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第 4 章 分析結果

4.4 L2 能力の高い教職経験者グループ…

4.4.2 L2 能力の高い教職経験者 H…

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局所的計画 5.0(2.1) 5.3(3.9)

構成計画 2.3(1.0) 0.3(0.2)

結論計画 1.7(0.7) 0.7(0.5)

アイディア創出 10.3(4.4) 4.3(3.2)

メタコメント 18.0(7.6) 9.0(6.6)

ポーズ 37.3(15.9) 13.3(9.8)

文章化 50.0(21.2) 32.0(23.5)

読み返し 21.0(8.9) 13.7(10.0)

評価全体 24.7(10.5) 18.6(13.7)

L1/L2能力評価 0 (0) 0 (0)

局所的評価 23.7(10.1) 17.3(12.7)

包括的評価 1.0(0.4) 1.3(1.0)

修正 18.0(7.6) 19.0(14.0)

自問 11.3(4.8) 4.0(2.9)

質問 0.7(0.3) 0.3(0.2)

リハーサル 20.0(8.5) 5.3(3.9)

身体活動 1.7(0.7) 2.0(1.5)

その他 3.0(1.3) 0 (0)

L1、L2ライティング方略の使用は概して類似している。ライティング方略のバリエーシ

ョンは、L1もL2も変わらない。あまり差は無いが、「テーマの計画」、「局所的計画」の割 合がL2で若干多く、逆に、「構成計画」や「結論計画」はL1で若干多かった。計画全体の 方略使用の割合は、L1ライティングで5.0%、L2ライティングで6.3%と、L2ライティング の方が若干多い。

「評価」に関しては、「包括的評価」も「局所的評価」も、「局所的評価」の後に行わ れることの多い「修正」についても、L2ライティングでの使用割合の方が大きかった。

L1ライティングの方が多かった方略使用は、他に、「ポーズ」、「リハーサル」、「自問」な どがあり、より慎重にライティングが行われたと考えられる。このグループでは、L1 にお いてライティングの平均総時間も長かった。ライティング総時間が長いとプロダクトの質 が高くなる傾向は、先に述べたとおりである。

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L1ライティングに関しては、アンケートより、日本語のライティング方略は学んだこと がないと捉えている。小・中学校では、行事や個人的な体験について自由に作文し、先生 が肯定的なコメントをつけて返した。高校でも読書感想文を書いたのかもしれないが、長 い作文は書かなかった。小・中・高と進むにつれて作文の機会は減った。大学ではアメリ カ史や中南米音楽などについて、様々なレポートを書いた。書き方についての指導はなく、

自分で英文文章の書き方の本を参考にして日本語で書いた。現在は、職場では通信や通知 文、大学院ではレポートを書いている。また、受験対策としてのL1小論文指導を行ってい る。

L2ライティングについては、高校の授業では文単位の英訳を行い、パラグラフ・ライテ ィングも無かった。大学では、L2ライティングの機会は多かった。難しい翻訳の授業も受 けた。自分の意見をエッセイとして書いてプレゼンを行ったり、映画製作のために脚本を 書いたりした。書く前の指導はなく、書いたものに対するコメント、訂正があった。現在 は、大学院のレポートやメールでL2ライティングを行っている。

L1、L2 ライティングに対しての自信はない。L1 ライティングは内容をうまくまとめる

ことが難しい時があり、L2ライティングは、自然な英語ではないと気づきながらも、他に いい表現が浮かばないことが度々ある。冠詞や前置詞などの使用について、誤りかどうか を判断できない場合もある。正確さやふさわしい単語の選択など、やればやるほど難しさ を感じる。

L1プロダクトの評価は164点で、全参加者の中で最も高かった。L2プロダクトは160点 と教職経験者グループの平均(M= 159.)程度で、内容(60)49点、構成(40)32点、 語 彙(40)34点、言語使用(50)37点、句読点や綴りなどの機械的技能(10)8点と、全て の項目において、「良いから普通」に相当する評価を受けた。

ライティングの流暢さは、L1 で994字、34.16 字/分、L2では145語、9.49語/分と、L2 プロダクトは若干短いものの、L1、L2ライティング共に流暢に書いた(表6、表29参照)。

観察メモにも、L1ライティングでは、「文章化の最中はポーズで中断されることが少なく、

すらすらと長く書く場合が多い。リハーサルもほとんどしない。」、L2 ライティングについ ては、「一旦書き出すと、リハーサル、ポーズ、局所的計画がほとんど入らず流暢に書く。

