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第 6 章 S 行列展開

6.2 S 行列展開

ここでは素粒子の反応を念頭に置き,場の相互作用を摂動として扱う方法を定式化する(pp.104–109).そ れを行うには相互作用描像が適している.実際,相互作用描像の場AI(t)に対する運動方程式(1.87):

dAI dt = 1

i[AI, H0]

は,自由場のHamilton演算子H0によって記述されるHeisenberg描像の自由場AH(t)に対する運動方程式 (1.80):

dAH dt = 1

i[AH, H0]

と同じものなので,相互作用する場は自由場と同様にFourier展開される.またQEDを考えると,相互作用 Lagrangian密度LI=e

l

ψ¯l/ lは場の微分に依らない.よって相互作用する場に共役な場は自由場に共役 な場と同じものとなる:

∂L

∂A˙µ

= ∂L0

∂A˙µ

, ∂L

∂ψ˙l

= ∂L0

∂ψ˙l

.

このためAµ, ψlをHeisenberg描像における自由場,πµ, πψlをそれぞれAµ, ψlに共役な場とすると,相互作 用描像における場(1.90):

AµI=UAµU, ψlI =UψlU に共役な場は(1.90):

πµI=UπµU, πψI

l =UπψlU であり,これらは自由場と同じ同時刻(反)交換関係

[AµI(x, t), πνI(x, t)] =igµνδ(x−x), lI(x, t), πψl′I(x, t)}=llδ(x−x), etc (90) を満たす.以上より場のFourier展開や正準(反)交換関係をはじめとし,ここから導かれるHeisenberg描像 の自由場に対する結果を相互作用描像における場にも流用することができる.

そこで相互作用描像を採用し,以降ケットやブラ,演算子から相互作用描像のものであることを表す添字の Iを省く.そして系の状態を|Φ(t)と書き,始状態を粒子の衝突が起こるよりも十分前の時刻t=−∞の状態

|i⟩=|Φ(−∞)

に設定する.時刻t=−∞において粒子は互いに無限に離れており相互作用していないので,始状態|i⟩とし て粒子の個数,運動量,スピン・偏極が確定した状態を考えられる.一方,時刻t=の状態|Φ()を終状 態と呼ぶ.これは衝突した(すなわち相互作用した)粒子が再び無限に遠ざかった状態に対応する.そして系 の状態|Φ(t)は式(6.12):

id

dt|Φ(t)=HI(t)|Φ(t)

に従って時間発展し,始状態|i⟩から終状態|Φ()に変化する.ここで始状態|i⟩と終状態|Φ()を次式で 関係付ける演算子としてS演算子(S行列)を定義する.

|Φ()=S|i⟩.

すなわちS演算子は相互作用描像における,時刻t=−∞から時刻t=への時間的発展の演算子である.

今,QEDを考えると相互作用Hamiltonianは HI(t) =

HI(x)d3x, HI(x) =−e

l

N[ ¯ψl(x) /A(x)ψl(x)] :相互作用Hamiltonian密度(7.52) である.これは偶数個のフェルミオン場を含むので,異なる時刻のHI(t)が交換することに注意すると,時間 発展方程式(6.12)の帰結としてS演算子は

S =

n=0

(−i)n n!

d4x1· · ·d4xnT{HI(x1)· · · HI(xn)} (91) と展開されることが分かる(T{· · · }は以下で定義する時間順序化積).これはDyson展開と呼ばれ,場の相互 作用を摂動としたS演算子の摂動級数を成す.相互作用Hamiltonian密度の式(7.52)を代入してこれを具体 的に書くと

S =

n=0

(ie)n n!

d4x1· · ·d4xn

l1,···,ln

T{N( ¯ψl1/ l1)x1· · ·N( ¯ψln/ ln)xn} (92) となる(ただしN( ¯ψl/ l)xN[ ¯ψl(x) /A(x)ψl(x)]である).

■時間順序化積 時間順序化積またはT積をT{· · · }と書く.これは引数の時刻がより早い演算子が先にケッ トに作用するように,演算子積の演算子を引数の時刻の順序が右から左になるように並べ替えたものである.

ただし並べ替えの際,隣接するフェルミオン場どうしを入れ替えると符号が入れ替わるものとする.例えば x10< x20< x30とすると,ボゾン場ϕ,フェルミオン場ψa, ψbに対して

T{ϕ(x1a(x2b(x3)}=−ψb(x3a(x2)ϕ(x1)

である.また演算子積をT積に並び替えることを時間順序化と呼ぶ(pp.56–57,p.78,p.108).

