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まとめと考察

ドキュメント内 (C) Kazutaka Takahashi 2018 (ページ 146-149)

第 9 章 静磁場の法則 106

12.5 まとめと考察

本章ではついにMaxwell方程式にたどり着いた。次の点を理解してほしい。

8これはLorenzゲージとよばれる。L. LorenzのことであってLorentzではない。

図12.2: Maxwell方程式。

静電磁場から一般の系への拡張

Maxwell方程式の意味

電磁場のエネルギー

静電磁場の法則を、電磁誘導の法則といくつかの原理をてがかりにして時間依存する系に拡張した。そ の論理とともに、得られる方程式の意味とその帰結を理解する必要がある。Maxwell方程式のおおよその 解釈については、図12.2を理解できるようになるとよい。

方程式の拡張

静電磁場の法則が得られたからといって電磁場の一般法則を一意的につくりあげることはできない。拡 張するためにはいくつかの知識や洞察が必要であった。

そこで主に用いられたのは電磁誘導の法則である。前節で現象を注意深く観察し、法則を検討し、一般 的な法則へ拡張した。回路にとらわれない一般化を行ったFaradayには場が見えていたのかもしれない9。 これが結局のところ電磁場の法則を完成させるために決定的な役割を果たした。あとは連続方程式や線形 性などを用いれば拡張の可能性をかなり狭めて法則を得ることができる。変位電流の導入は理論的考察の 醍醐味であるといえる。

幸運だったのは拡張が比較的簡単だったことである。静電磁場の法則と比較すると、拡張は電磁場の時 間1階微分項を2箇所に付け加えることで済む。新たな項も電磁場の1次の項であり、線形性を保ってい る。線形性を破ったり2階微分があらわれていたら、これまでのような考察ではうまくいかなかっただろ う。これらの性質は、法則の確立後に大変重要な意味をもっていることが明らかにされた。が、それはま た別の話である10

9Faradayは電磁場が回路だけでなく何もない空間にも存在すると主張したが、はじめは受け入れられなかった。Faradayは実験

家であり、数学的な素養はあまりなかったらしいが、それでもそのような抽象化を推し進めたことは興味深い。

10Einsteinによる特殊相対性理論である。

法則の形式

第I部・第II部では静電磁場を直接的な表現から間接的な表現(湧き出し・吸い込み・渦についての法 則)に直すことに多大な労力を費やした。そこではいろいろないいわけをしてきたが、静電磁場の系にと どまっていたらGaussの法則などは電磁場の満たす性質のひとつに過ぎなかっただろう。本章でようやく 意義が実感できたはずである。拡張のしやすい形に法則を書き直すことによって電磁気の法則を、自然だ がきわめて非自明な形で拡張できたことがよくわかる。電場がCoulomb力の形、磁場がBiot–Savartの形 のままではどう拡張していいかわからなっただろう。微分方程式で法則を書き下すことによって個々の状 況を表す情報が落とされている。それによって普遍的な法則をはじめて書き下せるのである。次章でいく つかの例を扱うが、個々の状況に応じてMaxwell方程式を解くことはたいへん難しい。

場の理論

Maxwell方程式は電場と磁場が複雑にからみあった式である。電場が時間変化する系では磁場が変動し

ており、逆に磁場が時間変動すると電場も変動する。そのような変動が空間の全ての点で起こっている。線 形で1階微分のみを含む単純な方程式とはいえ、得られる電磁場の変動規則は複雑である。

力学の場合は力が与えられれば位置座標の時間変化をおっていけばよい。現在の位置と速度がわかれば 次の瞬間どちらに動けばよいかわかる。Maxwell方程式は時間微分を用いているので同様にして時間変化 を追っていくことができる。しかも1階微分であるから2階微分を扱うNewton方程式より簡単に見える。

大きな違いは、Newton方程式は粒子の座標を時間の関数として求めるが、Maxwell方程式は電磁場を 全ての位置座標rと時間tで求めないといけない。力学では粒子のいる座標だけ気にしていればよいこと と比べると大きな違いである。力学では座標を力学変数として時間の関数として求めるのに対して電磁気 学では座標と時間は自由に選べることができるパラメータにすぎない。これは、電磁気学が「場」の理論 であることを意味している。力学と全く異なる法則の表現形式を確立させることができたのは古典物理学 の大きな成果のひとつでもあり、現代物理学においてもその考え方は受け継がれている11

方程式の帰結

電荷・電流密度が0であったとしてもMaxwell方程式は電磁場の運動法則を記述する。具体的に示した ように、電磁場は波動方程式を満たす。つまり、電荷・電流密度がない時間・空間の点においても電磁場 は存在し波として時空を伝わっている。そして、その速度は光の速度に等しいことから、Maxwellは電磁 場は光に他ならないと結論づけた。

これは予期せぬ結論である。これまでよくわからないままに扱ってきた電磁場がこの世の中の至るとこ ろにある光であったという発見は、電磁気学の偉大な到達点である。これによって、さまざまな現象や実 験、理論が結びついた。速度の値が光のものと同じであるからというだけで電磁場が光であると結論づけ るのは短絡的かもしれないが、論理性だけでは新しい発見にたどり着けない。

エネルギー保存則

電磁場が実在するということの有力な根拠のひとつは、電磁場がエネルギーを担っているという性質で ある。力学の場合、エネルギーは運動する粒子がもっているものとして計算されるが、電磁気学では電磁場 がエネルギーを担っている。電磁場は空間全域にひろがっているから、エネルギーは空間の各点に蓄えら れている。荷電粒子と電磁場のエネルギーの両方をあわせてエネルギー保存則がはじめて成り立つ。荷電

11場の量子論は極微スケールの法則を記述する基本言語である。

図 12.3: 問題[12–2]の系。起電力V(t)をかけて電流I(t)が流れる。面領域をコンデンサー内を通る面S1 と導線を通る面S2の2通りにとって積分をそれぞれ行う。両者の面領域は共通の境界(破線)をもつ。

粒子のみでは成り立たない。静電場の場合には電磁場のエネルギーは一定であるから電磁場と電荷の間で エネルギーが移り変わることがない。そのため、電磁場のエネルギーを意識する必要がなかったのである。

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