第 3 章 貧困削減に向けたパートナーシップ
3.3. 民間セクター
3.3.1.
公共サービスへの民間セクターの参入インド政府がセクター改革として、電力および給水の分野において民間セクターの参入 を進めているが、その進捗状況は州によって異なっている。民間セクターの参加は、チ ェンナイ、プネー、バンガロール、ハイデラバードでは成果をあげているとされるが、
デリーでは大きな社会問題となっている108。デリーでは
2002
年にSonia Vihar Plant
の運 営の民間委託が行われたが、2004
年には水道料金が値上げされ、貧しい人たちから水 のアクセス権を奪うものであると批判の声が上がっている。これを受け、デリー市長は、2005
年6
月の国家開発評議会(National Development Council Meeting
)で、飲料水の州104
Voluntary Action Network India(VANI)
による推定値。105
NGO-JICA Japan Desk India Web-Site (http://www.jicaindiaoffice.org/welcom_j.htm) 2006
年5
月現在NGO-JICA
ジャパンデスク:インド(http://www.jicaindiaoffice.org/welcom_j.htm)にNGO
ネットワークへ のリンクがある。106
FCRA
に基づく登録を行っている団体に関しては、Ministry of Home Affairs Web-Site (http://mha.nic.in/fcra.htm)
で州毎・District毎に検索できる。107
Planning Commission Web-Site (http://planningcommission.nic.in/) 2006
年5
月現在108
Ann Ninan (2003) “Private Water, Public Misery” India Resource Center
(http://www.indiaresource.org/issues/water/2003/privatewaterpublicmisery.html) 2006年
3
月現在管轄化と優先化を要請した109。
また、
1990
年代から、電力不足緩和に対する期待と非効率な運営体制に対する批判が 高まり、電力分野の民営化が進められたとともに、少なくとも経常コストの回収を行う ことができる水準に料金を設定し、受益者負担を求める方針が打ち出されている。電力 料金の設定は各州の州電力庁が行うこととされているが、第2
章でみたとおり、政治問 題化したことから、一部州では農業用電力料金の無料化が起こっている。3.3.2.
民間企業の社会的責任に基づく貧困削減への取組み貧困削減に対する取組みは、政府や
NGO
によるものだけでなく、企業の社会的責任(
CSR
:Corporative Social Responsibility
)の観点から民間セクターで行われているもの もある。インドでは企業活動の利益を財源とする本格的な民間公益財団が古くから存在 していた。その代表であるTATA
財閥系の最初の財団である、ラタン財団(Sir Ratan TATA
Trust
)は、1919
年に創設された110。また、TATA
財閥系の財団であるドラブジー財団(Sir
Dorabji TATA Trust
)は1932
年に設立されている。こうした財団は、NGO
への資金供与や、自然科学・社会科学系の研究所の設立、農業・農村開発への支援など、様々な社会 貢献活動を行っている。
1985
年には、政策研究センター(Center for Policy Research
)およびフォード財団(Ford
Foundation
)の共同出資によって、企業の社会貢献活動に関する助言や支援を行うことを 目 的 と し た フ ィ ラ ン ソ ロ ピ ー 推 進 セ ン タ ー (
CAP: Centre for Advancement of Philanthropy
)111が設立されている。以下に、インド企業
TATA
自動車会社と外国企業ヒューレット・パッカードの社会貢献 活動を事例として挙げる。TATA自動車の地域貢献プログラム
TATA
自動車を含むTATA
グループは、インドで最も大きな企業グループの一つで、自動車、製鉄、化学、エンジニアリング、通信システムなど数十の企業を傘下にもっている。
TATA
グループは創業 者の理念を反映して、グループ企業が積極的な社会・地域貢献を実施することでも知られており、そ のうちの1
つにTATA
自動車が実施する「健康と衛生(Health & Sanitation
)」という地域プログラム がある。当初、このプログラムでは、移動式の医療設備を備えたモバイル医療チームが農村地域を訪 問し、感染症や伝染病の予防接種や衛生処置などを行っていた。しかし、感染症や伝染病の発生数が 大きく減少したため、現在では健康教育プログラムへとその内容が徐々に変更されている。健康教育 プログラムでは、医師がいない地域で第一次的な処置を行うことができるボランティアを「ビレッ ジ・ヘルス・ワーカー」とし、彼らを対象とした様々な研修プログラムを用意しているほか、地域の 人々の定期的な情報共有を通じて、訪問医療時に適切な処置ができるような体制を整えている。また、一般的な病気の症状を理解するための教育・予防プログラムも行われている。1977 年から始められ たこのプログラムは、現在では
