第 4 章 Dirac 場
をかけると 1 ( 単位行列 ) になる 4 × 4 の行列 である.
4.5 電磁的相互作用とゲージ不変性
ここで以上のノートとの内容の重複を厭わずに,4.5節について改めてまとめる.ただし以下では自然単位 系(6.1節)を採用し,c= 1,ℏ= 1とする.また各種レプトンl=e, µ, τを考え(7.4節),さらにLagrangian 密度において自由電磁場項(5.1節)を考慮する.
QEDのLagrangian密度 QEDのLagrangian密度は
L=∑
l
ψ¯l(i/∂−ml)ψl+e∑
l
ψ¯lAψ/ l−1
4FµνFµν
で与えられる.ただしここでは複数の荷電レプトンl=e, µ, τ を考え,それぞれにDirac場ψlをあてがって いる(p.141).Dirac場を含む項は自由Dirac場のLagrangian密度(34):L=∑
l
ψ¯l(i/∂−ml)ψlにおいて
∂µ → Dµ ≡∂µ−ieAµ (39)
と置き換えて得られる.言い換えると,このDµを用いてQEDのLagrangian密度は L=∑
l
ψ¯l(iD/ −ml)ψl−1
4FµνFµν (40)
と書ける.
置き換え∂µ→Dµは極小置換と呼ばれる.極小置換を古典物理学の観点からボトムアップ式に意味付けよ う.質量m,電荷qの粒子を古典的に考え,粒子の速度をv,粒子を記述するLagrangianをL,Hamiltonian をH と書く.P ≡ ∂L∂v は粒子の正準運動量である.粒子の力学的運動量p ≡ √ mv
1−(vc)2 とエネルギー E≡√
m2c4+p2c2は電磁場がある場合,
p=P → p=P −q
cA, (41)
E=H → E=H−qϕ (42)
と置き換わる.この結果は極小置換∂µ→Dµに対応している(p.82).
ゲージ不変性
電磁ポテンシャルをAµ →Aµ+∂µf と変化させても導かれる電磁場E,Bは変化しない.また電磁場の ゲージ変換Aµ→Aµ+∂µfと同時にDirac場に局所的な位相変換
ψl(x)→ψl(x)eief(x), ψ¯l(x)→ψ¯l(x)e−ief(x)
を施せばLagrangian密度(40)は不変に留まる(この位相変換が局所的と呼ばれるのは,位相±ef(x)がx に依存するからである).逆に言えば,Dirac場の局所的位相変換に対して不変なLagrangian密度を得るに はAµ → Aµ+∂µf と変換するゲージ場Aµを導入して,極小置換∂µ →Dµ ≡∂µ−ieAµ を施せば良い (pp.83–84,p.141) [4, pp.218–219].
特にf(x)がxに依らない定数εであるような大域的位相変換に対してLagrangian密度(40)が不変である ことから,
sα(x) =−e∑
l
ψ¯l(x)γαψl(x) (43)
を電流密度とするような電荷に対する保存則(連続の式)
∂αsα= 0 (44)
が導かれる(p.70).
4.5 について
極小置換
極小置換(39)に対応する古典的な関係式(41),(42)は次のように得られる.古典物理学において,重力場が ないときの1粒子の系のLagrangianは
L=−mc2
√ 1−(v
c )2
+q
cA·v−qϕ
で与えられる(ただしここでは粒子の質量をm,電荷をq,速度をvと書き,Lagrangianにおける興味のな い自由電磁場の項− 1
16π
∫
FµνFµνd3xを省いた).これは正準運動量 P ≡∂L
∂v =p+q cA を与える.ここにp ≡ mv
√ 1−(v
c
)2
は粒子の力学的運動量である.これを粒子の速さについて逆に解くと (v
c )2
= p2
m2c2+p2 となるのでHamiltonianは H =P·v−L= mc2
√ 1−(v
c
)2 +qϕ=√
m2c4+p2c2+qϕ=E+qϕ
と表される.ここにE≡√
m2c4+p2c2は粒子のエネルギーである[5, pp.51–52].
以上より電磁場と相互作用する粒子の力学的運動量pとエネルギーEは,電磁場がない場合と比べて 式(41) :p=P → p=P −q
cA, (42) :E=H → E=H−qϕ
と変化する.これに対応して非相対論的量子力学では,ψを波動関数とした自由粒子のSchr¨odinger 方程式 1
2m(−iℏ∇)2ψ=iℏ∂
∂tψ において
−iℏ∇ → −iℏ∇−q
cA, iℏ∂
∂t → iℏ∂
∂t−qϕ と置き換えると電磁場中の粒子の正しい波動方程式
1 2m
(−iℏ∇−q cA
)2
ψ= (
iℏ∂
∂t−qϕ )
ψ
が得られる[2, p.177].この置き換えは
∂µ → Dµ ≡∂µ+iq ℏcAµ
とまとめられる.ここで電荷qを電子の電荷−eにとり,自然単位系を採用してc=ℏ= 1としたものが極小 置換の式(39)である(p.82).