6.2(S 行列展開 ) について

■相互作用描像の場の同時刻 (反) 交換関係 (90) 相互作用描像の場 AµI, ψlI と共役な場 πµI, πψI

l が,

Heisenberg描像の自由場Aµ, ψlと共役な場πµ, πψlに対する同時刻(反)交換関係と同じ同時刻(反)交換関 係(90)を満たすことを説明する.

まずOH, PHをHeisenberg描像の場Aµ, πν のいずれかとすると,これらの同時刻交換関係は [OH, PH] =C:定数

と書ける.よって相互作用描像の場(1.90):

OI=UOHU, PI=UPHU もこれと同じ同時刻交換関係

[OI, PI] =[UOHU,UPHU]

=U[OH, PH]U (∵UU = 1)

=C (∵UU = 1)

を満たす.

同様にOH, PHをHeisenberg描像の場ψl, πψlのいずれかとすると,これらの同時刻反交換関係は {OH, PH}=C:定数

と書ける.よって相互作用描像の場(1.90):

OI=UOHU, PI=UPHU もこれと同じ同時刻反交換関係

{OI, PI}={UOHU,UPHU}

=U{OH, PH}U (∵UU= 1)

=C (∵UU = 1) を満たす.

■Dyson級数(91) QEDにおいてS演算子が式(91)のようにDyson級数に展開されることを示す.状態

|Φ(t)の時間発展方程式(6.12):

id

dt|Φ(t)=HI(t)|Φ(t) は初期条件|Φ(−∞)=|i⟩を考慮すると

|Φ(t)=|i⟩+ (−i)

t

−∞

dtHI(t)|Φ(t) と書き換えられる.逐次代入により

|Φ(t)=|i⟩+ (−i)

t

−∞

dt1HI(t1)|i⟩+ (−i)2

t

−∞

dt1

t1

−∞

dt2HI(t1)HI(t2)|i⟩+· · ·

→S|i⟩ (t→ ∞),

S=

n=0

(−i)n

−∞

dt1

t1

−∞

dt2· · ·

tn−1

−∞

dtnHI(t1)HI(t2)· · ·HI(tn) (93) を得る.ここで上式(93)の右辺について,n= 0の項は1,n= 1の項は−i

−∞dt1HI(t1)と約束する.次 にこれを

S=

n=0

(−i)n n!

−∞

dt1

−∞

dt2· · ·

−∞

dtnT{HI(t1)HI(t2)· · ·HI(tn)} (94) と書き換えられることについて説明する.式(94)の積分範囲はn次元空間(t1, t2,· · ·, tn)全体である.これ はn!通りの置換

π=

(1 2 · · · n π1 π2 · · · πn

)

に対して,不等式tπn≤tπ(n1)≤ · · · ≤tπ2≤tπ1で表されるn!個の領域に分けられる.その各々にわたる 積分は ∑

n=0

(−i)n n!

−∞

dtπ1

tπ1

−∞

dtπ2· · ·

tπ(n−1)

−∞

dtπnT{HI(t1)HI(t2)· · ·HI(tn)}

なので

(式(94)右辺) =

n=0

(−i)n n!

π

−∞

dtπ1

tπ1

−∞

dtπ2· · ·

tπ(n−1)

−∞

dtπnT{HI(t1)HI(t2)· · ·HI(tn)}

=

n=0

(−i)n n!

π

−∞

dtπ1

tπ1

−∞

dtπ2· · ·

tπ(n−1)

−∞

dtπnHI(tπ1)HI(tπ2)· · ·HI(tπn)

=

n=0

(−i)n n! ×n!

−∞

dt1

t1

−∞

dt2· · ·

tn−1

−∞

dtnHI(t1)HI(t2)· · ·HI(tn)

=(式(93)右辺)

となるから確かに式(94)が成り立つ.ここで第2の等号でHI(t1)HI(t2)· · ·HI(tn)をHI(tπ1)HI(tπ2)· · ·HI(tπn) に並べ替えるとき,QEDでは異なる時刻のHI(t)が交換することを用いた.以上より

式(94) :S=

n=0

(−i)n n!

−∞

dt1

−∞

dt2· · ·

−∞

dtnT{HI(t1)HI(t2)· · ·HI(tn)}

=

n=0

(−i)n n!

d4x1· · ·d4xnT{HI(x1)· · · HI(xn)}:式(91) を得る.

ここで以上のノートとの内容の重複を厭わずに,6.3節についてまとめる.