第 2 章 インド政府の取組みと成果
2.3. 貧困削減の成果
2.3.2. 経済成長と貧困の関連
全体の傾向としてみると、
1970
年代から貧困者比率は大幅に低下している。貧困者比 率を計測した時点と5
カ年計画の期間とは必ずしも一致していないが、経済成長の伸び 率と貧困者比率の低下の度合いは関連しているものと推察される。例えば、第6
次から 第7
次計画にかけては、5
%台後半の平均成長率を記録しており、その間貧困者比率は1983
年44.8
%から1987/88
年38.86
%とおよそ5
年間で5
ポイント改善している。他方、経済成長が落込みを見せた
1990
年代の前半では、1993/94
年時点の貧困者比率は35.97
% であり、1987
年/88
年と比較すると5
年間で3
ポイントの改善に留まっている。また、経済成長が復調した
90
年代の後半にかけては、1999/2000
年の貧困者比率は26.1
%にま で低下し、5
年間で10
ポイント低下している。ただし、1
人当たりGNP
の成長率は、GNP
成長率を下回るものであり、平均でおよそ2
%程度の人口成長率が経済成長の効果 を希薄化させていると考えられる。表 2-45 5カ年計画における年平均経済成長率(1993/94年価格)と貧困者比率の推移
(単位:%)
5カ年計画 GNP 1人当たりGNP 貧困者比率
第1次(1951-56年) 3.7 1.8 -
第2次(1956-61年) 4.2 2.0 -
第3次(1961-66年) 2.8 0.2 -
3ヵ年年次計画(1966-69年) 3.9 1.5 -
第4次(1969-74年) 3.4 1.0 54.88(1973/74年)
第5次(1974-79年) 5.0 2.7 -
年次計画(1979-80年) -5.0 -8.3 51.32(1977/78年)
第6次(1980-85年) 5.5 3.2 44.48(1983年)
第7次(1985-90年) 5.8 3.6 38.86(1987/88年)
2ヵ年年次計画(1990-92年) 3.3 0.9 -
第8次(1992-97年) 6.8 4.6 35.97(1993/94年)
第9次(1997-2002年) 5.5 3.5 26.1(1999/2000年)
(出所) Ministry of Finance (2005) “Economic Survey 2005-2006”, S-4, Table 1.2、Planning Commission (2002) “Tenth Five Year Plan” Vol.III, p.40, Table 3.6、およびInternational Monetary Fund " International Financial Statistics Online Service", (http://www.imf.org/) 2006年6月現在 より作成
表
2-46
は、1993/94
年および1999/2000
年の州別の貧困者比率の変化を、i
)経済成長、ii
)分配(不平等)、iii
)人口成長による影響に分解して要因分析を行なったものである66。また、それぞれによる貧困者比率の変化への影響および貧困者比率の変化率を農村・
都市に分解し、地域的な要因の違いや影響の度合いについても示している。
インド全体では、貧困者比率の変化率はマイナス
27.42
%であり、要因としては、経済 成長による貧困者比率削減の引下げ効果が大きく、マイナス28.83
%であった。人口成 長もマイナス0.21
%貧困者比率を引下げたが、分配による貧困者比率押上げ効果、すな わち不平等度による相殺が若干あった。地域別に見ると農村部でマイナス22.17
%、都 市部でマイナス5.25
%と、農村部における貧困者比率の減少が大きい。農村部では、経 済成長と人口成長が貧困削減にプラスの影響を及ぼしているが、不平等が若干ながら貧 困削減を抑制する要因となっている。都市部では、経済成長による貧困削減への影響は 農村部より小さくマイナス6.72
%に留まっている。都市部においては、不平等および人 口成長が貧困者比率を押し上げており、経済成長による貧困削減効果を減じている。貧困者比率の変化率が大きかった州は、ハリヤーナー(マイナス
65.11
%)、ケーララ(マイナス
50.11%)、
パンジャーブ(マイナス47.71%)
、ラージャスターン(マイナス44.59%)、
グジャラート(マイナス
41.83
%)である。これらの州のうち、グジャラートおよびパ ンジャーブ以外の州では、都市の貧困者比率の変化率は一桁であり、農村における経済 成長の貧困削減効果が顕著である。この5
