第 2 章 インド政府の取組みと成果
2.3. 貧困削減の成果
2.3.1. MDGs の達成状況
表
2-30
のインド政府数値にて、最貧困層の国内消費全体に占めるシェアを見ると、1993/94
年と1999/2000
年では、シェアの増加はわずかに留まっている。貧困者比率が低下しており、貧困の深度も改善が見られているにも関わらず、貧困層の支出シェアに それほど改善が見られないのは、支出階層の上位層との格差が広がっているためであり、
留意が必要である。また、インド政府が設定した貧困ラインで見た貧困人口は
1999/2000
年で2
億6
千万人を超えており、そのうち1
億9300
万人は農村における貧困層であり、農村を中心に依然として非常に大きな貧困人口を抱えていることは、インド政府によっ ても認識されている。インドにおいては、貧困者比率の低下だけでなく、貧困人口を減 少させることも大きな課題である。
飢餓については、表 2-29に示す
5
歳未満児に占める低体重児の割合を参照すると、1990
年63.9
%から2000
年46.7
%と大きく改善しており、インド政府によるTPDS
を含む、貧困層への食糧供給を伴う様々な貧困削減プログラムが効果を上げているものと考え られる。
(2)
目標2:初等教育の完全普及
インド政府による
1992
年の初等皆教育に関する行動計画をはじめとする、諸政策・プ ログラムが成果を上げており、初等教育の普及は進んでいる。表
2-32
のインド政府数値に示すとおり、粗就学率が1992/93
年から2002/03
年の10
年間で
84.6
%から95.4
%とおよそ10
ポイント改善し、純就学率は2000
年83
%から2003
年88
%と改善しているものと見られる。これは、女子の就学率が20
ポイントと著しく 改善したことに負うところが大きく、政府の初等教育における女子教育の強化の取組み の成果によるものと考えられる。表
2-31
のWB
数値では、初等教育修了率も2000
年75.4
%から2004
年88.5
%と13
ポ イント向上している。5
年生に進級する割合は、表2-32
のインド政府数値によれば、1992/93
年55.0
%から2002/03
年65.1
%と10
ポイント以上改善している。特に、女子の進級率の改善が顕著であり、同期間に
53.3%から 66.3%と 13
ポイント増加し、2002/03
年の男子の進級率64.1
%を上回った。表
2-31
の青年層の識字率は、2000
年時点で76
%となっており、1990
年64
%から12
ポイント上昇した。表
2-32
にて、インド政府による7
歳以上の識字率を見ると、1992/93
年
52.2
%から2000/01
年64.84
%と13
ポイント上昇した。しかし、識字率における男女の格差は大きく、
2000/01
年時点で男性75.26%に対し、女性 53.67%と 20
ポイント以上 の開きがある。女子の初等教育普及状況は改善していることから、今後、女性の識字率 が改善することが期待できる。2002
年にインド政府は義務教育である初等教育の無償化を導入しており、2015
年まで に初等皆教育が達成できるか、その成果が注目される。表 2-31 初等教育の普及に関する達成状況
指標 1990 1994 1997 2000 2003 2004
純就学率(学齢児にしめる割合)(%) n.a. n.a. n.a. 83 87 87 初等教育修了率(学齢児にしめる割合)(%) n.a. n.a. n.a. 75.4 83.6 88.5 5年生に進級する児童の割合(%) n.a. n.a. n.a. 59 84 n.a.
青年層の識字率(15-24歳)(%) 64 n.a. n.a. n.a. n.a. 76.
(出所) World Bank Web-Site, http://www.worldbank.org/, Millennium Development Goals Country tables(2006年4月時点)より 作成
表 2-32 初等教育に係る指標の達成状況
(単位:%)
1992/93 2000/01 2002/03
男子 女子 全体 男子 女子 全体 男子 女子 全体 粗就学率 95.0 73.5 84.6 104.9 85.9 95.7 97.5 93.1 95.4 5年生に進級する割合 56.2 53.3 55.0 60.3 58.1 59.3 64.1 66.3 65.1 成人識字率(7歳以上) 64.1 39.3 52.2* 75.26 53.67 64.84 n.a. n.a. n.a.
