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ベクトルポテンシャル*

ドキュメント内 (C) Kazutaka Takahashi 2018 (ページ 116-119)

第 9 章 静磁場の法則 106

9.2 ベクトルポテンシャル*

9.2.1 ベクトルポテンシャルの導入*

静電場の法則は、電場をポテンシャルを用いて表すことが渦なしの法則を表すことになっていた。ポテ ンシャルを用いるとGaussの法則はPoisson方程式として表現できて静電場の法則を一つにまとめること ができた。とすれば同様のことが磁場の場合にも考えられるのではないかと期待される。ただし、ポテン

シャルを定義することができないのは磁場が保存力を与えないことから明らかである。では何ができるだ ろう。

電場の回転が0であることは、電場がスカラー関数の勾配で書けることを意味していた。そうすると任 意のスカラー関数ϕ(r)について成り立つ数学的な恒等式×ϕ(r) =0を用いることができる。そこで、

磁場の発散が0であることから何か言えるかを考える。磁場についてのGaussの法則をもう一度見なおし てみよう。Biot–Savartの法則による磁場は次のように書き直すことができる3

B(r) =−km

d3rJ(r)×r

1

|rr| =× (

km

d3r J(r)

|rr| )

(9.17) つまり、磁場がある関数の回転で表されている。微分演算子は座標rについてのものであって積分変 数であるr についてのものでないことに注意してほしい。関数の具体形によらずに回転の発散は常に0

(∇·×A(r) = 0)であることが言えるのでGaussの法則が導かれる。つまり、磁場が

B(r) =×A(r) (9.18)

と書ければGaussの法則が満たされている4。このように定義されるベクトル関数A(r)はベクトルポテン シャル(vector potential)とよばれる5。磁場についてのベクトルポテンシャルは電場についての静電ポテ ンシャルに代わるものとなる。

Biot–Savartの法則にしたがって定義されるベクトルポテンシャルは

A(r) =km

d3r J(r)

|rr| (9.19)

である。磁場そのものよりは簡単な表現であり、こちらをまず計算してから磁場を計算すればよいので計 算が楽になる。3成分のベクトル場が3成分のベクトル場で表されるので変数の自由度は減ってないが、

·B= 0であることは直ちにいえるので便利な表現となる。

ベクトルポテンシャルがどういう法則に従うべきかは、静磁場のもう一つの法則にこの表現を代入すれ ばよい。電場におけるPoisson方程式に対応する式が得られるはずである。磁場の回転をとると、(3.45)式

(47ページ)の公式を用いて

×B(r) =×(×A(r)) =(·A(r))2A(r) (9.20) となる。よって、(9.14)式より磁場の法則として次の式を得る。

(·A(r))2A(r) = 4πkmJ(r) (9.21) これはこれで正しい式なのだがPoisson方程式と比べると複雑である。左辺第1項がなければよいのにと 思うだろう。

ベクトルポテンシャルの具体的な表現(9.19)式を用いて(9.21)式左辺第1項にあらわれるベクトルポテ ンシャルの発散を計算してみよう。

·A(r) = km·

d3r J(r)

|rr| (9.22a)

= km

d3rJ(r)·r

1

|rr| (9.22b)

= −km

d3rJ(r)·r

1

|rr| (9.22c)

= km

d3r(r·J(r)) 1

|rr|−km

d3rr · J(r)

|rr| (9.22d)

3−A×∇ϕ(r) =×Aϕ(r)を用いる。Aは定ベクトルを表す。

4今の場合、Aの具体形がすぐにわかるので一般論を考えなくてもよいのだが、(9.18)式のように書けることが·B= 0の必 要十分条件かどうかという数学的な問題を考えることは興味深い。Helmholtzの定理とよばれるものを用いると示すことができる。

