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SPH 法の境界条件処理

ドキュメント内 著者別表示 Watanabe Takashi (ページ 82-87)

微分方程式を解く上では境界条件と初期条件が必要であり,SPH 法の計算においても何 らかの境界条件処理が必要である.流体粒子の運動に関して用いられる境界条件は,圧力 を規定するディレクレ境界条件や固体内の圧力勾配を規定するノイマン境界条件などがあ る.この他,流束を規定する境界や,流入出境界,周期境界などが考えられるが本研究で は用いなかった.この節では,自由表面に設定したディレクレ境界処理と壁面に設定した ノイマン境界処理および壁面の粘着条件について述べる.

4.3.1 自由表面境界

粒子法を流体解析に適用する大きなメリットとして,比較的粗い計算分解能で自由表面 流れを計算できる点が挙げられる.流れとともに計算点が流動する計算手法であることか ら,メッシュに依存しない安定した解析が可能である.しかし,液相のみをモデル化する 解析においては,自由表面付近では明らかに計算点が不足し,影響半径内で積分した結果 得られる密度が小さくなる問題がある.圧力を密度の関数としての構成式モデルから計算 した場合,およびポアソン方程式の求解から計算した場合の両方で圧力が大気圧以下とな り,結果的に自由表面方向に爆発するような計算結果が得られるはずである.このような 問題に対応して粒子法では自由表面粒子に対して,大気圧を圧力 0 とするディレクレ境界 条件を設定する4)

自由表面の判定基準として最も簡単なものは粒子密度と基準密度の比を計算し,閾値未 満の粒子を自由表面として判定する手法である.基準密度としては一般に材料密度が用い られるが,流動のない固体の解析では初期密度が採用されることもある.また,MPS 法で は重み関数の影響半径内積分値を粒子数密度と定義しており,初期の格子配列配置におけ る初期粒子数密度を基準密度として採用している.閾値として一般に0.9以上1.0未満の比 率が採用されており,越塚ら4)は試行の上で0.95~0.97の採用を推奨している.本研究に

おいても0.95~0.97の範囲の値を用いた.自由表面の判定基準としてはこの他にも幾つか 提案されており,田中ら20)が採用した影響半径内粒子数を基準とするもの,後藤ら25)によ る影響半径内粒子の距離の 1 次モーメントから求まる重心座標のズレを評価する手法など がある.これらのより幾何的な条件に基づく判定手法は,カーネルの重みから計算する密 度基準では判定にエラーが多く,間違ったディレクレ境界条件を設定することで計算が不 安定化することを防ぐ意図がある.本研究では,これらの幾何的な条件に基づく改善手法 は将来的な検討事項とし,従来の密度基準に基づく判定手法を用いた.

4.3.2 流体内の負圧発生領域の処理

粒子法の計算では,圧力は一般に大気圧を 0 として計算する.圧力の計算方法として陽 的方法と陰的方法のどちらを採用した場合においても,局所的に疎となった領域近傍には 負圧域が発生し,物理的にはサクションが発生すると考えられる.このような負圧の発生 に対しては,一般的に圧力 0 境界が適用され,本研究においても同様の処理を行った.こ の処理は安定した計算を行う上で重要であり,特にSPH法では負圧発生時に粒子が1点へ 集中し,計算が不安定化するTensile instabilityの問題が指摘されている4).また,SPH法の カーネルの勾配値は,粒子の極近傍で小さくなっており,粒子分布に局所的粗密が発生す ると不安定化しやすい問題がある.このことについては,後述する人工粘性やカーネル関 数の積分値が疎領域で不足する問題を解消することである程度改善される.

本研究では,スロッシング問題において大きな揺動が生じる際に,負圧を考慮しないこ とによって生じると考えられる,流体-壁間の隙間を確認している.このような実現象と の乖離を解消するために,カーネルの正規化を行うことで安定化を図り,サクションを考 慮したスロッシング問題の検討を行い,流体-壁間に生じる隙間を解消する試みを行った が,将来的な課題として本論文では取り扱わなかった.なお,負圧を考慮した解析では,

自由表面判定基準に密度基準を採用する場合,内部流体部分でその閾値がそのまま適用さ れないように処理に注意が必要である.

