• 検索結果がありません。

SWB に影響する関連要因

ドキュメント内 図 の 目 次 (ページ 30-35)

Larson61) は,アメリカの高齢者のSWBに関連する要因を1940年代の文

献から整理し,「健康と身体的障害」「社会経済的要因と関連する変数」「年齢」

「性別」「人種」「就労」「婚姻状態」「交通機関と居住環境」「アクティビティと 対人関係」という点からまとめている.McNeilら96)は.1970年代以降の論 文を主にレビューしており,SWBを予測する要因として,「健康」「アクティ ビティ」「収入」「信仰」「居住環境」「婚姻状態」「性別」「年齢」「人種」「教育 歴」「就労」「配偶者との死別」「性格」「SWBそのもの」という項目から整理 している.渡邉ら91)は,より若い人も含まれた場合,主観的ウェルビーイン

グの関連要因を, 「健康」「収入」「信仰」「婚姻」「年齢」「性別」「職務モラー ル」「教育歴」「知性」と分類している.高齢者の場合では,退職者が多い,社 会的な役割の減少,健康を害している人が多いことから別に検討が必要と考え られるとしている.

SWBに影響する関連要因として,「性別」「年齢」「所得・収入」「教育歴」

「身体的健康・主観的健康感」 の順に述べる.

5-1 性別

幸福感の性差に関して,一致した関連性は報告されていない61, 96).女性の 方が男性よりも幸福感は高いがその差はあまり大きくはないとされる報告もあ

る.Calasanti97)の米国の調査では,女性のほうが男性よりSWBが高かった.

若い女性は若い男性より幸福感が高く,女性の老人は男性の老人より幸福感が 低い.また,45歳を境にして女性の幸福感は男性より低くなるが,性差はあ まり大きくないとする報告がある98)

Iwatsuboら99)のフランスの調査では,SWB(LSIA)に性差は,認められ

なかった.筒井他100) は,喫煙の影響をコントロールすると,男女の幸福感の 差はなくなると報告している.Larson61) は,SWB に性差はほとんどなく,

性別はSWBの分散の0から1%を説明するのみとしている.

Pinquart とSorensen 101) は SWを被説明変数とする 174本の論文をメタ アナリシスした結果,男性の SWB が女性より高かったが,性別の説明力は 1%以下だったとしている.男性のSWBが高い理由には,既婚者,教育歴や 収入の高い人,健康問題の少ない人が男性に多く,これらのことによって男性 は恩恵を受けやすいからとしている.その他の理由として,女性のほうがネガ ティブな感情を表現する傾向があることも指摘されているが,この点について は十分に検証されていない101)

5-2 年齢

年齢とSWBとの関係は,欧米では,加齢と共にU字状を描くとする先行研 究が多い.つまり若い人の幸福感は高く,それが中年期(40歳代)にいったん

低下し,高齢になると共に上昇することが示されている102, 103)

日本では,年齢が高いことは,SWBにマイナスの影響を与える傾向が見ら れ,「国民生活白書 平成20年版」では,高齢になってもSWBが高まらないの は日本の特徴としている28)

5-3 所得・収入

個人の所得が増加すると,個人のSWBは上昇するとされ,教育レベルのよ うな他の変数を統制してもこの関係は存在する61).所得,就業状態,教育歴 はSWBと関連がみられ,その中では所得の説明力が最も大きい 61).McNeil ら96)は,高齢者では,所得が必ずしも豊かさの指標とならない場合もあるが,

それでも所得とSWBの関連はあるとしている.

同一国内では,所得とSWBの間には正の相関がある.しかし,所得の変動 にSWBが必ずしも同調するわけではないことが報告されている.この点に関 して,筒井他100) は,所得の高い人ほど幸福感は高いが,一定の所得を超える と幸福感が低下するという,一種の「飽和点」があることを指摘している.幸 福感の飽和について,Lane104) は,米国では所得が1972年から1994年の間 に上昇しているのに幸福感が低下しているのは,市場経済化により物や所得へ の選好が高まることで家族などとの絆(companionship)が低下し,それが人々 のストレスに対処する能力を低下させ,結果として,幸福感を低下させている というメカニズムがみられることを報告している.

SWBと所得との因果関係の方向については,長期時系列データからは所得 からSWBという因果関係が観察される一方,逆の関係も指摘されている.ま た,SWBに対する所得効果が所得の上昇に伴い逓減するのは,人々が参照し ているのは絶対所得ではなく相対所得などであり,人々は満足レベルを時間と ともに引き上げるということも言われている.

