要時間の改善が見られ,有効性が確認できた(有意差あり).
図 4.25 ピッキング時間
被験者のアンケートから,各パターン間での作業のしやすさを比較した.
パターン 1とパターン2の比較結果が図 4.26である.被験者全員がパターン 2の 方が作業しやすいと答え,×印の効果が認められた.また,被験者のコメントは以下 があった.
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次に行くきっかけが分かりやすい.
×印や枠があったほうがよいが,処理遅延があるため,遅れて表示されて間違 う.
ピッキング対象ではないことが分かり安心感がある.
パターン 2とパターン3の比較結果が図 4.27である.被験者4名のうち 3名がパ ターン3の方が作業しやすいと答えた.
パターン 2の方が作業しやすいと答えた被験者1名のコメントは以下である.
表示される面積が広くてみつけやすい.
残りの被験者のコメントは以下があった.
マーカー部分に数字が書かれていたほうが分かりやすい.確実で間違えにくい.
片眼の場合は,片目で作業対象を見られるので,塗りつぶしでもよいが,両眼 の場合は,枠の方がよい.
パターン 3とパターン4の比較結果が図 4.28である.被験者4名全員がパターン 4の方が作業しやすいと答えた.被験者のコメントは以下である.
矢印の方向だけ見ればよいので最短距離でいけるようになった.
とてもみつけやすくなった.
闇雲に探す必要がなくなった.
図 4.26 パターン 1と2の比較結果
62 図 4.27 パターン 2と3の比較結果
図 4.28 パターン 3と4の比較結果
以上より,作業スピードおよび作業のしやすさの両方の観点から,UIの改善効果が 認められた.