(次ページの図参照).
図レプトン𝑙±,光子𝛾の生成・消滅から成る8つの過程
上図では 𝑝 = 𝐸𝒑, 𝒑 , 𝑝′ = (𝐸𝒑′, 𝒑′) を𝑙±のいずれかの4元運動量,
𝑘 = 𝜔, 𝒌 を𝛾の4元運動量として,各々の過程で
エネルギー・運動量が保存される条件式を付記している.
このとき
𝑝2= 𝑚𝑙2,𝑝′2 = 𝑚𝑙2,𝑘2= 0 となるから,上図に示した保存則の式は,
いずれも両辺を2乗する(4元内積をとる)ことにより 2𝑝 ∙ 𝑘 = 0
に帰着する.
ここで7.4節における,2次の摂動論による反応e+e−→µ+µ−のFeynman振幅(7.61)の計算について,
7.1–7.3節で見たFeynman規則の導出の内容も含める方でまとめる.はじめに要点を述べ,次いで節を改め
て式の導出などの補足を行う.
反応 e
+e
−→ µ
+µ
−の確率振幅と Feynman 規則
ここでは具体的な素粒子の反応としてe+e−衝突によるレプトン対µ+µ−の生成過程
e+(p1, r1) +e−(p2, r2) → µ+(p1′, s1) +µ−(p2′, s2) (102) を取り上げ,この反応が起こる確率振幅を考える(pp.137–140,pp.143–145).上式(102)の引数は順番に粒子 の運動量とスピンを表している.また粒子の4元運動量を
e+:p1= (Ep1,p1), e− :p2= (Ep2,p2), µ+:p1′= (Ep1′,p1′), µ− :p2′ = (Ep2′,p2′) と書く.この反応(102)は始状態|i⟩=|e−p2r2;e+p1r1⟩から終状態|f⟩=|µ−p2′s2;µ+p1′s1⟩への遷移
|i⟩=|e−p2r2;e+p1r1⟩ → |f⟩=|µ−p2′s2;µ+p1′s1⟩ (103) に対応する.
6.3節の議論を踏まえると,遷移(103)の起きる確率振幅は2次の摂動論で Sf i =
⟨ f
(−e2)
∫
d4x1d4x2N[( ¯ψµAψ/ µ)x1( ¯ψeAψ/ e)x2] i
⟩
(104) となることが分かる.さらにこれを運動量の関数として書き換える(運動量空間に移す)と
Sf i= [
(2π)4δ4(p1′+p2′−p1−p2) ( me
V Ep1
)1/2( me V Ep2
)1/2( mµ V Ep1′
)1/2( mµ V Ep2′
)1/2]
M, (105) M=[
¯
u(µ)s2(p2′)(ieγα)v(µ)s1(p1′)]
iDFαβ(p1+p2)[
¯
v(e)r1(p1)(ieγβ)u(e)r2(p2)]
: Feynman振幅 (106) となる(ただし例えばu(l)r(p)は,レプトンlを表すDirac場に対して導入したスピノルur(p)であり,ここ ではレプトンの種類lを添字として明示している).反応(102)がエネルギー・運動量保存則を破る場合を想 定するとp1+p2̸=p1′+p2′である.Sf iの式(105)のδ4(p1′+p2′−p1−p2)はそのような遷移の確率をゼ ロにする.
ここでFeynman振幅(106)は,反応e++e− →µ++µ−を表す図3のグラフに対応していることを説明
する.図3はFeynmanダイヤグラムと呼ばれ,左側に外部からダイヤグラムに入る線を2本,右側にダイヤ
グラムから外部に出る線を2本持つ.これらは外線と呼ばれ,それぞれ始状態に存在する粒子e±と終状態に 存在する粒子µ±を表している.外線については時間はグラフの左から右に流れるものと見なし,外線の矢印 は粒子l−に対しては時間と同じ方向を向き(左から右を向き),反粒子l+に対しては時間と反対の方向を向 く(右から左を向く)ように描く(p.81).ダイヤグラム中央の線は内線と呼ばれる.図3の場合,内線は光子 を表す波線である.
このダイヤグラムの各要素に対して以下の操作を施すとFeynman振幅の表式(106)が得られる.これらは QEDで扱われる素粒子の反応に対して,Feynmanダイヤグラムを描き,そこから確率振幅を書き下すための Feynman規則の一部を成す.
1. 各結節点に因子ieγαを充てる.
2. 運動量kの付随する光子の内線
に因子iDFβα(k) =iDFαβ(k)を充てる.
3.(a)始状態のe−の外線
に因子u(e)r2(p2)を充てる.
