第 II 章
第 6 節 考察
本研究では,横断調査によるデータを用い,重回帰分析,および,共分散構 造分析を行った.男女2群の分析を行い,次に,男女2群で年齢を調整した分 析を行った.最後に,性別・同居家族の有無別の4群で年齢を調整した分析を 行った.
男女2群の重回帰分析と,年齢を調整した男女2群の重回帰分析では,ほぼ 同様の結果が示された.男性では,モデル2で『生活満足感』を投入したとこ ろ,『教育歴』『等価収入』の標準化係数が低下し,統計的に有意ではなくなっ た.『生活満足感』は,『教育歴』『等価収入』を媒介していることを示してい る.女性では,モデル2で『生活満足感』を投入したところ,『等価収入』の標 準化係数が低下し,統計的に有意ではなくなった.『教育歴』の標準化係数の 低下は小さく,統計的に有意なままであった.『生活満足感』は,『等価収入』
を媒介していることを示している.また,標準化係数が低下し,統計的に有意 ではなくなったことから,full mediation(完全媒介)141, 144) を示している.
また,男性,女性ともに,モデル3で『幸福感』の投入したところ,『生活満足 感』の標準化係数が低下したことから,『幸福感』が『生活満足感』を媒介して いることが示唆された.これは,媒介効果を持つ『生活満足感』を『幸福感』
が媒介しており,multiple mediation(多重媒介)135, 137, 138, 165)を示している.
共分散構造分析では,男性は,“社会経済的要因”から『主観的健康感』へ の標準化直接効果が,標準化間接効果に比べて小さい値を示した.女性は,“ 社会経済的要因”から『主観的健康感』への標準化直接効果が,標準化間接効 果に比べて小さい傾向は示したが,統計的に有意な差はなかった.男性,女性 ともに,標準化間接効果は有意であったが,標準化直接効果は有意ではなかっ た.これは,重回帰分析の結果と同様に,full mediation(完全媒介)141, 144)を 示している.
性別・同居家族の有無別の4群で年齢を調整した分析では,男性の1人暮ら し群,女性の 1人暮らし群ともに,モデル1の『主観的健康感』と『等価収 入』,『主観的健康感』と『教育歴』の関連がいずれも統計的に有意ではなかっ
た.1人暮らし群では,『教育歴』『等価収入』のどちらも『主観的健康感』と の関連は見られなかった.
男性の有配偶・同居家族あり群と,女性の有配偶・同居家族あり群では,モ デル1の『主観的健康感』と『等価収入』,『主観的健康感』と『教育歴』の関 連がいずれも統計的に有意であった.モデル2の『生活満足感』の投入で,男 性の有配偶・同居家族あり群では,『教育歴』『等価収入』のどちらも標準化係 数が低下し,統計的に有意ではなくなった.女性の有配偶・同居家族あり群で は,『等価収入』の標準化係数が低下し,統計的に有意ではなくなった.モデ ル3の『幸福感』の投入で,女性の有配偶・同居家族あり群では,『教育歴』の 標準化係数が低下し,統計的に有意ではなくなった.また,『生活満足感』の 標準化係数が低下したことから,『幸福感』が『生活満足感』を媒介している ことが示唆された.これは,媒介効果を持つ『生活満足感』を『幸福感』が媒 介しており,multiple mediation(多重媒介)135, 137, 138, 165)を示している.
共分散構造分析では,男性の1人暮らし群,女性の1人暮らし群ともに,“ 社会経済的要因”から『主観的健康感』への標準化間接効果は統計的に有意で あったが,標準化直接効果と標準化総合効果は統計的に有意ではなかった.男 性の有配偶・同居家族あり群と,女性の有配偶・同居家族あり群では,“社会 経済的要因”から『主観的健康感』への標準化間接効果は統計的に有意であっ たが,標準化直接効果は統計的に有意ではなかった.標準化総合効果は統計的 に有意であった.これは,1人暮らし群では,“社会経済的要因”と『主観的健 康感』の関連が無いこと,有配偶・同居家族あり群では,“社会経済的要因”と
『主観的健康感』の関連があることを示しており,婚姻状況・家族状況により,
“社会経済的要因”が『主観的健康感』に及ぼす影響に違いがある可能性を示唆
している166–168).
性別・同居家族の有無別の4群で年齢を調整した分析では,最尤法による推 定で不適解が得られた.これは,分析対象が多変量正規分布をしているという 条件を満たしていなかったことが考えられる.最小二乗法は,対象となる母集 団の分布を仮定しない分析方法であり,また,不適解が一番起こりにくいとい う特徴がある 160). 欠点としては,統計的推測の一部が行えないため,Amos では カイ2 乗値,RMSEA,AGFI,AIC などの適合度指標が出力されない.
