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第 III 章

ドキュメント内 図 の 目 次 (ページ 114-158)

都市高齢者における社会経済的 要因および健康関連指標とその 後の生存日数の共分散構造分析

第 1 節 はじめに

健康の社会経済的要因による格差への関心が高まっている.収入,教育,職 業などの社会経済的要因と健康の関連について,国内外で実証的な研究が蓄積 されてきた.健康関連指標と死亡率の関連についても,報告されている.日常 生活動作能力(Activities of Daily Living: ADL)が低くなると死亡率が有意に 高いことがDonaldsonら170),古谷野ら171) によって報告されている.主観的 健康感が生存の有意な予測因子であることは,Idlerら172),藤田ら 173) が報 告している.外出頻度が,健康寿命を予測すること,主観的健康感やADLも 有用な予測因子であることを,平井ら174) が報告している.また,芳賀ら175) は,主観的健康感が,身体的健康,対人関係や社会的活動と,統計的に有意に 関連することを報告している.

社会経済的要因および健康関連指標と,その後の生存日数の因果関係につい て,追跡調査データを用いて共分散構造分析を行った先行研究は,国内外共に 報告されていないようである.

本研究の目的は,都市在宅高齢者を対象として,社会経済的要因である収入

および教育歴と,生活満足感,主観的健康感,ADL,外出頻度の健康関連指標 が,その後の生存をどのように規定するのかについて,経年追跡データを用い て共分散構造分析を行い,その因果関係を明確にすることである.

第 2 節 対象と方法

2-1 対象と調査項目

初回調査は,2001年9月に東京都郊外A市に居住する在宅高齢者16,462人 全員を対象とした.調査方法は,都市在宅高齢者に対する郵送自記式質問紙調 査である.回答が得られた13,066人(回収率79.4%)を,2004年に再調査し た.その後 2007年8月まで追跡し 8,285人の死亡日または生存を確認した.

そのうち,下記の質問項目に欠損のない 5,768 人(男性2,914 人,平均年齢 71.0歳,女性2,854人,平均年齢71.9歳)を分析に用いた.2004年から2007 年8月までの追跡の結果,死亡は,男性194人(6.7%),女性123人(4.3%) であった.

調査項目は,社会経済的要因として教育歴と収入,および性別を用いた.健 康関連指標として,生活満足感,主観的健康感,ADL,外出頻度を用いた.

教育歴*1は,1「尋常小学校」,2「旧制高等小学校」,3「実業学校」,4「旧制 中(女)学校」,5「旧制専門学校」,6「新制小学校」,7「新制中学校」,8「新制 高等学校」,9「専門学校」,10「短期大学」,11「大学(旧制も含む)」,12「大 学院」,13「その他」,14「学校にはいかなかった」,15「答えたくない」,の15 件の選択肢として2004年に調査した.分析では,1「中学校まで」,2「高等学 校まで」,3「専門学校・短期大学・大学」の3群に再分類した.再分類のカテ ゴリは,1「尋常小学校」,2「旧制高等小学校」,6「新制小学校」,7「新制中学 校」,14「学校にはいかなかった」,を1「中学校まで」,3「実業学校」,4「旧 制中(女)学校」,8「新制高等学校」,を 2「高等学校まで」,5「旧制専門学 校」,9「専門学校」,10「短期大学」,11「大学(旧制も含む)」,12「大学院」, を3「専門学校・短期大学・大学」の3群である.13「その他」,15「答えたく

*12004年 問11-11教育歴

ない」を欠損値とした.

収入は,2001年調査の設問 *2「去年1年間のあなた方(ご夫婦の合計)の 収入はどのくらいでしたか(年金や仕送りも含めます)」を用いた.回答は,1

「なし」,2「100万円未満」,3「100〜200万円未満」,4「200〜300万円未満」, 5「300〜400万円未満」,6「400〜500万円未満」,7「500〜700万円未満」,8

「700〜800万円未満」,9「800〜900万円未満」,10「900〜1000万円未満」,11

「1000万円以上」,12「答えたくない」の12件から選択してもらった.分析に は,1「100万円未満」,2「100万円から300万円未満」,3「300から700万 円未満」,4「700万円以上」に再分類して用いた.

健康関連指標の項目は,2004年調査のデータを用いた.生活満足感の設問

*3は,「現在の生活に満足していますか」とした.回答は,1「はい」,2「いい え」,3「どちらともいえない」,の3選択肢からひとつを選択してもらった.

分析には,1「いいえ」,2「どちらともいえない」,3「はい」として用いた.

主観的健康感の設問*4は「ご自分で健康だと思いますか」とした.回答は,

1「健康である」,2「まあまあ健康である」,3「あまり健康ではない」,4「健 康でない」の4選択肢からひとつを選択してもらった.分析には選択肢番号を 反転して用いた.

