第 9 章 輻射補正
9.3 電子の自己エネルギー
■光子伝播関数の式(9.13)への書き換えについて A(k2)を有限の量と仮定すれば
−igαβ
k2+iε+e02A(k2) = −igαβ
k2+iε (
1 +e0k22A(k+iε2)
) = −igαβ
k2+iε (
1−e02A(k2) k2+iε
)
+O(e04).
■式(9.16)の確認
−igαβ
k2+iε+e02A(k2) =−igαβ
k2
1
1 +e02{A′(0) + Πc(k2)}+kiε2
=−igαβ
k2 {
1−e02A′(0)−e02Πc(k2)− iε k2
}
=−igαβ
k2+iε[{1−e02A′(0)} −e02Πc(k2)]
による.
■「e02を掛けると」(p.196,l.2)について これは伝播関数の端の2つの結節点に関わる電荷e0を含めて考 えることに対応する(p.202,l.1参照).これによって伝播関数の修正(9.16)を,電荷の繰り込み(9.17)と見 ることが可能となっている.
図13 フェルミオン伝播関数の修正(教科書の図9.8(p.198))
この置き換えは裸のフェルミオン伝播関数を物理的な粒子のそれへと修正していると見ることができる.一 般に質量mの粒子の伝播関数は引数pが/p=mのところで極を持つので,式(124)は裸のフェルミオンの質 量m0の,物理的な粒子の質量
m=m0+δm
への修正と見なせる.置き換えm0→mは 質量の繰り込み と呼ばれ,mは繰り込まれた質量と呼ばれる.
伝播関数(124)の極/p=mを特定するには,その分母を/p−m+iεと等置してδmについて解けば良い.
Σ(p) =A+ (/p−m)B+ (/p−m)Σc(p) と展開するならば[/p−m0による展開ではないことに注意する],結果として
δm=−e02A を得る.
質量の繰り込み(その2)
質量の繰り込みを行うには次のような方法もある:
• 自由場ハミルトニアン密度に−ψ(i/¯ ∂−m0)ψとして含まれるm0を 物理的フェルミオン質量mに置き換え,
• その代償として 質量相殺項 −δmψψ¯ を相互作用ハミルトニアン密度に含める.
これにより
• 全体を通じて(特にフェルミオン伝播関数において) 裸の質量m0が物理的フェルミオン質量mに置き換わる:
m0 → m. (125)
• 相互作用ハミルトニアン密度の質量相殺項−δmψψ¯ に対応する2伝播線結節点 (図14,iδm≡ −ie02Aを充てる)を
自己エネルギーループと併せて考える(両者はともにe02程度): ie02Σ(p)→ie02Σ(p) +iδm
=ie02(/p−m)B+ie02(/p−m)Σc(p). (126) 2次の輻射補正と併せて考えたフェルミオン伝播関数(124)は式(9.29):
i
(/p−m)(1 +e02B) +e02(/p−m)Σc(p) +iε+O(e04)
図14 質量相殺項−δmψψ¯ を表す2伝播線結節点のグラフ(教科書の図9.10(p.200))
と書き換えられるけれど,これは式(124)に上記の置き換え(125),(126)を施すことでも得られる.これは m0ψψ¯ をmψψ¯ と−δmψψ¯ に分けて自由場項と相互作用項に割り当てても,全ハミルトニアンは変わらない ことによる.
電荷の繰り込み(フェルミオンの自己エネルギー部分に由来)
いずれの質量の繰り込みの方法によっても,フェルミオン伝播関数は i
/
p−m0+iε → i /
p−m+iε[(1−e02B)−e02Σc(p)] +O(e04)
と修正される.これは伝播関数の端の2つの結節点に関わる電荷e0を含めて考え,e02を掛けると,裸の電 荷e0の繰り込まれた電荷eへの修正
e2≡Z2e02=e02(1−e02B) +O(e06)
と見ることができる.そこでe0をeによって表せば,繰り込まれたフェルミオン伝播関数(のe2倍)は ie02
/
p−m0+iε → ie2 /
p−m+iε[1−e2Σc(p)] +O(e6) によってe4の精度まで与えられる.
