第 2 章 インド政府の取組みと成果
2.1. 貧困削減に向けた政策的枠組
2.1.3. セクター戦略
「インド
2020
年構想」および第10
次5
カ年計画に掲げられた重点セクターのうち、特 に貧困削減と関連の深いセクターについて、各セクター政策の概要をまとめる。(1)
農業・農村開発農村貧困の削減においては農業・農村開発が重要であることが認識されている。特に、
2020
年構想における農業政策では、貧困・飢餓の撲滅が明確に掲げられており、また、第
10
次計画においても、すべての地域・農民に行き渡る成長が目指されている。表 2-11 農業セクター政策
2020年構想 第10次計画
主要農産物の収穫量の拡大
全要素生産性の低下の阻止
需要に対する収量不足の充足
持続的な食料安全保障のための水資源開発
天水農業の強化
農業の多様化および付加価値の拡大
収穫後管理、付加価値、費用対効果
農業およびインフラへの投資の拡大
貧困および飢餓の撲滅
小農のエンパワメントの強化
災害対策
グローバル化の促進の維持
農業セクターにおける情報技術の活用
(目標)
資源の効率的な活用と土壌、水、生物多様性の保全に 基づいた成長
公平な成長:すべての地域、すべての農民に行き渡る 成長
国内市場のみならず、経済自由化およびグローバル化 への対応に向けた農産物の輸出の最大化にも対応する 需要主導型の成長
技術、環境、経済的に持続可能な成長
(戦略)
地域ごとの特性を生かした戦略
天然資源の持続可能な開発
農産物の多様化
伝統的および先進的技術の融合
(出所) Planning Commission (2002) “India Vision 2020”および”Tenth Five Year Plan”より調査団作成
実施中の第
10
次5
カ年計画では、農産物の自給に焦点をあて、特に人口増加による食 糧需要の増加に対応できるよう、農業生産性の向上による食糧増産を最重要課題として いる。また、農業セクターの成長に向けて、農作物の輸出を重点目標として掲げている。農業、農業関連プログラムについては、州政府の所管となっており、地方分権のもとで、
農業・農村開発が進められている。
農村貧困対策の主なプログラムの概要と実績は、表
2-12
の通り。表 2-12 主な農村貧困対策プログラム
プログラム 概要
Sampoorna Grameen Rozagar Yojana(SGRY)
(農村雇用スキーム)
最も遅れた150県を対象として、これらの県に必要な経済・社会・コ
ミュニティ施設の建設を通じて、補完的な賃金労働と食糧保障を提供 するプログラム。食糧は各州に無償で提供される。
(実績)
インフラ整備事業の76.1%が完了。平均で30.52日の労働が提供された が、女性の労働参加率は12%に留まった。
国家食糧・労働プログラム(National Food for Work Programme)
すべての農村貧困層を対象として、賃金労働と必要な経済施設および インフラを提供する。
(実績)
2004年11月から開始され、開発の遅れた150県を対象に実施されたが、
対象地域の78.16%は村落議会であるGram Sabhaによって選定された。
同プログラムによる年間の平均賃金は1人当たり11062ルピー。
Swaranjatanti Gram Swarozgar
Yojana(SGSY)(農村自営スキーム:Golden Jubilee Rural Self-employment Scheme)
自助グループ(SHG:Self Help Groups)の組織化を通じて貧困ライン 以下の貧困家庭を支援する。貧困層に対する社会動員、訓練、キャパ シティ・ビルディングとともに、銀行貸付と政府補助金の組み合わせ により、生計活動のための資産を供与する。
Indira Awaas Yojana(IAY)(Indira 住宅ス
キーム)
農村貧困層に無償で住宅を建設し、供給するスキーム。また、家屋の 改良も対象としている。
国家雇用保証法(National Employment Guarantee Act)
農村貧困層に収入および雇用を保証する手段を供与するための法律
(出所) インド政府各種資料より調査団作成
(注) 実績は、第10次計画中間評価による。
これらのプログラムのほかに、農業セクターへの政府の支援としては、以下の補助金が 交付されている。
肥料補助金:農家への肥料販売価格と肥料製造者出荷価格との差額を補填する 食料補助金:政府による穀物の調達価格と配給時の価格差、穀物の分配および 備蓄に係る経費等を補填する
電力補助金:農家の灌漑用動力揚水機の導入促進を目的として農業用電力料金 を安価に設定し、電力供給単価との差額を補填する
灌漑補助金:農業用水利用料金と公共灌漑設備の運営・維持管理費との差額を 補填する
なお、灌漑については、第
9
次5
カ年計画において、水利用の効率改善のために、運営・維持管理費用をベースに利用料の引上げが検討されるとともに、灌漑プロジェクトへの 民間セクターの参入が示された。マハーラーシュトラおよびアーンドラ・プラデーシュ において
BOO
(Build Own Operate
)、BOOT
(Build Own Operate Transfer
)、BOL
(Build Own
Lease
)といった方式による灌漑事業が行われており、農村貧困層への影響についての検証が求められる37。
(2)
都市開発センサス
2001
年によれば、インドでは、都市人口の20%以上がスラム住民であると推
定されている。都市貧困削減に向けた取組みとして、1999
年4
月、都市開発省(Ministry of Urban Development
)の都市雇用・貧困削減局(Department of Urban Employment and Poverty Alleviation
)38によって、「国家スラム政策」(National Slum Policy
)の草案が作成 された。2001
年12
月まで意見聴取が行われ、同政策の実現が待たれているが、未だ最 終案は確定していない。なお、2001 年9