ADLの設問は,Katzら140) の指標を参考に,「自分でトイレに行けますか」

*5,「自分でお風呂に入れますか」*6,「続けて1キロぐらい歩くことができま すか」*7の3つの設問を用いた.各設問の選択肢,1「はい」,0「いいえ」,を 合計して3点から0点のADL得点とした.

外出頻度の設問*8は「外出回数(隣近所を含む)は,どのくらいですか」と した.回答は,1「ほぼ毎日」,から,5「月1回以下」,の5選択肢とした.分 析には,1「月に1回以下」,2「月に1回以上」,3「週3〜4回以上」に再分類

*22001年 問11-4収入

*32004年 問9-3生活満足感

*42004年 問9-1主観的健康感

*52004年 問6-4 ADL(トイレ)

*62004年 問6-5 ADL(風呂)

*72004年 問6-10 ADL(歩行)

*82004年 問11-4外出頻度

して用いた.

2-2 分析方法

従属変数を『死亡』として,Cox比例ハザード分析を行った.次に,因子分 析により,潜在変数である健康関連指標を構成する観測変数を選択した.抽 出した因子を潜在変数として,共分散構造分析を行った.“社会経済的要因” の 2001年の収入と 2004年に調査した教育歴は,2004年調査時の健康状態 に対して,Sing-Manouxら134) の述べる時間的に先行する遠位の指標(distal

measures)と見なせるので,原因要因とした.適合度が高いモデルを最終モデ

ルとして選択し,最終モデルを男女別に多母集団同時分析した.係数の統計的 有意性は,5%有意水準とし,検定統計量(Critical ratio,以下C. R.と略)の 絶対値が1.96以上とした.

データの集計,分析には統計パッケージSPSS11.5 for WindowsとAMOS5.0 for Windowsを用いた.適合度指標は,χ2値,NFINormed Fit Index),CFI

(Comparative Fit Index),GFI (Goodness of Fit Index),AGFI(Adjusted Good-ness of Fit Index),AIC(Akaike’s Information Criterion, 赤池情報量基準),

RMSEA(Root Mean Square Error of Approximation)を用いた.

III.1 仮説モデル:社会経済的要因健康関連指標『生存日数』

第 3 節 結果:性別 2 群

3-1 対象者の基本属性:調査項目別の分布

調査項目およびその分布を表III.1に示す.調査項目の分布状況を性別に比 較した.分析対象者の属性を男女別に見ると,『教育歴』『収入』『主観的健康 感』『ADL』『外出頻度』で男性は女性と比べ統計的に有意な差が示された.

『教育歴』は,短期大学卒業以上の男性56%,女性24%と,男性の『教育 歴』が有意に高かった(P<0.001).『収入』は,女性に比べて男性が高い傾向 を示し,年間700万円以上の『収入』がある男性12%,女性7%であった.女 性に比べて男性の『収入』が統計的にみて有意に高かった(P<0.001).

『主観的健康感』の分布は,健康である,まあまあ健康である,の2つを合 わせた割合が,男性83%,女性80%であった.女性に比べ男性の方が健康で ある割合が統計的に有意に高かった(P<0.001).『ADL』の得点は 3点が,

男性89%,女性79%であった.女性に比べて男性の『ADL』が統計的にみて 有意に維持されていた(P<0.001).『外出頻度』は,週3から4回以上外出す る人が,男性84%,女性78%であった.女性に比べて男性の『外出頻度』が 高い割合が統計的に有意であった(P<0.001).

『生活満足感』は,男性と女性の統計的に有意な差は示されなかった.

III.1 調査項目とその分布

項目 カテゴリー 合計N=5,768 男性N=2,914 女性N=2,854 Kendall P

度数 % 度数 % 度数 % のタウb

教育歴 1)中学校まで 1,170 20.3 498 17.1 672 23.5

2)高等学校まで 2,282 39.6 772 26.5 1,510 52.9 0.27 P=0.00

3)専門学校・ 2,316 40.2 1,644 56.4 672 23.5

  短期大学・大学

収入 1) 100万円未満 383 6.6 54 1.9 329 11.5

2) 100-300万円未満 2,188 37.9 924 31.7 1,264 44.3 0.23 P=0.00

3) 300-700万円未満 2,660 46.1 1,588 54.5 1,072 37.6

4) 700万円以上 537 9.3 384 11.9 189 6.6

生活 1)いいえ 605 10.5 317 10.9 288 10.1

満足感 2)どちらともいえない 1,545 26.8 786 27.0 759 26.6 0.01 P=0.30

3)はい 3,618 62.7 1,811 62.1 1,807 63.3

主観的 1)健康でない 330 5.7 150 5.1 180 6.3

健康感 2)あまり健康ではない 732 12.7 338 11.6 394 13.8 0.07 P=0.00

3)まあまあ健康である 3,298 57.2 1,635 56.1 1,663 58.3

4)とても健康である 1,408 24.4 791 27.1 617 21.6

ADL 0 72 1.2 24 0.8 48 1.7

1 111 1.9 41 1.4 70 2.5 −0.14 P=0.00

2 731 12.7 247 8.5 484 17.0

3 4,854 84.2 2,602 89.3 2,252 78.9

外出頻度 1)月に1回以下 144 2.5 53 1.8 91 3.2

2)月に1回以上 938 16.3 402 13.8 536 18.8 0.08 P=0.00

3)34回以上 4,686 81.2 2,459 84.4 2,227 78.0

 『性別』は,男性= 1,女性= 2を与えている.