したがって,最小二乗法を用いた推定を行うことは可能である.しかし,豊田
164) は,本来は理論的にはどの推定法を用いても大きく違わないはずなので,
推定法により結論が大きく変化する場合は,モデルが適切かどうかを再検討す ることが必要であると述べている. 今後の課題として,他の集団に対してモデ ルを適用し,同居家族数,年齢に関してモデルを修正する必要が示唆される.
また,“社会経済的要因”から『主観的健康感』への標準化直接効果が,標準 化間接効果に比べて小さい傾向は,岡戸ら44)の先行研究の結果と類似してい た.本研究による新しい知見として,“社会経済的要因”は,『幸福感』と『生 活満足感』を介して『主観的健康感』と間接的に関連していることが明らかに なった.また,“社会経済的要因”の『生活満足感』と『幸福感』への効果とし ては,“社会経済的要因”から『生活満足感』のほうが関連が大きかった.これ は,Freyら13),Van Praag66),Coyne69),Bok70)ら経済学の研究者が『生活 満足感』と『幸福感』を交換可能な用語として用いているが,本研究では,“社 会経済的要因”は『生活満足感』と『幸福感』に対して異なった関連の大きさ を示していた.飽戸ら 73)が,生活満足感は,収入,貯蓄,住居など即物的な ものの評価(経済的豊かさ+住と暮らし環境の評価)であり,幸福感は,生活 満足感に心理的,審美的な要素を加味したものであるとする結果 を支持して いる.同様に,白石ら75)が,20〜40歳代の女性で,子供の数が幸福感にはプ ラス,生活満足感にはマイナスの影響を持っていた結果から,幸福感が非金銭 的・精神的な側面を持つ指標であること,生活満足感が金銭的な側面を持つ指 標である可能性を示唆した結果を支持するものである.
本章では,都市在宅高齢者の『教育歴』『等価収入』と『幸福感』『生活満足 感』『主観的健康感』との関連性を共分散構造分析を用いて分析した.『主観的 健康感』に対する“社会経済的要因”の関連は,標準化直接効果と比べて,『生 活満足感』『幸福感』を介した,標準化間接効果のほうが大きかった.『生活満 足感』と『幸福感』では,“社会経済的要因”との関連は『生活満足感』の方 が,『幸福感』に比べて大きかった.“社会経済的要因”の『生活満足感』との 関連は,男性の方が大きかった.“社会経済的要因”の『幸福感』『主観的健康 感』との関連は,男女で差がなかった.
第 7 節 まとめ
都市在宅高齢者の“社会経済的要因”と『幸福感』『生活満足感』『主観的健 康感』との関連を,媒介効果に着目し分析した.重回帰分析と共分散構造分析 により,性別2群,性別2群(年齢を調整),性別・同居家族の有無別4群(年 齢を調整)の分析をした.
性別2群の分析(図II.6,表II.10,p. 66)では,“社会経済的要因”と『主 観的健康感』との関連は,男女ともに統計的に有意ではなかった.“社会経済 的要因”の『主観的健康感』に対する関連は,標準化直接効果と比べて,『生 活満足感』『幸福感』を介した標準化間接効果のほうが大きかった.『生活満足 感』と『幸福感』では,『生活満足感』の方が『幸福感』に比べて,“社会経済的 要因”との関連が大きかった.“社会経済的要因”から『生活満足感』『幸福感』
『主観的健康感』に対する標準偏回帰係数のいずれも,性差はなかった.性別 2群(年齢を調整)の分析(図II.9,表II.17,p. 76)の分析も,同様の結果で あった.
性別・同居家族の有無別4群(年齢を調整)の分析(図II.13,表II.30,p.
97)では,1人暮らし群は,男性,女性ともに“社会経済的要因”から『主観的 健康感』へ『生活満足感』と『幸福感』を介した標準化間接効果は統計的に有 意であった.しかし,標準化直接効果,標準化総合効果のいずれも統計的に有 意では無かった.これは,1人暮らし群では,男性,女性ともに “社会経済的 要因”は『主観的健康感』と関連を持たないことを示唆している.有配偶・同 居家族あり群では,男性,女性ともに“社会経済的要因”から『主観的健康感』
への標準化直接効果は統計的に有意では無かった.しかし,“社会経済的要因” から『主観的健康感』への標準化間接効果,標準化総合効果は統計的に有意で あった.つまり,“社会経済的要因”は,『生活満足感』と『幸福感』を介して
『主観的健康感』と統計的に有意な関連があった.これらのことは,婚姻状況・
家族状況により,“社会経済的要因”が『主観的健康感』に及ぼす影響に違いが あることを示唆している.
本研究の限界と今後の課題として,以下の2点が挙げられる.第一に,分析