第 9 章 輻射補正
9.2 光子の自己エネルギー
正則化
光子の自己エネルギー部分に関するループ積分(9.8):
ie02Πµν(k) = −e02 (2π)4
∫
d4p Tr[γµ(/p+ /k+m0)γν(/p+m0)]
[(p+k)2−m02+iε][p2−m02+iε] (121)
[右辺の負号は2つの伝播関数SFの係数iに由来]は,pが大きいところで発散する.これを正則化する,す なわち数学的によく定義された有限積分へと修正するには,例えば被積分関数に切断因子
f(p2,Λ2) =
( −Λ2 p2−Λ2
)2
を掛ければ良い.Λの値を大きな有限の値にとれば,[それに比べてpの小さいところで]f ≃1であり,積分 はpの大きいところで∫
d4p/p6のように振舞い収束する.現時点ではこの措置を単なる数学的な道具とも,
QEDの高エネルギー領域において本質的な修正とも見なせる.この点については後に[9.5節,pp.210–211 にて]再論する.ただしこの措置はこのままでは実光子の固有質量をゼロと保証できず,また理論のゲージ不 変性を破る.光子の固有質量がゼロとなり,ゲージ不変性が保証れるような別の正則化の方法も存在する.今
図12 光子伝播関数の修正(教科書の図9.8(p.194))
後はΠµν(k)などと書く場合,それは式(121)そのものではなく,何らかの方法で既に正則化がなされたもの と見なすことにする.
繰り込み
図12のように光子伝播関数を,光子の自己エネルギー部分を挿入したグラフと一緒に考える修正を行う.
これは
iDFαβ(k) → iDFαβ(k) +iDFαµ(k)ie02Πµν(k)iDFνβ(k),
∴ −igαβ
k2+iε → −igαβ
k2+iε+ −igαµ
k2+iεie02Πµν(k)−igνβ
k2+iε
という修正に対応する.[これは今考えている光子の線が内線(光子伝播関数)であることによる.外線の場合 は9.4節で議論する.]
この置き換えがLorentz不変であるためにはΠµν はkµから作られる2階[反変]テンソルでなければな らず,その最も一般的な形は
Πµν(k) =−gµνA(k2) +kµkνB(k2)
である.ところが光子伝播関数はS行列展開の中に,保存するカレントと結合した形でしか現れないため,第 2項kµkνB(k2)はこれに寄与しないことが示される.そこでkµkνB(k2)の項を省いて上の修正を
−igαβ
k2+iε → −igαβ k2+iε
[
1−e02A(k2) 1 k2+iε
]
とすると,これはA(k2)を有限の量とする仮定の下で
−igαβ
k2+iε → −igαβ
k2+iε+e02A(k2)+O(e04) (122) と書き直される.上式(122)は裸の光子の伝播関数を現実の光子の伝播関数へと修正しているものと見ること ができる.ところで一般に,質量がmの粒子の伝播関数は引数の4元運動量pがp2=m2のところで極を持 つので,現実の光子についても質量がゼロになるためには
A(0) = 0, ∴A(k2) =k2A′(0) +k2Πc(k2) でなければならない.ただしここにA(0)≡A(k2= 0), A′(0)≡ dA(kd(k22))
k2=0
であり,Πc(k2)はk2= 0の近 くでk2の1次以上のベキに比例してゼロに近づく.よって式(122)は,[伝播関数の端の2つの結節点に関わ る電荷e0を含めて考えると]
−igαβ
k2+iεe02 → −igαβ
k2+iεe02[1−e02A′(0)] + igαβ
k2+iεe04Πc(k2)
となる.右辺第1項は裸の電子の電荷(−e0)の,物理的な電子の電荷(−e)への修正 e2=e02[1−e02A′(0)]
と捉えることができる.これが 電荷の繰り込み であり,(−e)は 繰り込まれた電荷 である.ここでは2 次の自己エネルギー部分だけを考慮しており,より高次の補正も含めると
e≡Z31/2e0=e0
[ 1−1
2e02A′(0) +O(e04) ]
となる.ここにZ3は 繰り込み定数 と呼ばれる.ここから逆にe0を観測可能な実電荷eによって表すと,
結局,光子の伝播関数(のe2倍)の修正として
−igαβ
k2+iεe02 → −igαβ
k2+iεe2+ igαβ
k2+iεe4Πc(k2) +O(e6) (123) を得る.これは電荷の置き換えe0→e(第1項)と,第1項に対するαのオーダーの輻射補正(第2項)から 成る.
正則化した理論のQEDへの復元
結論を先取りして述べると,正則化した理論からQEDを復元するような極限操作(例:切断パラメーター Λ→ ∞)を行った後に,光子伝播関数(123)は,したがって各種の物理的な予言は,観測される素電荷eと,
正則化の詳細に依らない有限の極限値を持つΠc(k2)だけを含む.発散はこの極限操作によりA′(0), Z3に残 り,これらはeとe0の関係を決めるため,実験検証の対象とはなり得ない.
9.2 について
■Πµν(k)の式(9.8)は「pが大きいところで2次の発散をする」(p.193,l.1)ことについて これはpの大き いところで積分が∫
d4p/p2のように振舞うことに注意し,
d4p → dp0d|p|dΩ|p|2
と書くと分かる.なお9.9節では積分記号の下に入る運動量の次数Kとして積分の発散次数(9.109)が定義 されており,今考えている積分∫
d4p/p2に対してこれはK= 4−2 = 2となる.これがp.189脚注2)にお ける「次元による議論」のことと考えられる.
■p.194,1番下の式について S行列展開の2次の項のうち,Mϕller散乱を記述する部分(7.5c):
(ie)2 2!
∫
d4x1d4x2N[( ¯ψγαψ)x1( ¯ψγβψ)x2]iDFαβ(x1−x2)
=−1 2N
[∫
d4x1d4x2sα(x1)iDFαβ(x1−x2)sβ(x2) ]
(∵sα=−eψγ¯ αψ: (4.28)) は光子伝播関数とカレントが結合した形をしている.これを運動量空間の積分に書き換えると,
−1 2N
[∫ d4kd4k′d4k′′
(2π)12 sα(k′)iDFαβ(k)sβ(k′′)
∫
d4x1d4x2e−i(k′+k)·x1e−i(k′′−k)·x2 ]
=−1 2N
[∫ d4k
(2π)4sα(−k)iDFαβ(k)sβ(k) ] となる.
■光子伝播関数の式(9.13)への書き換えについて A(k2)を有限の量と仮定すれば
−igαβ
k2+iε+e02A(k2) = −igαβ
k2+iε (
1 +e0k22A(k+iε2)
) = −igαβ
k2+iε (
1−e02A(k2) k2+iε
)
+O(e04).
■式(9.16)の確認
−igαβ
k2+iε+e02A(k2) =−igαβ
k2
1
1 +e02{A′(0) + Πc(k2)}+kiε2
=−igαβ
k2 {
1−e02A′(0)−e02Πc(k2)− iε k2
}
=−igαβ
k2+iε[{1−e02A′(0)} −e02Πc(k2)]
による.
■「e02を掛けると」(p.196,l.2)について これは伝播関数の端の2つの結節点に関わる電荷e0を含めて考 えることに対応する(p.202,l.1参照).これによって伝播関数の修正(9.16)を,電荷の繰り込み(9.17)と見 ることが可能となっている.