III.2 記述統計と単相関行列(男性)

N=2,914

平均値 標準偏差 教育歴 収入 生活 主観的 ADL 外出頻度 満足感 健康感

教育歴 2.39 0.762 1

収入 2.77 0.675 0.335∗∗ 1

生活満足感 2.51 0.684 0.056∗∗ 0.158∗∗ 1

主観的健康感 3.05 0.769 0.049∗∗ 0.093∗∗ 0.391∗∗ 1

ADL 2.86 0.443 0.037 0.080∗∗ 0.207∗∗ 0.364∗∗ 1

外出頻度 2.83 0.425 0.069∗∗ 0.099∗∗ 0.100∗∗ 0.227∗∗ 0.387∗∗ 1

2004年からの

生存日数 1,035 134.0 0.016 0.047 0.116∗∗ 0.236∗∗ 0.249∗∗ 0.223∗∗

∗∗P<0.01,P<0.05

III.3 記述統計と単相関行列(女性)

N=2,854

平均値 標準偏差 教育歴 収入 生活 主観的 ADL 外出頻度 満足感 健康感

教育歴 2.00 0.686 1

収入 2.39 0.776 0.217∗∗ 1

生活満足感 2.53 0.672 0.027 0.111∗∗ 1

主観的健康感 2.95 0.777 0.064∗∗ 0.057∗∗ 0.412∗∗ 1

ADL 2.73 0.589 0.103∗∗ 0.160∗∗ 0.257∗∗ 0.421∗∗ 1

外出頻度 2.75 0.502 0.074∗∗ 0.148∗∗ 0.152∗∗ 0.279∗∗ 0.419∗∗ 1

2004年からの

生存日数 1,041 120.5 0.057∗∗ 0.089∗∗ 0.097∗∗ 0.184∗∗ 0.279∗∗ 0.173∗∗

∗∗P<0.01

3-2 Cox 比例ハザード分析の結果

男女別に,従属変数を『死亡』として,Cox比例ハザード分析を行った(表 III.4,表III.5).

モデル1では,従属変数を『死亡』,独立変数を『教育歴』『収入』とした.

男性では,『教育歴』(P=0.314)『収入』(P=0.114)の死亡ハザード比は,統 計的に有意ではなかった.女性では,『教育歴』(P=0.059)は,統計的に有意 ではなかった.『収入』の死亡ハザード比0.55(P<0.001)は,統計的に有意 であった.

モデル1に『生活満足感』を投入し,モデル2とした.男性,女性ともに,『生 活満足感』(男性0.61 P<0.001,女性0.66 P<0.001)の死亡ハザード比は,

統計的に有意であった.女性では,『収入』の死亡ハザード比0.58(P<0.001) であり,統計的に有意であった.

モデル2に『主観的健康感』を投入し,モデル3とした.男性では,『生活 満足感』の死亡ハザード比(P=0.561)が統計的に有意では無くなった.女性 では,『生活満足感』の死亡ハザード比(P=0.804)が統計的に有意では無く なった.『収入』の死亡ハザード比は0.59(P<0.001)であり,統計的に有意 であった.

モデル3に『ADL』と『外出頻度』を投入し,モデル4とした.男性では,

『ADL』の死亡ハザード比は0.70(P=0.001),『外出頻度』の死亡ハザード比 は0.54(P<0.001)であった.『ADL』と『外出頻度』の投入により,『生活満 足感』の死亡ハザード比が0.77(P=0.302)から0.98(P=0.519)となった.

『主観的健康感』の死亡ハザード比は0.40(P<0.001)から0.51(P<0.001) となった.女性では,『ADL』の死亡ハザード比は0.47(P<0.001),『外出頻 度』の死亡ハザード比は0.69(P=0.009)であった.『ADL』と『外出頻度』

の投入により,『生活満足感』の死亡ハザード比が0.97(P=0.804)から1.09

P=0.538)となった.『主観的健康感』の死亡ハザード比は0.47(P<0.001) から0.71(P=0.005)となった.『収入』の死亡ハザード比0.67(P=0.001) であり,統計的に有意であった.『ADL』と『外出頻度』の投入による,死亡

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