第 9 章 輻射補正
9.9 繰り込み可能性
正則化された理論からQEDを復元するような極限操作の後にも,輻射補正は有限の値に留まることを天下 り的に述べる.まず任意の内線が切断されて2本の外線に置き換わると収束グラフに変換されるような,基本 発散グラフを定義する.他の発散はすべて基本発散から構築されるため,理論の発散を調べるには基本発散を 考察すれば充分である.QEDの基本発散グラフは以下の3種類に限られることが証明されている.
• 電子の自己エネルギー(9.1節の図8(a))
• 光子の自己エネルギー(9.1節の図8(b))
• 結節点補正(9.1節の図8(c)のみならず,高次の基本発散グラフが無数に存在)
図21 Comptonを表す4次過程の1つ(教科書の図9.5(p191))
自己エネルギー部分と結節点補正を表す,すべての固有グラフの総和Σc,Πc,Λcµは,繰り込みによる修正の 後に切断パラメーターを除いた極限で,有限に保たれることを証明できる.よってQEDの予言も有限に保た れる.
有限個のパラメーター(質量,結合定数など)による予言が切断を除いても有限に保たれる場の理論は 繰 り込み可能 と呼ばれる.繰り込み可能な理論では運動量の切断Λ→ ∞[例えば式(9.9)で導入された切断 パラメーターΛは運動量の次元を持つ]の極限で結果が有限値に収束するため,実験におけるエネルギー(運 動量)尺度に比べて充分大きな有限のΛを用いて得た理論予想は,Λ→ ∞の結果と有意な差を生じないこと になる.
9.9 について
■発散次数Kの式(9.109)について 4dはd個の内部運動量pに関する積分∫ (∏
d4p)
に対応する.分母に はフェルミオン伝播関数 1
/
p−m+iε に由来する運動量がfi個,光子伝播関数k−2g+iεαβ に由来する運動量が2bi個 現れるため,式(9.109):K = 4d−fi−2biが得られる.この導き方により発散次数Kの積分は∫
dn/pn−K という形をしており,簡単のためにn= 1の場合を考えれば,K= 0,1,2,· · · の積分はそれぞれ
∫ dp p,
∫ dp,
∫
pdp, · · ·
となって,対数発散,1次発散,2次発散,……を起こし得る.これがp.189脚注2)における「次元による議 論」のことと考えられる.
■式(9.111)について 第14章ではQCDにおける同様の式(14.78)の説明が成されている.これを基に
QEDの式(9.111)を説明しよう.その際,何らかの具体的なダイヤグラムを参照するのが理解の助けになる
はずである.例えば教科書p.191図9.5のダイヤグラムはボゾン,フェルミオンともに外線と内線を有し,
QEDのFeynman図の一般的な特徴を備えている点で理想的である.それを図??として本稿にも載せてお
く.さて,QEDの各結節点は2本のフェルミオン線と1本のボゾン線に接続しているから,n個の結節点は 2n本のフェルミオン線と接続している.そしていずれの結節点とも接続していないフェルミオン線は存在し ない.ただしここでは2つの結節点に共有されているfi本の内線を重複してカウントしており,このように 1本の内線を2本のフェルミオン線と数える場合には,グラフに含まれるフェルミオン線の総数は
2n=fe+ 2fi
と表される.これが式(9.111)の第1式である.同様にグラフに含まれるボゾン線の総数は第2式で与えら れる.
■式(9.112)の確認
K=4d−fi−2bi (∵式(9.109))
=4{fi+bi−(n−1)} −fi−2bi (∵式(9.110))
=3fi+ 2bi−4(n−1)
=3 (
n−fe
2 )
+ (n−be)−4(n−1) (∵式(9.111))
=4−3
2fe−be: (9.112).
■「我々は(fe, be) = (0,3)……図9.6(p.191)において見ている」(p.229,l.21,22)について 図9.6(p.191) の(c)と(d)(≡(e)) のダイヤグラムからフェルミオンの外線を取り去って得られる三角グラフについて,
(fe, be) = (0,3)である.
第 10 章 正則化
前章ではQEDにおける輻射補正の計算が,発散するループ積分を生じることを見た.本章では単一ループ の積分を,具体的に2通りの正則化の手続きに基づいて評価する.ただし正則化の詳細に関する議論が必要と なるのは第15章(下巻)だけである.
• 切断法
– 発散を,理論における短距離(高エネルギー)の挙動に関係付けることができる.
– 一般に適用が難しく,
摂動の全次数にわたってゲージ不変性とWard恒等式を保証することが困難である.
• 次元正則化
– 解釈は簡単ではないが,応用がやりやすい.
– すべての摂動次数において自動的にゲージ不変性が保証され,Ward恒等式が成り立つ.
→ 量子色力学やWeinberg-Salam理論のような非Abelゲージ理論において特に重要となる.