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球形容器内の液体流動解析

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5.4 大変形を考慮した壁境界モデルを用いた流動解析

5.4.3 球形容器内の液体流動解析

図-5.47 陰解法ケースの流速分布履歴 (3) 考察とまとめ

1ステップあたりの計算時間は陰解法ケースの方が長いため,時間増分を陽解法ケースと 同等に設定することは,計算効率の観点からは好ましくない.しかし,粘性項の釣り合い 方程式の計算における線形ソルバーの収束性は,圧力のポアソン方程式に比べて良好であ るため,同じオーダーの時間増分の選択は十分に現実的である.Couette流のように一様な 流れ場の 2 次元解析については,線形ソルバーの収束が非常に速く,この解析における陰 解法ケースの計算時間は,陽解法ケースの約1/9であった.陰解法ケースの時間増分を陽解 法ケースと一致させて計算を実施した場合については更に収束が速く,両ケースの総計算 時間に有意な差は認められなかった.

解析結果より,本手法を用いた粘性項の計算精度を確認し,三角形パッチによる壁境界 モデルが壁境界の粘着条件を満たす上で有効であることを確認した.非定常解を精度良く 計算するには小さい時間増分の設定が必要であるが,ある程度の誤差を許容することで,

陽解法では計算不可能な時間増分を陰解法では設定できることを確認した.

(1) 解析条件

解析対象の球形容器は初期時刻においては真球であるが,時々刻々とその形状および容 積を変化させる条件を与えた.中心座標を基点として水平方向および鉛直方向に対し,そ れぞれ図-5.48に示すように三角関数により設定した倍率で軸方向の径を変化させた.

図-5.48 球形容器の変形倍率の時刻歴

容積は平たい球径となる最大時でおよそ1.2倍,ラグビーボール状になる最小時で0.5倍 に変化する.容器の初期状態における半径は1.0mであり,初期水位も底面から1.0mに設 定した.初期形状時の容積の1/2を水で満たしており,容器容積が最小となる時刻断面では ほぼ満水となる.球形容器のメッシュ分解能は,初期形状時で初期粒子間距離の2.2倍程度 の粗さであり,局所的に大きな曲率がない形状であることから,十分な分解能であると考 えられる.解析は強制変位条件の周期が異なる2ケース(周期T=2.5秒とT=5.0秒)を実 施した.この問題の時間増分については,拡散数よりCourant数の方が支配的であり,粘性 項の計算については陽解法を用いた.解析条件をTable 3に,初期の圧力分布をFig. 12に 示す.

表-5.7 球形容器内の液体流動解析の解析条件

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0

scale factor

time [s]

Horizontal scale factor - case1 Vertical scale factor - case1 Horizontal scale factor - case2 Vertical scale factor - case2

初期粒子間距離 0 .0 3 [m ]

初期時間増分 5 . 0 e - 4 [s]

流体密度 1 0 0 0 . 0 [kg/ m

3

] 流体粘度 0 .0 0 1 [Pa・ s]

重力加速度 9 . 8 0 6 6 5 [m / s

2

]

影響半径 0 .0 9 [m ]

容器変形の周期 5 . 0 or 2 . 5 [s]

図-5.49 初期水圧分布(中央鉛直断面)

(2) 解析結果

解析結果より中央断面の圧力分布の履歴を図-5.50から図-5.57に示す.圧力分布は水 位が最大となる際の静水圧のコンターレンジで描画し,境界変位の周期 T で正規化した時 刻毎に 1 周期分の結果を示した(左側:Case1,右側:Case2).なお,円筒タンクの問題 と異なり,局所的に大きな曲率を持つ領域がない容器形状であることから,密度誤差はほ とんどないことを確認している.

境界の変形速度が小さい Case1 においては,ほぼ静水圧に準ずる圧力分布が得られてい る.動水圧の影響はある程度確認できるものの,境界変形による液面の揺動や圧力振動は 比較的小さく,ほぼ静的な挙動を示しているといえる.一方で 2 倍の変形速度を与えた

Case2については,動水圧の影響が明瞭に現れた.境界の変形周期の初期段階でCase1と

比較して壁面に沿った水位が上昇しているが,これは水面の中央部が大きく窪んでいるこ とに対応している.