(出所) Government of India (2005) “Millennium Development Goals India Country Report 2005”, p.33, Table2.1より作成
(注)* 1992/93年度の成人識字率(全体)は、1991年センサスの数値による。それ以外は、Government of India, “Selected Educational Statistics, 2002-03”
(3)
目標3
:ジェンダーの平等、女性のエンパワメントの達成インド政府の
MDG
レポートのよると、ガバナンスの6
つの基本原則のひとつとして、女性の政治的、教育的、経済的、法的側面におけるエンパワメントを掲げている。具体 策としては、
1989
年からMahila Smakhya Programme
(女性のエンパワメントのための プログラム)が実施され、社会的、経済的に不利な立場におかれ、社会から取り残され た女性グループに焦点を当て、教育を通じて女性自身の認識を変え、エンパワメントす るという取組みが行われている。しかし、表
2-34
に示すとおり、政治への女性の参加度合いを示す、インドの国会56議 席に占める女性議員の割合は、ほぼ横ばいである。2000/01
年現在、上院・下院あわせ て女性議員は73
名であり、全体の9
%を占めるに過ぎない。現在、インド政府内では、議席の一定数を女性議員に割り当てるべきとの議論があり、今後、導入の見込みがある。
地方政府レベルでは、1993年の第
73
および第74
憲法修正において、都市および農村 のパンチャヤット以下の地方政府における女性代議員の比率を最低33.3
%とすること などが決議され、開発事業などの意思決定における女性の参加の拡大が図られている。インド政府の
MDG
レポートによると、Panchayati Raj Institutions
の代議員全体に占める 女性の割合は41
%に増加しているなど地方政府においては進んでいるが、政府の幹部 レベルに占める女性の割合は依然として低いとしている。教育面では、表
2-33
に示すとおり、2000/01
年度までに初等、中等、高等教育、すべて のレベルにおいて、男子生徒数に対する女子生徒数の割合は増加している。表2-33
のWB
の数値によると、男子に対する女子の割合は、2000
年78
%から2004
年88
%と改善 が見られる。男性識字率に対する女性識字率の比率についても、1990/91
年61
%から2000/01
年71%と改善している。初等教育については、前述の通り、女子教育の強化に
よるものといえる。また、後期中等教育レベルまでは、ほとんどの州で公立校あるいは 政府による支援を受けている学校への女子の就学は無料とされており、中等教育への女 子の就学を増加させている。さらに、高等教育レベルについては、大学無償委員会
(
UGC
:University Grant Commission
)が理工系大学への女子の進学を促進するために、女子大学の理工系学部への無償資金供与や、女子寮の建設、女性学センターの設立(34 大学)などを実施している。
賃金労働の就業機会について表
2-33
でみると、非農業セクターの就業人口に占める女 性の割合は、1990
年12.7
%から2004
年17.5
%とおよそ5
ポイントの増加である。1999/2000
年の農村部および都市部の非農業セクターの就労人口に占める女性の割合は、それぞれ
15.09%、16.61%であり、女性の賃金労働の就業機会について農村・都市部に
56
インドの国会は二院制であり、下院にあたる Lok Sabha
と上院にあたるRajya Sabha
で構成されている。格差はない。いずれにしても、男性に比して女性の就業機会および選択肢は限定的であ り、女性の所得獲得機会および雇用機会を拡大するための取組みが行われているが、女 性の雇用環境に大きな変化は見られていない。
表 2-33 ジェンダー格差の是正に関する達成状況 (1)
(単位:%)
指標 1990 1994 1997 2000 2003 2004
国会議席にしめる女性議員の割合(%) 5.0 n.a. 7.0 9.0 9.0 9.0 初等・中等教育における男子に対する女子の割合(%) n.a. n.a. n.a 77.5 87.7 87.7 青年男子識字率対する青年女子識字率の比率(15-24歳)
(%)
73.9 n.a. n.a. n.a. n.a. 80.5
非農業セクターに就業している女性の割合 12.7 14.1 15.5 16.6 17.5 17.5
(出所) World Bank Web-Site, http://www.worldbank.org/, Millennium Development Goals Country tables(2006年4月時点)より 作成
表 2-34 ジェンダー格差の是正に関する達成状況 (2)
(単位:%)
1990/91 1996/97 2000/01 国会議席にしめる女性議員の割合 9.7%(789人中77人)
(1991年)
下院:544人中52人
(1999年)
下院:544人中45人 上院:250人中28人
(2004年)
初等教育における男子に対する女子の 割合
71 76 78
