第 9 章 静磁場の法則 106
12.2 Maxwell 方程式
のように与えられる。したがって、変位電流は Jd(r, t) = 1
4πk
∂
∂tE(r, t) = I 4π
r
|r|3 (12.16)
と計算される。
この変位電流を用いて(12.12)式を調べてみる。磁場の形は円柱座標を用いて
B(r, t) =B(ρ, z, t)eφ (12.17) となるはずである。z軸回りの回転対称性により、磁場の大きさは軸からの距離ρとzにのみ依存する。eρ
方向の磁場が0であることは磁場についてのGaussの法則(12.14)式からわかるし、ez方向も0である2。 z軸を中心軸としてもつ半径ρの円を積分経路にとると
2πρB(ρ, z, t) =
kmI∫
SdS· |rr|3 z >0 4πkmI+kmI∫
SdS· |rr|3 z <0
(12.18) と書くことができる。積分の項が変位電流の寄与を表す。面積分は次のように計算できる。
∫
S
dS· r
|r|3 =
∫ ρ 0
ρ′dρ′
∫ 2π 0
dφ z
(ρ′2+z2)3/2 (12.19a)
= πz
∫ ρ2 0
dρ′2
(ρ′2+z2)3/2 (12.19b)
= 2π z
|z| (
1−√ |z| ρ2+z2
)
(12.19c) したがって、
B(ρ, z, t) = kmI ρ
(
1− z
√ρ2+z2 )
(12.20) を得る。磁場は時間に依存しない。
途中の計算ではz >0とz <0で区別して計算を行う必要があったのにもかかわらず答えは全ての領域 で同じ表現にまとめられる。磁場はz= 0で連続となるからこれはもっともな結果である。変位電流の寄 与がなければ不連続となってしまう。
図12.1: 半無限直線電流の系。z <0の軸上に電流Iが流れ、原点に電荷Q(t) =Itがたまっていく。
∇·E(r, t) = 4πkρ(r, t) (12.25)
∇×E(r, t) + ∂
∂tB(r, t) =0 (12.26)
∇·B(r, t) = 0 (12.27)
∇×B(r, t)−km
k
∂
∂tE(r, t) = 4πkmJ(r, t) (12.28)
これがMaxwell方程式(Maxwell equation)である。積分形は具体的な問題を解くときに便利であるが、
理論の構造を調べるには微分形が向いている。これまでのところこの方程式に矛盾はないが、さらに性質 を見ながら問題の有無を調べよう。
線形性
Maxwell方程式は電荷・電流密度および電磁場の量の組(ρ,J,E,B)について線形の方程式である。よっ
て、2種類の組がそれぞれMaxwell方程式を満たすのであればそれらの和もMaxwell方程式を満たす。つ まり、重ねあわせの原理が成り立っている。線形の方程式であることが重ねあわせの原理が成り立つこと を保証している。単純であるがきわめて重要で便利な性質である。
連続の方程式と初期条件
連続の方程式と矛盾のないことはすでに前節で確認した。連続方程式が自動的に満たされるということ は、その式を陽に述べる必要はないということである。どうでもいいわけではなく、たいへん重要な基本 原理である。
連続の方程式を用いると次のようなことも言える。Maxwell方程式の第4式(12.28)の発散をとって連続 の方程式を用いると、
−km
k
∂
∂t∇·E(r, t) = 4πkm∇·J(r, t) =−4πkm
∂
∂tρ(r, t) (12.29)
つまり、
∂
∂t
(∇·E(r, t)−4πkρ(r, t) )
= 0 (12.30)
である。この式は括弧の中の量が時間によらない定数であることを示しているが、それはMaxwell方程式 の第1式(12.25)から0である。同様に、第2式(12.26)の発散をとると
∂
∂t∇·B(r, t) = 0 (12.31)
を得る。磁場の発散が時間によらないことを示しているが、それは第3 式より0 である。このように、
Maxwell方程式の第1式と第3式は初期条件を定める式となっている。
Maxwell方程式は4つの式からなるが、ベクトルで表されているものもある。各成分を別と考えると全
部で8つの方程式がある。そのうち二つは初期条件を決めるものであるから6つの自由度がある。一方、
方程式にあらわれる電磁場は6つの成分をもつ。したがって、与えられた電荷密度と電流密度のもとで電 磁場成分はMaxwell方程式を解くことで求まる3。
第1式と第3式は初期状態を定めるためのもので補足方程式ともよばれる。それらの式には時間微分が 存在しないから、ダイナミクスを規定するものではなく拘束条件のようなものである。ダイナミクスを規 定する式は第2式と第4式である。
波動方程式
上の考察では第2式と第4式の発散をとったが、それでは回転をとったらどうなるか考えるのは自然な 発想であろう。回転の回転について公式(3.45)(47ページ)を用いると