63
地域で実施されている。(出所)みずほ情報総研 (http://www.mizuho-ir.co.jp/) 出版物>コラム>「CSRの取組事例:地域貢献プログラム」
2005年1月18日
109
Vandana Shiva “Privatization of Water in India”, OCA: Organic Consumers Association Website
(http://www.organicconsumers.org/Politics/water071805.cfm) 2006年
3
月現在110アメリカのロックフェラー財団が
1902
年、カーネギー財団が1911
年に創設されていることと比較する と、インドの民間公益財団設立がいかに早い時期であったかがわかる。111
Centre for Advancement of Philanthropy Web-Site (http://www.capindia.org/) 2006
年5
月現在ヒューレット・パッカードの社会貢献活動「iコミュニティー」
ヒューレット・パッカードが世界各地で実施している「
i
コミュニティー」という社会貢献活動は、各地のコミュニティーに社員が赴き、
3
年にわたって、そこで必要とされている資金や製品を提供し、地域の目標達成を助けるというものである。このコミュニティーの一つに、インド南部のクッパムと いう田舎の貧しい地域がある。2002 年に派遣された社員の最初の目的は、必要なコンピュータ関連 製品を探ることであったが、社員が発見したのは、それ以前に電気の供給が安定していないというこ とだった。大前提となる条件の違いを改めて実感した社員たちは、そこからブレーンストーミングを 開始し、太陽発電式のプリンターとデジタルカメラをもたらそうというアイデアにたどり着いた。イ ンドでは、国民全員が写真つきの身分証明書を持たなければならないという制度が導入され、クッパ ムの村人たちは、写真を撮るためにわざわざ仕事を休んで遠くの町まで出かけていたため、ヒューレ ット・パッカードがもたらした太陽発電式のデジタル写真ラボは大変画期的であった。ここに新しい ビジネスが生まれ、今では
5
人の女性がカメラマンとして起業し、近くの村々を回って住民の写真を 撮っている。(出所) ViVa ボランティアとNPOのコミュニティサイト (http://www.viva.ne.jp/) ライブラリ>オピニオン>「世 界最大のCSR」の会議BSR総会にて」
3.3.3.
貧困層を顧客とするビジネス民間企業の貧困削減に関する取り組みは、
CSR
に基づく慈善活動の視点から考えられて きたが、近年、インドでは貧困層を顧客としたビジネスを展開する企業も現れ始めてい る。マイクロ・ファイナンス分野では、インドで2
番目の規模を誇る民間商業銀行ICICI
Bank
が、SHG: Self Help Group
112と連携して低所得者層への金融サービスを開始している113。
ICICI Bank
は、社会サービスコンサルタント制度を導入し、急速にSHG
の数を増やしていった。この制度は、
SHG
のメンバーの中からよい人材を選んでエージェン トとして契約し、SHG
結成ごとに金銭的インセンティブをつけることによってSHG
を 近隣農村に広げていくというものである。これによって、銀行員が直接村に出向くコス トを抑えながら、SHG
を通じて顧客の裾野を広げることが可能となった。また、日用 品メーカー最大手のHLL: Hindustan Lever Ltd.
は、アーンドラ・プラデーシュ州において
Project Shakti (PS)
と名づけたパイロット・プロジェクトを実施し、SHG
を活用した農村販売網拡大を試みた結果、同州農村部で売り上げを
15
%伸ばした。Hindustan Lever Ltd.(HLL)のProject Shakti
HLL
は、インド農村市場に販売網を拡大すべく、アーンドラ・プラデーシュ(
アーンドラ・プラデー シュ)州においてパイロット事業を開始した。事業地をアーンドラ・プラデーシュ州と決めたのは、同州に
SHG
がインドで最も多く存在し、SHG
のルートを利用することで効率的に農村深くまで販売 網を広げることができるとみたからである。Project Shaktiの目的は、SHGの女性メンバーをHLL
製 品(石鹸、歯磨き粉、シャンプー、洗剤、食塩等)の訪問販売員として育成し、農村末端まで販売網 を広げることであった。具体的な手法は次のようなものである。まず、SHGメンバーの1
人が、マ イクロ・ファイナンスによる融資を利用してHLL
製品の代理店兼小売になる。その女性のところに は、HLL の卸し業者から商品が届けられ、女性は村の最終消費者もしくは小売業者に販売する。あ る女性販売員の場合、コミッションは約8
%で、1
ヶ月に750
〜2,000
ルピーの収益を上げている。代112社会経済的(収入、居住地、職業、カースト、宗教等)に同質のメンバー5〜20人から構成されるグル ープ。多くの場合、女性メンバーで構成される。グループ内では小額貯金や定期ミーティングが行われ る。インドでは
1990
年代初頭から、SHGに対して銀行や農協が金融サービスを提供する新しいマイク ロ・ファイナンス・プログラムが貧困緩和を目的として導入され、急速に拡大している。113中村まり 「貧困層を顧客とする産業