ゲージ不変性
QEDのLagrangian密度(40)のゲージ不変性を確かめる.まず,電磁テンソルFµνは,従ってLagrangian 密度(40)における自由電磁場の項−14FµνFµν はゲージ変換Aµ→Aµ+∂µf に対して不変である.実際あ る電磁ポテンシャルAµから作られる電磁テンソルをFµν,f を時空座標の任意の関数として電磁ポテンシャ ルA′µ≡Aµ+∂µf から作られる電磁テンソルをF′µνと書くと,
F′µν ≡∂µA′ν−∂νA′µ=∂µ(Aν+∂νf)−∂ν(Aµ+∂µf) =∂µAν−∂νAµ=Fµν
である.そこで自由Dirac場の項L0≡∑
l
ψ¯l(i/∂−ml)ψlと相互作用項LI≡e∑
l
ψ¯lAψ/ lに対してL0+LI
の不変性を示せば十分である.ゲージ変換
Aµ→Aµ+∂µf, ψl→ψleief, ψ¯l→ψ¯le−ief (45) に対して
L0 → ∑
l
( ¯ψle−ief)(i/∂−ml)(ψleief) =L0+∑
l
ψ¯li(ie/∂f)ψl=L0−e∑
l
ψ¯l(/∂f)ψl, LI → e∑
l
( ¯ψle−ief)( /A+ /∂f)(ψleief) =LI+e∑
l
ψ¯l(/∂f)ψl だからL0+LIは不変である.
次に電荷保存則(44)を導く.
一般に場ϕr(x)の変化ϕr(x)→ϕr(x) +δϕr(x)の下でLagrangian密度Lが不変であるとき,
fα≡ ∂L
∂(∂αϕr)δϕr (46)
は連続の式∂αfα= 0を満たし,保存する流れ(4元流束密度)と呼ばれる: 0 =δL=∂L
∂ϕr
δϕr+ ∂L
∂(∂αϕr)δ(∂αϕr)
= (
∂α
∂L
∂(∂αϕr) )
δϕr+ ∂L
∂(∂αϕr)δ(∂αϕr) (∵Euler-Lagrange方程式)
=∂αfα.
以上,場の種類rについても和をとる(pp.37–38). 式(45)でf を無限小の定数εとしたゲージ変換
Aµ → Aµ ∴δAµ= 0,
ψl → eiεψl≃(1 +iε)ψl ∴δψl=iεψl, ψ¯l → e−iεψ¯l≃(1−iε) ¯ψl ∴δψ¯l=−iεψ¯l
に対してLagrangian密度(40)は不変である.
∂L
∂(∂αψl) =iψ¯lγα, δAµ= 0 に注意すると保存する流れ(46)は
fα=∑
l
(iψ¯lγα)(iεψl) =−ε∑
l
ψ¯lγαψl
となるので*3,
sα≡ −e∑
l
ψ¯lγαψl
は連続の式∂αsα= 0を満たす.
*3 ψlに共役な場πψl=iψl†に当たるψ¯lを,保存する流れの式(46)においてψlとは別にもう1種類の場ϕrとして考慮すると いう立場もあり得る.その場合にも ∂L
∂(∂αψ¯l) = 0なので,この結果に変わりはない.
Dirac方程式をEuler-Lagrange方程式として導出する際にはDirac場ψとψ¯≡ψ†γ0を独立な場と見なすのに対し,正準量 子化の手続きやHamiltonianの計算ではψ¯をψと独立なもう一種類の場とは見なさないのは,一貫性に欠ける.ψとψ¯を独立 な場として扱うのが正確だが,これには 特異系の量子化 の手続きが必要になる[3, p.41].
γ 行列の積のトレースに対する公式
ここで後に有用となる,γ行列の積のトレースに対する公式(A.16),(A.17)(p.251)について触れておく.γ 行列を定義付ける反交換関係(32):{γµ, γν}= 2gµν だけから次のことが導かれる.