慣性により水面が変化するより先に境界面が外側へ移動したため,外周部で小規模な水 柱崩壊が発生したことで生じた.なお,同様の水柱崩壊的な現象はCase1についても確認 されているが,水柱高さが低いため水面に生じる揺動は小さなものとなっている.Case2 の1/2周期時刻では,中央部の圧力が高くなったことにより,鉛直上向きに液面が跳ね上が りその後に天頂部に衝突している.底部と天頂部の圧力が高まり,相対的に中央部の圧力 が低下した後,3/4周期時に中央部に流入が生じることで一時的に圧力が均質化し,その後,

自由落下の過程を経て静水圧に近い状態に至っている.

図-5.50 中央鉛直断面の水圧分布(time/T=0.125)

図-5.51 中央鉛直断面の水圧分布(time/T=0.250)

図-5.52 中央鉛直断面の水圧分布(time/T=0.375)

図-5.53 中央鉛直断面の水圧分布(time/T=0.500)

図-5.54 中央鉛直断面の水圧分布(time/T=0.625)

図-5.55 中央鉛直断面の水圧分布(time/T=0.750)

図-5.56 中央鉛直断面の水圧分布(time/T=0.875)

図-5.57 中央鉛直断面の水圧分布(time/T=1.000)

(3) 考察とまとめ

解析結果に対応する実験データはないが,現象として理解できる興味深い結果が得られ ていると考えている.この問題のように滑らかな表面の壁境界が大変形する条件の解析は,

壁粒子を用いた解析は困難であり,また既往の距離関数を用いた三角形パッチの壁計算手 法においても変形を考慮することが出来なかったことから,本手法の有効性が確認できる.

5.5 5 章のまとめ

本章ではSPH法による非圧縮性流体の動的数値解析を行い,実験データや理論解と比較 することによって解析コードの検証とSPH法の適用性の検討を行った.適用対象はスロッ シング問題や水柱崩壊問題のように動水圧の作用が重要なものであり,それぞれ実現象を

SPH法による数値解析で再現できており,構造物の動的応答解析へのSPH法の適用性はあ る程度確認できた.また,メッシュ型解法との連成に役立てるため導入した三角形パッチ による壁境界モデルの適用性について検討した.本章で得られた結論をまとめると以下の 通りである.

1) 地震時に想定される流動体の動的応答の問題として,代表的であるスロッシング問題 と流体衝突による波力を取り上げて具体的な問題を示した.

2) 矩形タンク内の流体に地震波を入力した際のスロッシング応答をSPH法で解析し,実 験との比較の結果として高い計算精度を有することが確認できた.タンクと貯蔵流体 間の動的相互作用の評価は重要であり,第 6 章ではこのような問題に対する適用性を 検討する.

3) 衝撃的作用の生じる動水圧の問題として水柱崩壊実験との比較解析を行い,ある程度 の計算精度を確認した.混合が生じるような複雑な流れが生じる場合などの精度に今 後の検討が必要であるが,このような高速度の流動体運動についてもSPH法は有効で ある.

4) 三角形パッチによる壁境界の計算手法の検討を行い,基本的な問題において十分な計 算精度があることを確認した.既往の研究では考慮することができなかった,壁境界 が大変形する際の流体挙動を計算し,メッシュ型解法との連成問題などに対する適用 性を示した.

【参考文献】

1) 畑山 健,座間 信作,西 春樹,山田 實,廣川 幹浩,井上 涼介:2003年十勝沖地震 による周期数秒から十数秒の長周期地震動と石油タンクの被害,地震 第 2 輯,第 57 巻,pp.83-103,2004