∇(∇·E(r, t))−∇2E(r, t) =−∂
∂t∇×B(r, t) (12.32)
∇(∇·B(r, t))−∇2B(r, t) =km k
∂
∂t∇×E(r, t) + 4πkm∇×J(r, t) (12.33)
Maxwell方程式の第1式と第4式を用いて変形を行うと
−∇2E(r, t) +km
k
∂2
∂t2E(r, t) =−4πk∇ρ(r, t)−4πkm
∂
∂tJ(r, t) (12.34)
−∇2B(r, t) +km
k
∂2
∂t2B(r, t) = 4πkm∇×J(r, t) (12.35) を得る。
右辺の電荷密度と電流密度が0のときを考えてみよう。
−∇2E(r, t) +km
k
∂2
∂t2E(r, t) =0 (12.36)
−∇2B(r, t) +km k
∂2
∂t2B(r, t) =0 (12.37) これは波動方程式(wave equation)を表している。つまり、電荷がない空間では電磁場は波として伝搬す る。電荷がないと何も起こらないと思えるが、適当な初期状態を与えると電場と磁場が互いに影響を及ぼ しながら波として空間を伝わっていくのである。これまでに得られた法則を組み合わせただけで電磁場は 波であるという結論が得られたのは非常に興味深い。電荷が存在する場合、波は電荷によって影響を受け る。電荷は波の源としての役割を果たすだろう。
波動方程式について詳しくは次章で扱うが、波の伝搬する速度は波動方程式の空間微分と時間微分の項 の係数の比から決まる。今の場合、次の式で与えられる。
v=
√ k km
(12.38)
3初期条件や境界条件を指定すれば一意的に決まる。
これまで比例係数kやkmの意味は全く不明であったが、ここでそれらの関係が明らかになった。係数の 比の1/2乗が速度の次元をもっていることは第8章で言及したが、それは電磁場が波として進行する速度 を表している。
1861年、Maxwellは観測結果から見積もられる速度vが光の速度c ≈299792458m/sに近いことに気 づいた。光速度は1849年H. Fizeauにより初めての測定がなされていた。1856年にはR. Kohlrauschと
W. E. Weberによってkとkmの比を表す量が測定されている。Maxwellはこれらの結果から、電磁場が
光に他ならないと結論づけた。電磁場の波としての速度vは光速度cに等しい4。
これまで電場と磁場にあらわれる係数としてkとkmを用いてきたが、次の表現がよく用いられる。
k= 1 4πϵ0
(12.39) km= µ0
4π (12.40)
ϵ0は誘電率(permittivity)、µ0は透磁率(permeability)とよばれる5。これらは次の関係をもつ。
ϵ0µ0= 1
c2 (12.41)
光速度を既知のものとすればMaxwell方程式にあらわれる定数は一つのみである。第2章で述べたように、
それは電磁場を力に変換する役割を果たしている。
以下の議論において参照できるように、新しい記号を用いてMaxwell方程式を表現しておこう。
∇·E(r, t) = 1 ϵ0
ρ(r, t) (12.42)
∇×E(r, t) + ∂
∂tB(r, t) =0 (12.43)
∇·B(r, t) = 0 (12.44)
∇×B(r, t)− 1 c2
∂
∂tE(r, t) =µ0J(r, t) (12.45)
これが電磁場の基本法則の最終形態である。
時間反転
第7章でOhmの法則が時間反転対称性を破っていることを述べた。それではMaxwell方程式は時間反 転対称性をもっているだろうか。Maxwell方程式について時間反転t→ −tを行うと
∇·E(r,−t) = 1 ϵ0
ρ(r,−t) (12.46)
∇×E(r,−t)− ∂
∂tB(r,−t) =0 (12.47)
∇·B(r,−t) = 0 (12.48)
∇×B(r,−t) + 1 c2
∂
∂tE(r,−t) =µ0J(r,−t) (12.49) となる。電荷分布は一般に時間反転について対称である必要はないが、対称であるという場合を考える。
ρ(r, t) =ρ(r,−t) (12.50)
4電磁場が波であり光であることは、1846年Faradayによって予見されている。
5これらは誘電体や磁性体を扱う際に便利な量である。本講義では扱わない。
このとき、他の量は次のように変化するとすればMaxwell方程式は不変である。
J(r, t) =−J(r,−t) (12.51)
E(r, t) =E(r,−t) (12.52) B(r, t) =−B(r,−t) (12.53) 電流密度は電荷の流れであるから符号を変化させる。電場は不変、磁場は符号を変える。磁場は電流によっ てつくられるものであるから、符号を変えるのももっともな結果である。