中等教育における男子に対する女子の 割合
49 57 63
高等教育における男子に対する女子の 割合
50 56 58
男子識字率対する女子識字率の比率
(7歳以上)(%)
61 n.a. 71
非農業セクターの賃金労働に従事して いる女性の割合(1999/2000年)
n.a. n.a. 農村:15.09 都市:16.61
(出所) Government of India (2005) “Millennium Development Goals India Country Report 2005”, p41, Table3.1より作成
(4)
目標4:子どもの死亡率の削減
乳幼児死亡率は改善傾向にあり、表
2-35
のWB
数値では、乳児死亡率は千出生当たり1990
年84
人から2004
年62
人、5
歳未満児死亡率は同時期123
人から85
人に減少した。これは、インド政府による出産・新生児に関する保健・医療サービスの強化やはしかな どの予防接種プログラムの実施の成果によるものと考えられる。ただし、国家人口政策 で掲げた、「
2010
年までに乳児死亡率を千出生当たり30
人」を達成するには、今後さ らに速いペースでの削減が必要とされる。乳児死亡率は、都市および農村部ともに低下しているが、都市・農村間の格差は大きい。
インド政府による
MDG
レポートによれば、表2-36
に示すとおり、2003
年の都市部の 乳児死亡率38
人に対し、農村部では66
人であった。これは、都市部における保健・医 療機関へのアクセスが、農村部に比べて容易であることがその要因であるとされている。MDG
レポートでは、インドにおける幼児死亡の主な原因として、i
)未熟児、ii
)下痢症、
iii
)急性呼吸器系感染症、iv
)予防可能なワクチン、v
)不適切な母親と新生児のケ ア、vi
)栄養不良(死因の50
%以上)、ⅶ)低体重児(30
%)、ⅷ)出生時の損傷、が挙 げられている。地域間格差に対応するために、保健・医療体制が遅れた県に対する支援 プログラムが実施されているが、農村における乳幼児死亡率の低下に向けた取組みが鍵 となっている。表 2-35 子どもの死亡率削減に関する達成状況
指標 1990 1994 1997 2000 2003 2004
はしかの予防接種率(生後12-23ヶ月の幼児)% 56.0 67.0 55.0 56.0 56.0 56.0 乳児死亡率(1000出生当たり) 84 74 71 68 64 62 5歳未満児死亡率(1000人当たり) 123.0 n.a. n.a. 94.0 n.a. 85
(出所) World Bank Web-Site, http://www.worldbank.org/, Millennium Development Goals Country tables(2006年4月時点)より 作成
表
2-36
乳児死亡率の推移(単位:1000出生当たり)
1990 1993 1996 2000 2003
乳児死亡率 80 74 72 68 60
都市部 50 45 46 43 38
農村部 86 82 77 74 66
(出所) Government of India (2005) “Millennium Development Goals India Country Report 2005”, p50, Table4.1およびp.51, Table4.2より作成
(5)
目標5:妊産婦の健康の改善
表
2-37
のWB
のMDGs
データベースでは、2000
年時点の妊産婦死亡率は出生10
万件当たり
540
人であり、表2-38
のインド政府のMDGs
レポートでは1998
年時点で437
人としている。しかし、インドの妊産婦死亡率のデータはかなり大雑把なものであり、おおよその推定値であるため、妊産婦の健康改善に関するモニタリング指標として、イ ンド政府は妊産婦検診や出産環境などを使用している。
これらの指標では、定期的な妊産婦検診を受ける割合は、
1992/93
年から2002/03
年で ほぼ横ばいであり、改善は見られない。出産環境については、保健・医療機関での出産 は、同時期に25.5
%から39.8
%と13
ポイント増加しており、専門の訓練を受けた保健・医療スタッフの介助による出産も
34.2
%から54.0
%と20
ポイント増加した。出産時の 感染症を防ぐ、破傷風の予防接種率も53.8
%から71.3
%へと上昇している。妊産婦の死亡原因は、分娩前後の大出血、貧血、感染症、危険な中絶、閉塞性分娩、妊 娠高血圧障害であり、ほとんどの場合が予防可能である。専門の訓練を受けた保健・医 療スタッフの介助による分娩が望ましいが、現在のインドの保健・医療制度では、すべ ての妊婦がそうした介助を受けることができる体制となっていない。特に、農村や辺境 地域では、保健・医療機関や専門の保健・医療スタッフへのアクセスが困難であること から、安全な自宅出産やコミュニティレベルでの助産婦の育成を推進している。こうし た取組みは、安全な出産の割合の増加に貢献しているが、妊産婦死亡率の低下にどの程 度貢献しているのかは明らかでない。
妊産婦死亡率に関するデータが集計できない要因としては、妊産婦が検診や保健・医療 機関での出産を行うことが普及していないことが大きく、妊産婦死亡率の低減を図るに