2) 堀 郁夫,川端 鋭憲:地震による石油タンク火災の技術的考察と社会問題,社会技術 研究論文集,Vol.2,pp.414-424,2004

3) 遠田 豊,曽根 龍太,小野 泰介,井田 剛史,平野 廣和:実機貯水槽を用いたスロッ シング挙動の把握,防衛施設学会平成24年度年次研究発表会,2013

4) 坂井 藤一:液体貯槽の耐震設計研究に関する現状と課題,土木学会論文集,第362号 /I-4,pp.1-11,1985

5) 平山 紀夫,邉 吾一:流体-構造の連成を考慮したFRP製円筒形容器の周波数応答挙動,

日本復号材料学会誌,Vol.29 No.1,pp.9-16,2003

6) 佐竹 健治,堀 宗朗:東日本大震災の科学,東京大学出版会,2012

7) 土木学会:構造工学シリーズ22 防災・安全対策技術者のための衝撃作用を受ける土木 構造物の性能設計,2013

8) 酒井 理哉,東 貞成,佐藤 清隆,田中 伸和:溢流を伴う矩形水槽の非線形スロッシ ング評価,構造工学論文集,Vol.53A,pp.597-604,2007

9) 日本機械学会 編:事例に学ぶ流体関連振動,技法堂出版,2003

10) 防災科学技術研究所:強震観測網,http://www.kyoshin.bosai.go.jp/kyoshin/

11) K. M. T. Kleefsman, G. Fekken, A. E. P. Veldman, B. Ewanowski, B. Buchner:A Volume-of-Fluid based simulation method for wave impact problems, Journal of Computational Physics, 206, pp.363-393, 2005

12) 陸田 秀実,清水 雄,土井 康明:SPH法による流力弾性解析法と水面衝撃問題への適 用,土木学会論文集B,Vol.65 No.2,pp.70-80,2009

13) 林 高徳,浅井 光輝,Abdelraheem M. Aly,園田 佳巨:安定化ISPH法を用いた流 体衝撃力評価と精度検証,第 10 回構造物の衝撃問題に関するシンポジウム論文集,

pp.91-96,2010

14) J. P. Morris, P. J. Fox, Y. Zhu:Modeling Low Reynolds Number Incompressible Flows Using SPH, Journal of Computational Physics, 136, Issue 1, pp.214-226, 1997

第6章 流体-構造連成解析

6.1 連成計算手法の概要

本節では5章で取り扱った動水圧が構造物に与える影響を評価するために開発した流体 -構造連成解析手法についてその概要を述べる.本研究ではFEMに代表されるメッシュ型の

Lagrange 記述の計算手法の適用が困難となる,流動層の分離や飛散といった非線形性の高

い問題に対応可能な計算手法として,個別要素法(DEM)やSPH法などの粒子型解法を採 用した.これらの粒子型解法はLagrange記述の計算手法であり,ALE法などの界面追跡型 手法を導入することなくFEMとの連成界面の取り扱いが可能であり,構造解析手法として 一般的なFEMと粒子型解法による流動層の連成解析の研究が行われている.

桝谷1)らはサンドクッションの解析にDEMを適用し,防護構造物をビーム要素でモデル 化したDEM-FEM連成解析を行った.また,前野ら2)は潜堤の流体力による破壊過程を計算 するために,流体に界面捕捉法としてVOF法を採用した差分法,潜堤にDEMを適用し,

海底地盤を多孔質弾性体の平面ソリッド要素でモデル化したVOF-DEM-FEM連成解析を行

った.DEM-FEM連成解析の研究例は多く,この他にもシェル要素による弾性板への剛体衝

突を計算した折井ら3)の研究などがある.一方,粒子法とFEMの連成解析の研究はまだ少 なく,DEMの場合と異なり連成界面におけるカーネル積分が問題となっていると考えられ る.流動体と構造物の相互作用を扱ったSPH-FEM連成の事例としてはYangら4)の研究例 があり,平面ソリッド要素の表面節点にSPH粒子を重ねることで連成を行っている.また,

構造解析に適用する研究例5),6)についても同様に節点座標に粒子を重ねる手法5)や,ソリッ ド要素内に粒子を包含する手法6)が用いられている.このような粒子法の粒子を直接重ねる 手法は比較的導入し易いのが利点であるが,FEM モデルの作成に粒子配置に関する制約が 生じることや,大変形によって連成境界粒子の粒子間隔が大きく変化した際の計算精度に 問題があると考えられる.

図-6.1 流動体と固体の連成解析モデル(Lagrange-Particle型)

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