月の「インド・適切な都市ガバナンス国家キ ャンペーン」により、「適切な都市ガバナンスのための国家活動計画」が策定されたが、これを受けて多くの州や市の自治体、その他の都市関係者が活動計画の提案に沿った、
スラム改善イニシアティブなどの取組みをはじめている。
国家スラム政策の草案に示された「国家スラム政策」の目的は、以下の通り。
スラム開発・改善の指針となる基本原則およびスラム地区やコミュニティを都 市に統合するための選択肢についての意識を国民および政府内に醸成するこ と
持続可能なスラム開発・改善のプロセスを促進する法的・政治的枠組を強化す ること
政策目的の効率的かつ円滑な実施に向けてすべての利害関係者を含む枠組を 構築すること
具体的には、スラムを都市の一部として統合するために、都市貧困層に対し、十分で適 切な居住・労働空間を確保できるよう、既存の都市開発マスタープランや土地利用計画 を修正することを求めており、都市行政当局は総合都市開発計画(
IMDP
:Integrated
Municipal Development Plan
)を策定することとされている。また、スラムにおけるインフォーマルな居住区の物理的な改善・向上に向けては、設計、実施、サービス・資産の
37
民間セクターが整備した灌漑施設によって供給される農業用水は、灌漑局(Department of Irrigation)が買
上げ、農民と水利用料金について合意したうえで、農民が利用することとされている。
38
2006
年6
月時点では、Ministry of Urban Employment & Poverty Alleviation。維持管理といったすべての段階にコミュニティの構成員が参加する、コミュニティ・ベ ース・アプローチを適用することも明示されている。なお、スラムにおけるインフラ整 備にあたっては、全体的な都市環境の改善を図るために、世帯ごとに上下水道、電気な どの基礎サービス供給を行い、運営・維持管理の改善および費用回収可能な利用者負担 の促進も掲げられている。
第
10
次5
カ年計画においても、スラム改善の重要性が明示されている。スラム改善を 中心とする都市貧困削減への取組みに対しては、中央政府からの予算配分は行われるも のの、基本的に実施主体は州政府および都市の行政当局とされている。表2-13
は、主 な都市貧困対策プログラムと実績をまとめたものである。表 2-13 主な都市貧困対策プログラムと実績
プログラム 概要
国家スラム開発プログラム(NSDP:
National Slum Development Programme)
住宅、コミュニティ改善、ゴミ・廃棄物処理、環境改善、その他社会セ クタープログラム(適切で十分な水供給、衛生、初等教育、成人識字・
ノンフォーマル教育施設)
Swarna Jayanti Shahri Rozgar Yojana (SJSRY)(都市雇用スキーム:Golden Jubilee Urban Employment Scheme)
都市貧困層に対し、自営業あるいは賃金雇用の機会を提供する。(i)都市 自営プログラム(USEP:Urban Self-Employment Programme)および(ii)
都市賃金雇用プログラム(UWEP:Urban Wage Employment Programme)
の2つで構成されており、隣組(Neighborhood Group)やコミュニティ開 発協会(Community Development Societies)などのコミュニティ組織によ り実施されている。資金負担は、中央政府75%、州政府25%である。
(実績)
予算額の61.55%(33.3億ルピー)が執行された。年間8万人を対象とす る雇用プログラムと 10 万人を対象とする訓練プログラムが計画され、
29.7万人以上が自営業を始め、32.7万人以上が訓練を終了した。
Valmiki Ambedkar Awaas Yojana
(VAMBAY)(都市住宅スキーム)
スラムのない都市を目指して、貧困ライン以下の都市貧困層のための住 居の提供あるいは住居の改良を行い、スラム居住者の生活条件の向上を 図る。新たな「国家都市衛生プロジェクト」はVAMBAYのコンポーネン トであり、スラム居住者、特に、大都市のスラム居住者を対象としてト イレを提供するものである。資金負担は、中央政府が50%、州政府が50%
である。
(実績)
予算額の36%(72.7億ルピー)が執行された。3年間で、32万件以上の 住宅が建設された。
「中小都市のための都市インフラ整備 スキーム」(UIDSSMT:Urban Infrastructure Development Scheme for Small and Medium Towns)
都市水供給推進プログラム(AUWSP:Accelerated Urban Water Supply Programme)を吸収。2001年センサス時点で、100万人までの都市を対象 に水供給および衛生設備の整備を行う
「国家都市再開発ミッション」
(JNNURM:Jawaharlal Nehru National Urban Renewal Mission)
市場メカニズムによる都市開発の障害となる都市関連規制を撤廃し、よ り信頼できる都市インフラ・サービスを提供することを目的とする都市 再開発プログラム。実施主体は、州政府および都市行政当局であり、中 央政府は実施のモニタリングを行う。2006年2月に発表され、今後7年 間で5000億ルピーの予算が割り当てられる予定。都市貧困層に対する居 住権の確保、改善された住宅、水供給、衛生サービスの提供を含む。
(対象都市)
予算の48.5%:人口400万人以上の都市(ムンバイ、コルカタ、デリー、
バンガロール、チェンナイ、ハイデラバード、アフマダバード)
予算の48.5%:人口100万人以上の28都市
予算の5%:その他28都市(州都、宗教都市、その他の重要な都市)
(出所) インド政府各種資料より調査団作成
(注) 実績は、第10次計画中間評価による。
国家スラム開発プログラム(
NSDP
:National Slum Development Programme
)により、これまでに