(b)終状態のµ−の外線
に因子u¯(µ)s2(p2′)を充てる.
(c)始状態のe+の外線
に因子v¯(e)r1(p1)を充てる.
(d)終状態のµ+の外線
に因子v(µ)s1(p1′)を充てる.
4. フェルミオン線を矢印の向きにたどって出会う因子を順に右から並べて,[
¯
u(µ)s2(p2′)(ieγα)v(µ)s1(p1′)] と[
¯
v(e)r1(p1)(ieγβ)u(e)r2(p2)]
を得る.
これらとiDFαβ(k)の合わせて3つの因子を並べて M=[
¯
u(µ)s2(p2′)(ieγα)v(µ)s1(p1′)]
iDFαβ(k)[
¯
v(e)r1(p1)(ieγβ)u(e)r2(p2)] とする(この3つの因子は交換するので,どのような順に並べても良いと考えられる). 5. 結節点でのエネルギー・運動量保存則を要求しk=p1+p2とする.
Sf iの式(105)にはδ4(p1′+p2′−p1−p2)が含まれているため,このときもう一方の結節点における 保存則k=p1′+p2′も保証される.
図3 反応e++e−→µ++µ−を表すFeynmanダイヤグラム
反応 e
+e
−→ µ
+µ
−の確率振幅と Feynman 規則 ( 補足 )
反応(103):
|i⟩=|e−p2r2;e+p1r1⟩ → |f⟩=|µ−p2′s2;µ+p1′s1⟩
の確率振幅⟨f|S|i⟩ ≡Sf iが2次の摂動論で式(104)で与えられることを確かめる.準備として次のことに注 意する(p.129).場ψl,ψ¯lのFourier展開(36),(37)により,レプトンの種類lを明示すると,消滅演算子を 含む部分ψl+,ψ¯l+に対して
ψl+(x)|l−pr⟩=∑
q,s
( ml V Eq
)1/2
c(l)s(q)u(l)s(q)e−iq·x|l−pr⟩=|0⟩ ( ml
V Ep
)1/2
u(l)r(p)e−ip·x, (107) ψ¯l+(x)|l+pr⟩=∑
q,s
( ml
V Eq )1/2
d(l)s(q)¯v(l)s(q)e−iq·x|l+pr⟩=|0⟩ ( ml
V Ep )1/2
¯
v(l)r(p)e−ip·x (108) が成り立つ.ここで例えば式(107)では,状態|l−pr⟩において運動量,スピン(q, s)(̸= (p, r))を持つ粒子l− は存在しないため,c(l)s(q)が|l−pr⟩作用すると状態が消失する.これらの両辺のHermite共役をとり,右 からγ0をかけると
⟨l−pr|ψ¯l−(x) =⟨0| ( ml
V Ep )1/2
¯
u(l)r(p)eip·x, (109)
⟨l+pr|ψ¯l−(x) =⟨0| ( ml
V Ep
)1/2
v(l)r(p)eip·x (110)
となる.
さて,確率振幅Sf iを2次の摂動論で求めるにはS演算子のDyson展開(92):
S=
∑∞ n=0
S(n), S(n)≡ (ie)n n!
∫
d4x1· · ·d4xn
∑
l1,···,ln
T{N( ¯ψl1Aψ/ l1)x1· · ·N( ¯ψlnAψ/ ln)xn}
の2次までの項S(0), S(1), S(2)の寄与を考えれば良い.確率振幅Sf iに寄与するのはe±の消滅演算子とµ± の生成演算子を含む項だから(6.3節)
S(0)= 1, S(1)=ie
∫
d4x∑
l
N[( ¯ψlAψ/ l)x] からの寄与はなく,
S(2)=−e2 2
∫
d4x1d4x2
∑
l1,l2
T{N( ¯ψl1Aψ/ l1)x1N( ¯ψl2Aψ/ l2)x2} の寄与は
Sµe(2)=−e2 2
∫
d4x1d4x2T{N( ¯ψµAψ/ µ)x1N( ¯ψeAψ/ e)x2} ⇐ (l1, l2) = (µ, e)の項 +−e2
2
∫
d4x1d4x2T{N( ¯ψeAψ/ e)x1N( ¯ψµAψ/ µ)x2} ⇐ (l1, l2) = (e, µ)の項
=−e2
∫
d4x1d4x2T{N( ¯ψµAψ/ µ)x1N( ¯ψeAψ/ e)x2}
から来る.これにWickの定理(6.3節)を適用すると,時刻x10を引数に持つ場ψ¯µ,A, ψ/ µと時刻x20を引数 に持つ場ψ¯e,A, ψ/ eの非同時刻縮約が現れる.縮約の定義式(96):
A(x1)B(x2)≡ ⟨0|T{A(x1)B(x2)}|0⟩
より,これがゼロとならないためには縮約される2つの場は同一粒子の生成演算子と消滅演算子を含んでいな ければならない.よってゼロでない縮約はA(x/ 1) /A(x2)のみであることに注意すると
S(2)µe =SA+SB, SA≡ −e2
∫
d4x1d4x2N[( ¯ψµAψ/ µ)x1( ¯ψeAψ/ e)x2], SB ≡ −e2
∫
d4x1d4x2N[( ¯ψµAψ/ µ)x1( ¯ψeAψ/ e)x2] を得る(p.143).