QEDの復元
結論を先取りして述べると,正則化された理論からQEDを復元する極限操作Λ→ ∞[およびλ→0]にお いて,
• 測定可能な輻射補正に関わる補正項Σc(p)は,正則化の詳細に依らない有限値に留まる.
• 物理的な量と裸の量を関係付ける検証不可能な部分にのみ現れる定数A, B, Z2は,
Λに関して対数的に発散する.
9.3 について
■フェルミオンの自己エネルギー部分に関するループ積分の式(9.20)の確認
ie02Σ(p) =(ie0)2 (2π)4
∫
d4k−igαβ
k2+iεγαi /p−k/+m0
(p−k)2−m02+iεγβ : (9.4)
=− e02 (2π)4
∫
d4k γα(/p−/k+m0)γα
(k2+iε){(p−k)2−m02+iε} (γα≡gαβγβ)
= e02 (2π)4
∫
d4k 1 k2+iε
2/p−2/k−4m0
(p−k)2−m02+iε : (9.20). (γα(/p−k)γ/ α=−2(/p−k), γ/ αγα= 4 : (A.14))
■正則化(9.21)について 式(9.21):
1
k2+iε → 1
k2−λ2+iε− 1
k2−Λ2+iε =− Λ2−λ2
(k2−λ2+iε)(k2−Λ2+iε)
のように置き換えると,これはk→0において分母が有限の値に留まり,k → ∞において1/k2の代わり に1/k4のように振舞う.このためie02Σ(p)の式(9.20)から赤外発散と紫外発散を取り除けるものと考えら れる.
■「Lorentz不変性により,Σ(p)は運動量pに対して……だけを通じて依存する」(p.199,l.16,17)について p2= /p/pは公式(A.19b)による.ここから/pはLorentzスカラーであることが分かる.これを踏まえると,式 (9.24)の書き換えがLorentz不変性を持つためには,今の場合,書き換えの前後で分母がLorentzスカラーと なっていれば良い.よってΣ(p)もまたLorentzスカラーでなければならないから,それを「運動量pに対し て/pとp2(= /p/p)だけを通じて依存する」と考えるのはもっともらしい.
■式(9.28–30)の確認 修正された伝播関数(9.24)の分母にΣ(p)の展開(9.26)を代入し,/p−mと等置す ると
/
p−m0+e02{A+ (/p−m)B+ (/p−m)Σc(p)}= /p−m
となる.これに/p=mを代入するとδm=−e02A:(9.28)を得る.このため伝播関数(9.24)の分母に他なら ない上式左辺は,/p−m0+e02A= /p−mであることに注意して/p−mでくくると
(/p−m)(1 +e02B+e02Σc(p)) となる(式(9.29)).さらに式(9.29)は
i (/p−m)
{
1 +e02B+e02Σc(p) + iε / p−m
}+O(e04)
= i
/ p−m
{
(1−e02B)−e02Σc(p)− iε / p−m
}
+O(e04)
= i
/
p−m+iε{(1−e02B)−e02Σc(p)}+O(e04) : (9.30) と書き換えられる.
なお式(9.28):δm=−e02A=−e02Σ(p)|/p=mはm0ではなく物理的な質量mを既知として,そのm0との 差δmを表した式である.実際,我々の観測するのは裸の粒子の質量m0ではなく,物理的粒子の質量mで ある.式(9.28)を既知のm0からmを求める式と(誤って)解釈した場合,これは未知量δmを未知量mで 表した式に過ぎなくなる.
■繰り込みについて 9.2節,9.3節では2次の輻射補正として,光子とフェルミオンの伝播関数に対する自 己エネルギー部分の挿入を考察した.このような伝播関数の修正は等価的に電荷や質量の繰り込みとして表現 され,それ故,自己エネルギー部分は裸の粒子を物理的な粒子へと移行させる過程と解釈できる.