現在,人の幸せを測る新たな指標作りが世界で広がっている120–125).主要 なものについて解説し,各国政府で進められている状況について,内閣府「幸 福度に関する研究会」87) の資料「国際機関及び各国政府で研究が進められて いる社会進歩及び幸福度の測定について」126) を,表I.1〜表I.3に引用した.
6-1 GNH ( Gross National Happiness :国民総幸福)
GNH(Gross National Happiness:国民総幸福)は,GNP(国民総生産)の P(Product)をH(Happiness)に代えた造語である.1976年12月,スリラ ンカで開かれた第 5回日同盟諸国会議に出席したブータン国王ジグミ・シン ゲ・ワンチュック(Jigme Singye Wangchuck)の“GNH is far more important
than GNP.”(GNH はGNP より重要である)という発言で注目を浴びた.そ
の後,ブータン政府は政策としてGNHを取り入れ,(1)持続可能で公平な社 会経済開発,(2)自然環境の保護,(3)有形・無形文化財の保護,(4)良い統治 の 4つの指針を打ち出した 123, 125).GNH については,ブータンの憲法第 9 条“Principles of State Policy” 2 項に,“The State shall strive to promote those conditions that will enable the pursuit of Gross National Happiness.”「ブータン 政府は,GNHの追求を可能にするような環境整備に努めるものとする」と記 されている127, 128).
GNH はブータン国における開発哲学であり,いわゆる経済指標ではない
120).ブータンではこのGNHの数値化を検討する際の指標として,基本的な 生活(living standard),文化の多様性(cultural diversity),精神的幸福・精神衛
生(emotional well being),健康(health),教育・教養(education),時間の使 い方(time use),環境(eco-system),地域共同体の活力(community vitality), 良い統治(good governance) の9つの項目を掲げている.1999年に国立ブー タン研究センター(The Centre for Bhutan Studies,CBS)が設立され,上記9 つの領域についてGNH数値化の検討が行われている.
6-2 経済パフォーマンスと社会の進歩の測定に関する委員会
( CMEPSP )報告
「経済パフォーマンスと社会の進歩の測定に関する委員会(CMEPSP)報 告」(Report by the Commission on the Measurement of Economic Performance and Social Progress, CMEPSP)17)は,経済成果の指標としての GDPの限界 と主観・客観の幸福度指標,持続可能性指標の重要性と今後の方向性を提言し た.同報告の経緯について,小野81) によると以下の通りである.
CMEPSPは,フランスのサルコジ大統領のイニシアティブにより2008
年初めにつくられた委員会であり,その背景には,「GDPに代表される 現在の統計では経済社会の実態がうまく捉えられていないのではない か」という同大統領の問題意識があった.これを受けて報告では,「社 会の幸福度を測定しようとすればそれにふさわしい指標が必要になる」
との観点から提言がなされている.委員会のチェアマンは,ノーベル経 済学賞を受賞したコロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授がつ とめ,同じく同賞を受賞したハーバード大学のアマルティア・セン教授 がアドバイザー,そしてIEP(パリ政治学院)のジャン・ポール・フィ トゥシ教授がコーディネーターをつとめた.委員会のメンバーは,アメ リカ,イギリス,フランス,インドの専門家25名で構成されている(上 記3名を含む).
6-3 国民生活・経済に関する調査会
2007年に,参議院国民生活・経済に関する調査会は,「幸福度の高い社会の 構築」について調査を始めた84–86).丹下86)によると,調査会設置の経過と調 査の内容は以下の通りである.