4.3.3 壁面のノイマン境界条件

粒子法は滑らかに物理量を補間する離散化手法であるが,固液の界面にまで連続的補間 処理が適用されることは物理的に都合が悪い.壁表面にかかる水圧と壁表面の法線方向の 応力は釣り合っていると考えられるが,壁内部には材料と構造の条件により応力勾配があ り,ポアソン効果の影響から主応力方向は壁法線方向からずれていくと考えられる.液体 と固体の界面は明らかに不連続面であり,固体内部の応力が液体圧力に影響を与えること がないように境界条件処理を行う必要がある.

本研究では,圧力のポアソン方程式の左辺係数行列を計算する際に,固体内部のラプラ シアンを考慮しないことで圧力勾配 0 のノイマン境界処理を実現した.すなわち,固体に 近接する流体圧力は固体内部の影響を受けずに計算される.固体内部へ流体粒子が浸透す

ることはないと仮定し,固体の内部圧力との関係性を切ることは妥当な処理と考えられる.

この処理は同様の計算を行うMPS法の離散化の考え方を参考にすると分かりやすい.MPS 法では勾配は差分で計算するため,流体粒子間の圧力差に重みを乗じる計算を行う.粒子 間に圧力差がないことは,積分処理において影響がないことと等価である.

係数行列の計算において流体-固体間のラプラシアンは 0 とし,対角項が非対角項の合 計と絶対値が同じになるように調整することで,固体粒子の圧力の自由度はそのまま連立 方程式に組み込み計算できる.このようにして得られる固体圧力は,近接する流体圧力と 圧力勾配が 0 となるような圧力である.そこで,固体圧力の自由度を全て連立方程式から 追い出し,流体圧力を計算した後に近接流体圧力を参照することで,固体の圧力は補間計 算することが可能と考えられる.しかし,本研究においてスロッシング解析などの検討を 行った結果,自由度数を削減することで計算の大幅な高速化が可能ではあったが,近接流 体粒子の不足する壁の隅角部付近で不安定になりやすいことを確認した.このように,問 題によっては適用が難しいことを確認しているが,液体中の固体が固体間の接触によって 内部圧力を上昇する問題を解消できる利点があり,適用可能な問題については利用を検討 するべきと考えている.固体の圧力計算を省略する研究例は,越塚ら4)によるMPS法の研 究にもみられ,壁境界を圧力計算する壁粒子と計算しない壁粒子に分けることで計算効率 の改善が行われている.

4.3.4 壁面の粘着条件

壁面と流体の間の粘着条件には,ノンスリップ条件とスリップ条件があり,前者は流体 の分子粘性により壁面に完全に粘着する条件であり,後者は全く粘着しない条件である.

この条件の切り替えは,ノンスリップ条件下における粘性項を計算した後に,粘性項に 0 から1の間の係数を乗じることで実現できる.即ち,係数が1 のときにノンスリップ条件 であり,0のときにスリップ条件,0と1の間の場合には半滑りの条件となる.従ってノン スリップ条件を満たす粘性項を精度良く計算する必要がある.

ノンスリップ条件の計算においては,流体粒子と壁粒子の実際の相対速度を用いて粘性 項の総和計算を行った場合に,壁の粘着条件としては半滑りの条件となることに注意が必 要である.この問題は,流体粒子の速度ベクトルと壁体の内部粒子の速度ベクトルが距離 に対して線形に変化するとして,壁表面位置において実際の壁の移動速度と一致していな いことに起因する.従ってこのような境界部の相対速度計算では,壁粒子に粘着条件を満 たす速度分布を与えて総和計算を実行する必要がある.Morrisら8)は図-4.3に示すように 流体と壁粒子の深度方向の位置関係から,壁体内部と流体粒子の相対速度が壁表面で 0 な るように次式で計算した.

jc = −EEl

kj< (4.65)

ここで,j<とjcはそれぞれの粒子速度であり,<cはそれぞれの壁表面までの距離である.

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