第 9 章 静磁場の法則 106
9.4 問題
[9–1] 直線電流のつくる磁場
対称性の議論と静磁場の法則の積分形((9.13)、(9.14)式の左)のみを用いて直線電流がつくる磁場が求 まるか調べよ。Biot–Savartの法則(9.1)式を用いてはならない。
[9–2] 磁場の回転
式(9.1)の磁場について、回転(∇×)をとることで直接(9.12)式が成り立つことを示せ。式(5.27)(65
ページ)を用いる必要がある。
[9–3] ベクトルポテンシャルの計算
例題8–2(98ページ)の円電流の系について、ベクトルポテンシャルの一般的な積分形を書き下せ。ま
た、それを用いて向きや漸近形などだいたいのふるまいを議論し、ベクトルの様子を図示せよ。
[9–4] 電流密度と磁場・ベクトルポテンシャル
磁場やベクトルポテンシャルは電流密度を用いて表されるが、定常電流の法則(7.19)式(89ページ)と 矛盾がないか調べよ。
第 10 章 磁気モーメント
静電場と静磁場の法則をひととおり見てきた。静電場の場合には電荷という量をいったん認めてしまえ ばよいのだが、静磁場の場合には電流を源としておりややわかりづらい。電流は向きをもった流れという非 局所的な概念であるからである。本章ではそういった事情について、電場と磁場を対比しながら磁気力の 源をどう考えるべきかについて議論する。われわれの身近にある磁石(magnet)に関連した問題である1。
10.1 磁気双極子
ふたたび円電流の系を考える。半径aの円上を流れる電流Iによってつくられる磁場は例題8–2(98ペー ジ)で計算を行った。そこでは円電流を貫く軸上のみを考えたが、一般には
B(r) =kmI I
C
dr′× r−r′
|r−r′|3 (10.1)
と書ける。Cは電流の経路を表す。
ここで、円が非常に小さい場合を考えよう。あるいは非常に遠いところの観測点を考えるといってもよ い。|r| ≫aという条件式で表される状況である。極限をとると磁場は減衰して0に近づく。その漸近形を 調べてみる。
磁場を得るためにベクトルポテンシャルを用いた計算を行う。ベクトルポテンシャルの方が積分表式が 簡単だからである。磁場B(r)とベクトルポテンシャルA(r)はB(r) =∇×A(r)の関係にあり、A(r)は
A(r) =kmI I
C
dr′
|r−r′| (10.2)
と書ける。この表式を次の近似を用いて計算する。r=|r|、r′=|r′|として、
1
|r−r′| = 1
√(r−r′)2 (10.3a)
= 1
√r2−2r·r′+r′2 (10.3b)
= 1
r
√
1−2rr·r2′ +rr′22
(10.3c)
∼ 1
r( 1−rr·r2′
) (10.3d)
∼ 1 r
(
1 +r·r′ r2
)
(10.3e) と近似する。r′2の項は高次の寄与として無視している。ベクトルポテンシャルの近似表現は
A(r)∼ kmI r
I
C
dr′ (
1 +r·r′ r2
)
(10.4)
1本章ではベクトルポテンシャルおよび電気双極子の知識を用いる。ベクトルポテンシャルについては磁場がB(r) =∇×A(r)
と書けてA(r)が(10.2)式で与えられることだけ理解できればよい。電気双極子はよく理解しておく必要がある
と書ける。円をxy平面におき中心を原点にとると、積分座標は
r′ =a
cosθ′ sinθ′ 0
, dr′=adθ′
−sinθ′ cosθ′
0
(10.5)
と書くことができる。具体的に積分を行うと
A(r) ∼ kmIa r
∫ 2π 0
dθ′
−sinθ′ cosθ′
0
[
1 + a
r2(xcosθ′+ysinθ′) ]
(10.6a)
= kmIa r
−y x 0
πa
r2 (10.6b)
= kmISez× r
r3 (10.6c)
である。S=πa2は円の面積を表す。この表式は、円電流が次の量によって特徴づけられることを示して いる。
m=ISez=IS (10.7)
Sは向きをもった微小面要素を表す2。磁場は(10.6)式の回転をとって次のように計算される。
B(r) = ∇×(
kmm× r r3
)
(10.8a)
= kmm∇· r
r3 −kmm·∇r
r3 (10.8b)
= km
(
−m
r3 +3m·r r5 r
)
(10.8c) 二つめの等式では公式(3–8.2)(51ページ)を用いている。
結果は、円電流の遠くで磁場は逆3乗程度の大きさで減衰する。また円が向きをもっていることを反映 して磁場も向きによってふるまいが異なる。
ここで気づいてほしいのは、この式が電気双極子があるときの電場の式(6.21)(75ページ)と全く同じ 形をもっていることである。電場の代わりに磁場、電気双極子モーメントの代わりに磁気双極子モーメント
(magnetic dipole moment)mが用いられている。つまり、小さな円電流は磁気双極子(magnetic dipole)
とみなすことができる。ここでは円電流を考えたが、一般の閉じた電流経路の場合にも容易に拡張できる。
磁気双極子モーメントは一般に次のように表される。
m=I
∫
S
dS (10.9)
Sは閉じた電流経路がなす面を表す。