L1よりポーズが少ない。L1ライティング同様、書くのと同じ速さで一語一語声に出してい る。他の参加者は、一語一語区切らず、ある程度のまとまりで発話することが多い。」とあ る。ライティングにかけた時間は、L1では34分6秒と、学生グループよりも長く、教職経 験者グループの平均に近い。L2では19分45秒と、どのグループの平均時間よりも短かっ た(表7、表30参照)。

次に、実際のライティング方略の使用について見ていく。

書き出し前には、L1、L2ライティング共に、図式化したメモを作成し、詳細な計画を立 てた。この間のライティング・プロセスを見ると、L1では5分かけて計画し、この段階で

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使用されたライティング方略は、「課題の確認」3 回、「ポーズ」13 回、「メタコメント」1 回、「構成計画」3回、「アイディア創出」3回、「テーマの計画」3回、「結論計画」2回と、

バリエーション豊かであった。L2ライティングでは、4分28秒かけて計画し、「課題の確 認」3回、「テーマの計画」2回、「メタコメント」1回が見られた。L2では書き出し前の「計 画」がポーズで中断されることがほとんど無かったので、方略使用の回数がL1よりも少な くなっているが、「テーマの計画」2回は、詳細な計画であった。また、「メタコメント」は、

計画メモを見ながら、文章全体の流れを確認したものだった。インタビューで、L1ライテ ィングでは全体的な構成を考慮して書いたが、L2ライティングでは、構成よりも内容の一 貫性を重視したので、全体的な構成を考える余裕がなかったと述べている。

書き出し前の「計画」における言語間の違いは、L2ライティングでは、L1ライティング と異なり、明確な「結論計画」は為されなかったことである。このことが、流暢で文法的 に正確なL2ライティングを行ったにもかかわらず、L2プロダクトの評価がL2能力の高い 学生グループに届かなかった一因であったとも考えられる。即ち、冒頭で、学校の落第は、

生徒自身よりも教師の指導の問題であるとする立場に反対し、その根拠を述べたものの、

第 2 段落は教師の役割についてのみ書かれ、最終段落も教師の努力の必要性を述べて終わ っている。「結論計画」が行われていれば、最終段落で冒頭の主張に沿った結論を述べるこ とも可能であっただろう。ライティング直後のインタビューでは、L1では半ばまで計画ど おりに書き、一方、L2では最初だけ計画どおりに書き、書きながら教師の立場に重点を移 し、最後の教師の使命についての結びは考えていなかったと述べている。

L2ライティングでは和訳は邪魔になるとして、プロンプトの和訳を用紙で隠して読み、

書き出し前の「計画」にも全てL2を使用した。全参加者の中で、L2 ライティングの書き 出し前の計画を全てL2で行い、かつメモにもL2を使用したのは、Hのみであった。

表32は、Hのライティング・プロセス全体におけるライティング方略の使用回数と割合 を示している。L1ライティングの発話プロトコルのセグメント数は149、L2ライティング では88であった。

表32 Hのライティング方略の使用回数と割合

方略 L1ライティング n(%) L2ライティング n(%)

課題の確認 8(5.4) 6(6.8)

計画全体 11(7.4) 5(5.7)

包括的計画 0(0) 0(0)

テーマの計画 3(2.0) 2(2.3)

局所的計画 2(1.3) 3(3.4)

構成計画 3(2.0) 0(0)

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結論計画 3(2.0) 0(0)

アイディア創出 7(4.7) 3(3.4)

メタコメント 12(8.1) 7(8.0)

ポーズ 38(25.5) 6(6.8)

文章化 34(22.8) 19(21.6)

読み返し 17(11.4) 9(10.2)

評価全体 8(5.4) 14(15.9)

L1/L2能力評価 0(0) 0(0)

局所的評価 8(5.4) 13(14.8)

包括的評価 0(0) 1(1.1)

修正 6(4.0) 17(19.3)

自問 1(0.7) 0(0)

質問 0(0) 0(0)

リハーサル 5(3.4) 2(2.3)

身体活動 2(1.3) 0(0)

その他 0(0) 0(0)