州の中でグジャラートの都市における経済成 長の貧困削減効果は、マイナス18.31
%と最も大きい。他方、農村における経済成長の 貧困削減効果が最も大きかったのはハリヤーナーであり、マイナス55.08%であった。
貧困者比率の変化率が最も小さかった州はオリッサ(マイナス
2.80
%)であり、次いで アッサム(マイナス11.74
%)、マディヤ・プラデーシュ(マイナス11.92
%)である。オリッサは、農村における経済成長の貧困削減効果はわずか
3.45
%であり、都市部にお いては貧困者比率を押し上げている。アッサムおよびマディヤ・プラデーシュでも、農 村および都市における経済成長の貧困削減効果は限定的である。オリッサでは、経済成 長率が低下したことに加えて、不平等が悪化したことが、貧困削減があまり進まなかっ た要因として指摘されている。分配の影響を州別に見ると、農村において不平等が貧困者比率を押し上げる要因となっ たのは、アーンドラ・プラデーシュ(
1.5
%)、アッサム(1.01
%)、グジャラート(0.54
%)、 カルナータカ(0.06%)、オリッサ(0.43%)、パンジャーブ(1.82%)の6
州である。都市部においては、カルナータカ(マイナス
0.48
%)、マディヤ・プラデーシュ(マイ ナス0.02
%)、ウッタル・プラデーシュ(マイナス0.09
%)の3
州を除いては、すべて 貧困者比率を押し上げるほうに作用している。人口成長の影響については、農村部ではケーララ(
0.18
%)において貧困者比率の押上 げ効果があった以外は、すべての州で貧困削減効果があった。他方、都市部においては、同じくケーララ(マイナス
0.22
%)で貧困削減効果があった以外は、すべての州で貧困 者比率を押し上げている。これは、農村から人口が流出し、都市への人口流入が拡大し ていることが背景にあるものと考えられる。全体としてみると、経済成長の貧困削減効果は大きく、不平等や人口成長による貧困者 比率の押上げ効果は限定的である。そのため、経済成長の貧困削減効果が大きい州にお いては、不平等や人口成長によって貧困削減の変化率が若干相殺されるにとどまってい る。
66
N.R. Mhanumuthy and Arup Mitra,” Economic Growth, Poverty and Reforms in Indian States”
経済成長の貧困削減効果は、全般的に農村で大きく、都市では限定的である。また、貧 困者比率の変化率が大きいハリヤーナー、カルナータカ、ケーララでは、
GDP
成長率 が比較的高く、農業のGDP
シェアおよび雇用に占めるシェアの低下が著しい。他方、貧困者比率の変化率が小さいアッサムやオリッサでは、
GDP
成長率は小さく、農業セ クターのシェアの低下も比較的小さい。どのような要因によるものかについて、さらに 詳細な分析が必要であるが、経済構造の変化が経済成長による貧困削減効果に影響を及 ぼしているものと推察される。具体的な要因を特定するには、州レベル、さらに県レベ ルでの検証が求められる。表 2-46 州別貧困者比率の変化の要因分析(1993/94年-1999/2000年)
経済成長の影響 分配の影響 人口成長の影響 貧困者比率の変化率 主な州
農村 都市 全体 農村 都市 全体 農村 都市 全体 農村 都市 全体 アーンドラ・
プラデーシュ
-16.93 -14.43 -31.35 1.5 0.79 2.3 -0.06 0.16 0.09 -16.09 -14.08 -28.96 アッサム -11.72 -0.32 -12.04 1.01 0.11 1.12 -1.00 0.18 -0.82 -11.71 -0.03 -11.74 ビハール -21.67 -0.43 -22.10 -0.28 0.04 -0.24 -0.12 0.08 -0.04 -22.07 -0.31 -22.38 グジャラート -24.35 -18.31 -42.66 0.54 0.01 0.55 -1.23 1.51 0.28 -25.04 -16.79 -41.83 ハリヤーナー -55.08 -8.55 -63.63 -1.82 0.39 -1.43 -0.16 0.11 -0.04 -57.06 -8.05 -65.11 カルナータカ -25.48 -14.14 -39.63 0.06 -0.48 -0.42 -1.29 1.78 0.49 -27.61 -12.84 -39.55 ケーララ -46.33 -3.56 -49.89 -0.23 0.16 -0.07 0.18 -0.22 -0.05 -46.39 -3.63 -50.01 マディヤ・
プラデーシュ