SAの確率振幅Sf iへの寄与はゼロとなる(pp.116–118,p.131).実際,式(107),式(108),式(109),式 (110)を用いると
⟨f|SA|i⟩
=−e2
∫
d4x1d4x2⟨µ−p2′s2;µ+p1′s1|N[( ¯ψµAψ/ µ)x1( ¯ψeAψ/ e)x2]|e−p2r2;e+p1r1⟩
=−e2
∫
d4x1d4x2⟨µ−p2′s2;µ+p1′s1|ψ¯µ−(x1)γαψµ−(x1)N[Aα(x1)Aβ(x2)] ¯ψe+(x2)γβψe+(x2)|e−p2r2;e+p1r1⟩
=−e2
∫
d4x1d4x2
[( mµ
V Ep2′
)1/2
¯
u(µ)s2(p2′)eip2′·x1 ]
γα
[( mµ
V Ep1′
)1/2
v(µ)s1(p1′)eip1′·x1 ]
× ⟨0|Aβ−(x2)Aα+(x1) +Aα−(x1)Aβ+(x2)|0⟩
×
[( me
V Ep1 )1/2
¯
v(e)r1(p1)e−ip1·x2 ]
γβ
[( me
V Ep2 )1/2
u(e)r2(p2)e−ip2·x2 ]
を得る.最右辺2行目の真空期待値は消滅演算子を含む項Aα+, Aβ+が|0⟩に作用して消える.
以上より2次の摂動論で確率振幅は式(104):
Sf i=⟨f|SB|i⟩
=
⟨ f
−e2
∫
d4x1d4x2N[( ¯ψµAψ/ µ)x1( ¯ψeAψ/ e)x2] i
⟩
=
⟨ f
−e2
∫
d4x1d4x2ψ¯µ−(x1)γαψµ−(x1)iDFαβ(x1−x2) ¯ψe+(x2)γβψe+(x2) i
⟩
(∵式(5.26) :Aα(x2)Aβ(x2) =iDFαβ(x1−x2) )
で与えられる.
最後にこれが式(105)に書き換えられることを確かめる(計算の手法はpp.129–133の箇所を参考にした). 式(107),式(108),式(109),式(110),およびDFαβ(x)のFourier展開(5.38)を用いると
Sf i=−e2
∫
d4x1d4x2
[( mµ
V Ep2′
)1/2
¯
u(µ)s2(p2′)eip2′·x1 ]
γα
[( mµ
V Ep1′
)1/2
v(µ)s1(p1′)eip1′·x1 ]
×
∫ d4k
(2π)4iDFαβ(k)e−ik·(x1−x2)
[( me
V Ep1
)1/2
¯
v(e)r1(p1)e−ip1·x2 ]
γβ
[( me
V Ep2
)1/2
u(e)r2(p2)e−ip2·x2 ]
となる.ここでx1, x2に関する積分は
∫
d4x1ei(p2′+p1′−k)·x1
∫
d4x2ei(k−p1−p2)·x2= (2π)4δ4(p1′+p2′−k)(2π)4δ4(k−p1−p2) であり,これを用いるとkに関する積分を
∫ d4k
(2π)4iDFαβ(k)×(2π)4δ4(p1′+p2′−k)(2π)4δ4(k−p1−p2) = (2π)4iDFαβ(p1+p2)δ4(p1′+p2′−p1−p2) と実行できるから,
式(105) :Sf i= [
(2π)4δ4(p1′+p2′−p1−p2) ( me
V Ep1 )1/2(
me
V Ep2 )1/2(
mµ
V Ep1′
)1/2( mµ
V Ep2′
)1/2] M, 式(106) :M=−e2[
¯
u(µ)s2(p2′)γαv(µ)s1(p1′)]
iDFαβ(p1+p2)[
¯
v(e)r1(p1)γβu(e)r2(p2)] を得る.