参議院国民生活・経済に関する調査会は,国民生活・経済に関し,長 期的かつ総合的な調査を行うため,第168回国会,平成19年10月5日 に設置され,同年12月に調査項目を「幸福度の高い社会の構築」と決 定した.1年目は,国民生活の現状を全般的に把握するために,「国民 の生活環境と意識」,「国民生活と行財政の現状」,「都市と地方のくらし の現状と課題」,「若者のくらしと教育」,「福祉とくらし」,「ゆとりとく らし」といったテーマについて調査を行った.2年目は,1年目の基礎 的な調査を受けて,「幸福度の高い社会の構築」について,3つの仮説を 設定し,その検証を行うという,「仮説検証型」の調査を試みることに した.仮設の命題は若干逆説的で,仮説1「人口減少によって一人当た り国民所得は高まり,国民幸福度も向上する」,仮説2「休日・休暇が多 い国が国の経済力を伸ばし,国民幸福度を高める」,仮説3「高負担・高 福祉国家の国民は総じて国民幸福度が高い」とし,仮設1,仮説2に関 し,調査を行った.3年目は,まず,残りの仮説3「高負担・高福祉国家 の国民は総じて国民幸福度が高い」に関し,「諸外国のくらしと社会保 障」,「社会保障とくらし」について調査を行った.「諸外国のくらしと 社会保障」については,アメリカ,フランス,スウェーデン等の有識者 を,「社会保障とくらし」については,医療コンサルタント,高福祉を実 現している地方自治体の首長,高齢社会問題に取り組んでいるNPO法 人の代表を参考人として招致し,意見聴取・質疑を行った.その後,こ れまでの調査のまとめとして,「これからの社会保障と働き方・自由時 間」,「幸福度と個人・社会」について,参考人からの意見聴取・質疑を 行い,調査を深化させた上で,委員間の意見交換が行われた.
6-4 「新成長戦略」(基本方針)
2009年12月30日,鳩山内閣における経済成長戦略の基本方針である「新 成長戦略(基本方針)」129) が閣議決定された.その中で「国民の『幸福度』を 表す新たな指標を開発し,その向上に向けた取り組みを行う」と明記されたこ とを契機に,「幸福度」という言葉,幸福度指標が,広く社会で注目されるよ うになった.
6-5 幸福度に関する研究会
「新成長戦略」(2010年6月18日閣議決定)130) に盛り込まれた新しい成 長及び幸福度に関する調査研究を推進するため,2010年12月より,有識者か らなる「幸福度に関する研究会」87)が開催されている.
以上のように,経済成果の指標としてのGDPの限界が指摘されており,主 観・客観の幸福度指標の重要性が高まっている.また,各国政府で幸福度指標 の研究が進められている.
表I.1国際機関及び各国政府で研究が進められている社会進歩及び幸福度の測定について(1)
組織・国OECD国際連合国連開発計画韓国タイブータン
プロジェクト名社会進歩計測に関する
グローバル・プロジェクト ミレニアム開発目標人間開発指標(Human
DevelopmentIndex) 社会指標グリーン・幸福度指標国民総幸福量(Gross
Na-tionalHappiness)
検討開始年200720001990197520072005検討主体OECD,国連国連,各国政府マプープル・ハク氏(パ
キスタンの経済学者) 韓国国家統計局,韓国開
発研究員 国家経済開発委員会国立ブータン研究セ
ター目的経済,社会,環境問題を
勘案して社会進歩を包括的に見る視点の開発 絶対的貧困の半減など
2015年までに取り組まなければならない必要
な優先分野の提示 各国の人間開発の度合
いを測ること 社会発展政策の価格立
案 人々の参画を促し幸福
度を高める発展を促進すること 社会の方向性を示す
ともに政策に活用すこと
範囲社会,経済,環境健康,教育,環境,援助長寿,知識,生活水準経済,社会,環境個人,地域,経済システ
ム,環境,統治機構 所得,健康,社会,環
指標の策定状況検討中公表済公表済公表済公表済公表済
指標主要区分9分野(案)8分野3分野13分野6分野9分野指標数検討中4844873072
うち主観的幸福度検討事項××○×○1つの指標への統合化検討事項×○×(検討中)○○
その他参考情報・2007年世界フォーラムにて採択した「イスタ
ンブール宣言」にもとづき設置 ・2001年9月に国連総会で決定された「国連ミ
レニアム宣言の実行に向けたロードマップ」に
よって提示 ・平均寿命,教育,GDPに関して最大値と最小値
を設定して0〜1になるように側面指数を求め
て,3指数の平均値として算出.なお,2010年か
らは不平等調整済み人間開発指標(IHDI)を公
表(平等であればIHDIとHDIは同値を取る). ・1987年,1995年,2004年に枠組みを大きく変
更・指標化には社会統計調査(SocialStatistics
Survey)を活用(標本数3万世帯) ・第10次開発計画の目標である「幸せで,平和
で,持続可能な発展」を計測する目的で策定さ
れた. ・人々の幸福は国の発の目標であるという
国王の考えを反映しもの.2006-7年のパ
ロットテストの後,2008年に第1回の結果公表.