5この名前に対応させて、静電場のときに導入された電位ϕ(r)はスカラーポテンシャル(scalar potential)ともよばれる。

と変形できる。rについての微分をrについてのものに変えて、最後の等式では部分積分を用いている。

最後の式の第1項は連続の方程式(7.8)(87ページ)より0となる。第2項をGaussの定理(3.31)式(46 ページ)を用いて変形すると

·A(r) =−km

dS· J(r)

|rr| (9.23)

と書ける。Sは無限遠点の表面項であるが電流が有限領域におさまっているか無限遠点で距離に比例する ほど大きくならないとすると0になる。したがって、今のベクトルポテンシャルの場合

−∇2A(r) = 4πkmJ(r) (9.24) となる。3成分がそれぞれPoisson方程式と同じ形の方程式を満たしている。もう少し詳しくは次節で議論 する。

以上より、静磁場の法則は次のように書くことができる。

B(r) =×A(r) (9.25)

−∇2A(r) = 4πkmJ(r) (9.26)

9.2.2 ゲージ不変性**

ベクトルポテンシャルを用いた静磁場の表現は静電場の表現との対応もよくできていることがわかる。

ところが、(9.26)式の導出には一つ疑問点がある。これを導くときに具体的なベクトルポテンシャルの表

式(9.19)を用いて·A(r) = 0の性質を得ていた。あまりきれいな証明ではないし、完全に一般的かどう

かも疑わしい。

磁場はベクトルポテンシャルの微分を用いて表されている。物理的な量は磁場であってベクトルポテン シャルそれ自体の物理的な意味は不明である。その回転をとったものが物理量である磁場を表す。磁場自 体も物理量であるかどうかは不明であるが、磁場がそのままの形で力を与えることを考えると全く意味不 明の量であるとは言えないだろう。静電場を与えるスカラーポテンシャルは定数項の付加に対する不変性 をもっていた。そのような定数シフトに物理的な意味はない6。同様に考えるとベクトルポテンシャルにも 不定性が存在する。つまり、

A(r)A(r) =A(r) +A0(r), ×A0(r) =0 (9.27) という変換によって磁場は不変である。回転をとると0になる関数はいろいろ考えられるのでベクトルポ テンシャルの不定性は自明なものではない。スカラーポテンシャルの場合、

ϕ(r)→ϕ(r) =ϕ(r) +ϕ0(r), ϕ0(r) =0 (9.28) としても電場は不変である。これを満たす関数ϕ0(r)は定数くらいなので、電場の場合にはそれほど問題 とはならなかった。

ベクトルポテンシャルについて同様の不定性があるかは、回転をとって0になる関数A0があるかどう かを考えればよい。回転の性質を思い出すと次のようにすればよいことに思い当たるはずである。

A0(r) =χ(r) (9.29)

χ(r)は任意のスカラー関数である。つまり、

A(r)A(r) =A(r) +χ(r) (9.30)

6絶対的な値に意味はなく、物理量は全て電位差で与えられる。

という変換で磁場は全く変化しない。電磁場を変えないスカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルの 変換をゲージ変換(gauge transformation)とよぶ。ϕ(r)、A(r)の代わりにϕ(r)、A(r)を用いても物理 は変わらない。これをゲージ不変性(gauge invariance)という。

この任意性を利用して·A(r) = 0となるようにχ(r)を選ぶ。つまり、

2χ(r) =−∇·A(r) (9.31)

を満たすχ(r)を考える7。この方程式はPoisson方程式と同形であり、そこで得られた知識を用いて解を 求めることができる8。このとき、新しいベクトルポテンシャルA(r)は(9.26)式を満たすものとなる。

結論として、一般のベクトルポテンシャルは·A(r) = 0および(9.26)式を満たさないが、ゲージ変換 を用いて満たすようにすることができる。したがって、∇·A(r) = 0を法則として述べる必要はないし、

(9.26)式を考えても一般性を失うことはない。式(9.19)の表現は偶然·A(r) = 0を満たすものであった わけである。ゲージの自由度を考慮すると、一般のベクトルポテンシャルは(9.19)式のようには書けない。

ドキュメント内 (C) Kazutaka Takahashi 2018 (ページ 116-119)