QED の Feynman 規則
第7章を通してFeynmanダイヤグラムをFeynman振幅の式に翻訳する,QEDのFeynman規則の起源を 一通り見たことになる.ここで得られたFeynman規則をまとめておこう.ただし第7章の段階ではまだ議論 されていないことであるが,荷電レプトンl∓に対するFeynman規則は中性レプトンνl,ν¯l(ゼロでない質量 mνlを持つDirac粒子と仮定)にも適用できることに注意し(下巻の付録B),以下では中性レプトンも対象に 含める.また以下の静的な外場Aeα(x)との相互作用に関する規則は,8.7節において導出されることになる.
遷移|i⟩ → |f⟩に関するS行列要素は Sf i=δf i+ (2π)4δ(∑
p′f−∑ pi
) ∏
i
( 1 2V Ei
)1/2∏
f
( 1 2V E′f
)1/2∏
l
(2ml)1/2M
という形をとる.ここにpi= (Ei,pi)は始状態における各粒子の4元運動量,p′f = (E′f,p′f)は終状態にお ける各粒子の4元運動量である.添字lは全ての外線レプトン(荷電レプトンおよび中性レプトン)を指し,
mlは外線レプトンlの質量を表す.この式で遷移|i⟩ → |f⟩に関するFeynman振幅Mが定義される.
以下のFeynman規則に従って,QEDの過程に関するグラフから対応するFeynman振幅を得ることがで
きる.
1. 各結節点に因子ieγαを充てる.
2. 運動量kの付随する光子の内線
に因子iDFαβ(k) =i −gαβ
k2+iεを充てる.
3. 運動量pの付随するレプトンの内線
に因子iSF(p) =i 1 /
p−m+iεを充てる.
mは対象とするレプトンの質量mlやmνlを表す(l=e, µ, τ). 4.(a)始状態のレプトンl−, νlの外線
に因子ur(p)を充てる.
(b)終状態のレプトンl−, νlの外線
に因子u¯r(p)を充てる.
(c)始状態のレプトンl+,¯νlの外線
に因子v¯r(p)を充てる.
(d)終状態のレプトンl+,¯νlの外線
に因子vr(p)を充てる.
(e)始状態の光子の外線
に因子εrα(k)を充てる.
(f)終状態の光子の外線
に因子εrα(k)を充てる*5.
ここにpとkは外線粒子の3次元運動量を表し,r(= 1,2)はスピン状態もしくは偏極状態を表す.
5. 各フェルミオン線と,
それらを接続する各結節点に付随するスピノル因子(4元スピノル,SF関数,γ行列)を,
相互に接続している一連のフェルミオン線を矢印の向きに辿る順序で右から左に並べる.
6. 閉じたフェルミオン線それぞれに関して対角和をとり,因子(−1)を掛ける.
7. 結節点においてエネルギー・運動量の保存を成立させる.
エネルギー・運動量保存の要請の下でも固定されないパラメーターとして残る 内部4元運動量qそれぞれに関して積分
∫ d4q
(2π)4 を施す.
このような内部運動量変数qに関する積分は,閉じたループそれぞれにおいて生じる.
★ このように積分に因子(2π)−4を含めておけば,次の規則8による位相因子を除き,
必要な数値因子が全て出揃う.
8. 位相因子δPとして+1または−1を掛ける.
これは外線フェルミオン因子(演算子)の順序を外線指数(引数)の順序が適正になるように
*5これは5.1節で選んだ線形偏極(偏光)状態εrα(k)が実数であることによる.一般にεrα(k)は複素数であり(例えば円偏光を考 えよ),その場合には終状態のεrα(k)をεrα(k)∗に置き換えなければならない.
並べ直すときに,フェルミオン因子同士の置換が必要な回数が偶数回ならば+1, 奇数回ならば−1とする.
★ 位相因子が重要となるのは,複数のFeynmanグラフからの寄与を足し合わせる必要のある場合 に限られ,その場合にも相対的な符号の違いのみが関心の対象となる.
外部の静的な電磁場 Aeα(x)との相互作用を扱う際には,Feynman振幅とS行列要素を関係付ける冒頭 の式において
(2π)4δ(∑
p′f−∑ pi
) → (2π)δ(∑
E′f−∑ Ei
)
と置き換えた上で,次のFeynman規則を追加する.
9. 荷電粒子と外部の静的電磁場Aeα(x)との相互作用
それぞれに対して,因子
Aeα(q) =
∫
d3xe−iq·xAeα(x) を充てる.qは場の源(×)から粒子へ移行する運動量である.