・人間開発計画はこの他,人間貧困指数
(HDI),ジェンダー開発指数(GDI),ジェン
ダー・エンパワーメント指数(GEM),ジェンダー
不平等指標(GII)を公表している.
表I.2国際機関及び各国政府で研究が進められている社会進歩及び幸福度の測定について(2) 組織・国豪州欧州委員会フランスドイツフィンランドアイルランド プロジェクト名豪州の進歩の測定GDPandbeyond経済パフォーマンス及 び社会進歩の計測に関 する委員会(通称,ステ ィグリッツ委員会)
社会報告書フィンディケーター (Findicator)アイルランドの進歩の 計測 検討開始年200220072008200820072003 検討主体豪州国家統計庁環境総局,統計局国立統計経済研究所,経 済研究センター(事務 局)
国家統計庁・社会科学基 盤機構等 首相府・フンランド統計 局
アイルランド中央統計 局 目的豪州における生活が改 善しているかを国民が 評価するための手助け
社会進歩,富,幸福の計 測の向上指標としてのGDPの限 界,付加的な情報の種類 の検討,代替指標の実現 可能性の評価を行うこ と 政策決定の起訴および 国民への情報提供社会的発展に関する情 報提供,実証に基づく政 策立案の支援
アイルランドにおける 経済,社会,環境状況の 分析概要提示 範囲社会,経済,環境社会,経済,環境経済,生活の質,持続可 能性,環境
生活の質と社会変化社会的発展経済,技術革新,社会, 環境 指標の策定状況公表済検討中検討中公表済公表済公表済 指標主要区分17分野5分野–15分野12分野(テーマ別)または10分野 10分野(政策分野別) 指標数69(案)47–NA100107 うち主観的幸福度×検討事項検討事項○×× 1つの指標への統合化×––××× その他参考情報・10年前との比較で改 善しているか否かをわ かりやすい記号で表示 ・指標は主要指標,補足 指標,参考指標に分かれ ている(注:上記指標数 は主要指標と補足指標 の合計)
・2012年までの5つの 行動計画を決定.幸福 度指標化作業は1番目 の行動計画の下で検討 されている.1)環境指 標,社会指標によるGDP の補完.2)政策決定の ためのほぼリアルタイ ムの情報提供.3)所得 分配と不平等に関する より正確な報告.4)欧 州版持続可能性スコア ボードの開発.5)国民 経済計算の環境,社会問 題への拡張.
1)生産より所得・消費を 重視すべき.2)所得,消 費,富の分配に重点を置 くべき.3)生活の質の 指標は包括的に不平等 性を評価すべき.4)主 観的・客観的幸福度の計 測は生活の質に関する 重要な情報であり,調査 に質問を組み込むべき. 5)持続可能性の評価に は適切な指標群が必要. などの提言を行った
・1999年から続いてき たデータブックを社会 変化を提示する報告書 として衣替え
・個別指標は最新データ 公表示に自動的にアッ プデート可能(ウェブ版 のみ存在)
・EU諸国との比較を掲 載