第 5 章 静電場の法則 60
5.4 Poisson 方程式*
式(5.5)をGaussの法則の微分形(5.7)式右に代入したものがPoisson方程式(Poisson equation)で
ある。
−∇2ϕ(r) = 4πkρ(r) (5.15)
∇2=∇·∇=∂x∂22 +∂y∂22 +∂z∂22 はラプラシアン(Laplacian)とよばれる演算子を表す。∇2は△と書か れることもある。式(5.5)は渦なしの法則を自動的に満たしているし、Gaussの法則からPoisson方程式が 導かれている。したがって、二つの法則が基本法則であるならばPoisson方程式は電場を決めるもっとも 基本的な方程式となる。電荷分布が0のときの方程式
−∇2ϕ(r) = 0 (5.16)
はLaplace方程式(Laplace equation)とよばれる。こちらの方が先に考えられ、後にS. D. Poissonが修 正を加えた。
Poisson方程式は2階の微分方程式であるから方程式の一般解は不定性をもつ。それらは適当な境界条件
を定めることによって決まるものである。重要な性質は、適当な境界条件を定めればPoisson方程式の解 は一意的に決まることである。この性質は5.5節で簡単に述べる。Poisson方程式の解の系統的な解析は本 講義ノートでは行わない。適当な教科書を参照してほしい。
点電荷があるときのポテンシャル(4.13)式(55ページ)がPoisson方程式を満たすかどうかについては 5.6節の補遺で議論する。
5.5 [ 補遺 ] Poisson 方程式の一意性 **
ϕ1とϕ2が同じPoisson方程式を満たすとする。
−∇2ϕ1(r) = 4πkρ(r) (5.17)
−∇2ϕ2(r) = 4πkρ(r) (5.18)
このとき、両者より
∇2(ϕ1−ϕ2) = 0 (5.19)
が成り立つ。電位差の関数ϕ1−ϕ2はLaplace方程式を満たさないといけない。
適当な境界条件を用いると、この解は0しかないことが示される。つまり、ϕ1=ϕ2となってPoisson方 程式の解の一意性が言える。以下では適当な境界条件とは何かを含めてこのことを考える。
まず、Gaussの定理の式(3.31)(46ページ)にE=ϕ∇ϕを代入する4。
∫
S=∂V
dS·ϕ(r)∇ϕ(r) =
∫
V
dV (∇ϕ(r))2+
∫
V
dV ϕ(r)∇2ϕ(r) (5.20) この関係を一般化したものはGreenの定理(Green’s theorem)として知られている5。ϕ=ϕ1−ϕ2とお くと、右辺第2項は0となる。つまり、
∫
V
dV (∇ϕ(r))2=
∫
S=∂V
dS·ϕ(r)∇ϕ(r) (5.21)
が成り立つ。
右辺は表面積分であるがこれが0であるとすると左辺も0でないといけない。左辺は非負の量の和であ るから、
∇ϕ(r) =0 (5.22)
となる。どの変数で微分しても0になるということはϕ(r)が定数であることを意味している。その値が0 であればよい。
解が一意的であるための条件は、領域表面でϕ1(r) =ϕ2(r)または∇ϕ1(r) =∇ϕ2(r)が成り立つこと および、どこかの点で電位が0であることである。領域をどのようにとるかであるが、もっとも単純なも のは無限遠点を表面にとることである。また、次章で扱う導体がある系では導体を含まない領域をとれば よい。そのようにすると、導体表面で上の条件が成り立つし、無限遠点で電位を0にすることができる。
5.6 [ 補遺 ] 点電荷の表現 **
点電荷qがr=r0にあるときの電荷密度は ρ(r) =− q
4π∇2 1
|r−r0| (5.23)
によって与えられる。これは点電荷のつくる電位の結果(4.13)式(55ページ)とPoisson方程式(5.15)を 組み合わせた表現である。本節ではこの式の意味するところを議論する。
4このEは電場ではないしϕも今のところは任意の関数である。なのでこの置き方に物理的な意味は無い。こうするとGreenの 定理が導けるというだけである。
5二つのスカラー関数ϕ、ψを用いてE=ϕ∇ψとする。ここではϕ=ψとしている。ψはプサイと読む。
微分の部分を具体的に書くと
−∇2 1
|r−r0| =− ( ∂2
∂x2 + ∂2
∂y2 + ∂2
∂z2
) 1
√(x−x0)2+ (y−y0)2+ (z−z0)2 (5.24) である。これを素直に計算すると0になる。したがって電荷密度は0になってしまいそうに思えるが、それ はr =r0での特異性を考慮していないからである。そこで次のように微分を正則化(regularization)し て考える。
−∇2 1
|r−r0| = −lim
ϵ→0
( ∂2
∂x2 + ∂2
∂y2 + ∂2
∂z2
) 1
√(x−x0)2+ (y−y0)2+ (z−z0)2+ϵ2 (5.25) ϵという微小量を入れて発散しないようにしておいて微分して最後に極限をとると考えるのである。そのよ うにすると微分がr=r0で発散することがよく見てとれる。
−∇2 1
|r−r0| = lim
ϵ→0
3ϵ2
[(x−x0)2+ (y−y0)2+ (z−z0)2+ϵ2]5/2
(5.26a)
=
{ 0 r̸=r0
limϵ→0 3
ϵ3 r=r0
(5.26b) 正則化したらからといって発散の問題が解決したわけではない。そもそも電荷があるとそこで電場は発散 している。電荷密度の定義も大きさ0の領域に無限大の電荷があるとしている。現実に意味があるのはそ れを有限領域で積分したものである。積分を行うと
−
∫
d3r∇2 1
|r−r0| = lim
ϵ→0
∫
d3r 3ϵ2 [(r−r0)2+ϵ2]5/2
(5.27a)
= lim
ϵ→0
∫ ∞
0
dr4πr2 3ϵ2
(r2+ϵ2)5/2 (5.27b)
= lim
ϵ→04π (5.27c)
= 4π (5.27d)
を得る6。つまり、被積分関数は1点で発散するのだが、積分すると有限値を与えるような関数である。
以上の性質を用いると
ρ(r) =− q
4π∇2 1
|r−r0| (5.28)
であることが言える。r̸=r0で0だが、r=r0で発散する。ただし、積分するとqを与えるようなもので ある。
これで発散の問題がなくなったわけではないことに注意してほしい。上の計算では極限を微分の後回し にすることによって有限の値が得られている。つまり、極限操作と微分操作を交換している。このため、発 散がなくなったように見えたのである。
このようなふるまいはDiracのデルタ関数を用いると要領よく表現できる。
δ3(r−r0) =− 1
4π∇2 1
|r−r0| (5.29)
これは引数が0になると発散し他では0、rの体積積分を行うと1になるという超関数を表す7。超関数は通 常の関数の概念を拡張したものである。デルタ関数は物理学の法則を書き下すために欠かせない。そこでは、
あまり数学的な問題を気にせずに頻繁に用いられている8。デルタ関数を用いると電荷はρ(r) =qδ3(r−r0) と表される。
6最後の積分は変数変換r=ϵtanθを用いて計算できる。
7デルタ関数はKroneckerのデルタとは異なる。大きな違いはデルタ関数は引数によって次元をもっていることである。
8デルタ関数は工学出身の物理学者であるP. A. M. Diracによって「発明」され、数学的な基礎づけは後になされた。