第 5 章 光子:共変な理論
5.1 古典電磁場
自由電磁場の正準量子化に先立ち,ここでは古典電磁場について論じる(pp.87–92).古典電磁気学におい て自由電磁場はLagrangian密度
L=−1
4FµνFµν (53)
によって記述され,特に電磁場AµとしてLorenz条件
∂µAµ = 0 (54)
を満たすものを考えると,場の方程式として波動方程式
∂ν∂νAµ= 0 (55)
が導かれる.Lorenz条件を採用することの利点は,その式(54)が座標変換に対して共変的であることと,場 の方程式が波動方程式(55)に単純化されることにある.
ここで便宜的に空間を一辺L,体積V =L3の立方体領域と見なして周期境界条件 Aµ(0, y, z, t) =Aµ(L, y, z, t), etc.
を課すと,離散的な4元波数ベクトル
k= (ωk,k), k= 2π
Ln, ωk ≡ |k| を用いて(nは整数を成分に持つベクトル),波動方程式(55)の解は
Aµ(x) =Aµ+(x) +Aµ−(x), (56)
Aµ+(x)≡∑
k,r
( 1 2V ωk
)1/2
εrµ(k)ar(k)e−ik·x, (57)
Aµ−(x)≡∑
k,r
( 1 2V ωk
)1/2
εrµ(k)ar†(k)eik·x (58) とFourier展開される(r= 0,1,2,3).このように体積V =L3の空間を考えることにより,これ以降に現れ る周期境界条件の下で許される波数ベクトルkについての和はそのまま,L→ ∞の極限でのkについての 積分の解釈になる.ただしk·x=ωkt−k·xは4元内積である(x≡(t,x)).また,この段階では展開係数 ar(k), ar†(k)は演算子ではなく通常の数であり,後の都合のために因子(1/2V ωk)1/2をくくり出してある.
展開係数ar(k), ar†(k)を互いに複素共役にとりεrµ(k)を実数の4元ベクトルとすると,電磁場Aµが実数で あることが保証される.εrµ(k)は偏極ベクトルと呼ばれる.
例えば特定の波数ベクトルkを考えk/|k|= (0,0,1)となる座標系をとり,ε1(k),ε2(k),ε3(k)≡k/|k|を 互いに直交する単位ベクトル
ε1(k) = (1,0,0), ε2(k) = (0,1,0), ε3(k) = (0,0,1)
として
ε0µ=nµ≡(1,0), (59)
εrµ=(0,εr(k)), r= 1,2,3 (60)
とすると,電磁場Aµ≡(ϕ,A)のFourier展開(56),(57),(58)においてr= 0の項はスカラーポテンシャルϕ を,r= 1,2の項はベクトルポテンシャルAの横波成分を,r= 3の項はベクトルポテンシャルAの縦波成 分を成す.このためε0µはスカラー偏極,ε1µ, ε2µは横偏極,ε3µは縦偏極と呼ばれる.このように電磁場を 横波成分に限定せずに4つの偏極ベクトルを導入したことにより,電磁場のFourier展開(56),(57),(58)は座 標変換に対して共変的な形となる.ところが電磁波は本来,横波だから,r= 0,3の2つの偏極状態は系の実 際に持つ自由度に比べて余分な自由度であることになる.これについては4.2節で改めて論じられる.
任意の座標系では偏極ベクトルの成分は式(59),式(60)のように具体的には指定されず,
ζ0=−1, ζ1=ζ2=ζ3= 1 として偏極ベクトル(59),(60)の満たす性質
εr(k)·εs(k)≡εrµ(k)εsµ(k) =−ζrδrs, r, s= 0,1,2,3, (61)
∑
r
ζrεrµ(k)εrν(k) =−gµν (62)
のみが要請される(上式(61)最右辺ではrについて和をとらない).座標系を変えるとベクトルの成分は変化 するため,偏極ベクトルの具体的な表式(59),(60)は特定の座標系でしか成り立たないのに対し,偏極ベクト ルの正規直交性(61)と完全性の条件(62)は座標変換に対して共変的であり,任意の座標系で成り立つ関係式 である.
電磁場に正準量子化を施す際,電磁場Aµと共役な場 πµ= ∂L
∂A˙µ
(ドットは時間微分を表す)をHeisenberg描像の演算子と見なして同時刻交換関係
[Aµ(x, t), πν(x′, t)] =igµνδ(x−x′) (63) を課す.ところがLagrangian密度(53)に対して共役な場は
πµ =−F0µ, ∴π0= 0 (64)
となり,これは交換関係(63)を満たすことができない.そこでLagrangian密度を L=−1
2(∂µAν)(∂µAν) (65)
に改める.これはFermiによって提案されたものである.このときLorenz条件の下で再び場の方程式(55) が導かれるため,電磁場のFourier展開(56),(57),(58)は変更されない.またLagrangian密度(65)はどの成 分もゼロとならない共役な場
πµ=−A˙µ (66)
を与えるため,正準量子化に適している.
