第 IV 章
第 2 節 本研究の結論
本節では,本研究の全体の目的について述べ,さらに研究で得た結論と知見 をまとめる.本研究の目的は,1)社会経済的要因(等価収入,教育歴)と,幸 福感,生活満足感,主観的健康感の3つの主観的指標との相互関連性を共分散 構造分析を用いて検討する.2)社会経済的要因(収入,教育歴)と,生活満 足感,主観的健康感,ADL,外出頻度および生存日数との相互関連性を共分散 構造分析を用いて検討することである. 本研究では,1)は,都市在宅高齢者 の横断調査により,重回帰分析,共分散構造分析を用いて相互関連性を検討し た.2)は,追跡調査により,共分散構造分析,Cox比例ハザード分析および 重回帰分析を用いて,社会経済的要因から生存日数への影響を検討した.これ らの関連性の検討から,高齢者における健康施策に関する基礎資料を得ること を目的とした.
各章ごとの結論について述べる.第II章では,『幸福感』と『生活満足感』
が媒介効果を持つことが示唆された.“社会経済的要因”の『主観的健康感』に 対する関連は,標準化直接効果と比べて,『生活満足感』『幸福感』を介した,
標準化間接効果のほうが大きいことが示唆された.『生活満足感』と『幸福感』
では,『生活満足感』の方が『幸福感』に比べて,“社会経済的要因”との関連 が大きいことが示唆された(図IV.1).『生活満足感』と『幸福感』では,“社会 経済的要因”からの影響が異なっていることが示唆された.また,婚姻状況・
家族状況により,“社会経済的要因”が『主観的健康感』に及ぼす影響に違いが あることが示唆された.
第III章では,“健康関連指標”が媒介効果を持つことが示唆された.“社会 経済的要因”から,『2004年からの生存日数』への標準化直接効果と比べて,“ 社会経済的要因”から“健康関連指標”を介した『2004年からの生存日数』へ の標準化間接効果のほうが大きいことが示唆された(図IV.2).また,婚姻状
況・家族状況により,“社会経済的要因”が『2004年からの生存日数』に及ぼ す影響に違いがあることが示唆された.
以上の各章の結論に基づき,本研究で得られた知見の概要をまとめると以下 のとおりである.
1. “社会経済的要因”と『主観的健康感』の関連には,『生活満足感』『幸福 感』を介した間接効果(=媒介効果mediation)が存在することが示さ れた(図IV.1).
2. 婚姻状況・家族状況により,“社会経済的要因”が『主観的健康感』に及 ぼす影響に違いがあることが示された.
3. “社会経済的要因”と『2004年からの生存日数』の因果関係には,“健康 関連指標”を介した間接効果(=媒介効果)が存在することが示された
(図IV.2).
4. “社会経済的要因”から『主観的健康感』への直接効果,“社会経済的要 因”から『2004年からの生存日数』への直接効果に比べて,それぞれ間 接効果のほうが大きいことが示された(図IV.1,図IV.2).
5. 婚姻状況・家族状況により,“社会経済的要因”が『2004年からの生存 日数』に及ぼす影響に違いがあることが示された.
本研究により,“社会経済的要因”と『主観的健康感』が,『生活満足感』『幸 福感』を介して関連することが示唆された.また,“社会経済的要因”と『生存 日数』が,“健康関連指標”を介して関連することが示唆された.つまり,媒介 効果を持つ『生活満足感』『幸福感』を分析に投入しない場合は,“社会経済的 要因”と『主観的健康感』の関連が有意となる.しかし,媒介効果を持つ『生 活満足感』『幸福感』を分析に投入した場合は,“社会経済的要因”と『主観的 健康感』の関連が有意ではなかった.以上のことから,“社会経済的要因”と
『主観的健康感』『生存日数』の研究において,媒介効果を持つ『生活満足感』
『幸福感』の重要性が示唆された.
図IV.1 研究結果のまとめ(1)
図IV.2 研究結果のまとめ(2)
社会疫学など,“社会経済的要因”と『主観的健康感』『生存日数』の研究に おいて,『生活満足感』『幸福感』の主観的指標を分析に含める必要性が提言さ れる.また,生存日数を維持する上で,“社会経済的要因”の重要性が示唆され る.特に,国際的にも関心が高まっている,『生活満足感』『幸福感』が持つ新 たな性質を示した.この点が,本論文の新規性および重要性である.