第 9 章 静磁場の法則 106
13.2 電磁場の伝搬**
表す。このようにしていくらでもみかけの異なる解を作り出すことができる。上で示した波動方程式はk によらず成り立つから、いろいろなkについて和をとった解を考えることができる。どのような重ねあわ せを用いるかは初期条件・境界条件に依存する。これは問題に応じて定める必要がある。線形性は非常に 重要な性質であり、これによって無数にある解を表現できる3。
度cで伝わることから理解される表現である。上の表現は遅延ポテンシャル(retarded potential)とよば れている。情報が光速を超えて伝わらないことを因果律(causality)とよぶ。電磁気の理論は因果律を満 たしている。
13.2.2 直線電流
上で得た表現の導出や一般的性質を議論することは本講義のレベルを超えてしまう。そこでここではな るべく簡単な例を用いて電磁波が遅れて伝わる様子を見てみることにする6
考える系は直線電流の系である。z軸に沿って導線をおき、電流を流す。はじめ電流は流れず電荷はと まっている。このとき空間中には電荷も電磁場も存在しない。時刻t= 0で定常電流Iを流しはじめる。十 分時間がたてば第8章で考察したように軸からの距離に反比例した静磁場が得られるが(電場は0)、有限 の時間では異なるふるまいが得られる。どのような電磁場が生じるかを調べることがここでの目的である。
直線電流の系なので電磁場はz軸まわりの回転に対して不変である。円柱座標系(ρ, φ, z)を用いるのが 便利であり、次のように電磁場を書く。
E(r, t) =Eρ(ρ, t)eρ+Eφ(ρ, t)eφ+Ez(ρ, t)ez (13.29) B(r, t) =Bρ(ρ, t)eρ+Bφ(ρ, t)eφ+Bz(ρ, t)ez (13.30) 円柱座標は
x=ρcosφ (13.31)
y=ρsinφ (13.32)
と定義され、三つの基底ベクトルは
eρ= 1 ρ
x y 0
=
cosφ sinφ
0
, eφ= 1 ρ
−y x 0
=
−sinφ cosφ
0
, ez=
0 0 1
(13.33)
と書くことができる。電磁場の各成分はz軸からの距離ρの関数を用いて表される。
定常電流がはじめからある系の場合、電磁場は
E(r) =0 (13.34)
B(r) = µ0I
2πρeφ (13.35)
のようになる。定常電流が流れても電荷密度は0であることに注意してほしい。これは第7章で議論した。
したがって、生じるのは静磁場のみである。
時間t= 0で定常電流を流し始める。この場合も電荷密度はいたるところで常に0であるので電場も磁 場も発散は0である。z軸を中心にした薄い円盤領域を考えてGaussの法則を用いることで電場と磁場の ρ成分は0であることが示される。
Eρ= 0 (13.36)
Bρ= 0 (13.37)
これでMaxwell方程式の第1・3式が満たされる。
6前節の遅延ポテンシャルの結果を用いるが、それを知らなくても(13.39)式を認めてもらえればあとは特に難しい計算はない。
式(13.39)は直観的な説明が可能である。
図 13.1: z軸に電流が流れている。時間tで点の位置の電磁場は−ℓ2 < z < ℓ2 の部分の導線からの寄与で 決まる。
残りの成分を決めるためにベクトルポテンシャルを考える。一般にベクトルポテンシャルは(13.28)式 で与えられる。動き出した電流が軸から距離ρだけ離れたところに電磁場をつくるには時間がかかる。図 13.1のような領域からの寄与がベクトルポテンシャルに寄与するはずである。その長さℓは
ℓ 2 =√
c2t2−ρ2 (13.38)
より決まる。このことを考慮すると
A(r, t) = µ0I 4π
∫
|z−z′|<ℓ2
dz′ 1
|r−r′|ez (13.39)
と書くことができる。積分計算は次のように行われる。
A(r, t) = µ0I 4π
∫
|z−z′|<2ℓ
dz′ 1
|r−r′|ez (13.40a)
= µ0I 4π
∫
|z−z′|<2ℓ
dz′ 1
√ρ2+ (z−z′)2ez (13.40b)
= µ0I 4π
∫ ℓ/2
−ℓ/2
dz′ 1
√ρ2+z′2ez (13.40c)
= µ0I 4π
[−ln(√
ρ2+z′2−z′ )]ℓ/2
−ℓ/2ez (13.40d)
= µ0I 4π ln
√ ρ2+(ℓ
2
)2
+ℓ2
√ ρ2+(ℓ
2
)2
−ℓ2
ez (13.40e)
= µ0I 4π ln
( ct+√
c2t2−ρ2 ct−√
c2t2−ρ2 )
ez (13.40f)
この結果を用いると、電磁場は次のようになる。
B(r, t) = ∇×A(r, t) (13.41a)
=
∂Az
∂y
−∂A∂xz 0
(13.41b)
= −∂Az
∂ρ eφ (13.41c)
= µ0I 2πρ
√ ct
c2t2−ρ2eφ (13.41d)
E(r, t) =−∂A(r, t)
∂t =−µ0I 2π
√ c
c2t2−ρ2ez (13.42)
これらはMaxwell方程式の第2式を満たしている7。
Maxwell方程式の第4式を満たしているかどうか確認しよう。電流密度が入った表式であるため、積分
形を用いる8。z軸を中心軸にした半径ρの円を領域Sとしてとると I
C
dr·B(r, t)− 1 c2
d dt
∫
S
dS·E(r, t) =µ0I (13.43) が成り立つ。Cは領域Sの境界、つまり半径ρの円を表す。左辺の各項を計算すると
I
C
dr·B(r, t) = 2πρBφ(ρ, t) =µ0I ct
√c2t2−ρ2 (13.44)
−1 c2
d dt
∫
S
dS·E(r, t) = −1 c2
d dt
∫ ρ 0
2πρ′dρ′Ez(ρ′, t) (13.45a)
= µ0I 2c
d dt
∫ ρ2 0
dρ′2
√c2t2−ρ′2 (13.45b)
= µ0I 2c
d dt
(
2ct−2√
c2t2−ρ2 )
(13.45c)
= µ0I (
1− ct
√c2t2−ρ2 )
(13.45d) となる。代入すると確かにMaxwell方程式の第4式が成り立っていることがわかる。
以上より電磁場は次のようになる。
E(r, t) =−µ0I 2π
√ c
c2t2−ρ2ez (13.46)
B(r, t) = µ0I 2πρ
√ ct
c2t2−ρ2eφ (13.47)
得られた電磁場のρ依存性を図13.2に示す。電磁場はρ < ctの領域で有限の値をもち、ρ=ctで発散し ている。時間を大きくすると電場は0、磁場は(13.35)式に近づいていく。無限大の電磁場が生じるのは突 然電流を生じさせたことによる効果である。
Poyntingベクトルを計算すると S(r, t) = 1
µ0
E(r, t)×B(r, t) = µ0I2 4π2
c2t
ρ(c2t2−ρ2)eρ (13.48) となる。軸から電磁場が拡散していくが、静電磁場に達するにつれて減衰していく様子がみてとれる。