-5.93 -5.62 -11.55 -0.45 -0.02 -0.48 -0.96 1.07 0.11 -7.35 -4.57 -11.92 マハーラーシュトラ -21.73 -9.52 -31.24 -1.14 0.31 -0.83 -1.83 1.84 0.01 -24.7 -7.36 -32.06 オリッサ -3.45 0.34 -3.11 0.43 0.01 0.44 -0.95 0.82 -0.13 -3.97 1.17 -2.80 パンジャーブ -34.23 -15.67 -49.90 1.82 0.50 2.32 -2.01 1.88 -0.13 -34.42 -13.29 -47.71 ラージャスターン -35.50 -9.64 -45.14 -0.17 0.65 0.49 -0.22 0.27 0.06 -35.88 -8.71 -44.59 タミル・ナードゥ -20.28 -20.36 -40.63 -0.38 0.52 0.14 -4.37 5.10 0.73 -25.03 -14.74 -39.76 ウッタル・
プラデーシュ
-21.48 -2.16 -23.65 -0.05 -0.09 -0.14 -0.61 0.55 -0.06 -22.15 -1.7 -23.85 西ベンガル -17.62 -6.25 -23.87 -0.51 0.37 -0.14 -0.33 0.17 -0.16 -18.46 -5.71 -24.17 インド全体 -22.12 -6.72 -28.83 1.59 0.04 1.63 -1.65 1.43 -0.21 -22.17 -5.25 -27.42 変動係数 -57.84 -79.41 -51.35 4284.22 151.03 430.90 -114.24 131.32 1495.49 -55.91 -80.35 -51.73
(出所) N.R. Mhanumuthy and Arup Mitra,” Economic Growth, Poverty and Reforms in Indian States”, p25, Table 3
表 2-47 州・セクター別
GDP
および雇用の変化(単位:%)
主な州 セクター別GDPシェアの
変化率
セクター別雇用シェアの 変化率 GDP成長率
1993/94- 1998/99
1人当たり GDP成長率
1993/94-1998/99 農業 鉱工業 サービス 農業 鉱工業 サービス アーンドラ・プラデーシュ 4.9 3.5 -11.97 5.02 7.93 -10.16 -9.80 35.25 アッサム 2.7 1.0 -11.25 9.40 12.03 -16.44 26.90 38.23 ビハール 4.2 2.6 -23.55 -10.43 34.64 -2.84 9.33 8.68 グジャラート 8.0 6.2 -21.69 12.52 4.65 -6.12 8.52 7.44 ハリヤーナー 5.8 3.6 -15.18 10.85 9.45 -23.35 -1.96 49.31 カルナータカ 8.2 6.4 -25.42 10.51 18.50 -12.57 -4.03 41.89 ケーララ 5.5 4.2 -28.01 -23.21 24.25 -27.62 -1.70 37.30 マディヤ・プラデーシュ 4.4 2.3 -16.40 21.05 13.36 -10.88 -0.52 54.64 マハーラーシュトラ 7.1 5.4 -32.48 -4.72 18.52 -20.94 11.76 46.69
主な州 セクター別GDPシェアの 変化率
セクター別雇用シェアの 変化率 GDP成長率
1993/94- 1998/99
1人当たり GDP成長率
1993/94-1998/99 農業 鉱工業 サービス 農業 鉱工業 サービス オリッサ 4.3 2.9 -4.91 -66.27 22.62 -1.20 0.02 3.98 パンジャーブ 5.0 3.0 -5.00 -5.03 7.33 -16.54 -8.29 29.39 ラージャスターン 7.7 5.3 -18.15 0.85 15.66 -6.08 4.31 13.75 タミル・ナードゥ 6.8 5.8 -26.15 -13.74 18.73 -18.10 0.99 31.38 ウッタル・プラデーシュ 4.5 2.3 -10.78 27.11 2.96 -14.27 29.02 35.65 西ベンガル 6.8 5.0 16.72 -38.15 3.74 -9.48 -0.82 17.01
(出所) Planning Commission (2002) "Tenth Five Year Plan 2002-2007" Vol.III, p133, Table 3.2, 3.4, 3.5 より作成