所得分布が健康に影響するメカニズムについて,橋本52) は以下の様にまと めている.

1)唯物論的なメカニズム.新唯物論(Neo materialism)などと呼ば れるが,教育や医療・福祉などに注ぐ資源の絶対量が健康に影響すると

いう考え方である.

2)階層により異なる生活習慣行動につながり,それが異なる疾病発 生パターンにつながるというもの.所得や教育歴と喫煙・食事・運動な どの生活習慣行動との間に強い関連が見られるとする研究もある105)

3)社会比較によるものとして,人は属する社会それぞれに規範とな る生活様式や生活水準があり106, 107),それに到達できていないことが 心理的ストレスの原因となり,最終的には疾病や健康状態の悪化につな がるという108)

4)社会関係資本(Social capital)の欠如によるストレス.間接的なが らそれを支持する研究もある109)

これらの理論的枠組は統一的なものが示されておらず,総合的に評価する理 論的枠組みと調査研究が必要とされている52)

5-4 教育歴

教育歴と経済状態はSWBに関連している90) という報告では,教育歴が高 い場合には自己評価も高まる可能性があること,社会経済的要因は物質的な豊 かさなどの生活の質の向上に影響しうること,社会経済的要因とス卜レッサー を予防する行動とが関連しているためにSWBが維持されやすいことが考察さ れている.社会経済的要因が他の要因を介して間接的にSWBに関連している ことが検討され,教育歴と収入が高いほど,健康状態は良好であり,生活上の 問題は少なくなり,それらを介してSWBに影響しているとしている.また,

教育年数は予防行動を促進させる重要な変数であることが指摘される.その理 由として,教育により高い人的資本を身につければ健康増進の生産性を高めら れることや,教育水準の上昇によって健康リスクや健康被害への対処法に関す る知識が増加し,より効率的に時間や財を投入することで健康を増進させるこ とができることなどが考えられる110, 111) *17

*17石井110) は,健康と教育歴および収入との関連について,以下のようにまとめている.

Grossmanモデルでは個人の健康状態を「健康資本(health capital」として捉え,今期の

健康資本ストックは前期の健康資本に割引率を掛けたものを受け継ぐと考えている.この

一方,教育歴はSWBとの関連が薄いとする13)報告もある. 教育歴のSWB に対する効果ははっきり現れておらず112),収入のような教育歴に伴う他の変 数が統制されている時は効果が見られない 113) と報告されている.石田114) は,社会経済的要因のなかで,教育年数が健康関連の変数にまったく有意な影 響を与えていなかった事を指摘している.

5-5 主観的健康感・身体的健康

身体的な健康と幸福感に関する研究では,幸福感の高い国では結果として健 康状態も良いということが観察されている 115–117).この結果は,健康だと幸 福感が高いという一般に考えられる因果関係とは逆のように思われる.しか し,人々は健康状態が悪くなった場合でもその状況に適応するため,病気と幸 福感との相関は低いことや36),病気になると,健康であった時点の幸福感の レファレンス・ポイントを低く変化させることで病気になったことによる幸福 感の悪化を調整することがなされるためであると考察されている118)

多くの研究が,人のSWBと健康との間に大きな正の相関を指摘しており,

年齢や自尊感情などの他の変数を統制してもこの効果は残っている61, 119).し かし,内科医によるチェックリストを用いた客観的健康度とSWBとは0.20か ら0.40の範囲で相関するが,主観的健康感との相関ほど高くはない61)

健康はSWBを説明する最も重要な要因であり,SWB の分散の4 から16

%が健康によって説明される.健康状態を測るスケールには本人の自己評価 である主観的なスケールと医師などの他者が判断する客観的なスケールとがあ るが,主観的なスケールのほうがSWBとの関連性が強い91)

主観的なスケールの中では,身体的症状の数,身体的機能の程度といったも のよりも,主観的健康感のほうがSWBとの関連が強いとされている.健康が SWBと関連している理由として, 健康状態が良好であることがコントロール

割引率は老齢期に向かうほど高まる.前期ストックからの受け継ぎ以外にも,健康資本は時 間と財(医療サービス,運動,良好な食生活,禁煙といった健康行動,余暇)の投入によっ て増大する.健康資本の増減に寄与するそれらの行動をいかに効率的に行うかは,教育歴 といった人的資本に依存する.そして,健康資本を増大させる財の投入量は予算(所得)と 時間の制約下にあると考える.

ドキュメント内 図 の 目 次 (ページ 30-35)