まず,奇数個のγ行列γα, γβ,· · ·, γµ, γνの積のトレースはゼロになる:
tr(γαγβ· · ·γµγν) = 0. (47)
また偶数個のγ行列の積に対するトレースの公式としては,次の2つを挙げておけば十分である:
tr(γαγβ) =4gαβ, (48)
tr(γαγβγγγδ) =4(gαβgγδ−gαγgβδ+gαδgβγ). (49)
■証明 γ行列の積のトレースに対する公式(47),(48),(49)を導こう.
証明の準備として次のことに注意する.まず任意のn×n行列U, V に対して tr(U V) =∑
i
∑
j
UijVji=∑
j
∑
i
VjiUij = tr(V U) (50)
である.また
γ5≡iγ0γ1γ2γ3 を導入すると,これは
{γµ, γ5}=0 (µ= 0,1,2,3), (51)
(γ5)2=1 (52)
を満たす(pp.250–251).
実際,γ5がγµ(µ= 0,1,2,3)と反交換すること(51):{γµ, γ5}= 0は次のように理解できる.すなわちγ 行列γµは自分自身とは交換し,反交換関係(32):{γµ, γν}= 2gµνにより異なるγ行列γν(ν ̸=µ)とは反交 換する.このことを用いて積γµγ5におけるγµをγ5 ≡iγ0γ1γ2γ3の右側に移動するとγµγ5 =−γ5γµと なる.
さらに式(52):(γ5)2= 1について,γ行列の反交換関係(32):{γµ, γν}= 2gµνによれば異なるγ行列どう しは反交換するので
(γ5)2=(iγ0γ1γ2γ3)(iγ0γ1γ2γ3)
=· · ·
=i2(γ0)2(γ1)2(γ2)2(γ3)2 となる.ここで再び反交換関係(32):{γµ, γν}= 2gµνを考えると,これは
(γ0)2= 1, (γi)2=−1 (i= 1,2,3) を意味するので式(52):(γ5)2= 1を得る.
以上を踏まえ,奇数個のγ行列の積γαγβ· · ·γµγνのトレースがゼロになること(47):
tr(γαγβ· · ·γµγν) = 0
を証明する.
tr(γαγβ· · ·γµγν) =tr[(γ5)2γαγβ· · ·γµγν] (∵式(52))
=tr(γ5γαγβ· · ·γµγνγ5) (∵式(50))
の最右辺の積γ5γαγβ· · ·γµγνγ5において,反交換関係(51)を用いて左端のγ5を右端のγ5の左隣まで移動 すると,γαγβ· · ·γµγν は奇数個のγ行列の積だから
γ5γαγβ· · ·γµγνγ5=−γαγβ· · ·γµγν(γ5)2
=−γαγβ· · ·γµγν (∵式(52)) となる.よって
tr(γαγβ· · ·γµγν) =−tr(γαγβ· · ·γµγν), ∴tr(γαγβ· · ·γµγν) = 0 : (47) を得る(pp.252–253).
2個のγ行列の積に対するトレースの公式(48)の証明に移ろう.γ行列の反交換関係(32)は,正確には 4×4の単位行列Iを用いて
{γα, γβ}= 2gαβI と書ける.よって両辺のトレースをとり
tr{γα, γβ}=tr(γαγβ) + tr(γβγα) = 2tr(γαγβ), (∵式(50)) trI=4
に注意すると公式(48):tr(γαγβ) = 4gαβを得る.
後の公式(49)の証明の見通しを良くするため,以上の証明を次のように書き換えられることに注意する.
まず恒等式(50)により
tr(γαγβ) = tr(γβγα) である.ここで右辺において
γβγα=−γαγβ+{γα, γβ}=−γαγβ+ 2gαβI (∵式(32)) と書き換えると再び公式(48)が導かれる.
同様に4個のγ行列の積に対するトレースの公式(49)を証明できる.実際,恒等式(50)により tr[γα(γβγγγδ)] = tr[(γβγγγδ)γα]
である.ここで右辺の積(γβγγγδ)γαにおいて,反交換関係(32)を用いて右端のγαを左端に戻すと (γβγγγδ)γα
=−γαγβγγγδ+{γα, γβ}γγγδ−γβ{γα, γγ}γδ+γβγγ{γδ, γα}
=−γαγβγγγδ+ 2gαβγγγδ−2gαγγβγδ+ 2gαδγβγγ となるので
tr(γαγβγγγδ)
=gαβtr(γγγδ)−gαγtr(γβγδ) +gαδtr(γβγγ)
=4(gαβgγδ−gαγgβδ+gαδgβγ) : (49) (∵式(48) : tr(γαγβ) = 4gαβ) を得る.