以下は、L1及びL2ライティングでよく使用された方略である。

L1ライティング L2ライティング

1. ポーズ 25.5% 1. 文章化 21.6 %

2. 文章化 22.8% 2. 修正 19.3%

3. 読み返し 11.4% 3. 局所的評価 14.8%

4. メタコメント 8.1% 4. 読み返し 10.2%

5. 課題の確認 5.4% 5. メタコメント 8.0%

局所的評価 5.4%

L1、L2ライティングの顕著な違いは、L1ライティングでは「ポーズ」が非常に多いが、

L2ライティングの「ポーズ」は6.8%に過ぎないことである。「ポーズ」はL1、L2ライティン

グ共に、ほとんどが沈黙ではなく「えーと」などの間投詞であり、L1ライティングでは「ポ ーズ」38回のうち、34.2%に当たる13回は書き出し前の計画段階で見られるのに対して、L2 ライティングでは書き出し前の「ポーズ」は全くない。また、書き出し後は、L1ライティ ングの「ポーズ」は25回のうち13回が「文章化」の後、5回がテクストの「読み返し」の後 に生じているが、L2ライティングは、「文章化」や「アイディア創出」、「局所的評価」、「包 括的評価」の後に1、2回ずつ生じている。認知負荷の高まりがL1ライティングにおいてよ

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り大きかったと考えられ、書き出し前の「計画」と「文章化」を中心に「ポーズ」が見ら れる。

L1 ライティングで 5.4%しか用いられなかった「局所的評価」が、L2ライティングでは

14.8%使用されており、これに呼応して、「修正」もL1では4.0%、L2では19.3%と差があ

る。L2ライティングの観察メモには、「書いてから段落に見出しと印をつけながら構成を確 認していく作業がL1と同じ。L1ではこの確認の時に修正は無かったが、L2ではいくつか 修正した。修正には、置き換えの方が多いとは思うが、他の参加者に比べて挿入が多いと 感じた。修正の判断はとても速く、瞬時に行う。」とある。L1ライティングの「修正」は、

6回のうち 4回(66.7%)が表現に関するもの(置き換え)、句の挿入と内容に関するもの

(置き換え)が1回ずつであった。L2ライティングの17回の「修正」のうち、7回は全体 を書き終えて読み返している間に行われた。「修正」17回の内訳は、語句の挿入6回、表現 に関する修正(置き換え)6 回、内容に関する修正(置き換え)5 回であった。「局所的評 価」は、L1ライティングでは、内容に関するものが4回(50.0%)、表現に関するものが3 回(37.5%)、構成に関するものが1回(12.5%)であり、L2ライティングでは、表現に関 するものが8回(61.5%)、内容に関するものが3回(23.1%)、構成に関するものが1回(7.7%)、

文法に関するもの1回(7.7%)であった。L1ライティングの方が、内容に関する「局所的 評価」が多く、L2 では表現の評価が多かった。L1、L2 ライティングの評価における特徴 は、綴りや文法上の誤りに関するものがほとんどないことである。高いL1、L2能力に支え られているためと考えられる。しかし、ライティング直後のインタビューでは、L1では、

文章の構成がきちんとしているか、メッセージの内容がふさわしいか、漢字、句読点につ いて評価し、L2ライティングでは、語彙や表現、内容、文のつなぎ方などの文法に関する 評価を行ったと述べており、L1でも、漢字や句読点などの表層的評価も、発話はされなか ったが行っていたようである。L1での表層的評価は、自動化していると考えられる。

「包括的評価」は、L2ライティングで1回のみ行われ、最後の1文を書く前に、書いた テクストの構成の確認を行い、教師のことのみを書き、生徒や社会のことを書いていない ので、内容が足りないという評価を行っている。それは的確な評価であったが、実際のテ クストに反映されることはなかった。書いた後で、構成と段落分けに注意して、全体の「読 み返し」を行ったことが、L1、L2ライティングに共通していた。L1ライティングではこの 段階での「修正」は行われなかったが、L2 ライティングでは、断定的過ぎると判断した箇 所にI believeを挿入するなどの「修正」を行った。

書き出し前には、L1ライティングで行われた「構成計画」や「結論計画」がL2ライティ ングでは使用されなかったことを見た。プロセスの途中で行われた「局所的計画」につい て見てみると、L1で2回(1.3%)、L2で3回(3.4%)と、非常に少ない。L1では、言葉のつ ながりや表現、次に書く内容を考えており、L2では、比較の表現や動詞の後の目的語につ いて考えた。