5.1( 古典電磁場 ) について
■偏極ベクトルの性質(61),(62)
式(59) :ε0µ= (1,0), 式(60) :εrµ= (0,εr), r= 1,2,3 で与えられる偏極ベクトルεrµ= (ε0µ,εr)は正規直交性(61):
εr·εs=εr0εs0−εr·εs
=
(ε00)2= 1 =−ζ0δ00 (r=s= 0)
0·1−0·εs= 0 =ζ0δ0s (r= 0, s= 1,2,3)
−εr·εs=−δrs=−ζrδrs (r, s= 1,2,3)
=−ζrδrs
を満たす.
また
ε1= (1,0,0), ε2= (0,1,0), ε3= (0,0,1) よりi, j= 1,2,3に対して
(ε1i)2+ (ε2i)2+ (ε3i)2= 1,
∑3 r=1
εriεrj = 0, i̸=j であり,これらを
∑3 r=1
εriεrj=−gij (67)
とまとめられることに注意すると,完全性の条件(62):
∑
r
ζrεrµεrν=−ε0µε0ν+
∑3 r=1
εrµεrν
=
−(ε00)2=−1 =−g00 (µ=ν= 0)
−1·0 + 0·
∑3 r=1
εri= 0 =−g0i ((µ, ν) = (0, i),i= 1,2,3)
∑3 r=1
εriεrj =−gij ((µ, ν) = (i, j),i, j= 1,2,3,∵式(67))
=−gµν が満たされていることが分かる.
■Lagrangian密度(53):L=−14FµνFµν から導かれる共役な場(64):πµ =−F0µ 自由電磁場のLagrangian 密度を式(53):L=−14FµνFµνで与えると,電磁場に共役な場の式(64):πµ=−F0µが導かれる.実際,
πλ≡ ∂L
∂(∂0Aλ)=−1 4
∂
∂(∂0Aλ)FµνFµν
において Fµν
∂
∂(∂0Aλ)Fµν =Fµν
∂
∂(∂0Aλ)(gµαgνβFαβ) = (gµαgνβFµν) ∂
∂(∂0Aλ)Fαβ=Fαβ ∂
∂(∂0Aλ)Fαβ
に注意すると πλ=−2×1
4 { ∂
∂(∂0Aλ)Fµν
}
Fµν =−2×1 4
{ ∂
∂(∂0Aλ)(∂µAν−∂νAµ) }
(∂µAν−∂νAµ)
=−2×1
4(δ0µδλν−δ0νδλµ)(∂µAν−∂νAµ)
=−(∂0Aλ−∂λA0) =−F0λ: (64) を得る.
■Lagrangian密度(53),(65)の等価性 自由電磁場のLagrangian密度(53):
L=−1
4FµνFµν とFermiによって提案されたLagrangian密度(65):
LFermi=−1
2(∂µAν)(∂µAν)
が,Lorenz条件の下で同じ場の方程式へと導くことを示す.
L=−1
4FµνFµν
=−1
4(∂µAν−∂νAµ)(∂µAν−∂νAµ)
=−1
2(∂µAν)(∂µAν) +1
2(∂µAν)(∂νAµ)
=LFermi+1
2∂µ(Aν∂νAµ) (∵Lorenz条件(54) :∂µAµ= 0) のように,2つのLagrangian密度の差はAν∂νAµ/2の4元発散である.
ここで作用は時空のある領域ΩにわたるLagrangian密度の積分であることを思い出すと,一般に場の関数 Λµの4元発散∂µΛµだけ異なる2つのLagrangian密度は,領域Ωの表面にわたるΛµの積分だけ異なる2 つの作用を与える.ところで最小作用原理において領域Ωの表面での場の値,したがってΛµの値は固定され ているから,2つの作用の差は変分をとると落ちる.よって作用が停留値をとる条件に他ならない場の方程式 は,2つのLagrangian密度に対して共通となる.
■Lagrangian密度(53):L =−12(∂µAν)(∂µAν)から導かれる共役な場(66):πµ =−A˙µ Fremiの提案した Lagrangian密度(53):L=−12(∂µAν)(∂µAν)に対して共役な場が式(66):πµ =−A˙µで与えられることが次 のように確かめられる.
πλ= ∂L
∂(∂0Aλ) =−2×1
2(∂µAν) ∂
∂(∂0Aλ)(∂µAν)
=−(∂µAν)δ0µδλν
=−∂0Aλ
=−∂0Aλ.
ここで以上のノートとの内容の重複を厭わずに,5.2節について再びまとめる.はじめに要点を述べ,次い で節を改めて式の導出などの補足を行う.ただし以下では自然単位系(6.1節)を採用し,c= 1,ℏ= 1とする.